橋本愛&瀬戸康史「にこたま」に見る浮気で子どもができた30代優柔不断男の決断のリアリティー2025/12/26 21:00

橋本愛と瀬戸康史がダブル主演を務めるFODオリジナルドラマ「にこたま」(12月26日からFODとPrime Videoで配信中)は、恋愛、結婚、家族といった身近でありながら、簡単に答えを出すことのできないテーマに真正面から向き合う作品だ。原作は、渡辺ペコ氏による同名コミックス。2009年に連載が始まった作品だが、価値観がさらに細分化し、「当たり前」が揺らぐ令和の今だからこそ、その問いはより切実に響いてくる。
出会って12年目のパートナーと同棲していて、弁理士としての仕事もそこそこ順調。大きな不満を抱えることもなく、穏やかな日常を送っていたのが、瀬戸が演じる岩城晃平だ。ところがある夜、会社の飲み会の帰りに同僚の高野ゆう子(比嘉愛未)と関係を持ってしまい、さらに彼女が妊娠していることが分かる。その出来事をきっかけに、これまで保たれていた均衡は静かに崩れ、晃平は否応なく、自分自身の立場や感情、人生の選択と向き合うことになっていく。

瀬戸は原作を読んだ際の印象について、「とんでもなく最悪の事態が起きているのに、読み終わった後は変な感情を引きずらず、ある意味スッキリした感覚があった」と語っている。この感覚こそが、「にこたま」という物語の大きな特徴であり、晃平という人物像を形作る重要な要素でもある。悲劇や修羅場を過度にあおるのではなく、どこか肩の力が抜けた“軽さ”を保ったまま、人の弱さや愚かさを描いていく。そのトーンが、読む者、見る者を必要以上に追い詰めない。

晃平は、根が優しく、誰に対しても分け隔てなく接するタイプだ。その誠実さは好感が持てる一方で、物事をはっきり決めきれない優柔不断さとも常に隣り合わせで、見る側によっては「少しずるい」と感じてしまう瞬間もある。演じる瀬戸自身も、「最初は“悪気があるのかな?”ってネガティブな印象でした。でも演じてみると、彼なりに反省している部分もあって、思うところもある。性質上すごく軽く見えてしまったり、唐突に見えてしまったりする人なんだろうな、という印象に変わりました」と、その人物像は少しずつ立体的になっていったという。

劇中の行動だけを切り取れば、「最低な男」と断じられてもおかしくない晃平だが、誰かを陥れようと計算して動く人物ではない。瀬戸が「うそはつけないような人間」と表現する通り、迷いや弱さは隠そうとしても表ににじみ出てしまう。その不器用さこそが、晃平を単なる身勝手な存在として終わらせない理由だろう。瀬戸は演じるうえで、「嫌われないように演じるのは違う。でも、嫌われすぎてもいけない」と、その距離感を強く意識していたという。瀬田なつき監督からの「彼が持っている“軽さ”を大事に」という言葉を受け、役に表情を寄せていった。「『俺の子どもですか』みたいな重い言葉も、彼が言うと軽く聞こえてしまう。その言い方や表情は、毎回監督と話し合いながら作っていった」とのこと。第1話の階段を上るシーンに象徴されるように、少しコミカルでありながらも、どこか憎めない。その“軽さと誠実さの同居”を丁寧に積み重ねることで、晃平は現実にいそうな人間として立ち上がっていく。

そして物語の中盤以降、晃平は何度も自分の立場や感情と向き合うことに。安易な共感やスカッとする展開を期待すると、戸惑いを覚える人もいるだろう。それでも本作が誠実なのは、その痛みから目を逸らさず、「こういう人生も確かに存在している」と静かに提示してくる点にある。
また、本作を語るうえで欠かせないのが、瀬田監督の演出だ。瀬戸は、言葉になりきらない指示を受け取りながら表現を探していく過程について、「見つけられない時は苦しいけれど、つかめた時の達成感は大きい」と振り返っている。その試行錯誤の積み重ねが、晃平という人物のあいまいさや不完全さを、より生々しい“現実”として映し出している。

「にこたま」は、「正しい答え」を提示する物語ではない。遠回りをし、時に誰かを傷つけながらも、それぞれが自分なりの道を模索していく。その姿は、瀬戸が「人生の縮図のよう」と表現するように、理想的ではないけれど、葛藤や揺らぎを含んだ、等身大の選択だ。瀬戸は、本作を見る人に向けてこう語る。「見る人によって、いろんな捉え方ができる作品だと思います。途中で苦しく感じる場面もあるかもしれないけれど、現実には、この作品のような人生を生きている人も確かにいる。それを知っているか、知らないでいるかで、誰かに向けられる優しさや、自分に同じことが起きた時の受け止め方は、きっと変わってくるんじゃないかなと思います」。
この言葉が示す通り、他人の事情を想像する余白を残し、見る者の中に小さな問いを置いていく。その問いにどう向き合うかは、見る人それぞれに委ねられる。瀬戸が体現する晃平の不器用な誠実さが、答えの出ない物語に、人間らしいリアリティーを与えているのだ。

【プロフィール】
瀬戸康史(せと こうじ)
1988年5月18日生まれ。福岡県出身。2026年は、1月3日にフジテレビ系で放送のドラマ「119エマージェンシーコール2026 YOKOHAMA BLACKOUT」(午後9:30)、テレビ朝日系でスタートするドラマ「再会~Silent Truth~」(1月13日スタート。火曜午後9:00)や、2月27日公開予定の映画「木挽町のあだ討ち」など出演作が続々控える。
【コンテンツ情報】
「にこたま」(全8話)
FOD、Prime Video
12月26日午後8:00から第1・2話配信中(以降、金曜午後8:00に最新話を配信)
※配信日時は予告なく変更になる場合あり。
※FODでは1話無料。
※Prime Videoでの視聴には会員登録が必要。

取材・文/杉嶋未来 撮影/尾崎篤志
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