「風、薫る」藤原季節インタビュー前編 寛太役で好青年から詐欺師へ「解放された気持ちで芝居できた」2026/05/21 08:15

NHK総合ほかで現在放送中の連続テレビ小説「風、薫る」(月~土曜午前8:00ほか)に、詐欺師・寛太/小日向栄介役で出演する藤原季節のインタビューを前後編にわけておくる。
見上愛と上坂樹里がダブル主演を務める連続テレビ小説第114作「風、薫る」は、明治という激動の時代を舞台に、西洋式の看護学を学んだ一ノ瀬りん(見上)と大家直美(上坂)が、それぞれに生きづらさを抱えながら看護の世界へ飛び込み、やがて“最強のバディ”となって未知の世界を切り開いていく物語。脚本を手がけるのは、「あなたのことはそれほど」(17年)、「初めて恋をした日に読む話」(19年/ともにTBS系)などで知られる吉澤智子さん。
藤原が演じるのは、鹿鳴館にさっそうと現れ、直美に接近する海軍中尉・小日向栄介。しかし、その正体は世を渡り歩く詐欺師・寛太だった。第18話(4月22日放送)で本性が明かされると、爽やかな海軍中尉の印象を鮮やかに裏切るキャラクターに、SNSでは驚きと納得の声が相次いだ。
“好青年”の顔と、“詐欺師”の顔。朝ドラという多くの視聴者に届く場所で、藤原はその二面性をどう立ち上げたのか。前編では、寛太という一筋縄ではいかない人物への向き合い方、正体判明後の反響、そして直美との団子屋のシーンに込めた芝居の狙いを聞いた。
──「朝ドラ」という多くの人に届く場所で、寛太のようなひと癖ある役を演じることに、どんな思いがありましたか。
「一筋縄ではいかない人物を演じられるというのが、まずうれしかったです。しかも『朝ドラ』というフィールドの中で、というのが大きくて。今まで自分がいろんなインディーズ作品でやってきたことというか、自分が座ってきた椅子でもあったので。そこで培ったものを、たくさんの人に見てもらえる朝ドラの場所で出せるのは、うれしかったです。なので、小日向という海軍中尉を演じている時よりも、寛太になった時の方が、精神的にのびのびと、解放されたような気持ちで芝居ができた感覚がありました」
――今回は朝ドラ初出演ということで、これまでの現場とは違う緊張感もあったのではないでしょうか。
「毎回作品では緊張するんですけど、今回は特殊な緊張感がありました。出演発表の時もそうですが、周囲の方々の期待もあって。でも、寛太という役としては、その期待を見事に裏切って、するりするりとつかみどころなく駆け抜けていきたい。その途中で、役が嫌われることも、好かれることもあるだろうし。そこに一喜一憂しないようにとか、いろんなことを考え始めると、お芝居の自由さが失われそうになってしまうんですよね」
――だからこそ、これまで積み重ねてきた芝居の感覚を見失わないことも大事だったのですね。
「19歳から芝居を始めて、今33歳で、14年間コツコツやってきた仕事でもあるので。これまで積み重ねてきたものを大事にしつつ、初心にも帰りながら、自分が“演技が好きだから”追求してきたものを、朝ドラという大舞台でもちゃんと出せるようにしたい。そういう気持ちでやっていて、気負いとの戦いはありました」
――その緊張をほどいてくれた出来事はありましたか。
「撮影の1日目か2日目ぐらいに、直美さんと一緒にスリの男の子を逃がすシーンがあったんですよ。その男の子のお芝居が素晴らしくて。まだ僕も上坂さんもガチガチに緊張していた時に、その子がバーッと走り切って、監督がOKを出した後に、『おい、見たか、俺の力! 俺の本気だ!』って言ったんです(笑)。その時に上坂さんと、『今の僕たちに必要なのってこれかもね』って笑い合って。その体験で、少しエンジンがかかった気がしますね」

――一見すると爽やかな海軍中尉でありながら、その奥には寛太の本来の顔が潜んでいる。二つの顔を演じる上では、特有の難しさもあったように思います。
「小日向中尉を演じている時は、どこか窮屈さがありました。型にはまった人物を演じなきゃいけない感覚があって。多分それは、寛太自身も抱えているものだった気がします。自分は偽りの笑顔で相手に話しかけているのに、相手は本当の笑顔を返してくれる。その食い違いに、自分の中で少しストレスがあって。詐欺師ならではの苦しさもありましたね」
――では、小日向という人物をどう作り上げていったのでしょうか。
「海軍中尉をやるにあたっては、寛太も見よう見まねで海軍の挙動を学んでいたと思ったので、自分も海軍役を演じている方の資料を集めたりしました。本木雅弘さんが演じられた『坂の上の雲』(同系/2009~11年)を見て海軍を勉強していたんですけど、多分小日向もそういうふうに研究していたんじゃないかなと思って。その時間が、そのまま役作りに直結していた感じはありました」
──小日向としての軍服姿はりりしくも見えましたが、後から振り返ると、どこか寛太らしい“隙”も感じられました。藤原さんご自身は、軍服を着た時にどんな感覚でしたか。
「自分としては、あまり似合っていないと思っていました(笑)。寛太を演じている時の着流しの居心地が良すぎて。衣装に着られている感覚や、帽子をかぶった時の収まりに、自分の中で違和感があったんです。でも、それは寛太を演じる上ではちょうどよかったのかもしれません。本物の海軍の方は、帽子をかぶるために、もみあげまできれいに短く刈り込むんです。そうして初めて、帽子がピタッとフィットする。でも寛太の場合は、そこまでの詰めが甘い。もみあげが微妙に長かったり、どこかアンバランスなんですよね。そういう“隙”が、視聴者の皆さんにとっても『あの違和感はそういうことだったのか』と受け取れる要素になったのかなと思います」

──海軍中尉としての所作には、指導も入ったそうですね。
「かなりありました。そこも朝ドラならではだと思ったんですが、所作指導が厳しかったですね。海軍指導の越康広先生も、海軍の所作に忠実な指導をしてくださって。ただ、その中で僕はちょっと勇気を持って、『ここはあえて間違えたい』『違和感を持たせたい』ということをお伝えしたんです。そのバランスを見ながら、一緒に組み立てていきました」
――正体が明かされた放送後、反響の大きさは実感しましたか。
「すれ違う人に振り返られました。『あいつは……』『詐欺師だ』って感じで(笑)。電車の中でも、向かいに座った方がスマホから顔を上げて2度見するようなことがあって。『あ、これまでとなんか違うぞ』って思いました。周囲の人からも、どこに行っても『詐欺師だったんですか?』『だまされた!』みたいに言われます(笑)」
――SNSでも驚きの声だけでなく、寛太という人物の魅力に反応する声も多く見られました。
「SNSで反響を見ていますが、『詐欺師の方がいい』『寛太も栄介もどっちもいい』という声も多くて、ちょっと想定外でしたね。もう少し怒りの声があふれるかなと思っていたので(笑)。でも、『なんかいい』『似合っている』と言ってくださる方が多くて。寛太って詐欺師なんですけど、どこか人懐っこさがあるんですよね。それが彼を“プロの詐欺師”たらしめている気もしていて。悪役だけど、どこか愛嬌(あいきょう)があって憎めない。そこが伝わっていたなら良かったなと、少し安心しました」
――ご家族も、最初は“海軍中尉・小日向”として見守っていたのでしょうか。
「母は本当に僕が海軍中尉だと思っていたので(笑)。正体が明かされた放送の日、なかなか連絡が来ないなと思っていたら、かなりショックを受けていたみたいで、受け入れるまで時間がかかったようです(笑)。しばらくしてから『母は衝撃を受けました。でも、あっちの方が似合っているのかもね……』と連絡が来ました。多分、母は海軍中尉として直美さんとのロマンスを期待していたんだと思います(笑)。あと、姉の子どもが今5歳なのですが、いまだに僕が海軍中尉だと思っていて。寛太が出てきても、『おじさんが出てこない』って。『おじさんが泥棒なわけない』と言い張っているらしいです」
――直美に声を掛けられた瞬間の“ニヤッ”とした表情には、寛太の開き直りや余裕が一気に表れていましたね。
「うそがバレた時の反応って難しいですよね。僕自身、あとから考えると、もう少しコメディーっぽく演じることもできたかなとも思ったんです。『あ、バレた!』みたいに。でも、あの瞬間のリアクションには、寛太という人間の人生経験や器が出る。もし『ヤバい、バレた!』って慌てる人間だったら、この先も直美さんとの関係は続いていかない。寛太を演じる上で、開き直りって彼の人格の大事な部分なんです。『確かに俺は悪いことをしたよ。でも、あなただって、うそついたじゃん』って、瞬間的に開き直れる人間。団子をパクパク食べながら、“自分はそんなに悪いことをしていない”と表明したかったんですよね。だから、あのニヤッも、『知っちゃったか』『残念だったね』という表情でいたかったんです」

──その後の団子屋の場面では、寛太がどこか楽しそうにも見えました。
「それまでずっと“うその会話”だったんですよね。お互い身分を偽って出会っていたので。でも、あの瞬間にお互いのうそがめくれて、やっと本心で会話できた。『直美さんも親いないの?』とか、『頑張ったね』とか、そういう本音の応酬ができたことは、寛太にとって楽しかったんじゃないかなと。だから自然と、どこか解放感のある表情になっていったんだと思います」
──去り際に財布を投げる芝居も、寛太のふてぶてしさが出ていました。
「あれは、自分から『やらせてください』と提案したものです。懐から財布を出して放り投げる芝居を、人生で一度やってみたかったんです(笑)。『人情紙風船』(1937年)という古い映画の中に、ヤクザ者が懐から金を出して放り投げる場面があって。絶対いつかやりたいと思っていたので、今回入れさせてもらいました。自分が蓄えてきた引き出しを、臆せず出していこうという気持ちでやっています。もちろんダメと言われたら引っ込みますけど、自由に、自分の好きなお芝居を詰め込もうという思いはありました」
──そうしたアイデアを受け止めてくれる現場だったのですね。
「そうですね。朝ドラというだけで、最初は少し身構えていたところもあったんですけど、現場自体はアットホームで、俳優のアイデアも受け入れてくださる環境でした。監督も面白がってくださいますし。寛太は変装が毎回違うので、小道具も多いんです。眼鏡もそうですし、この先も髭や帽子など、いろんな扮装(ふんそう)が出てくる。そういう意味では、いくらでも遊べる役でもあって。ここは自分のアイデア次第だな、と思いながら、ワクワクして演じています。ほかの作品でも、“憧れを詰め込む”ようなことは結構やっています。映画館で見て、いつかこの芝居をやってみたいと思ったものを頭の中で熟成させておいて、『今だ』という時に出す。それはずっとやっていますね。オマージュですね(笑)」

――つかみどころのない寛太を“1人の人”として生かすために、脚本とどう向き合っていますか。
「寛太って本当につかめない人物なので、何を考えているのか分からないし、弱音も吐かない。でも、俳優としては、なんとか寛太という人間を1人の人として生かしてあげたいし、視聴者の方にも少しでも寛太を分かってほしい。だから、脚本家さんが残した、たった1行を探し出して、そこに魂を吹き込む作業をしていかなきゃなと思っています」
──今後の寛太は、どんな存在として物語に関わっていくのでしょうか。
「ロマンス詐欺で世の中を渡っていく男なんですけど、実はロマンス詐欺以外にも、いろんな悪事に手を出していて(笑)。女性をだますこと以外にも、新しい詐欺を働きます」
──その一方で、寛太には寛太なりのルールや美学もあるように感じます。
「一貫しているのは、寛太は弱者からお金を取る人ではないということ。狙うのは、お金があるところ。例えば鹿鳴館みたいな、ある意味“ハリボテ”の世界に対して、『そこから金を巻き上げてやる』という気持ちがある。そこには、何かしら世の中に対する復讐(ふくしゅう)心みたいなものもあるんだと思います。今後もそういう流れで、いろんなことに手を出していく人物なので。登場するたびに変わっていくと思います。“小日向を探せ”じゃなくて、“寛太を探せ”みたいに見ていただけたらうれしいです」
後編では、直美との関係の中で揺れ動く寛太の内面、直美の母親探しを通して見えてくる役の奥行き、そして藤原が俳優として立ち続けたい場所について、その言葉をたどっていく。
【プロフィール】
藤原季節(ふじわら きせつ)
1993年1月18日生まれ。北海道出身。近作に、テレビドラマ「まぐだら屋のマリア」(25年/NHK BSP4K)で尾野真千子とダブル主演を務めるほか、現在、ドラマ「ちるらん 新撰組鎮魂歌」がU-NEXTで配信中。映画「幕末ヒポクラテスたち」が公開中。6月26日には映画「シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE」が控えるほか、27年公開予定の映画「赤土に眠る」では、主演として相澤忠洋役を演じる。
【番組情報】
連続テレビ小説「風、薫る」
NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15 ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月~金曜 午前7:30~7:45
※NHK ONEで同時・見逃し配信
取材・文/斉藤和美
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