Feature 特集

総合演出・水野雅之が明かす「プレバト!!」13年の歩み。浜田雅功から始まり夏井いつきとの出会い2025/08/14 22:00

総合演出・水野雅之が明かす「プレバト!!」13年の歩み。浜田雅功から始まり夏井いつきとの出会い

 浜田雅功がMCを務めるTBS系の「プレバト!!」(木曜午後7:00=MBS制作)が、8月14日に放送500回記念としてオンエア。人気査定企画「俳句」「水彩画」「スプレーアート」3本立ての3時間スペシャルがTVerで配信スタートした。2012年10月に開始した同番組の初回から総合演出を務める水野雅之氏が13年を振り返った。

――12年の番組放送開始から13年が経とうとしていますが、どのようなことを考えてこの番組を企画されたのでしょうか?

「まず浜田(雅功)さんが得意とする『芸能人が感情をむき出しにするスタジオショー』を作ろうと考えました。『木曜の夜7時に浜田さんの番組をやる』ことが最初に決まっていたのですが、若いファンの多かった浜田さんは当時、主婦が多くテレビを見ている平日の夜7時台には番組をやっていなかったんです。しかも裏番組は、全盛期の『いきなり!黄金伝説。』(テレビ朝日系)や『VS嵐』(フジテレビ系)でした。その中でグルメや家事の裏技をVTRで紹介する『7時っぽい番組』を作っても裏番組には勝てないし、そもそも浜田さんっぽくないし」

総合演出・水野雅之が明かす「プレバト!!」13年の歩み。浜田雅功から始まり夏井いつきとの出会い

――内容については、やはり裏番組とかぶらないようにしたんですね。

「そうですね。『黄金伝説。』の長期ロケや『VS嵐』の壮大なゲームがとても豪華だったので、定着している人気番組に真正面からぶつかっても勝てないと思いました。あえて“ベタじゃない企画”を模索したところ、早い段階で『漢字書き順トーナメント』が世帯視聴率で2桁に乗りました。1画書くのに1分以上使って、筆先が震えるところをショーアップした企画で、ややこしい書き順にめっぽう強かったホラン千秋さんや、当時中学生だった吉川愛さん、蒔田彩珠さんも活躍しました。でも、間違えやすい書き順なんて30個くらいしかなく、すぐに埋蔵量が尽きてしまって……。飽きられる前に次の当たり企画を探したのですが、本当に鉱脈が見つからず。2013年の秋『このままじゃヤバイ』という会社の空気の中、最後の企画として投入したのが『才能査定ランキング』だったんです」

――なぜ才能をランキングにしようと?

「一流のアスリートは、街行く人の歩き方を見ただけで『この人は足が速い/遅い』という才能が分かるそうなんです。努力しても才能の有無の差は埋まらない……というような白黒はっきりする世界は残酷だけど面白いな、と。だから1回やっても10回やっても変わらない『1回きりの才能査定』をやってみたいと思いました」

総合演出・水野雅之が明かす「プレバト!!」13年の歩み。浜田雅功から始まり夏井いつきとの出会い

――それがなぜ俳句の企画になったのですか?

「『どんなことで才能ナシだと言われたくないかな?』と考えた時に、『何を言っているか分からない。言葉の表現力がない』というダメ出しは嫌だなと思ったんです。そこで、短歌や詩、交通安全の標語などさまざまなジャンルの講師をリサーチしました。最初は、著名な歌人も多い短歌でやりそうだと思っていたのですが、一般人の俳句をバッサバッサ斬っている夏井いつき先生の動画をディレクターが見つけてきたんです。会議で全員が即決するくらいインパクトのある映像でした」

――これまでの500回の中で、夏井先生との出会いは大きいですよね。

「ターニングポイントはいくつかありますが、その中でも間違いなく最も大きな出会いです。浜田さんが収録でライブ感を大切することはよく知られていますが、もともと教師だった夏井先生も“ライブの人”なんです。普段から夏井先生は『学校で子どもが発言する時に一度でも聞き返してしまったら、もうその子は生き生きと話せない』と言っていて、収録でも一言も聞き逃すことなく、臨機応変に対応できます。だから芸能人がスタジオで突然予想外のことを言っても、想定を超える盛り上がりが生まれるんです。また、黒板を背負ったセットも、夏井先生の説明が面白くてコンパクトだからという理由で実現できました。もしダラダラ話す先生だったら、編集点を細かく入れないと聞いていられないから(笑)、あのセットではやれません。黒板の俳句を視聴者が認識する前に映像が切り替わっちゃうので、ストレスがたまって見ていられないからです」

総合演出・水野雅之が明かす「プレバト!!」13年の歩み。浜田雅功から始まり夏井いつきとの出会い

――突然聞いちゃうのですが、最初に才能アリ1位になった方は覚えていますか?

「杉村太蔵さんでした。今と査定の基準が違うのですが、85点くらい取っていましたよね」

――やっぱりちゃんと覚えいてるんですね! そして500回までの間、「俳句」で才能を開花させる芸能人がたくさん誕生しました。

「永世名人だと、梅沢(富美男)さん、村上(健志)さん、横尾(渉)さんは最初から才能アリでしたが、フジモンさん(藤本敏史)は初挑戦では『凡人』でしたし、(千原)ジュニアさんは才能ナシでした。フジモンさんは、最初に出演オファーをした時に『芸人が真面目に俳句を詠んでも何がオモロイか見えない』と言ってました(笑)。でも一度やってみたら、必死に考えた俳句が褒められたり、バッサリ斬られたり、劇的に手直しされるのが面白い。出演者もスタッフもみんなで徐々に実感していった感じです」

総合演出・水野雅之が明かす「プレバト!!」13年の歩み。浜田雅功から始まり夏井いつきとの出会い

――放送を重ねながら企画を完成させていったということですか?

「初回の収録で、ランキングついでに夏井先生がサラッと2~3句手直しをしたら、これがとても鮮やかでした。このビフォーアフターショーが番組の見せ場になると思ったので、早速、すべての俳句で添削して欲しいと夏井先生にオファーしました。で、めちゃくちゃ怒られました(笑)。というのも、俳句の世界では、いい発想の句は推敲(すいこう)するけど、凡人以下の句は捨てちゃうんですって。でも、視聴者は絶対に添削ショーを楽しみにしているからやるべきだと言い続けたら、夏井先生も納得してくれました。いまだに『バラエティーの演出家はホントにムチャな注文ばかりしてくると思った。凡人発想の俳句を手直しするというのは俳句界ではあり得ない』と言われます(笑)」

――意外な人が俳句で活躍したのでは?

「横尾さんや、千賀(健永)さんがタイトル戦で優勝するなんて、きっと誰も予想してなかったと思うんです。千賀さんが初優勝でうれし泣きした時は夏井先生ももらい泣きしていたし、全国で句会をすると、多くの中高生から『キスマイ(Kis-My-Ft2)が頑張っている姿を見て興味を持った』と言われると聞きました。その後も(中島)健人くんや(川島)如恵留くん、最近だと浮所(飛貴)くんも才能アリ1位を取りました。彼らにとって俳句はもちろん本業に関係ないし、ともすれば才能ナシでも“オイシイ”と思いそうじゃないですか。でも、そんなことは全く考えていなくて、常に1位を目指してくれる姿を見て、番組のファンが明らかに増えました。その流れを作ってくれたのは、男性アイドルとしては番組に初めて登場してくれた北山(宏光)さんですね。最初は才能ナシでしたが、成長して今や特待生1級になりました」

――「俳句」で一番成長を感じた出演者はどなたですか?

「千原ジュニアさんです。今ではクオリティーの安定感はNo.1ですが、最初の俳句は【滝を見て蛇口閉めたか考える】で才能ナシ10点です。季語の『滝』は主役じゃないし『見て』という要らない言葉があるし。でもここから俳句の面白さにどんどん気付いて、作風も変化しています。初期の優秀句で印象的なのは、【御出席の葉書投函秋日和(※御に二重線、出席を◯で囲む)】です。フリップショー的なアイデアに感服しますが、最近の作風はもうアイデア勝負というより、俳人のように質実剛健です。俳句作りが大好きなのが、作品から伝わってきます」

総合演出・水野雅之が明かす「プレバト!!」13年の歩み。浜田雅功から始まり夏井いつきとの出会い

――アート企画のレベルの高さも番組の特徴だと思います。それらで印象に残っている作品は?

「光宗(薫)さんが東京タワーを描いた水彩画です(2016年7月放送)。アートを見て、あんなに感動したことは人生で初めてでした。『プレバト!!』が多くの視聴者に支持されてきた要因は、全テレビ番組の中で、出演者が頑張っている総時間がきっと一番多いからだと僕は思っています。辻元(舞)さんが名人10段に昇格したステンドグラスの作品(23年11月放送)は、クオリティーも労力も番組最高峰の作品だと思います。また、一番成長したと思うのは、(田中)道子さん。初挑戦の時はよく見ると自転車がちょっとゆがんでいるんですよね。それが、東京・麻布十番の首都高を描いた作品(21年6月放送)で突然覚醒していました。感情をむき出しにする性格もこの番組向きで、すごく助かっています(笑)」

総合演出・水野雅之が明かす「プレバト!!」13年の歩み。浜田雅功から始まり夏井いつきとの出会い
総合演出・水野雅之が明かす「プレバト!!」13年の歩み。浜田雅功から始まり夏井いつきとの出会い
総合演出・水野雅之が明かす「プレバト!!」13年の歩み。浜田雅功から始まり夏井いつきとの出会い

――そうすると、500回SPでも開催される「水彩画コンクール」の順位発表はハラハラしますね。

「浜田さんもよく言っていますが、大詰めの時のスタジオの空気はバラエティー番組と思えないほど張り詰めています。2021年の水彩画コンクールでは、どこも減点できない100点満点の作品を5人が描き上げて、野村重存先生が困り果てました。それをきっかけに、絶対に得点に差をつける『相対評価システム』を導入したのですが、それでも野村先生は長時間悩んでいますよ」

――500回SPでは「スプレーアートコンテスト」も開催しますね。

「番組が世間との接点を持ち始めたのは『スプレーアート』からでした。シャッター商店街や、コロナ禍の鉄道を応援する作品はすごく反響があったし、その後、廃校になる中学校を舞台にした『黒板アート』も多くの人に見てもらえました。テレビ番組を作っている僕らが言ってはいけないのですが、やはり実物を見た方が作品の迫力やディテールへの情熱を感じてもらえます。その手応えが、今年初めて開催した『プレバト才能アリ展』へとつながっていきました」

総合演出・水野雅之が明かす「プレバト!!」13年の歩み。浜田雅功から始まり夏井いつきとの出会い

――世間との接点という意味では俳句も対外試合を定期的に開催していますよね。

「実は、特待生制度を作った時点では、まだまだ夏井先生に実力は認めてもらえてなかったんです。でも、芸能人の俳句のレベルが上がるにつれて、夏井先生から道場破り的な腕試しの許可も出ました。俳句甲子園で優勝した高校生とも対戦したし、夏井門下生の天才小中高生との対決も毎回とてもハイレベルです。500回SPに出場する高校1年生のかりんさんは初出演は小学4年生でした。彼女と梅沢さんたちの対決を見たら、夏井先生が『プレバト!!』500回で広げてきた俳句の裾野を皆さんにも感じてもらえると思います」

――いろいろと印象深いお話をたくさん伺いましたが、13年間ずっと番組MCを務めている浜田さんについての思いも聞かせてください。

「『プレバト!!』が多くの人に見てもらえるようになると、他局でも似たような俳句コーナーやアートの企画がいくつも放送されました。ですが、僕らは全く気にしませんでした。俳句や芸術を扱うだけで高い視聴率が取れるわけじゃない。芸能人の皆さんが本気で創作に向き合い、一流の講師が本気で査定をして、それを浜田さんがショーアップするから多くの人に楽しんでもらえるんですよね。500回放送している間に、俳句も消しゴムはんこもスプレーアートも頭の上の生け花もストーンアートも、視聴者さんは受け入れてくれているけれど、そもそもゴールデンタイムでやっていること自体、実は普通じゃないジャンルばかりですよね」

総合演出・水野雅之が明かす「プレバト!!」13年の歩み。浜田雅功から始まり夏井いつきとの出会い

――500回スペシャルで、セットとテロップをリニューアルすると聞きました

「かなりマニアックな話なのですが、この番組はずっと和風テイストを意識していたので、カラーリングはCMYK(カラー印刷用)基調でやってきました。でも、500回放送している間に、全世代がネット動画を当たり前のように見る時代になったので、RGB(デジタル用)基調に変えます。セットもテロップも一つずつ洗い出して、整理して変更しました。とはいえ、この番組が築いてきたイメージもあるし、その延長線上でのリニューアルです。たかがテロップ1枚でも僕ら制作スタッフが勝手に決めることはできないと思っています。この番組は出演者のおかげで想定以上の成長を遂げたし、当初は『1回やっても10回やっても才能の有無は同じ』というコンセプトだったのに、芸能人の頑張りに乗っかる形で生まれた“才能ナシが才能アリになるという矛盾”を受け入れてくれたのは視聴者です。『プレバト!!』はスタッフ、出演者、視聴者……みんなの番組だから、僕らだけで方向性をねじ曲げちゃいけないというのは特に最近、スタッフの間でよく話しています」

総合演出・水野雅之が明かす「プレバト!!」13年の歩み。浜田雅功から始まり夏井いつきとの出会い

――それでは最後に、視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。

「少し前に『1週間で1秒も地上波テレビを見ない生活』を送ってみたのですが、普通に生活できました。本当に何も不自由しませんでした。そして、こんな時代なのに多くの人がわざわざ「『プレバト!!』を見たい」と思ってくださっていることが、本当にありがたいことだと実感しました。これからも、全世代の視聴者に1日でも長く見てもらえるように、番組を作っていきたいです」

【コンテンツ情報】
プレバト!!
TVer
配信中
※祝500回記念・TVer過去作アーカイブも配信中(~8月28日)
#461(2024年8月28日放送)俳句 小中学生選抜戦
#474(2024年12月12日放送)大好きな人絵画コンクール
#476(2025年1月16日放送)スプレーアート



この記事をシェアする


Copyright © TV Guide. All rights reserved.