Feature 特集

日本カヌー界を先導するリオ五輪銅メダリスト・羽根田卓也選手2019/06/26

Cheer up! アスリート2020!

“道”を究める者へ。

 カヌーに魅了され、後進国の日本から頂点への道を切り拓いてきた羽根田卓也。2016年リオ五輪で銅メダルに到達した足跡をたどりつつ、さらなる高みを目指して歩みを進める2020年東京五輪への心境を聞く。

 16年リオ五輪、欧州勢が圧倒的に強いカヌー・スラロームで銅メダルを獲得した羽根田卓也。アジア初となる羽根田の快挙で、日本でマイナーだったカヌーが一躍脚光を浴びることになった。

「リオ五輪の時はメダルのことは頭にはありましたけど、自分のパフォーマンスに集中できた結果の銅メダルだと思います。メダル獲得で状況が180度変わりましたね。次の日には、リオにある各局のスタジオを周って、今まで見ていた番組に出演したり、検索ワードの1位になったりと、非現実的でした。帰国してからも、たくさんの方にお祝いの言葉をかけてもらい、カヌーを知ってもらえたことが実感できてうれしかったですね」

 父の影響でカヌーに出合い、カヌーに魅せられたことで、羽根田の歩む道が決まった。

「カヌーはアウトドアで行うスポーツなので、暑い時に激流の中でカヌーを操る爽快感、ゲートをイメージ通りくぐれた達成感は特別なものがあります。冬のトレーニングは、寒くてきついですけど(笑)。これだけ人生をかけて没頭できるものに巡り合わせてくれて、サポートをしてくれた父には、言葉で言い表せない感謝の気持ちがあります」

Cheer up! アスリート2020!

 カヌーへの思いは、東京五輪決定時にも…。

「東京での五輪開催は、自分が出場するどうのこうのよりも、カヌー競技を日本で見てもらえることが頭に浮かびました。関係者の悲願であった日本初の人工コースの建設も決まり、しかも東京の立地がいいところに造られることになって、多くの方に見てもらえると楽しみになりました。カヌーは一見すると、激流にぶつかり力の限り漕いでいくのでダイナミックに感じますが、実は繊細な競技でもあります。緻密にカヌーを操り、ミリ単位でゲートをくぐる、繊細でスリリングなところを見てもらえれば楽しめると思いますね」

Cheer up! アスリート2020!

 東京五輪のメダル候補である羽根田の礎となっているのが、強豪国スロバキアでの武者修行。高校を卒業してから現在まで、拠点を置いて腕を磨いている。

「スロバキアに行ってから、すぐにシニアで結果が出始めたので、これはとんとん拍子で世界のトップになれるんじゃないかと思いました。ただそれは大きな間違いで、自分に実力が付けば付くほど、世界トップクラスの選手が、どれだけ上にいるのかという距離が分かり始めたんです。その時は、果てしない道のりに感じましたね。それからは、目標に対して強い意志を持つことが大事だと思いました」

Cheer up! アスリート2020!

 渡欧して約10年で銅メダルに到達。それでも道を究めようとする歩みは、まだまだ止めない。

「それぞれの競技で圧倒的に強い選手がいますが、そういう方はアスリートというより、もはや求道者だと感じます。フィギュアスケートの羽生結弦選手ならフィギュア道、スピードスケートの小平奈緒選手ならスケート道と、道を究めようとする姿に憧れます。自分はまだまだですが日々鍛錬し、海外の選手と切磋琢磨(せっさたくま)しながら自分のカヌー道を求めていきたいと思います」

 追い求めるカヌー道のヤマ場となるのが、東京五輪。自国開催が、頂点への追い風になる。

「カヌー(スラローム)選手としてのピークは30代半ばという印象です。自分の競技人生的にすごくいいタイミングで自国開催の五輪を経験できるのは、アスリート冥利に尽きますね。自分としては、東京五輪は集大成になると思っています。東京五輪の新コース(カヌー・スラロームセンター)に実際に水が流れているのをまだ見ていないのですが、人工コースは複雑なゲートセットで難しい流れになりますし、最近の五輪は幅の狭いコースになることが多いです。そういうコースでは、僕の強みである柔軟性やバランス感覚を生かすことができます。できるだけ新コースで練習して、自国開催のメリットを生かせればと思います」

Cheer up! アスリート2020!

 東京五輪まで約1年。この1年の歩みが、羽根田の競技人生においても重要になる。

「今季は東京五輪の日本代表選考のシーズンなので、まず代表権を勝ち取るのが一番の大前提。切符を勝ち取るだけじゃなくて東京五輪に向けて成績を出すことで、自信につなげられるシーズンにしたいですね。リオ五輪では表彰台に乗ることができたので、東京五輪でそれを下回ることは目指していません。やはりリオ五輪以上の結果を求めたいです。自国開催、メダリストとして臨む五輪は初めての経験ですが、期待やプレッシャーの中でも勝負強いのが本当に強いアスリートだと思います。期待やプレッシャーをいいエネルギーに変えて、しっかり準備します」

Cheer up! アスリート2020!

【TVガイドからQuestion】

Q1 印象に残っているスポーツ名場面を教えて!
レスリングの吉田沙保里さんが、リオ五輪で銀メダルを獲得して泣いたシーンですね。銀メダルでも偉業なんですけど、4連覇を期待される重圧や応えられなかった悔しさ、人生をかけてやってきたのが伝わってきて印象的でした。

Q2 好きなTV番組/音楽を教えて!
歴史が好きなので、「歴史秘話ヒストリア」。戦国や幕末、英雄が出る時代がいいですね。その中でも新選組の土方(歳三)さんが好きです。音楽はEminemさんの「Lose Your self」を競技前や練習前など、気分を高めたい時に聴きます。

Q3 “2020”にちなんで、“20”代にやり残したことを教えて!
20代はまるまるスロバキアにいたので、キャンパスライフを過ごしたり、就職したり…といった日本での普通の生活を経験してみたかった思いがあります。東京五輪のコースが完成したら、日本に拠点を移すことも考えています。

Cheer up! アスリート2020!

【カヌー競技概要】
流れのない直線コースで一斉にスタートして順位を競うスプリントと、激流での中、つるされたゲートを順に通過してタイムと技術を競うスラロームがある。また、パドルはブレード(水かき)が片端だけについているカナディアンと、両端についているカヤックがあり、リオ五輪で銅メダルを獲得した羽根田卓也は、スラロームのカナディアンの選手。競技が盛んな欧州勢が圧倒的に強い中、2大会連続のメダル獲得を目指している。

【プロフィール】

羽根田卓也(はねだ たくや)

1987年7月17日愛知生まれ。蟹座。O型。

▶︎幼少時は器械体操に打ち込み、9歳で本格的にカヌーを始める。強みであるバランス、柔軟性は「器械体操で培われた」と語る。

▶︎「父が兄弟で争うのを見たくなかったみたいで、兄がカヤック、僕がカナディアンになりました」という理由で、種目はカナディアンに。

▶︎中学3年での世界ジュニアで世界を意識。高校3年の世界ジュニアで留学を決意する。「6位で悔しさもあったんですが、手応えもあり、力の差を埋めるために海外への道を選びました」と言い、強豪国のスロバキアに渡る。

▶︎日本カヌーの第一人者として、現在まで全日本12回優勝。’16年リオ五輪では日本人初のメダリストに。

▶︎リオ五輪前には、「マツコ&有吉の怒り新党」で紹介され、「ありがたかった」と語る、“ハネタク”のニックネームを付けられた。

取材・文/山木敦 撮影/峰フミコ



この記事をシェアする


Copyright © TV Guide. All rights reserved.