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時代劇研究家・ペリー荻野が時代劇の美学を探求!「金さん」の裾さばきや「必殺」の音にも秘密が2026/05/11 09:30

時代劇研究家・ペリー荻野が時代劇の美学を探求!「金さん」の裾さばきや「必殺」の音にも秘密が

 今、世界中から注目を集める日本の時代劇。長年、時代劇を追いかけている身としては、「やっときたー!!」という気もする。なんたって、日本の時代劇は、伝統を守りながら、革新的な映像技術を取り入れ、作品ごとに細かいアイデアを盛り込みつつ、「面白いものを作ろう」と常に奮闘してきたのだから。

 現在、BS11で放送中の「傑作時代劇 名奉行 遠山の金さん」(月~木曜、午後3:59~5:00)と「名作時代劇 新 必殺仕事人」(月~金曜、午前11:00~午後0:00)にも、そんな時代劇の面白さがあふれている。

第1のポイントは、キャラクターとストーリー展開の面白さ

時代劇研究家・ペリー荻野が時代劇の美学を探求!「金さん」の裾さばきや「必殺」の音にも秘密が

 「名奉行 遠山の金さん」の主人公、遠山金四郎(松方弘樹)は、北町奉行でありながら、“遊び人の金さん”となって自ら事件を探索。クライマックスには、悪人たちに背中の桜吹雪を見せて、バッタバッタとやっつける。そして、お白洲では裃(かみしも)姿のお奉行様として颯爽と登場。「証人を出せ」などと、しらばっくれる悪人たちに怒った奉行は「おうおうおう!」といきなりべらんめえ口調になって、裃の片肌をさらりと脱いで、動かぬ証拠の桜吹雪を見せつける。奉行が現場にいたあの金さんだとわかって驚愕(きょうがく)する悪人たちに「遠島!!」「磔(はりつけ)獄門!!」などと刑を言い渡し、「一件落着」で締めくくる。

 痛快な勧善懲悪の物語だが、奉行自身もかつて本物の遊び人で、武家ながら彫り物をしちゃった過去があるというところも重要だ。ちなみに金四郎は実在の人物で、このドラマでたびたび金四郎を陥れようとたくらむ南町奉行・鳥居甲斐守(中条きよし)とは、ライバル関係だった。

時代劇研究家・ペリー荻野が時代劇の美学を探求!「金さん」の裾さばきや「必殺」の音にも秘密が

 一方、「新 必殺仕事人」は、許せぬ悪を金ずくで闇に葬る仕事人たちを描く「必殺シリーズ」第17弾。メンバーは、表の顔は家庭では婿養子として嫁姑にいびられる町奉行所同心だが、裏では凄(すご)腕の仕事人である中村主水(藤田まこと)、お金大好きの情報屋の加代(鮎川いずみ)、飾り職人の秀(三田村邦彦)、三味線屋のおりく(山田五十鈴)、おりくが育てた勇次(中条きよし)である。藤田、鮎川、三田村は、前作「必殺仕事人」からの続投となった。山田は「必殺からくり人」などにも出演、中条も前作にゲスト出演しており、安定感のある顔ぶれだ。

 このシリーズで重要なのは「音」だ。殺しのシーンが近づくと、おりくの三味線が鳴り響き、その音が途切れる瞬間、バチを使った技が炸裂(さくれつ)。的を狙う秀が銀のかんざしを構えればシャキーンという音が緊張感を醸し出す。そして、悪人に糸を巻き付け、天井から吊(つ)り下げた勇次は、仕上げにビーンと糸を鳴らして見せる。「ええい、めんどくせえ、殺っちまえ!!」という古今亭志ん朝のオープニングの名調子、必殺シリーズに女性ファンを増やした三田村が甘い声で歌う主題歌「想い出の糸車」とともに耳でも楽しめる。

第2のポイントは、時代劇ならではの「見せ方の妙技」

時代劇研究家・ペリー荻野が時代劇の美学を探求!「金さん」の裾さばきや「必殺」の音にも秘密が

 「遠山の金さん」は、これまで多くの映画・ドラマで名優が演じ、それぞれに個性があるが、“松方”金さんの最大の魅力は、おとなの色気だ。着流しの胸のあたりのはだけ方、にらみが利く太い眉毛、人懐っこく笑いながら見せる流し目などなどマネのできない存在感。そしていざ、桜吹雪を見せる瞬間も、すぐには見せない。ぐぐっと溜めて溜めて、ドーンと見せる。このタイミングも絶妙だった。お白州の場面で、長い袴(はかま)をバッと前に飛ばす。それを華麗に決めるコツは、袴のすそにコインを仕込んだり、中に草履を履くことだという。

 背中の桜吹雪を見せるときも、「やかましいやい!!」と啖呵(たんか)を切ってから、一度懐で腕を止めて、ぐーっとためてから、「あの日、あのとき、ある夜の……」などと五七調のセリフを言いながら、ズバッと脱いで見せる。五七調の文句は松方自らがいろいろ工夫したという。

 金さんの桜吹雪は、歴代俳優に合わせてそれぞれに異なり、専門の絵師が3人がかりで2時間以上かけて手描きするもの。午前中のロケの場合、松方は早朝5時起きで支度部屋でじっと描いてもらう。絵はベビーパウダーを振って最低2日は保存。その間、どんなに暑くてもシャワーを浴びるだけですませ、撮影の時だけ、パウダーの粉を払って鮮やかに画面に映し出す。

「仕事人」の必殺シリーズもこだわりの「見せ方」が多数ある。

 特に光と影の映像美には定評があり、山田五十鈴は現場に入ると毎回「きれいに撮ってね」と言ったという。暗い格子の後ろにいる秀、物陰からぬっとあらわれる主水、手拭いを被ったおりく……俳優の顔が半分映らないほどの闇がそこにある。

 この光と影について、藤田まことは、当時の制作現場を振り返ったインタビューで「現場のスタッフは、とにかく、もういいだろうというくらいていねいに画面作りをするわけです。実際は、撮影所のセットが狭くて、広いステージがない。他社なら5台照明を使うところでも、3台しかなかった。真っ暗なところで撮るしかないから、なんとか工夫してできた映像美なんです。当初は予算がなくて僕のギャラも『主水、あんた飛び抜けて安いで』と経理の人に驚かれたくらいでしたな(笑)」と語っていた。倉庫のような場所でろうそく1本分の明かりで撮ったり、水の反射を使ったり、夜空をバックに屋根での撮影も多かった。

「金さん」も「仕事人」も表の顔と裏の顔、二つを使い分けているが、金さんは悪人を捕縛するヒーローで、仕事人は悪を消す悪人集団で見つかれば捕縛されるアンチヒーロー。正反対の主人公たちがどちらも長く愛されている。時代劇だからできる大胆なストーリー、キャラクターを存分に堪能したい。

【番組情報】
傑作時代劇 名奉行 遠山の金さん

BS11
月曜~木曜 午後3:59~5:00 
※第二部が5月12日火曜スタート

名作時代劇 新 必殺仕事人
BS11
月曜~金曜 午前11:00~午後0:00

文・ペリー荻野
時代劇研究家。時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」を立ち上げるなど多くの時代劇企画に携わる。著書に「ちょんまげだけが人生さ」「ちょんまげ八百八町」。最新刊は脚本家三谷幸喜との対談集「もうひとつ、いいですか?」(2026年4月刊行)。

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