「成長した姿を見せたい」松下洸平が語る「放課後カルテ 2025秋」への覚悟と挑戦2025/09/22 07:00

子どもたちの小さなサインを見逃さず、時に厳しく、時に温かく、寄り添う。2024年10月期に放送され、多くの視聴者の心をつかんだ日本テレビ系連続ドラマ「放課後カルテ」が、この秋、続編として帰ってくる。原作は日生マユ氏による人気マンガで、松下洸平が演じるのは、口も態度も大きい“問題ドクター”でありながら、鋭い観察眼で子どもの心と体の変化を見抜き、救っていく小児科医・牧野。
再び牧野先生として現場に立った松下は、病院や中学校へと広がった新たな舞台に胸を躍らせつつ、「牧野先生らしさはそのままに、成長した姿を見せたい」と意気込みをのぞかせる。続編への思い、役柄を通して見えてきた新たな一面、そして子どもたちとの日々から生まれた“かけがえのない時間”を、じっくりと語ってくれた。
続編への思いと牧野先生の変化

──ファン待望の続編の制作が決まった時、率直にどう感じましたか?
「すごくうれしかったです。『またいつかやれたらいいですね』という話はしていましたが、こんなに早く実現するとは思っていませんでした。連続ドラマが続編で帰ってくるのは多くはないですから、貴重な機会をいただけたなと感じています」
──8か月ぶりの撮影に向けて、衣装合わせなどを経て抱いた思いは?
「“帰ってきたな”という感覚でした。この期間は別の仕事に向き合っていたので、常に牧野先生のことを考えていたわけではありませんが、連ドラの映像を見返して“どんな話し方だったっけ?”と思い出す時間を持ちました。台本を読んでいるうちに、“ああ、そうそう。こういう性格だったな”と自然に記憶がよみがえりましたね」
──牧野先生というキャラクターについて、あらためて印象を教えてください。
「連ドラは『保健室には来ないでもらいたい』という衝撃的なセリフから始まりました。牧野はもともと人と深く向き合うのが苦手で、小児科医を目指した理由も“体の全部を診られるから”という少し変わったもの。子ども好きだからではなく、専門分野に分かれる大人と違い、小児科はすべてを診られるというだけの理由でした。でも保健室の先生になり、子どもたちと接する中で『病は病気だけを見ていても治らない』と気付く。3か月間で病だけでなく“人”を見られるようになり、未来を託す思いに至ったことが、牧野先生の大きな成長だったと感じています」

──続編での牧野先生には、どんな変化があるのでしょうか。
「今回は病院に戻り、小児科医として実務に励んでいる状態です。患者さんへの向き合い方が明らかに変わりました。口調は相変わらずぶっきらぼうで、言い方にきつさもありますが、その中に優しさや、以前とは違う“まなざし”がある。以前は、病気だけを見ていましたが、その奥にある心の問題にも寄り添おうとする姿が、今回はしっかり描かれていると思います」
子どもたちとの現場エピソードと作品の魅力

──現場での子どもたちとの関わり方で意識していたことは?
「クランクイン前は、牧野先生は怖い人という役柄なので、関係性を保つためにもあまり積極的に接しすぎないほうがいいのかなと思っていました。でも、撮影が始まると子どもたちが想像以上に純粋で。ずっと牧野先生でい続けるのは不可能だと思いましたし、むしろ僕と一緒にいることを楽しみに現場に来てくれるほうが、のびのびできるだろうなと感じました。だから率先して一緒に遊び、たくさん話もしました。同じ目線で一緒にいることを心がけていましたね」
──やりとりの中で、新たな発見はありましたか?
「思っていた以上に、みんな本当に等身大の子どもでした。この仕事をしている子たちだから少し達観しているのかなと思っていましたが、『放課後は何をしているの?』と聞いたら『みんなでドッジボール』って(笑)。“あ、一緒なんだな”とほほ笑ましかったです。一方で、僕が子どもの頃とは違うなと感じることもありました。女の子たちは日焼け止めを塗って登下校していたり、男の子も気にしていたりして、そういう意識の高さが面白くて。『君たちだけでしょ?』と聞いたら、『みんなやっています』と即答でした。さらに『このクラスで誰が人気あるの?』と聞くと、『○○くんが一番人気です』『影の一番人気はこの子です』など、人気のジャンルが細分化されていて感心することも。『でも、あいつ、うるさいんですよ!』なんてやりとりもあって、ちゃんと“クラス”として日常が回っているのが印象的でした」

──特に心に残っているシーンを挙げるなら?
「卒業式ですね。牧野先生は式には出席せず、人知れず去っていくのですが、その前に保健室で荷物を持ち出す時、子どもたちからの寄せ書きが置いてあったんです。手形が一つ一つ押され、その上に『牧野先生、今までありがとう』と書かれていて…。本番で初めて見た瞬間、胸にグッときました。牧野先生はきっと泣かないと思うんですが、中の人はもう、たまらなくて(笑)。なんとかこらえながらも、途中で涙が出そうになって一度閉じて、また開いて…と繰り返しながら演じました。あの寄せ書きは、キャラクターへのメッセージであると同時に、僕自身へのメッセージとしても受け取れて、本当に感動しました」
──前作が大きな反響を呼んだ理由は何だと思いますか?
「やはり子どもたちの力ですね。それに尽きます。みんなが全身全霊で、大切な時間をこの作品に捧げてくれたからです。中には撮影の合間に中間テストや期末テストがあった子もいました。セリフを覚えなきゃいけないのに宿題もあって、『教えてあげようかな』と思って広げてみたら、僕も全然分からなかったんですよ(笑)。数学の問題を見て、問1の時点で『ダメだ』と思ってそっと閉じました。そんなふうに学業と仕事を両立させながら、一生懸命この作品に取り組んでくれた。本当に“人生をかけてやってくれた”と思います」
──そんな子どもたちの奮闘に支えられた一方で、初主演作として松下さんご自身にとってはどんな経験になりましたか?
「僕自身、地上波の連続ドラマで単独主演を務めるのは初めてで、プレッシャーも責任感もありました。でも放送のたびにSNSで『涙しました』という声や、『同じ病気で悩んでいて、このドラマで勇気をもらいました』というメッセージが届きました。そうした声に励まされ、あの3か月間を走り切ることができました」
役を通して得た学びと“聞く力”、子ども時代の記憶

──連続ドラマ撮影を振り返って、牧野先生と向き合う中で得たものは?
「主演として作品に関わらせていただいたこと自体が、俳優として大きな経験でした。そして何より、子どもたちとの芝居から得るものが本当に多かったです。器用に演じる子もいれば、不器用ながら一生懸命演じている子もいて。どちらも素晴らしく、その姿勢に僕自身がいつも励まされていました。同じ“芝居をする”という点では年齢に関係なく一緒ですから、自分の仕事への向き合い方をあらためて考えさせられましたし、もし彼らが僕ら大人を“お手本”として見てくれているなら、なるべく良いお手本でありたい。そんな意識も自然と芽生えていきましたね」
──当初は牧野のキャラクターから「嫌われるんじゃないか」という不安もあったそうですが、実際に演じてみていかがでしたか?
「原作が素晴らしいので、“最初にガッツリ嫌われても、最後に必ず回収される”と最初から信じていました。監督からも『もっとやっていいよ』『もっとぶっきらぼうでも、態度悪くてもいいよ』と言っていただいて、あまり演じることのない役柄だったこともあり、すごく楽しんで挑めました。牧野先生は本当に愛されるキャラクターだと思っていたので、その魅力を信じて演じましたね」
──牧野先生は生徒の変化に気付く繊細な感性を持っていますが、ご自身はどうですか。
「気付ける人でありたいと、日頃から意識しています。会話の多くは、実は言葉の奥に本当の意味が隠れていることが多いと思っていて。だから“話す”ってすごく大事なんです。誰かと話す時は、『この人、本当は何を言いたいのかな』『言いたくても言えていないことがあるのかも』と、自然とそういう視点で聞いています。聞き手がどう聞くかは本当に大きな要素だと思うので、そこは大切にしています」

──そうした“相手の言葉の奥をくみ取る姿勢”は、俳優としての芝居にも通じるものですか?
「非常に通じますね。会話って、『次に自分が何を言うか』を考えながらも、同時に『相手が今から何を言うか』『そのあと自分が何を言えば相手がどう返すか』まで、全部の流れを感じ取っているものだと思います。僕ら俳優は台本でセリフが分かっているからこそ、逆算して『この人は今どういう気持ちでこの言葉を言っているか』『どんなスピードで次の言葉を選んでいるか』を計算しながら演じています。職業病みたいなものかもしれませんけど(笑)」
──脚本を読んで、ご自身の子ども時代を思い出すことはありましたか?
「ありました。小学生の頃は天真爛漫(らんまん)で、特に大きな悩みもなく過ごしていました。中学生になって環境がガラッと変わった時、少しずつ自分の居場所を探すような感覚が出てきたのは覚えています。保健室に行ったこともありましたね。常に逃げ場にしていたわけではありませんが、なんとなく頼ったことは何度かありました。小学生時代は本当に“どこかに必ずご飯粒が付いている”ような子でした(笑)。将来の夢も『絵を描く仕事がしたいな』くらいのぼんやりしたもので、勉強は苦手で、外で遊んだり絵を描いたりするのが好きでした。今思い返しても、本当に楽しい思い出ばかりです」
舞台は中学校と病院へ。広がる「放課後カルテ」の世界

──続編では病院も舞台の一つになるそうですね。
「はい。ただ牧野先生は地域の“保健室”的な役割も担っていて、小学校に行くこともありますし、レギュラーの先生たちとの関わりも続いています。それに加えて中学校や家庭の中にも問題があり、舞台そのものは大きく変わっていませんが、視野は少し広がっている印象です。病気だけでなく、その子の心の中までしっかり見ようとする牧野がいる。“生きる世界”は同じでも、“視野”は確実に広くなっていると思います」
──前作からの登場人物たちは、今回どのように描かれますか?
「(冴島)直明(土屋陽翔)も病気と向き合いながら少しずつ前進しています。完治はしていませんが、連ドラの頃よりは状態もだいぶ良くなっています。中学生になった(藤野)一希(上田琳斗)は、環境の変化に伴うストレスや家庭での問題など、新たな壁も出てきています。そういった“家族”の部分は連ドラでは描ききれなかった大切な要素でもあり、今回はそこを丁寧に描いていけたらと思っています」

──最後に、放送を心待ちにしている視聴者へのメッセージをお願いします。
「牧野先生が帰ってきます。連続ドラマでの経験を生かし、今回も“牧野先生らしさ”はそのままに、成長した姿をお見せできるよう全力で演じます。連ドラの時からずっと応援してくださった皆さんに、あの『放課後カルテ』の魅力を再びお届けできるよう、心を込めて撮影に臨みます。新たに出演してくださる子どもたちの中には、“えっ、出ていただけるんですか!?”と僕自身が驚くほど、素晴らしい才能を持つキャストもいます。新しい悩みや葛藤を抱える子どもたちが登場し、牧野先生がどう向き合い、どんな答えを導き出していくのか。ぜひ期待してお待ちいただけたらうれしいです」
【プロフィール】
松下洸平(まつした こうへい)
1987年3月6日生まれ。東京都出身。うお座。A型。趣味は料理。俳優、アーティストとしても活動中。現在、日本テレビ系の音楽番組「with MUSIC」で司会を務めるほか、BS-TBSの「美しい日本に出会う旅」、J-WAVE「DK SELECT WEEKEND LIVING」にレギュラー出演している。2026年放送予定の大河ドラマ「豊臣兄弟!」(NHK総合ほか)で徳川家康を演じることが決まっている。
【番組情報】
「放課後カルテ 2025秋」
9月24日
日本テレビ系
午後9:00~10:54
取材・文/斉藤和美
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