ノア・ワイリーが語る「ザ・ピット」の魅力――「救急外来はあらゆる人間の経験が交差する場所」2026/03/16 13:00

作品賞含むエミー賞5冠を達成した「ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室」は、人気医療ドラマ「ER 緊急救命室」のチームが再集結し、ペンシルベニア州ピッツバーグの救急医療室(通称「ピット」)の1日を、1話1時間×全15話で送る圧巻のノンストップ医療ドラマだ。U-NEXTではシーズン2の配信がスタート。個性豊かな研修医たちを取り仕切る主人公であるマイケル・“ロビー”・ロビナヴィッチ役に扮(ふん)し、プロデューサーとしても名を連ねるノア・ワイリーのインタビューを届ける。

一度入り込むと簡単には抜け出せないドラマ
――今回のシーズン2の舞台設定について教えてください。
「シーズン2の舞台は、前作で描かれた銃乱射事件から10か月後、独立記念日(7月4日)の週末です。この10か月という時間は、登場人物それぞれにとって大きな意味を持っています。リハビリを経て、ようやく現場復帰を果たす人もいれば、現場に立ち続けながら経験と自信を積み重ねてきた人もいる。トラウマと向き合い始めた人がいる一方で、助けが必要だという事実を受け入れられず、その影響が別の形で表面化している人もいます。シーズン1が『医者もまた患者である』という物語だとすれば、シーズン2は『医者は必ずしもいい患者ではない』という物語ですね」
――シーズン間を10か月空け、さらに独立記念日の週末を舞台にした理由は?
「きっかけは、エグゼクティブプロデューサー兼監督のジョン・ウェルズが、話をしてくれたことでした。彼は『前作を超えなければならないというプレッシャーを感じる必要はない』と言ってくれたんです。彼が私たちに求めたのは『大惨事を描くのではなく、前作から時間が経った後の彼らの人生をもう一度のぞいてみよう』という発想でした。忙しい週末が続き、疲労が蓄積していく――その疲れそのものが、十分にドラマになると考えたんです。もしシーズン2に大きな事件がなくても、主人公が精神的に追い詰められていく物語として成立するなら、この作品は救急外来で起こる人間ドラマだけで、長く続けていけるはずです。だから私たちの合言葉は、『もう一度、同じことをやる』でした」
――10か月を経て、ご自身が演じる主人公・ロビーはどう変わりましたか?
「物語の冒頭から、ロビーには明らかな変化があります。これまでのように徒歩で出勤するのではなく、バイクで現場に向かっているんです。しかもヘルメットを着けていない。ところが序盤で、彼は『普段はちゃんとヘルメットをかぶっている』と話します。この時点で、彼が何かを隠していることは明らかです。ただ、それが何なのかは、まだ分かりません。彼はこれから長期休暇に入る予定で、3か月間の旅に出る計画を語るその姿は、どこか理想的でロマンチックです。しかしシーズンが進むにつれ、彼がなぜ旅に出ようとしているのか、そしてその旅が何を意味するのかが問われていきます。それは、向き合うべき現実からの逃避なのか、それとも正しいセルフケアなのか。その揺らぎこそが、今シーズンの大きなテーマになっています」

――キャラクター描写と、慌ただしい展開をどう両立させていますか?
「それは、実際の医療従事者と同じです。子どもを育て、夫婦関係や生活費の問題を抱えながらも現場に立ち、『誰かの人生で最もつらい瞬間』に立ち会わなければならない。彼らは、それらすべてを一旦心の中で切り分け、極めて高い集中力で仕事をこなします。それができるのは、自分の専門性によって人を救えるという確信があるからです。一方で、彼らは私生活の問題を心の奥に押し込めたまま仕事をしている。ロビーはいい患者ではありません。彼は素晴らしい医師ですが、医師という職業は本質的に外向きで、自分の内面に目を向けることに慣れていない。そして、いざ内面に向き始めた時、人は必ずしも良い反応を示すとは限らない。彼の誰にも見せられない内側を演じることは、とても興味深い体験でした」
――医療ドラマは数多くありますが、本作が支持されている理由はどこにあると思いますか?
「“最もリアリティーのある医療ドラマ”と言われる理由は、その正確さと、作り物感を徹底的に排している点にあると思います。音楽やサウンドデザイン、スタッフ編成も最小限。カメラマンは2人、音声スタッフ1人。それ以外は、すべて現場の環境音です。 そのため撮影中も非常に没入感があり、その感覚が視聴体験にも反映されています。パトカーの後部座席に乗って同行取材をする、あるいは戦地に同行するジャーナリストに近い感覚ですね。安全でも快適でもない。でも、一度入り込むと、簡単には抜け出せない。受動的に眺めることはできず、スマートフォンを置いて向き合うことを求められる。あなたはもう観客ではなく、作品の中にいるんです」
――シーズン2で、よりリアルで没入感のあるものにできたと思いますか?
「スタイルとコンセプトが正しかったと証明されたことで、同じやり方を自信を持って続けられました。通常、俳優は床に貼られたテープの場所に立ちますが、私たちの現場にはそれがほとんどありません。カメラが俳優を追いかける、完全にジャーナリスティックな撮影手法です。その結果、俳優は構図や照明を気にせず、処置そのものに集中できる。その集中力が、より引き込まれる演技につながっています」

――「本作が医療職を志す人を増やすきっかけになれば」と話していましたが、反響はありましたか?
「この作品には、『再び医療の現場に人を呼び戻したい』という明確な目的があります。コロナ禍以降、多くの人が救急医療の現場を離れました。さらに地方の病院が閉鎖され、医療保険を失った人々が救急外来に集中することで、現場は慢性的な過密状態にあります。そんな中で、この仕事を再び“魅力的なもの”として描けているなら、わずかながら効果はあったのではないでしょうか。実際に『子どもが医師や看護師に興味を持ち始めた』という声を聞くこともあります。それが本当なら、とてもうれしいですね」
――この作品の撮影は大変ですか?
「シーズン序盤は、朝7時に現場入りします。物語上も第1話は朝7時の設定なので、キャストの体力的にもまだ余裕があります。しかしエピソードが進むにつれて、物語の時間帯は午後から夜へ移っていく。そうした回では、朝6時半に現場入りしながら、すでに長時間勤務を終えた状態を演じなければならない。それが一番大変でした。ただ不思議なことに、実際に疲れてくるほど、その疲労を演技に落とし込みやすくなる面もあります。シーズンの始めに、私は全キャストに『15時間、丸一日立ちっぱなしで過ごす』という課題を出しました。空腹を感じるタイミングや、トイレに行きたくなる間隔を記録し、それを演技に反映させる。その積み重ねが、自然な演技につながると考えたんです。やり方は違っていても、キャスト全員が同じような意識で取り組んでいました」
――海外での反響をどう感じていますか?
「『ER 緊急救命室』シリーズが世界的に成功した時と同じくらい、今でも信じがたい気持ちです。ピッツバーグという非常にローカルな舞台の物語が、これほど世界に届いていることに驚いています。今の時代、人々はどこに住んでいても、『もし自分が病院に運ばれた時、そこには献身的で信頼できる医療従事者がいてほしい』と願っています。その思いに、このドラマが真っすぐと応えていることが、安心感につながっているのではないでしょうか。また、実際に医療の現場で働く人たちにとっても、完璧ではなく、欠点や葛藤も抱えながらも職務を全うする姿が描かれている点に、意味があるはずです。救急外来は誰もが利用する可能性のある場所です。誕生、死、病、人生の節目――あらゆる人間の経験が交差する場所だからこそ、世界中の人を引きつける。その普遍性が、この作品を世界と強くつないでいるのだと思います」

【プロフィール】
ノア・ワイリー(Noah Wyle)
1971年6月4日生まれ。米・カリフォルニア出身。94年にスタートした「ER 緊急救命室」のカーター役で一躍有名に。2004年のテレビ映画「ライブラリアン 伝説の秘宝」から始まったシリーズは、テレビシリーズ版も製作された。そのほか「フォーリング スカイズ」(2011〜15年)、「レバレッジ 詐欺師たちの償い」(21〜25年)などに出演。

【コンテンツ情報】
「ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室」(全15話)
U-NEXT
独占配信中
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