「イグナイト」法律監修が語る現場の熱量と間宮祥太朗の演技が引き出した“法廷の空気”2025/05/22 06:00

間宮祥太朗が主演を務めるTBS系で放送中の連続ドラマ「イグナイト -法の無法者-」(金曜午後10:00)は、訴訟社会化が進む日本と飽和状態にある弁護士界のリアルを描いた、これまでのリーガルドラマとは一線を画す完全オリジナルのダークリーガル・エンターテインメント。
本作の法律監修を担当するのは、Kollectパートナーズ法律事務所の現役弁護士・福島健史さん。脚本制作の初期段階から参加し、現場にも深く関わってきた福島さんに、弁護士としての視点から見た「イグナイト」の魅力、制作チームとの対話、そして法廷ドラマに込めた思いを聞いた。
――企画を聞いた時、どんな印象を受けましたか?
「従来のリーガルドラマは、法律というルールを軸に事件を解決していく作品が多い印象でしたが、『イグナイト -法の無法者-』は“依頼者自身の声”にフォーカスしている点が新鮮でした。弁護士にとっては何より“依頼者が主役”なので、本作のストーリーが依頼者に軸足を置いて進んでいくところに強く共感しました」

――裁判とは、もっと冷静で感情を出さない場では?
「宇崎凌(間宮)たちは依頼者の感情に寄り添いながら、依頼者を“焚(た)きつけ”ています。そして、宇崎たちも焚きつけの過程で自身の傷と向き合い、依頼者から焚きつけられ、両者の想いが法廷の熱量につながっているのだと思います。弁護士は感情を抑えて案件に向き合うイメージが強いかと思いますが、実際の裁判でも、感情を大切にしているかで書面や尋問の迫力も、依頼者の声が届くかも変わってきます」
――宇崎というキャラクターの魅力はどこにありますか?
「依頼者からすると波風を立ててくるような弁護士ですが、宇崎は、自身の過去と重ね合わせながら、焚きつけの場面で依頼者に“自分自身と向き合う言葉”を投げかけてきます。ど真ん中ストレートなセリフですが、宇崎だからこそ伝わるものがある。そこに魅力を感じます」

――劇中では訴訟に二の足を踏む依頼者を“焚きつける”ことがしばしばあります。
「訴えることには勇気も覚悟も必要で、反感を買うリスクもあります。それでも、声にすることで初めて届くものがあると思います。イグナイトのメンバーたちは、依頼者とともにその一歩を踏み出していく存在です。本作にはアクションやコミカルな要素があり、テンポの速さも魅力の一つ。“焚きつける”という行為を通じて、過去ではなく未来に目を向ける姿勢が描かれています。その強く尖ったメッセージこそが、この作品の大きな魅力だと思います」
――法律監修にはどの段階から携わったのでしょうか?
「構想段階から関わり、脚本作りから現場で使う書類・証拠の作成までサポートしています。畑中さん、山田(能龍)さんの脚本をもとに、裁判例を調べて事案や争点を設定していきました。ロースクールの学生なら『このフレーズ、どこかで聞いた』と感じる場面もあると思います。尋問シーンでは、展開や証拠の整合性を何度も検討し、制作チームと緻密に調整しました。『このセリフで依頼者が納得するか』といった細部まで意識して作ってきました。実際、弁護士からは『金曜夜に見ていたのに仕事に戻された気分』と言われたりもします(笑)。ドラマの世界に、実際の法廷の空気感を重ねることを意識しています」
――撮影現場でのキャストとのやりとりもあったということですが、思い出に残るエピソードはありますか。
「宇崎凌役の間宮祥太朗さんは、第1話から第3話までの“攻め”の尋問が続いていたのですが、第4話の牧田和彦(大石継太)への主尋問シーンでは一転して優しさと希望にあふれた空気に包まれていました。モニター越しでも胸を打たれ、個人的にもとても好きなシーンの一つです」

――キャストの皆さんは、役柄に対してとても真摯(しんし)に向き合われている印象ですね。
「轟謙二郎役の仲村トオルさんからは、第1話の予備試験制度に関するご質問を頂きました。初日だったのですが、仲村さんに予備試験制度を説明する日が来るとは思わず、ドキドキしたのを今でもよく覚えています。伊野尾麻里役の上白石萌歌さんは、第2話の遺書を提示するシーンで、「依頼者がいる場面で提示する際、配慮はありますか?」とご質問をいただきました。その繊細な視点にはっとさせられ、私自身も学ばせていただきました。高井戸斗真役の三山凌輝さんは、第4話で初めて尋問に臨まれました。“他の3人とは異なり、あえて動かずに臨む”ということで、撮影前に立ち居振る舞いを綿密に研究されていました」

――俳優の演技を見て、プロフェッショナルとして感じたことはありますか?
「一つのシーンをさまざまな角度から繰り返し撮影するなかで、間宮さんをはじめキャストの皆さんの熱量が一切落ちないのは本当にすごいと感じました。何度も繰り返すうちに『ゲシュタルト崩壊しそう』と話されていましたが、それでも集中力を切らさず、常に真剣に向き合っていたのが印象的です。どのカットを見ても迫力があり、法廷シーンは毎回、長丁場にもかかわらず圧倒されっぱなしでした。気付けば時間がたっていたと思うほど、現場には引き込まれる熱がありました」
――弁護士の立場から見て本作はどのような印象ですか?
「登場人物たちは依頼者と直接会い、現場に足を運ぶ『現場主義』が描かれています。特に第2話や第3話では実際に病院へ赴くシーンがあり、人と人とのやりとりが生まれる様子に心動かされました」
――登場人物たちは、どこか弁護士らしくない印象もあります。
「“弁護士”というと冷静で感情を表に出さないタイプというイメージがあるのかもしれませんが、現実の弁護士にもいろいろなタイプの人がいます。宇崎のように依頼者と深く関わるタイプもいれば、轟のように軍師タイプもいます。はたまた『カメレオン桐石』(及川光博)のように場面によって人格が変化するタイプもいます(笑)」
――第2話は宇崎と轟という弁護士同士の見解の相違もリアルでしたね。
「あれは“弁護士あるある”ですね。事件の主役はあくまで依頼者であり、弁護士は常に“何が解決なのか”を探し続けています。判決か和解か、その内容をどうするかなど、依頼者にとって最善の選択肢を考え抜く。第2話のように判決がすべてではないこともあります。依頼者が本当に“何を求めているか”を丁寧に対話することが欠かせません。轟が依頼者家族と向き合うラストシーンには、弁護士としての深みを感じましたし、実際、弁護士仲間からも大きな反響があった回です」
――エンタメに携わるきっかけは何ですか?
「エンタメは日常を癒やして、背中を押してくれる力がある。嫌なこと、つらいことがあるときでも、映画やドラマを見ている数時間は忘れられるって本当にすごいことだと思っています。そこに何か力になることができればという思いで、作品に携わらせていただいています」

――エンタメ業界全体への思いも強いと伺いました。
「今回、制作現場にも通い、スタッフの皆さんの熱量を間近で感じながら過ごしました。それぞれが自分の役割を全うすることで一つのシーンが形になるという現場のリアルに触れ、プロフェッショナルとして学ぶことが多く、心から敬意を抱きました。日本のエンタメ業界には、これから大きく広がっていく可能性がある一方で、制度的な保障の弱さや担い手の疲弊といった課題もあると感じています。BABEL LABELさんのような旗振り役が牽引(けんいん)する動きの中で、自分もまた、誰かの“楽しい”を支える力になれたらと思っています」
――視聴者の皆さんにはどのように本作を楽しんでほしいですか?
「ドラマの中で描かれる依頼者たちの“声”は、誰にとっても他人事ではありません。本作が苦しい思いをしている方々にとって何らかの形で支えになるといいなと思います」

リアルな裁判の空気や依頼者の葛藤、それをどう“物語”として届けるか。「イグナイト -法の無法者-」の根底には、現役弁護士・福島さんの視点と経験が静かに息づいている。本作が描こうとしているのは、正しさを押しつけることではなく、感情に寄り添いながら一歩を踏み出そうとする人たちの姿だ。その姿を通して、“声をあげる”という行為の意味を、じっくりと問いかけてくる。
【番組情報】
イグナイト -法の無法者-
TBS系 毎週金曜
午後10:00~午後10:54
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