Series 連載

『みるコレ』は“キュレーション”と“データ”でテレビの未来を切り拓く── 担当者インタビュー第2弾《後編》2017/09/29

 6月の本コラムでは東芝『レグザ』ブランドのテレビで利用できるサービス『みるコレ』の開発者の方々にサービス開発の経緯や現状などについてお話をうかがった。今回はその開発者インタビューの2回目をおくる。今月は『みるコレ』の中心となる「パック」機能や、サービスから得られるデータ活用について、東芝映像ソリューション(株)の片岡秀夫氏と中村さやか氏に語っていただいた。「パック」やデータ活用の実態にとどまらず、テレビを取り巻く環境の変化やデータを扱うポリシーまで多岐にわたる内容を、前後編でお届けする。
《前編はこちら》

『みるコレ』は“キュレーション”と“データ”でテレビの未来を切り拓く── 担当者インタビュー第2弾《後編》
(左から)中村氏、片岡氏

◆「パック」をどう発想するか

── 必ずしも番組表や番組自体を見るだけではできない部分もあると思いますが、「パック」の利用実績を見て新しい「パック」を発想されることもありますか?

中村「ありますね」

── そうした方法はデジタルマーケティングに近いと思いますが、意識していますか?

中村「「デジタルマーケティング」という言葉は意識はしていませんでしたが、ニーズのあるもの、数値が出ているものを取り入れるというデータによる運営は昔からやっていて、結果デジタルマーケティングになっていたかとは思います。登録者や検索数が多い「パック」は人気があるだろうから目立つところに配置して活性化を図ったり、その数字を見て調整したりなどはやっていましたね。四季ごとに人気があるパックも異なるので、例えば「サッカー日本代表パック」はまったく試合のない時に置いても意味がないので、時節柄に合わせてこの時期はこの「パック」が人気が高いというのを、データを見て配置するようにしていますね」

片岡「ずっと広告・マーケティング系をやってきたので、自分の中に「人間のタイプを要素に分解したライブラリ」がいろいろあるんですが、商品を売るときの客層の違いや、レコーダーやテレビの使い方でのモデルを調査して、裏付けをとってきたので、その経験からだいたいの人のタイプ分類が何種類も何レイヤーも存在していて、照らし合わせて番組表を見ると「恐らくこういう人たちはこういうのを見ているだろう」という仮説が出てきます。その仮説の中でも、割とこれはよさそうだと思うものをぶつけていく中で、「ためしに『パック』作ってみない?」とか提案してますね。特定ジャンルに強い人から発想することもあります。例えば、競馬好きの人に「主な競馬のイベントを全部教えて」と聞くと、「『これ』と『これ』を押さえなきゃダメ。これくらい当たり前でしょ」という感じで返ってきます。こういうことは自分が知らないジャンルだと全くわからないので、ありがたいですね。こんなふうに、切り口の説明をして、答えてくれる人たちを探していくという地道な積み上げでここまで来てるんです」

── 逆にとんがり過ぎちゃって、その「パック」にまったく人が集まらないということはあるんですか?

中村「あります」

── そういう時はどれくらい様子を見るんですか?

片岡「とりあえず、1回キーワードプリセットで「パック」ができてしまって番組が埋まることが分かれば、変なものが見つからない限りは放置していてもいいんです。問題は、もっと目立つべき、みんなが探している「パック」が遠くに隠れること。だから人が集まらない「パック」は自ずと淘汰される。ただし、本当に探している人にとってみれば、探せばある。このあたりは難しいんですよ」

── 逆に、とんがっている方が世に出てくる可能性もあるということですね。

片岡「そうですね。定期的に企画をやって様子を見るという方法もありますが、「パック」に何をそろえるかという話と、それをライトなパーソンに出合わせるかというのは別のテーマなんです。また、『みるコレ』をどう定期的に使ってもらうか。「パック」をどう生み出し育てメンテしていくかというテーマでは、まずはいろいろ生み出して実験して、よく使われるものは上がっていくし、リファインされていくし。ただトレンドとしては先ほどいくつか例をあげたようにイレギュラーや集めにくいものには総じてニーズがありそうだなという気はしますし、人の目だからこそ見つかるものの価値は高そうだと思います」

◆ヘビーじゃないファンに『みるコレ』はちょうどいい

── そういう意味でネットで評判が高かったパックはありますか?

片岡「Twitterで拾ったのはいくつかありますが、みんないいことはそんなに自主的に報告してくれないんですよね。それでもたまに、「これとても便利」とか、店頭から「相撲のパック、いいですね」などの反応はありますね(笑)。どれくらい使われてるかという意味では利用状況の分析を見ることになりますが、反応が出やすいパックと出にくいパックはありますよね」

── 意外な反応を受けたことはありますか?

片岡「やる前は人物系のパックが強いと思ってたんですが、サービスを開始してみると、人気タレントさんの「パック」より、サブジャンル系やランキング系の方が上位に来るんですよ。上位100位を見ても人物系は数えるほどしか入らない。タレントのご指名で番組を見る人は限られていて、マジョリティーはそこじゃなかった。さきほどお話ししたように、人気タレントのファンは自分で番組を知っていたり、番組表などをチェックして主なものは見つけてしまうので、あまり「パック」には頼らないのでしょうね。しかし、そこまでヘビーじゃないファンには『みるコレ』はちょうどいい。テレビ番組、テレビ機器というコンテキストで欲せられているのは超マニア、特定の大ファンではなくて、テレビとして楽しむのが何かっていうテーマが真ん中にある。だからこそ人名はほぼロングテールなんですよ。特定の2人、3人を除くと」

── 人物で上位100位に入るのは?

中村「人名系では、マツコ・デラックスさんが不動の1位ですが、乃木坂46さんが有吉弘行さんを抜いてついに2位ですよ」

『みるコレ』は“キュレーション”と“データ”でテレビの未来を切り拓く── 担当者インタビュー第2弾《後編》
中村氏

片岡「コアファンじゃない人でもチェックしたいレベルまで届いているタレントさんばかりですね。それは一種のジャンルかもしれません。そういう意味でサブジャンル的な粒度での「いい感じ」っていうのが何なのかを見つけることが大事なテーマなんです」

中村「そうですね。「パック」としては録画を追っかけるだけではなくて、YouTubeも含めた複数のVODを横串で横断する機能があるので、例えば先ほどの乃木坂46さんだと、新しいプロモーションビデオが公開されていると、録画番組が並んでいるのと同じ「パック」内から見ることができます。それから私もよくやりますが、見たいドラマや映画を、各VOD会社ごとに調べるのはものすごく面倒なんですよね。「パック」を使うと、dTVやTSUTAYA TV、YouTubeなどの横断検索ができます。とても便利なので、この対象サービスはもっと増やしていきたいと思います。最近はVOD先行のドラマもありますしね。われわれは『みるコレ』を起点にVODもテレビ放送もフラットに楽しめるという、枠を超えて、コンテンツはコンテンツで楽しいという体験を提供したいです」

片岡「それがもともとの“串刺し”のコンセプトです。僕らは「放送」や「録画」を便利にしましょうということではなくて、人がタイムリーに見たいけど見られない放送を録画で見るのであって、初めから録画ありきではない。やはり「コンテンツ」を見てもらうときに、放送だけだったらその場にいないから見られないということになるし、ネットでは中村が言ったように複数の事業者さんのサービスを開いて、その都度、リモコンで文字を入れて検索するのは面倒くさい。それをどうやって楽にしてあげるかという方法が必要なのです。テレビという機器は、大画面で「コンテンツ」を楽しむもので、もはや「放送」のみの道具ではない。そういう時代に向けての在り方を模索しつつ、実用に堪える方向を掘り下げていくのが『みるコレ』と「パック」の大事なポイントです。VODの認知・利用度が上がれば、当然それに最適化された「パック」も増えてきます。VOD事業者さんのおすすめやジャンルごとの配信コンテンツを「パック」としてで見せることで、サービスに加入してなくても、『みるコレ』で出会えるという動線の追加をして、利用促進しています。ひいてはそれはテレビの利用促進につながっていくと思います」

◆『みるコレ』でテレビの使い方を変えていく

1 2



この記事をシェアする


Copyright © TV Guide. All rights reserved.