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岸井ゆきの「お別れホスピタル2」で見つめた生と死「生きる意味は他者が決められない」2026/04/03 12:00

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岸井ゆきのが「お別れホスピタル」の続編に出演

 死に最も近い場所で、人は何を思い、何を選ぶのか。生と死の境界に立つことで、「生きる」とは何かを静かに問い返すドラマ「お別れホスピタル」が、NHK総合で4月4・11日に前後編で放送される「お別れホスピタル2」(土曜午後10:00)として、2年ぶりに帰ってくる。

 舞台は、元気になって退院していく人がほとんどいない療養病棟。看護師・辺見歩(岸井ゆきの)と医師・広野誠二(松山ケンイチ)が、患者とその家族の“その人らしく最後まで生き切る”時間に寄り添い続ける。

岸井ゆきの&松山ケンイチ共演でおくる“死と生”を描いた「お別れホスピタル2」

 続編となる本作には、伊東四朗、渡辺えり、阿川佐和子、柄本明、YOUら実力派が集結。一つ一つの命に向き合う濃密な現場は、演じる者の内面にも深く作用していった。岸井は、「生きる意味」「死を肯定すること」、そして終末医療の現場に立つ看護師という仕事について思いを明かす。「生きる意味は、他者がつけることはできないのかもしれない」。その実感にたどり着くまでの葛藤と、問い続けることの意義。その過程で見えてきたものを率直に語った。

──続編の制作が決まったと聞いた時の率直な気持ちを教えてください。

「1をやっている時から、ずっと2がやりたいと思っていたんです。当時から話はありましたが、実現することはなかなかないので、本当にうれしかったですね。またここで働ける、という感覚がありました。それに、その思いは私たちだけではなく、視聴者の方にも『このドラマが良かった』と思っていただけたからこそ続編につながったのだと思うので、総じてすごくうれしかったです」

──前作の放送後、視聴者の方から届いた声はどのようなものでしたか。

「1の段階では、病気を治していく医療ドラマではない作品があまりなかったので、『こういう現場や仕事があることを伝えてくれてありがとうございます』という声が多かった印象です。また、ご自身やご家族の経験と重ねて見てくださる方も多くて、『実はこういうことがあって』と教えていただくこともありました」

──テーマの重さを考えると、撮影に入る前から相当な覚悟が必要だったのではないでしょうか。

岸井ゆきのが「お別れホスピタル2」の作品に向けた覚悟を語る

「1人で考えすぎるとすごくシリアスになってしまうので、そこに引っ張られすぎないように、落ちていかないようにと気を付けていました。ただ、現場自体は本当に明るくて穏やかなんです。瞬間的に胸が痛くなるシーンや、感情がいろんなところにいってしまってどう動けばいいか分からなくなる場面もあるんですけど、演出の柴田(岳志)さんや松山さんが必ず支えてくださるので、強い土台がある。その信頼があったので、心を預ける勇気さえ持てば大丈夫だと思えました。今回は病棟でのトレーニングはしていませんが、前回と同じように看護師さんやお医者さんが現場についてくださっていたので、その場でアドバイスをいただきながら、台本に書かれていない所作や動きも含めて、より自然な方向に積み重ねていきました」

──前作から2年の時間を経て、辺見歩という人物の変化はどのように捉えていましたか。

「前作の『お別れホスピタル』からは撮影としては2年空ているのですが、物語の中では半年なんです。なので最初は延長線上でやろうと思っていました。ただ、実際の私は2年分生きているので、考え方や受け取る感情はやっぱり変わっていて。そこは無理にあらがわず、今の自分が感じていることが辺見歩に近づくことでもあるのかなと思ったので、そのまま出していこうと決めました。内面の変化も隠さず、素直に自然に出ていくことを大事にしていました」

──演出の方とは、その変化についてどのようなやりとりがありましたか。

岸井ゆきの&松山ケンイチの「お別れホスピタル2」出演シーンより

「『半年で成長した姿を描こう』という方向性で進めることになりました。演出の方とも前作とは違う辺見歩や広野誠二がいる、という認識を最初の段階で共有できていて。自分たちも同じ感覚を持っていたので、そこは無理に前作に合わせにいくのではなく、月日を経て変わった部分も含めて、今の気持ちで表現して行こうという結論になりました」

──前作から続けて演じる中で、終末医療への向き合い方に変化はありましたか。

「前作では、終末医療の看護師は“人生の最後に出会う人”なんだということにフォーカスして考えていました。でも今回は、最後に出会う存在ではあっても、その人の人生に意味をつけることはできないんだと、すごく強く感じました。人生の最後に登場する人物が、その人の生き方に意味をつけてあげることはできない。そう思った時に、『じゃあ私たちは何ができるんだろう』と……どうしたらいいんだろうって気持ちにさせられましたね」

──実際に現場で看護師さんやお医者さんと接する中で、感じたことがあったそうですね。

「患者さんへの思いはもちろんあるのですが、それをあえて言葉にして共有し過ぎないんですよね。看護師さんもお医者さんも、それが仕事であり、生活でもある。一人一人の人生を抱え過ぎてしまうと、心の健康を保てなくなってしまうので、辺見よりも少し距離があるくらいの方が、続けていけるのかもしれないと感じました。でも、その中でやっていることは、“生きていた”ということを最後まで肯定する仕事なんだと思っていて。特別なことをしているというよりは、日々を積み重ねている感覚に近いのかなと」

──本作の大きなテーマである「生きる意味」と、どのように向き合いましたか。

岸井ゆきの「お別れホスピタル2」出演シーン

「すごく難しい問いで、今も考え続けています。生きている意味って、自分で見いだす以外に、他者がつけることはできないのかもしれないと感じました。どれだけ周りが『あなたの人生には価値があった』と伝えても、本人がそう思えなければ受け取れない。そこが簡単ではないなと。きれいに死ぬことなんてできないし、死ぬ準備をして死ぬこともきっとできない。だからこそ、死ぬまで生きるということ自体が、生きていた証拠になるんじゃないかと思っています。意味があるかどうかは分からないけど、証拠にはなる。辺見と同じ気持ちですね」

──ほかの医療ドラマとの違いを、どのように説明しますか。

「一般的な医療ドラマって『治す』ことに向かっていくじゃないですか。看護師も医者も、誰もが『生きる』という方向に向かってケアしていく。でもこの作品は、そうではない人たちを描いているところが大きな違いです。私自身も前作に参加した時に、看取るための存在があることを初めて知りました。だからまずは、その存在を知ってもらえたらうれしいです。それと同時に、この作品を通して感じるのは、『どう生きるかで未来は変わっていく』ということです。人って最期の時間に、後悔だったり『あの時こうしていれば』とか、すごく昔のことまでさかのぼって思い出していく。それって、人生を逆再生している時間のようにも感じます。もしそれを『今』できたら、未来は少し変わるかもしれない。生きているうちに、自分の生き方を見つめ直すきっかけになれればうれしいです」

──この作品は、岸井さん自身の死生観にも影響を与えてきましたか。

「以前から、“どう生きるか”とか、与えられた運命の中でどう生きるかを考える作品に関わることは多かったのですが、死というものは、まだ少し遠い存在でした。『お別れホスピタル』を経験したことで、生きることと死ぬことをより深くセットで考えるようになって。そこからは、その考えから離れることができなくなり、ふとした時に考えてしまうようになりましたね。考えない方が楽ではあるのですが、生と死に対して向き合うことで“今生きている”という感覚をきちんと持てるようになったのも事実で。死生観って、その時々で変わっていくものだと思うからこそ、考え続けること自体に意味があるんじゃないかなと。最初は恐怖や不安にとらわれることもありましたが、そうした感情に向き合うからこそ、よりポジティブな方向へも進める。考えるきっかけになればいいなと思っています」

「お別れホスピタル2」での伊東四朗との共演シーン

──伊東四朗さん、渡辺えりさんをはじめ、今回は人生の大先輩ばかりとの共演でした。現場で圧倒されることも多かったのではないですか。

「人生の経験値が全く違うと、毎回思い知らされる日々でした。例えば、看護師さんに『亡くなる前は、このくらいの痛みなんですよ』と教えていただくことがあるのですが、それに対して『この病気で亡くなった友達がいるんだけど、最後こういう感じだったよ』と、すごく自然に共有されるんです。私だったらまだ口に出せないようなことも、生活の延長線上でさらっと話されていて。死というものに対する、ある種のさっぱりとした向き合い方というか、その感覚が印象的でした」

──その強さは、ご自身が経験されてきた別れからきているのかもしれないですね。

「そのタフさがすごくカッコよかったですし、生きていたことを肯定しているようにも感じました。確実にその人のことを思い出している人がいる、その存在をちゃんと肯定している感覚があって。強いなって思いましたね」

──一方で、カットがかかった後の現場はまったく違う空気だったとか。

「みんなすごく明るいんですよ。阿川佐和子さんと柄本明さんのシーンは、撮影中は本当に張り詰めた空気なんですけど、控室に戻ると柄本さんが『ゆきのちゃん、もうさ、疲れちゃったよ、ゆきのちゃんやってよ』と声を掛けてくださったりして。YOUさんも、さっきまで死にそうな状態を演じていたのに、カットがかかった瞬間に『オッケー? 終わり?』と一気に戻られて。こんなに胸が苦しくなるシーンが多いのに、現場では本当に楽しんでお芝居されている。そのバランスがすごいなと感銘を受けました」

「お別れホスピタル2」での阿川佐和子と柄本明の出演シーン

──特定のシーンや瞬間で、グッとくる場面もあったのでは。

「伊東四朗さんが、過去の声を出さなきゃいけないシーンで『もうちょっと若い声で』とお願いしたら、1発でパッと出されたんです。その声を聞いた瞬間、感動しました。昔バラエティー番組で見ていた、声だけで『あ、伊東さんだ』って分かる、あの声で。それから、本読みも忘れられなくて。会議室で座って読んでいるだけのはずなのに、情景や空気がはっきり立ち上がってくるような迫力があって。ここまで心を持っていかれる本読みは初めてでした」

──松山ケンイチさんとは前作から続いての共演となりますが、今回の現場で印象的だったことはありますか。

「やっぱり『すごいね』っていう話を、最初の頃からずっとしていますね。毎回それに尽きるというか。自分たちが辺見歩と広野誠二としてそこにいるのか、それともその光景を見ている自分たちになっているのか、分からなくなる瞬間があるよね、という話もよくしていて。役なのかご本人なのか判別がつかなくなるくらい、皆さんのお芝居に強い実在感があるんです。柴田さんが『半分ドキュメンタリーのようにも見える』とおっしゃっていたんですけど、まさにその通りで。脚色しようとすると逆にうそになってしまうというか、受けたものがそのまま表情に出てしまう。それくらい皆さんが真摯(しんし)に向き合っている現場でした」

──ご自身は、どんな感覚を大切にして臨んでいましたか。

「私自身、その瞬間に受けたものをそのまま出したいという思いがあって。できるだけ生で受けた感情を表に出したいんです。自分なのか役なのか分からなくなる感覚は、むしろ役に近づいている実感でもあって。そこにいられると、すごく自然でいられるんですよね。ただ、それは現場全体の意識が同じ方向に向いていないと生まれないものでもあるので。そういう意味でも、本当に恵まれた現場だったなと思います」

──辺見の妹・佐都子(小野花梨)は、生きることに強い葛藤を抱える存在として描かれます。どんな思いで向き合いましたか。

岸井ゆきの演じる辺見の妹・佐都子役の小野花梨

「生きていて、死を目の前にして生きようとする人と、生きているけれど、生きることがつらい人と、辺見歩は同じ場所で向き合っているんですよね。佐都子の『なんで人間って、生きている間ずっと良くなっていかなきゃいけないの』という言葉は、本当に答えが出なくて。お母さんに『佐都子は絶対に幸せになる子だから』と言われても、あの状況にいる佐都子には、受け止めきれない言葉になってしまうと思うんです。佐都子がケーキを食べながら『死にたいと思っている』と言うシーンがあるんですが、その気持ちを無理に否定しなくてもいいんじゃないかと感じました。生きている意味を他者がつけることは難しいから、佐都子がそう思っている“今”を、そのまま肯定してあげたい。そういう時間があってもいいから、できるなら生きていてほしい、という気持ちでした」

──そうした思いは、劇中の佐都子の存在とも重なる部分もあるのでしょうか。

「辺見を演じて感じた佐都子に対する気持ちとしては、死にたいと思っていてもいいし、自分のことを好きになれなくてもいい。それでも、その時間ごと否定されなくていいと思うんです。
佐都子と同じように苦しんでいる方がいらっしゃるとしたら、……こんなことを言える立場ではないのかもしれないんですけど。これからもケーキを食べながら『死にたい』って言ってくれてもいいから、まだここにいてほしい。そうやって、誰かがそばにいてほしいと思っている存在であることだけは、忘れないでいてほしいなと思います」

──最後に、この作品をご覧になる皆さんへ、メッセージをお願いします。

「この作品を通して強く感じているのは、『生きるって何だろう』、『死ぬって何だろう』、と考え続けること自体に意味があるのではないか、ということです。すぐに答えが出るものではないですし、意味や価値も無理に見つけなくていい。あとから自分の中で見えてくることもあると思うので、まずは“今、生きている”という状態そのものを、そのまま受け止めておいてもいいんじゃないかな、と感じています」

「お別れホスピタル2」より岸井ゆきの&松山ケンイチの出演シーンより

【プロフィール】
岸井ゆきの(きしい ゆきの)
1992年2月11日生まれ。神奈川県出身。2009年俳優デビュー。主な出演作に映画「ケイコ 目を澄ませて」(22年)、ドラマ「お別れホスピタル」(24年/NHK総合ほか)、「恋は闇」(25年/日本テレビ系)など。26年には映画「すべて真夜中の恋人たち」の公開も控える。

【番組情報】
土曜ドラマ「お別れホスピタル2」
NHK総合
4月4日・11日
午後10:00~10:45

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