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「この物語を未来につなぐために」松川CPが語る後編 松下洸平の家康と「豊臣兄弟!」の設計図2026/02/14 12:00

「この物語を未来につなぐために」松川CPが語る後編 松下洸平の家康と「豊臣兄弟!」の設計図

 仲野太賀が主演を務める、大河ドラマ「豊臣兄弟!」(NHK総合・日曜午後8:00ほか)。前編に続き、制作統括を務める松川博敬チーフ・プロデューサーに話を聞いた。

 後編では、松下洸平が演じる徳川家康のユニークなキャラクター造形や、帰蝶を登場させない決断に込めた信長の“孤独”、ホームドラマとしての作品設計、白石聖演じる直の魅力、さらには若い世代の俳優たちへの期待まで、作品づくりの核心に迫っていく。

「読めない」家康。松下洸平に託した新しい人物像

「この物語を未来につなぐために」松川CPが語る後編 松下洸平の家康と「豊臣兄弟!」の設計図

 第4・5回より本格的に登場した松平元康(徳川家康/松下洸平)。藤吉郎(豊臣秀吉/池松壮亮)に「偉くなるにはどうすればいいのか」と聞かれ、全部逆のことを教えたと語る場面は、辛辣(しんらつ)でありながらどこかユーモラスだった。この独特なキャラクター造形はどこから生まれたのか。

「そこは基本的に八津(弘幸)さんの脚本による部分が大きいですね。最初に脚本を読んだ時に『こういう人物なんですね』とは確認しましたが、議論を重ねて作り上げたというより、八津さん自身が生み出したキャラクターですね」

 松川CPが抱く家康像は、野心家というよりも「流されていく」人物だという。

「天下を取ってやる、という野望がはっきりあるわけでもなく、僕の中の家康像は『別に天下を取りたいわけじゃないけど、転がり込んできた状況に流されていく』ような人物です。そこが小一郎と少し似ていると思っています」

 小一郎(豊臣秀長/仲野)も本来は農民として生きるつもりだったのに、因果によって戦国の世に飛び込んでいく。その感覚は現代人に近いと指摘する。

小栗旬さんが『信長協奏曲(コンツェルト)』(フジテレビ系/ 2014年)で演じた“現代人が異世界に放り込まれる感覚”とも通じるものがあります。同じように家康も、どこか現代的な感覚を持っていて、だからこそ小一郎と通じ合い、将来的に友情のような関係が芽生えていくのではないかと考えています」

秀長と家康の“友情”。物語の行方を左右する関係性

 家康のキャスティングには、物語全体を見据えた設計がある。史実として、秀長と家康は非常に仲が良かったとされている。

「大和郡山に家康を招いたり、奈良で交流したりした記録もあり、互いに強いシンパシーを感じていたのではないか、という仮説をベースに、この先の物語を組み立てています」

 兄弟の末路をどう描くかは、まだ最終的に決めきっていないものの、松川CPは一つの可能性を示唆した。

「秀吉が次第に暴走していく中で、最期に『その先』を家康に託すような関係性が生まれていく可能性もある。そのためにも、秀長と家康の友情のような関係性を丁寧に紡いでいきたいと考えています」

 松下は、キャスティング時に提示された家康像に対し、役作りの段階で少なからず悩んでいたという。

「ただ脚本を読み進めるうちに、『このままやれば、十分に変わった家康になる』と感じ、腹をくくられました。結果として、とても説得力のある芝居をしてくださっています」

帰蝶を出さない「覚悟」。ホームドラマでもある「豊臣兄弟!」

「この物語を未来につなぐために」松川CPが語る後編 松下洸平の家康と「豊臣兄弟!」の設計図

 本作では、信長の正室・帰蝶(濃姫)が登場しない。信長を描く上で欠かせない存在であるだけに、視聴者からも多くの声が寄せられているという。

「本当にその声はたくさんいただいています」と前置きした上で、松川CPはその理由を明かす。「おそらく皆さんのご想像どおりだと思いますが、今回は『織田兄妹(きょうだい)』をしっかり立たせたい、という明確な狙いがありました」。信長と妹・市(宮﨑あおい)、そして豊臣兄弟との対比を描く上で、信長の「孤独」という設定を最も大切にしていると語る。

「そこに妻や子どもが出てくると、その孤独がどうしてもぼやけてしまう。だからこそ、あくまで『二人きりの兄妹』として見せたかった、というのが一番大きな理由です」

 この判断には相応の覚悟が伴った。時代考証の会議でも「本当にいいんですか」と何度も確認されたというが、そのたびに松川CPはこう答えた。

「『覚悟を決めて、この方向で行きます。それが「豊臣兄弟!」です』とお伝えしました」

 史実上、信長はこの先、妹・市が浅井長政(中島歩)に嫁ぎ、茶々(井上和)をはじめとする三姉妹が生まれるなど、血縁は広がっていく。しかし松川CPは、その過程でむしろ信長は「さらに一人になっていく」と捉えているという。

「その孤独を際立たせるためには、帰蝶の存在は、言い方は難しいですが、どうしても輪郭をぼやけさせてしまうと感じました」

 もちろん、信忠(小関裕太)や信孝(結木滉星)といった成人した息子たちは今後登場する。ただ、正室や側室といった存在はあえて深く描かず、松川CPは信長を「とてもドライな存在」として捉えている。そんな信長の内面に、ただ一人踏み込んでいくのが、市の存在だ。

「信長が本音を話せる相手は市だけ、という関係性を、この先しっかり描いていきます」

「この物語を未来につなぐために」松川CPが語る後編 松下洸平の家康と「豊臣兄弟!」の設計図

 本作には、もう一つの顔がある。それは「ホームドラマ」としての側面だ。

「過去に描かれてきた、1996年の大河ドラマ『秀吉』で竹中直人さんが演じた秀吉像でも、やはり家族の話は非常に重要な要素として描かれてきました。秀吉という人物は、家族を切り離して語れない存在なんですよね。もともと農民の出身で、頼れるのが家族しかなかった。だから弟の小一郎に声を掛けたし、配下にしていく人たちも親戚が多い。そういう背景があるからこそ、家族という存在がとても大事なんです」

 さらに、戦国時代が男社会として描かれがちな点にも意識的に対応した。

「初期の座組を作る段階から女性の比率はかなり意識していました。主要キャスト8人から10人のうち、半分は女性にしようと考えていて、寧々(浜辺美波)や市、あさひ(倉沢杏菜)といった女性たちもメインキャストになります」

 どんな時代でも男性と同じ数の女性が生きていたはず。その意識が、ホームドラマ的な要素や恋愛の要素を自然と増やしていったという。

白石聖演じる直の成長と“若いエネルギー”に託す次世代への期待

「この物語を未来につなぐために」松川CPが語る後編 松下洸平の家康と「豊臣兄弟!」の設計図

 放送開始以降、視聴者から支持を集めているのが、小一郎を慕う直を演じる白石だ。「回を重ねるごとに、どんどん魅力的になっていくんです」と松川CP。反響は想像以上だといい、「年配の方からも支持されていると聞いて、すごくうれしく思っています。この先、物語が進むにつれて、表現の幅もさらに豊かになっていきます」と期待を寄せる。

 白石は、準備期間が限られた中でのキャスティングだったこともあり、当初は強い緊張感を抱えて現場に入ったという。だが撮影を重ねる中で、その印象は大きく変わっていった。

「最初はかなり緊張されていましたが、そこからどんどん魅力が増していった。出番自体は決して長くないんですけれど、その短い時間の中での成長を、僕らは間近で見てきました。昔の朝ドラのヒロインが、少しずつ成長していく姿を見守るような感覚を、ぎゅっと凝縮して見せてもらっている気がしていて、とても楽しいです」

 「豊臣兄弟!」は、若い世代の俳優たちが多数出演する作品でもある。松川CPは「若い世代の力」を大事にしていると語る。

 物語が後半に進むと、秀吉・秀長が40代になり、石田三成(松本怜生)など次の世代がどんどん登場する。実年齢が逆転してしまうと違和感が出るため、自然と20代の俳優に多くのチャンスがある作品になっているという。

「去年1月に大きなオーディションを行い、そこから選ばれた方々が今どんどん現場に入っています。『豊臣兄弟!』が大河初出演になる方も多く、この作品を土台に次のステージへ進んでほしいという期待があります。現場も若いエネルギーにあふれていますね」

親子で楽しめる大河へ。原点は少年時代の一冊

「この物語を未来につなぐために」松川CPが語る後編 松下洸平の家康と「豊臣兄弟!」の設計図

 松川CPが初めて豊臣秀吉の伝記に触れたのは、小学校1、2年生の頃だった。親に買ってもらった本を、覚えるくらい繰り返し読んだという。

「なぜそんなにひかれたかというと、戦国時代でけんかが強かったわけでもなく、知恵で天下を取ったというところがとても痛快だったんです。自分も体が大きいわけじゃないし、強いわけでもないけど、知恵ならあるかもしれない、そんなふうに勇気をもらった原体験があります」

 その体験を、今の子どもたちにも届けたい。そんな思いも胸にある。

「子どもでも楽しめて、歴史初心者にも分かりやすく、家族で見られるドラマにしたいというのは最初からのスローガンです。親子で見て会話が生まれたり、歴史への入り口になったりするような作品になればいいなと思っています」

 実際に「親子で見ています」「小学生の息子が毎週楽しみにしています」という声が届いているといい、「それを聞くと、やってよかったと思います」と松川CPは目を細めた。

 仲野と小栗の演技合戦、松下の新しい家康像、そして「人を信じる力」というテーマ。「豊臣兄弟!」は、歴史の定説を大胆にアレンジしながら、兄弟の絆と戦国の群像を鮮やかに描き出していく。

【番組情報】
大河ドラマ「豊臣兄弟!」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45

取材・文/斉藤和美

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