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細田佳央太「雪煙チェイス」お人よしを違和感にしない芝居と雪山での奮闘「自然体でいることを大切に」2026/01/01 09:00

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細田佳央太「雪煙チェイス」お人よしを違和感にしない芝居と雪山での奮闘「自然体でいることを大切に」

 東野圭吾氏の「雪山シリーズ」最新作を実写化したスペシャルドラマ「雪煙チェイス」(午後10:00)が、NHK総合・BSP4Kで2026年1月2・3日に2夜連続で放送される。「白銀ジャック」、「疾風ロンド」(ともに実業之日本社刊)に続くシリーズ第3弾となる本作は、殺人事件の容疑をかけられた大学生と、彼を追う所轄の刑事が、白銀の雪山を舞台に交錯するノンストップサスペンスエンターテインメントだ。

 主人公の一人、脇坂竜実を演じるのは細田佳央太。正月のスペシャルドラマとしての放送、しかも主演作という立場について尋ねると、「気にしてうまくやろうとすると失敗するタイプ」と笑い、プレッシャーはほとんどなかったという。むしろ意識していたのは、「お正月に見ていただく作品」としての空気感だった。台本を読んだ段階から、「深刻過ぎるほどのシリアスさはなくて、柔らかなトーンのまま最後まで楽しめる物語だと受け止めていた」と言い、主演だからと気負うよりも、現実的には「スノーボードの方が心配だった」と振り返る。

 アリバイを証明するため、雪山で出会った唯一の証人の手がかりを追い求め、友人と共にゲレンデを駆け回る真っすぐな大学生・脇坂に、細田はどんな温度を託したのか。東野作品への初参加、難度の高い会話劇、雪山ロケの手応え、そして“お人よし”とも言える主人公との距離感まで、単独インタビューでじっくりとひもといていく。

東野圭吾作品との出会いと、「雪煙チェイス」が持つ温度

 東野原作作品への出演は、本作が初めてだった。映画化された作品にはこれまでも親しんできたといい、「『マスカレード・ホテル』(19年)や『真夏の方程式』(13年)も好きで、映画で触れることが多かったです」と明かす。出演が決まり、原作「雪煙チェイス」(実業之日本社刊)を読んだ時には、その読み心地に意外性を感じたという。

「東野さんご自身がスノーボードと野沢温泉への愛がとても強い方で、読みながら“こんなにお好きなんだ”と伝わってきました。野沢温泉スキー場の名前の使い方や地名のもじり方も面白くて。張りつめ過ぎていなくて、ちょっと笑える余白がある。その読みやすさに魅力を感じました」

 本作は“雪山シリーズ”の第3弾。過去作は未見だったものの、ロケ地・野沢温泉に入ったことで、シリーズが積み重ねてきた時間を肌で実感したという。

「現地に行ったら、地元の方が以前行われた映画『疾風ロンド』(16年)の撮影の話をたくさんしてくださって。ロケ地も重なっている部分があったみたいで、そういう積み重ねの上にこの作品があるんだなと実感しました」

“お人よし”を違和感にしない。脇坂竜実という人物のつくり方

細田佳央太「雪煙チェイス」お人よしを違和感にしない芝居と雪山での奮闘「自然体でいることを大切に」

 脚本を読んだ時、細田がまず感じたのは期待と同時に、はっきりとした難しさだった。

「タイトルから想像できるようなシーンもあって、胸が躍りました。でもその一方で、最初の友人・波川省吾(醍醐虎汰朗)との家のシーンが、ずっと会話劇なんですよ。場所も変わらない。その時点で、これは難しいだろうなと察しました」

 脇坂という人物は、物語の序盤から、見る側に「なぜ?」という引っかかりを残す行動をとる。

「脇坂って、お人よし過ぎるがゆえに、『えっ、何でそんなことを?』と思われる行動をするんです。それを自然に見せる説得力が必要で、しかも会話だけで伝えなきゃいけない。そこが一番難しかったですね。“こういう人間なんだ”という前提を、最初の会話の中でちゃんと説明していく必要がありました。物語が進む上で、そこが全部のベースになるので」

 その引っかかりを違和感にしないために、細田が選んだのは、芝居を尖らせないという方法だった。

「基本的には、“尖らないように”していました。セリフの質感や声のトーンも、できるだけ角が立たないように。とにかく“丸く、丸く”というところを目指していました。感情を強く出し過ぎると、逆に不自然に映る気がしたんです。『なんでそんなことするの?』と思われがちな行動だからこそ、芝居自体が主張し過ぎないほうがいいと考えました」

 その温度感は、撮影前の本読みの段階から、丁寧にすり合わせていったという。

「本読みの時は、かなり力を抜いてやりました。そこから、“追われている”“疑われている”と自覚した時にどう変化するか。動きながら演じる中で感情が変わる部分もあって、その上げ下げについては、チーフ演出の一色さんからも細かく演出がありました」

細田佳央太「雪煙チェイス」お人よしを違和感にしない芝居と雪山での奮闘「自然体でいることを大切に」

 脇坂の行動を支えるのが、友人・波川(醍醐)の存在だ。演出面でも、細田が意識していたのは、脇坂個人よりも2人の関係性だった。

「演出の方とも、脇坂個人というより、“波川との関係性”について話すことのほうが多かったです。この2人の関係性の深さがとても大事だったので。僕がかなり人見知りなので、本読みの時に醍醐くんから『連絡先、交換してもいいですか?』と言ってもらえたのが、とても大きかったです」

 その距離は、野沢温泉でのロケを通して、さらに自然なものになっていった。

細田佳央太「雪煙チェイス」お人よしを違和感にしない芝居と雪山での奮闘「自然体でいることを大切に」

「現地で一緒にご飯に行ったり、ホテルの大浴場に一緒に入ったりしました。泊まったホテルがシェアハウスみたいな作りで、大広間があって。そこで飲みながら芝居の話をしたり、(根津昇平役の)前田公輝さんたちも交えて話したり。今回はずっと2人で行動する物語なので、照れくさいセリフを言い合うシーンもありますし、実際の関係性が近いほうが、絶対にリアルになる。あの“仲のよさ”は、そのまま芝居に生きたと思います」

 そんな関係性があったからこそ印象に残っているのが、波川との“何げない会話”のシーンだという。

「やはり雪山に着いてからの、2人の会話シーンが心地よかったですね。脇坂がポロッと何かを言って、それに波川がツッコむ。逃げている最中なのに、関係性が変わっていない感じが心地よくて。そういった“何げない会話”が好きでした」

 派手なチェイスや緊迫した場面よりも、細田の心に残ったのは、そうしたニュートラルな時間だった。

「車内でのやりとりや、家でのシーン、波川が根津(前田)さんや根津さんの友人で元スノーボード選手の瀬利千晶さん(武田玲奈)に脇坂の人柄を語る場面など、“友情”が見えるシーンも印象的でした。個人的には、緊迫感のない時間のほうが、撮っていて純粋に楽しかったです」

 その一方で、脇坂という人物像は、細田自身にとっても簡単に寄り添える存在ではなかったという。

「正直に言うと、割り切るしかなかったというのが本音です(笑)。だって現実に、こんな“お人よし”な人って、なかなかいないじゃないですか。少なくとも僕は、これまで出会ってこなかった。『この人はこういう人間だから、こう言うんだ』と、一人の人として考えるしかなかったんです。だから脇坂については、理解できたというより、方向性を決めた瞬間に腑(ふ)に落ちた、という感覚でした」

 それでも脇坂が物語の中で成立しているのは、友人・波川の存在があってこそだと、細田は言う。

「世の中がもう少しきれいだったら、脇坂みたいな人は、とてもすてきな存在でしょう。でも、もし友だちになるとしたら、波川みたいに面倒を見る根気強さが必要ですよね。僕にはそこまでの根気はないので(笑)。それくらい、波川の存在は大きい。波川以外いないと断言できます。あんなふうに無償の愛を注げる友だちって、なかなかいないですよね。逆に“脇坂は何をしたんだろう”って思うくらい(笑)。でも多分、波川がそこまで思えるだけの人間的な魅力が、脇坂にはあるんでしょうね」

ムロツヨシと共有した、自由な時間と感覚

細田佳央太「雪煙チェイス」お人よしを違和感にしない芝居と雪山での奮闘「自然体でいることを大切に」

 ダブル主演として脇坂と対をなす存在が、ムロツヨシ演じる所轄の刑事・小杉敦彦だ。殺人事件の捜査にあたる刑事として脇坂を追い、物語後半で本格的に対峙(たいじ)していく人物である。

「実際にしっかりご一緒するのは後半のシーンが中心でした。ほとんどのシーンは別々でした。ただ、ムロさんが野沢温泉にとても詳しくて、僕と(小杉の部下・白井琴音役)恒松祐里さん、醍醐くんの3人で現地入りした初日に、いろんなお店に連れていってくださったり、朝サウナに一緒に行ったりして。芝居の話をするというより、現場以外の時間を一緒に過ごせたのが、非常にありがたかったですね」

 言葉で芝居を詰めていくというより、同じ時間を重ねることで感覚が自然と共有されていった。

「芝居の相談をする、という感じではなかったです。どのくらいリアルに演じるか、みたいな感覚を同じ空間にいる中でつかんでいく感じでした。正直、『ムロさんに迷惑をかけていないかな』と思うこともありましたけど、ムロさん演じる刑事が“正義”にとらわれ過ぎていない人物だったので、こちらも、どう説得するかじゃなくて、ただ同じ状況を生きる人間として向き合えた。堅苦しい刑事らしさの圧がなくて、非常に自由に呼吸できるお芝居をしてくださいました」

細田佳央太「雪煙チェイス」お人よしを違和感にしない芝居と雪山での奮闘「自然体でいることを大切に」

 ムロの存在は、作品世界だけでなく、現場の空気そのものにも影響を与えていた。

「現場はとても明るかったです。僕が参加していない警察署の撮影シーンをあいさつがてら見学させていただいたこともあったんですが、キャストの皆さんがとにかくにぎやかで。ムロさんが場を盛り上げようとするというより、存在そのものが空気を和ませる方なんですよね。自然に場が柔らかくなる。だから本当にいいチームでした」

 長期にわたる地方ロケも、チームの距離を自然と縮めた。

「特にコロナが明けてからだったので、みんなでご飯を食べに行けるようになったのがとてもうれしくて。“密になれる瞬間”が増えたというか。そういう時間が、より楽しかったですね。ムロさんが先にクランクアップされた時、スタッフさんがちょっと寂しそうで(笑)。それくらい、みんなにとって大きな存在だったんだと思います」

初心者から挑んだ、雪山とスノーボード

細田佳央太「雪煙チェイス」お人よしを違和感にしない芝居と雪山での奮闘「自然体でいることを大切に」

 本作の大きな見どころの一つが、雪山でのチェイスとスノーボードのシーンだ。だが細田にとって、その挑戦はほぼ初心者からのスタートだった。

「スノーボードは一度しかやったことがなかったんです。子どもの頃はスキーをやっていたので、スノーボードはほぼ初心者でした。都内でも練習させていただいて、野沢に入ってからも4~5回くらい練習しましたし、屋内のスキー場でも6回くらい滑らせてもらって。ただ、屋内と野沢では雪質が全然違うんですよ。屋内は氷に近くて、野沢はふわっとしている。現地での練習が、圧倒的に貴重でした」

 雪山での撮影は、一発勝負の緊張感と、自然の中で演じる楽しさが常に隣り合わせだったという。

「雪はとても繊細で、一度足跡をつけると撮り直しがきかないこともあるんです。降りたての雪はすごくきれいなので、“ここは一発で決めよう”という緊張感は常にありました。アクションとしてのタイミング合わせや天候との戦いはありましたけど、『もう無理かも』と思った瞬間は一度もなかったです。むしろ自然の中で撮ること自体が、楽しかったですね」

 吹雪の中での撮影も、今では笑って振り返る思い出だ。

「顔につららを立てながら(笑)、吹雪の中で撮影したこともありました。相当寒かったですけれど、それも含めていい思い出ですね。都会育ちで雪に慣れていなかったので、雪を見るだけでテンションが上がっちゃって。吹雪の中で走ったり、寒さに耐えながら撮ったりした時間も含めて、いい経験でした」

「逃げない」という選択と、これからの芝居

細田佳央太「雪煙チェイス」お人よしを違和感にしない芝居と雪山での奮闘「自然体でいることを大切に」

 脇坂は、えん罪をかけられても逃げることを選ばない。もし細田自身が同じ立場に置かれたら、どう行動するのだろうか。

「訴えるしかないですよね。信じてもらえないと分かっていても、言い続けるしかないと思います」

 「逃げるという選択肢は、自分にもない」細田はそう言い切る。

「逃げたら、逆に疑われる気がして。本当にいい人ばかりの世界なら逃げても理解されるかもしれないけど、現実はそんなにきれいにできていないですよね。だから多分、僕だったら自分から警察に行って、『やっていません』と言うと思います。波川みたいな存在が信じてくれているケースって、現実にはなかなかない。今の時代、世間の信頼を得るのは非常に難しいからこそ、“人を頼るより、自分で戦う”という選択を取る気がします。違うやり方で、きっと戦うと思いますね」

 脇坂のように、無条件で人を信じられるかと問われると、細田は少し笑って首を振る。

「いや、全然ないですね(笑)。自分のことでいっぱいいっぱいなので。ああいうふうに人のために行動できる人って、なかなかいないと思うんですよ。“お人よし”って一種の才能だと思うので、自分にはまだ備わっていないですね」

 それでも、脇坂を演じたことで芽生えた思いがあるという。

「僕の周りは心から優しい人ばかりなんです。ただ、“優しさ”にもいろんな種類がありますよね。そこはあまり探らないようにしています。下手に深掘りすると、自分がショックを受けるかもしれないので(笑)。信用していないというより、期待し過ぎないようにしている感じです。でも、そういう意味では、脇坂みたいに真っすぐ信じられる人になれたらいいなって思います。だから僕も、信じることをあきらめないでいたいです」

 脇坂という役は、細田にとって新しい挑戦というよりも、自分の中にあった感覚を、あらためて確かなものとしてつかみ直す経験になった。

「もともと、振り回されがちな男の子という役柄に、特別な距離感があった訳ではありません。今回この役を通して、無理に作らなくても、“自然体でそこにいること”が芝居として成立するんだ、という感覚をあらためて実感しました。脇坂を演じたことで、自分の中の“自然体でいる”という土台が、より強くなった気がしています」

 現場では、役を演じることそのものを楽しみながら、俳優としての引き出しを少しずつ増やしている。

「現場ごとに、いろんな俳優さんの要素を少しずつ取り入れているんです。『この人の仕草、使えるかも』って思ったものは、男女問わず“輸入”しています(笑)。誰か一人をまねするというより、自然に取り入れている感じですね。この作品でも、実際の撮影現場にあるクッションやソファーを見て、ここで使えるかもって思ったことを、そのまま試してみたりしました」

 そうした積み重ねの先に、細田は今も、自分の芝居と向き合い続けている。

「25年は、“台本以上のお芝居をする”というのを目標にしていました。だから現場では、できる限りその瞬間の空気をつかんで動くようにしていました。会話劇では、場所が変わらないシーンも多いので、ただ座ってしゃべるだけじゃなくて、いかに動きや呼吸感で飽きさせないかを意識していて。多分、あと2~3年くらいはこの目標と付き合っていくと思うので、トライアンドエラーを繰り返しながら、自分の幅を広げていきたいです」

【プロフィール】
細田佳央太(ほそだ かなた)

2001年12月12日生まれ。東京都。19年、映画『町田くんの世界』で1000人以上の中から主人公・町田一役に抜てきされ、映画初主演を務めた。テレビドラマでは、21年、「ドラゴン桜」(TBS系)で役づくりのため体重を10kg増量&丸刈りにするなどし、話題に。22年、「もしも、イケメンだけの高校があったら」(テレビ朝日系)で連続ドラマ初主演。23年、大河ドラマ「どうする家康」(NHK総合ほか)では徳川信康役で大河初出演。近作には、「あの子の子ども」(24年/フジテレビ系)、連続テレビ小説「あんぱん」(25年/NHK総合ほか)などの連続ドラマ出演があり、26年には「ちるらん 新撰組鎮魂歌」(TBS系)にて沖田総司を演じることが決まっている。

【番組情報】

細田佳央太「雪煙チェイス」お人よしを違和感にしない芝居と雪山での奮闘「自然体でいることを大切に」

東野圭吾スペシャルドラマ「雪煙チェイス」
NHK総合/NHK BSプレミアム4K
1月2・3日 午後10:00~11:13
※NHK ONEで同時・見逃し配信予定

取材・文/斉藤和美

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