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ゾッとするのに、目が離せない―「ヒトコワ」につながる、松本清張の人間ドラマをたっぷり楽しむ2026/09/24 12:00

ゾッとするのに、目が離せない―「ヒトコワ」につながる、松本清張の人間ドラマをたっぷり楽しむ

「最も恐ろしいのは、人間そのもの」。幽霊やモンスターではなく、人間の底知れぬ欲求や悪意、嫉妬、そして追い詰められた末の狂乱を描き出す「ヒトコワ」が、SNSや動画配信サービスで関心を集めている。こうした「ヒトコワ」に直結する世界観を、何十年も前から紡ぎ続けてきたのが松本清張だ。嫉妬やコンプレックス、私欲、裏切りといった、誰の心にも潜むありふれた感情が、ほんの少しのきっかけで暴走し、人生を狂わせる事件へと発展していく。人間の深層心理を鋭利にえぐり出し、あまたの名作サスペンスを生み出してきた。

 それゆえに、令和の現在に視聴しても、単なる「一昔前のサスペンス」にはとどまらない。そこには現代の「ヒトコワ」と見事に共鳴する、人間の本質そのものが息づいている。背筋が凍るような恐ろしさがありながら、なぜか視線を外せない。本当に怖いのは凄惨な事件そのものではなく、そこに至るまでに激しく揺れ動く人間の内面である。平穏な日常の裏側に潜む執念や欲望が、見る者をじわじわと圧倒していく。

  BS11にて放送中の「サスペンス 松本清張シリーズ」(金曜午後6:45)では、そうした人間の心の暗部をえぐった重厚なドラマを存分に味わえるラインアップがそろえられている。10月は、その中でもえりすぐりの名作が並び、これまで松本清張作品に触れてこなかった世代にとっても、その魅力は極めて新鮮に感じられるだろう。現代の「ヒトコワ」コンテンツのルーツをたどれば、その先には松本清張が待ち構えている。血の通ったリアルな人間ドラマの恐ろしさと醍醐味(だいごみ)を、心ゆくまで堪能してほしい。

「ヒトコワ」の視点からひもとく、清張サスペンスの神髄

■金銭と夫婦の情念がもたらすヒトコワ

ゾッとするのに、目が離せない―「ヒトコワ」につながる、松本清張の人間ドラマをたっぷり楽しむ

 夫婦や親族といった、極めて身近な関係性に潜む猜疑心(さいぎしん)や欲望。誰もが持ち得るありふれた感情だからこそ、それがわずかにゆがんだ瞬間、人は想像もつかない凶行に走ってしまう。最も身近な存在こそが最も恐ろしい……。そんな「ヒトコワ」の神髄が静かに迫りくる。

 恐怖の対象は、一目で怪しいと分かる人物ではない。どこにでもいる「普通の人」が、ささいなきっかけから超えてはならない一線を越えてしまうこと。本作が浮き彫りにするのは、そうした人間の生々しい恐ろしさである。

10月16日放送「黒い画集~紐」主演:余貴美子
 佐渡島で神主を務める梅田安太郎(内藤剛志)が、東京の河川敷で絞殺体となって発見される。安太郎は事業絡みで多額の負債を抱えていたため、当初は金銭トラブルが引き起こした凶行と推測された。だが、田村警部補(大地康雄)は、遺体の傍らに首を絞めた「紐」がわざわざほどかれて放置されていた点に疑念を抱く。捜査の過程で浮上したのは、東京在住の安太郎の兄夫婦と、佐渡に残された妻の静代(余貴美子)。しかし、関係者全員に隙のない完璧なアリバイが用意されていた。

■秘密と過去が引き起こすヒトコワ

ゾッとするのに、目が離せない―「ヒトコワ」につながる、松本清張の人間ドラマをたっぷり楽しむ

 「純愛」という仮面を被った共犯関係が、逃げ場を失うにつれて、互いに罪をなすりつけ合う醜い猜疑心へと変貌していく。相手を信じたいという願いと、自分だけは破滅から逃れたいという利己主義。その二つが激しく衝突する、人間の心理の恐ろしさがありありと描かれる。恐ろしいのは、殺人を犯した事実だけではない。「過去を暴かれたくない」という強迫観念が、人間をどこまで狂わせるのか。秘密を隠し通そうとあがくほどに袋小路へと追い詰められていく観月ありさ演じる美輪の姿から、片時も目が離せない。

10月23日放送「共犯者」主演:観月ありさ
 かつて美容整形外科で清掃員として働いていた美輪(観月ありさ)は、医師である秋月(寺島進)の手により類まれな美貌を手に入れる。その後、秋月と結ばれるが、優しかった夫は豹変(ひょうへん)。美輪は自由を奪われ、暴力にさらされる日々を送る。そんな彼女の心の支えとなったのが、造園業を営む町田(山本耕史)だった。やがてある出来事を引き金に、2人は秋月を手にかけてしまう。美輪は事件を隠し通し、町田とも離れ、新しい人生を歩み出す。それから7年後。成功を収めた美輪の前に、葬り去ったはずの過去が再び忍び寄る。「本当の内堀美輪を知っている」というネット上の不気味な書き込み。さらには、かつての“共犯者”の影が……。

■欲望と遺産が渦巻くヒトコワ

ゾッとするのに、目が離せない―「ヒトコワ」につながる、松本清張の人間ドラマをたっぷり楽しむ

「富を手に入れたい」「権力を握りたい」「自分だけ甘い汁を吸いたい」。人間の奥底に眠る欲望がむき出しになったとき、人はここまで変貌するものなのか。己の欲を隠蔽(いんぺい)する者、他人の欲を操る者、そして欲そのものに飲み込まれる者。おのおののたくらみが複雑に絡み合い、やがて人間関係のすべてを崩壊させていく。

 欲望がさらなる欲望を引き寄せ、ついには全員が互いを出し抜こうとする。人間の「欲」が持つ底知れぬ恐ろしさを、骨の髄まで味わえるのが本作の最大の魅力である。

10月30日放送「強き蟻」主演:若村麻由美
 沢田伊佐子(若村麻由美)は、30歳も年上の資産家・沢田信弘(津川雅彦)と婚姻関係を結ぶ。しかし、その結婚に愛は存在しない。彼女の真の狙いは、夫の死後に転がり込む莫大な遺産であった。伊佐子は、3年後に夫を死に至らしめ、10億円もの財産を独占するという野望を抱き、夫の寿命を少しずつ縮める計画をひそかに進めていた。ところが、伊佐子の周りには、彼女に引けを取らないほど強欲な人間たちが群がってくる。愛人にパトロン、顧問弁護士、そして夫の親族たち。夫の死と遺産を餌に、それぞれの黒い欲望が激しく衝突していく。

今後のラインアップも見逃せない!

ゾッとするのに、目が離せない―「ヒトコワ」につながる、松本清張の人間ドラマをたっぷり楽しむ

 11月は、名優・古谷一行が主演を務める傑作4作品を放送。古谷といえば、横溝正史原作の「金田一耕助シリーズ」を思い浮かべる人も多いだろう。飄々(ひょうひょう)としたたたずまいと鋭い洞察力を併せ持つ金田一を長年演じ、ミステリー俳優として確かな存在感を築いた。一方で、その魅力は謎解きだけにとどまらない。「金曜日の妻たちへ」や「失楽園」では、男女の愛憎や欲望に揺れる人物を演じ、サスペンス作品でも、秘密を抱えた男や複雑な事情を背負った人物など、さまざまな役柄を演じてきた。

 事件の謎だけでなく、その裏側にある人間の欲望や弱さを表現できる。そんな古谷だからこそ、松本清張作品に登場する“ひとクセある人物”にも独特の説得力を与えている。ミステリーから愛憎劇まで、人間の光と影を演じてきた古谷一行。その円熟した演技を味わえるのも、今回の松本清張シリーズの楽しみの一つだ。

11月6日放送「霧の旗」

ゾッとするのに、目が離せない―「ヒトコワ」につながる、松本清張の人間ドラマをたっぷり楽しむ


 兄の無実を信じて疑わない桐子(星野真里)が、著名な弁護士・大塚欽三(古谷一行)に弁護を依頼するも冷酷に拒絶されたことから、壮絶な復讐(ふくしゅう)を決意する物語。兄の獄死を機に大塚への憎悪を燃え上がらせた桐子は、彼の人生にひっそりと侵入し、確実に関係者を破滅へと追い込んでいく。真の正義とは何か、罪をあがなうとはどういうことか。復讐の鬼と化した女と、己の過去に直面する弁護士。2人の思惑がスリリングに交差する、息詰まる人間ドラマが展開される。

11月13日放送「わるいやつら」

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 病院長の戸谷信一(古谷一行)と、彼の周囲でうごめく女たちの愛憎や駆け引きを描き出した松本清張の代表作。愛情、金銭、そして保身。多種多様な思惑が複雑に絡み合い、登場人物たちは少しずつ自身の「裏の顔」をあらわにしていく。全員が己の欲望を満たすためだけに他人を利用し、また自身も利用されていく。人間の底なしの欲と計算が交差する濃密なサスペンスであり、俳優陣の鬼気迫る演技も見逃せないポイントである。

11月20日放送「夜光の階段」

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 美容師としての頂点を目指す佐山道夫(辰巳琢郎)は、己の野心のためならばいかなる手段も辞さない冷徹な男。自身のルーツをひた隠しにし、女性たちを踏み台にしながら、着実に成功への階段を駆け上がっていく。だが、まばゆいほどの成功の陰には、決して暴かれてはならない暗い過去が潜んでいた。野望、愛欲、そして消し去りたい過去。栄光をつかみ取るほどに、隠蔽してきた秘密が道夫自身を窮地へと追い込んでいく。古谷は、道夫の運命を静かに追い詰めていく検事・桑山として物語に深い影を落としている。華やかな業界の裏側で繰り広げられる、果てしない愛憎と欲望の世界に注目である。

11月27日放送「捜査圏外の条件」

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 銀行員である黒井(古谷一行)は、妹を見殺しにした不倫相手の笠岡(前田吟)に対し、強い復讐の念を抱く。職を辞し、笠岡とは一切の接点がない土地へと身を隠した黒井は、7年という途方もない歳月を費やし、絶対に自身の犯行だと見破られない完璧な殺害計画を練り上げる。復讐を果たすためだけに自らの人生を捧げた男のすさまじい執念と、緻密に計算し尽くされた完全犯罪。人間は、果たしてどこまで深い憎悪を抱え続けることができるのか。6年間の潜伏が生み出した恐るべき執念と、その果てに待ち受ける衝撃の結末から目が離せない。

【番組情報】
サスペンス 松本清張シリーズ

BS11
金曜 午後6:45~

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