デル・トロ版「フランケンシュタイン」は“親子の親密な物語”2025/10/21

19世紀イギリスの作家、メアリー・シェリーの古典小説を原作に、狂気の天才科学者と彼が生み出した怪物の死闘を描く「フランケンシュタイン」。過去にも何度となく映像化されてきた中、ここでは、希代の名匠、ギレルモ・デル・トロの手によって新たな命が吹き込まれた同作の魅力に、先頃来日した彼の言葉とともに迫っていく。

多くの人が慣れ親しんできた“フランケンシュタイン博士と怪物の物語”と同様、ギレルモ・デル・トロ版の「フランケンシュタイン」も、科学者のヴィクター・フランケンシュタインが人間の死体を用いて“怪物”を創造するところから始まる。デル・トロ監督がこの物語に初めて触れたのは、「僕自身がちょっと変わった少年で、周りにあまり理解されなかった」という7歳の頃。1931年版「フランケンシュタイン」の中でボリス・カーロフが演じていた怪物を見て、「人から理解されず、好かれない怪物が僕自身のように思えました。大人の世界では常々完璧を求められがちですが、僕は怪物の不完全な姿に美しさを感じたんです」と明かす。

デル・トロ監督のアカデミー賞受賞作「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017年)などもそうであるように、“人とは違うもの”や“人から理解されないもの”は、これまでもしばしばデル・トロ作品の中心になってきた。加えて、「フランケンシュタイン」では“人とは違うもの”を生み出した創造者=フランケンシュタイン博士にも目が向けられる。そこには、監督自身が子どもの親となったことが大きく関係しているそうだ。「子どもを持ったことで、僕は彼らの物語を親と子の関係を描いたものだと思うようになったんです。僕たちは誰かの子どもであり、やがて誰かの親になりますよね。その過程で許すことや受け入れることを経験していくわけですが、僕はそうした親子の親密な物語を、壮大な世界の中で描きたいと思いました」。

その言葉通り、禁忌を犯した創造者による怪物誕生譚は、やがて創造した者とされた者の長きにわたる戦いの物語へ。父=フランケンシュタイン博士と、息子=怪物を、劇中ではオスカー・アイザックとジェイコブ・エロルディが演じている。「スター・ウォーズ」シリーズの魅力的なパイロット、ポー・ダメロン役などで知られるオスカー・アイザックを、デル・トロ監督は複雑な内面を持つヴィクター・フランケンシュタイン役に抜てき。「ヴィクターは物語の主人公ですが、時に彼はヒーローとなり、時に自身の敵にもなります。オスカーは良い人であり、悪い人でもあるヴィクターを完璧に演じてくれました」と振り返る。一方、怪物役のジェイコブ・エロルディは、現在ハリウッドで高い注目を集める若手俳優の1人。190cmを優に超える身長も目を引くエロルディが、“人生”を知っていく怪物の純粋さと哀しみを澄んだ瞳で表現している。「まさにジェイコブの目を見た時、怪物を完璧に演じてくれると思いました。彼は怒りも優しさも表現できる俳優です。『プリシラ』でエルヴィス・プレスリーを演じた時も、素晴らしい怒りの演技を見せていましたしね」。

理想的なキャストを得たことで、「親子の親密な物語」は大勢の胸を打つものに。また、デル・トロ監督は「壮大な世界の中で描きたかった」という自身の思いにも忠実な世界観を作り上げている。物語の重要な舞台となる大型船から屋敷まで、こだわりのセットやロケーションは目を見張るものばかり。そんな中、ギレルモ・デル・トロらしさがとりわけ光るのが、怪物のビジュアルだ。キャラクターグッズやアニメーションなども含め、“フランケンシュタイン博士の怪物”といえばツギハギだらけの顔や体がお約束だが、この映画の怪物にはどこか美しさがある。「ヴィクターはアーティストなんです。彼は研究に研究を重ね、計画を練り、まるで新しい自動車のように優美な物を作る感覚で怪物を作り上げました。彼は死に対して怒りを感じていますが、死を用いて新しいものを創造することができる科学者でもあるんです」。
フランケンシュタイン博士の複雑さと怪物の哀しみ。これらが美しい世界観の中で、息もできないほど濃密に絡み合っていく「フランケンシュタイン」。その先に待ち受けるメッセージを、唯一無二の映像体験とともにしっかり受け止めたい。

【コンテンツ情報】
Netflix映画「フランケンシュタイン」
Netflix
11月7日から世界独占配信
※一部劇場で10月24日公開。
文/渡邉ひかる
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