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横浜流星が生きた“太陽の蔦重”の1年半! キャスト秘話と「大奥」継承「べらぼう」藤並CP後編2025/12/07 20:45

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横浜流星が生きた“太陽の蔦重”の1年半! キャスト秘話と「大奥」継承「べらぼう」藤並CP後編

 横浜流星が主演を務めるNHK総合ほかで放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(日曜午後8:00ほか)。親なし、金なし、画才なし……ないない尽くしの生まれから、喜多川歌麿や葛飾北斎らの才能を見いだし、“江戸の出版王”として名を馳せた蔦屋重三郎(横浜)の生涯を描いてきた物語も、いよいよ最終回を残すのみとなった。

 前編に続き、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の藤並英樹チーフ・プロデューサーにインタビュー。後編では、1年間にわたり蔦重を演じ切った横浜のラストシーン撮影の裏側、松平定信との対になる構図の狙い、お笑いタレント&落語家の積極的な起用意図、さらにSNSで話題を呼んだ「オーミーを探せ」仕掛けの誕生秘話まで、作品づくりの舞台裏を語ってもらった。

横浜流星クランクアップ秘話「晴れやかな横浜さんがいた」

 1年を通して蔦屋重三郎を演じ切った横浜流星。そのクランクアップは、撮影最終日の10月30日、ラストシーンの撮影とともに迎えた。

「横浜さんご自身が『ラストシーンに集中したい』とおっしゃっていたので、その日撮ったのはラストシーンだけでした。丸1日かかる長いシーンで、朝から撮影して、夜に最後のカットが終わった瞬間、1年半以上に及ぶ長い道のりを走りきった感慨が伝わってきました」

 横浜は「こんなに長く一つの役に向き合うのは初めて」と語っていたといい、肩の荷が下りたような“すがすがしさ”がにじんでいたという。

「泣くというより、ホッとした表情でした。大河主演は相当なプレッシャーだったはずですし、若い年齢で重責を担ってもらったので、終わった瞬間は本当に晴れやかでしたね。その後はスタッフやキャストの皆さんと楽しそうに談笑されていました」

 今年は俳優としてさらなる飛躍を見せた横浜。映画「国宝」のクランクアップ後、2024年の6月から「べらぼう」へ参加し、公開・放送が重なる中で評価が一段と高まった。その流れが、横浜自身の“自信”にも確かにつながっていったと藤並CPは感じている。

「役に向き合うストイックさが確実に形になり、それが手応えになっていったと思います。その積み重ねが横浜さん自身をさらに強くしたのではないでしょうか」

 「べらぼう」では、20代の横浜が実年齢を超えて40〜50代までの蔦重を演じた。難役にもかかわらず、声の出し方、立ち居振る舞い、身体の重心の置き方まで作り込み、説得力のある年齢の移ろいを体現した。

「時代劇というジャンルに対しても、横浜さんの身体的なポテンシャルがぴったりはまっていて、俳優としての魅力がより際立ったと感じました」

 そして、今回託したのは“太陽のように明るい蔦重”という新しい顔だった。

「こういう明るい役の横浜流星さんも、すごくいいなと思いました。影のある役が似合うのはもちろんですが、僕は横浜さんの“笑顔のかわいらしさ”が最大の魅力の一つだと思っていて。1年を通して、その魅力がさらに強く伝わってきました」

2人が歩んだ道。蔦重と定信の関係性

横浜流星が生きた“太陽の蔦重”の1年半! キャスト秘話と「大奥」継承「べらぼう」藤並CP後編

 物語後半、松平定信(井上祐貴)と蔦重が協力し、一橋治済に挑む展開は、視聴者の胸を熱くさせた。この2人の関係性は、どのような狙いで設計されていたのだろうか。

「後半を見てくださった方の中には、“蔦重が暴走する時は定信も暴走している”と気付いてくださった方もいたと思います。森下さんとも『人って偉くなったり、ひとかどの人物になってしまうと、周りが忖度(そんたく)したり、本人も頑固になったりするよね』という話をよくしていました。そういう、人間だからこその負の部分は、蔦重にも定信にも、どちらにも描いた方がいいよね、と」

 その上で、意図的に描かれたのが「周囲にいる人間の違い」だ。

「蔦重の周りには、おていさん(橋本愛)をはじめ、ちゃんと苦言を呈してくれる人がいます。一方で定信の周りには、そういう存在がほとんどいなかった。その対比は、意識的に描いたところです」

 キャスティング面では、「若い井上祐貴が定信を演じること」の面白さもあった。

「井上さん自身が若いので、渡辺謙さんや高橋英樹さんのような大ベテランの俳優さんに囲まれる。その中で、無理に自分を大きく見せようとせず、でも一歩も引かずに芝居をすることになる。その状況が定信という人物とも重なって、リアリティーが出ると思いました」

 定信が蔦重と協力して治済に挑む展開には、史実に基づく着想もある。

「定信が白河へ戻ってから、これまでと打って変わって太田南畝(桐谷健太)や山東京伝などに自分の本を書かせたりしている史実があるんです。定信はもともと『大名かたぎ』という黄表紙を作っていたり、絵や文に造詣が深い人物。実はそういう文化が好きなんじゃないの? という話を森下さんとしていました。きっと春町や喜三二の存在が本当は大好きだったのに、失ってしまった。その悲しみや贖罪(しょくざい)の気持ちもある。だからこそ、同じ志や趣味を持つ者としてどこか共通点が生まれるのではないか。そこから、ああいう“敵討ち”の展開へと、森下さんが創作を発展させていきました」

話題の「オーミーを探せ」&お笑い芸人起用の狙いとは?

横浜流星が生きた“太陽の蔦重”の1年半! キャスト秘話と「大奥」継承「べらぼう」藤並CP後編

 本作には、爆笑問題(太田光、田中裕二)や有吉弘行、ひょうろく、くっきー!(野性爆弾)ら、数多くのお笑い芸人や落語家が登場する。「正直、ちょっとやりすぎたかなと思うくらいです」と藤並CPは笑うが、こうしたキャスティングが早い段階から話題を集めたことも、制作側にとって後押しになったという。

「序盤に登場した鉄拳さんは絵を描く芸風が世界観との相性も良く、素顔でお芝居する鉄拳さんを見たいという期待も大きかった。単なる話題作りという以上に、作品そのものへの興味を引き寄せてくれる存在でした」

 藤並CPが重視したのは、「短い出番でも人物を瞬時に立ち上げられる力」だ。

「お笑いの方々は、その技量が高いんです。『べらぼう』には、一言二言で去る役や、群衆の中で存在感を残してほしい場面が多い。サルゴリラのお二人がうわさ話をしながら歩くシーンは芸風と絶妙にマッチしていましたし、ナダル(コロコロチキチキペッパーズ)さんが演じた表坊主も、史実にある“欲深さ”を一瞬で体現してくれました」

 落語家の起用にも、作品づくりの明確な意図があった。

「林家たい平さんや林家三平師匠には、落語家役としてではなく、語り口や立ち居振る舞いににじむ江戸のリズムをそのまま作品に持ち込んでいただきました。古典芸能の方が持つ独特の時間感覚は、ドラマの空気を自然と豊かにしてくれるんです」

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 また、放送中、大きな話題を呼んだ仕掛けが「オーミーを探せ」だ。朋誠堂喜三二(尾美としのり)が毎回どこかにさりげなく映っている、という遊び心は、森下氏が「喜三二は吉原に詳しい人物だから、毎回“実はいた”となったら面白い」と提案したことから始まった。

 その後、脚本は第2回までさかのぼって喜三二の顔出しが加筆され、演出チームと尾美本人も「やるなら“ちらっと”が粋」と方針が一致。現場ではもっと映す案も出たが、尾美が「これはしれっとがいい」と自ら調整したという。

「分かる人にだけ分かるくらいのあんばいで作っていたので、視聴者の皆さんが本気で探してくださったのは驚きでした」

 中でも反響が大きかったのが第3回。豆粒ほどの小ささながら、喜三二は吉原へ向かう前に“ウキウキと髷(まげ)を整える”芝居までつけていた。

「かなり小さく映っているのに、しぐさだけで、これから吉原へ行くぞ! という気分を表現されていて、『尾美さんってやっぱりすごいな』と感じました」

 SNSで「今日はどこにいた?」と盛り上がる視聴者の姿に、藤並CPもその反応の大きさを改めて感じていた。

「テレビって、本来そうやって自由に楽しんでいただけるものだと思っています。同じ場面をSNSで共有して盛り上がっていただけるのは、うれしかったですね

「大奥」が広げた「べらぼう」の世界観と作り手たちのまなざし

横浜流星が生きた“太陽の蔦重”の1年半! キャスト秘話と「大奥」継承「べらぼう」藤並CP後編

 藤並CPと森下氏、そして大原拓ディレクターは、「べらぼう」の前にドラマ「大奥」でもタッグを組んでいる。同じ時代を続けて描いた経験は、本作にどう生かされたのだろうか。

「『大奥』は、原作のよしながふみさんが多くの史実をベースにキャラクターを作られている作品で、それを僕も大原さんも森下さんも参考にしながらドラマ化しました。今回の『べらぼう』では、そこからさらに史実をもう一度洗い直して、御三卿の関係など、『大奥』ではほとんど描けなかった部分にも踏み込んでいます。その意味で、『大奥』で得た蓄積が、今回の世界観を広げてくれたところは大きいですね」

 冨永愛、片岡愛之助、風間俊介など、「大奥」ゆかりの俳優たちが「べらぼう」にも登場していることを、視聴者が“転生ネタ”として楽しむ場面も多かった。

「NHKの時代劇を長く見てくださっている方々が実に多いな、と改めて実感しました。“誰が誰に転生した”みたいな楽しみ方をしてくださるのも、その蓄積があるからこそ。キャスティングを考える時にも、そういう遊び心はどこか意識していたと思います」

 冨永愛の起用は、「大奥」での存在感が決め手となった。

「『大奥』で冨永さんは素晴らしい存在感を見せてくださいました。女将軍・吉宗という“大奥の中心”を演じてくださったので、『べらぼう』では“大奥総取締”としてお迎えできたら面白いだろうと考え、お声掛けしました。吉宗が転生したかのように見える方もいるかもしれませんね」

横浜流星が生きた“太陽の蔦重”の1年半! キャスト秘話と「大奥」継承「べらぼう」藤並CP後編

 古川雄大についても、意外な起用の経緯があった。

「古川さんはご本人が非常に物静かな方なので、ああいう人物を演じてもらったら絶対面白いだろうと思ってお願いしました。最初はかなり戸惑って『僕どうしたらいいんでしょう?』とおっしゃっていたので、『大丈夫です、中学生みたいにやってください』とお伝えして、何度も話しながら作っていきました」

 本作には多くの若手俳優も出演。彼らの成長についても、大きな収穫を感じている。

「水沢林太郎さんは、あのまんまが良いんだろうと思いました。ひょうひょうとした雰囲気が留四郎というキャラクターにぴったりで、軽妙さもあって、とても良かったと思います。徳川家斉役の城桧吏さんは子役時代にも大河に出演されています(西郷どん/18年)。初々しさや若さがあって、特に『第47回』は家斉の見せ場が多い回になりましたが、非常に頑張って演じてくれました。『終活シェアハウス』(BSプレミアム)でも見せてくれていた少しとぼけた愛嬌(あいきょう)のある持ち味が、家斉にもよく合っていましたね」

 耕書堂の手代・吉役の中川翼については、「大奥」からの確かな成長があったという。

「『大奥』の時も重要な役で出演していただきましたが、今回はずっと横浜さんやおていさんのそばで演じてくれていて、若いながらも前作よりさらにうまくなったと感じました。安定感が増していて、安心して見られる役者さんになったなと思います」

 さらに、市民のリーダー格・長七役の甲斐翔真には、舞台で活躍する実力派として大きな期待を寄せていた。

「本当は歌ってほしかったんですが、その機会がなくて残念でした。ただ、甲斐さんも古川雄大さんや井上祐貴さん同様、舞台の仕事が非常に忙しく、映像作品に入るタイミングが難しい方です。今回は公演と公演の合間で『ここなら空いています』とおっしゃってくださったので、ぜひお願いしました」

横浜流星が生きた“太陽の蔦重”の1年半! キャスト秘話と「大奥」継承「べらぼう」藤並CP後編

 藤並CPは、日頃から作品に合う魅力的な俳優をリサーチしているという。

「普段から探していますし、スタッフにも舞台やミュージカルに詳しい人が多いのでよく聞いています。唐来三和役の山口森広さんのことも、『テレビではまだそこまで出ていないけれど、今一番面白いおじさんって誰?』とスタッフに聞いた時に複数名挙がった中の一人でした。甲斐さんのことも、ミュージカル好きのスタッフに『今誰がいい?』と聞いて知りました。万次郎役の中村莟玉さんもそうです。僕自身のアンテナには限界があるので、“詳しい人に聞く”というのは常にやっていますね」

 最後に、江戸中期という“戦のない時代”を、大河ドラマで描く意義について改めて聞いた。

「江戸中期は戦がない時代ですが、調べていくと現代と似ているんです。飢饉(ききん)があったり、社会的・経済的な行き詰まりがあったりして、どこか今の時代にも通じるなと思うところが多かった。たとえば米騒動のように、現代とリンクするような出来事がある。だからこそ、この時代を舞台にしたいと考えました」

 吉原という舞台についても、きちんと向き合って描くことを心がけた。

「蔦屋重三郎の生まれとして避けて通れない場所です。演出も含めて『描くならきちんと描こう』という話を森下さんとしていましたし、描くからには格差や貧困といった現代的な問題も含めたいと考えました。結果的に、そこを誠実に扱うことで、現代につながるテーマにもなったのではないかと思います」

 1年を走り抜けてみて藤並CPが強く感じたのは、「平和な時代だからこそ描けるものがある」ということだった。

横浜流星が生きた“太陽の蔦重”の1年半! キャスト秘話と「大奥」継承「べらぼう」藤並CP後編

「戦国時代や幕末のように、大きな出来事が次々に起こる時代の方が、分かりやすい面はあります。でも、実はこういう“平和な時代”の方が、一人一人の人生や生き様、考え方、立場を丁寧に描ける。『べらぼう』のキャラクターたち。瀬川(小芝風花)、誰袖(福原遥)、空蝉(小野花梨)はもちろん、鶴屋喜右衛門(風間)、小田新之助(井之脇海)、佐野政言(矢本悠馬)に至るまで、多くの方がそれぞれの人物に感情移入してくださったのは、森下さんが“描ける時代”を選び、その人物たちを一人一人掘り下げてくださった結果だと思っています」

 12月14日。いよいよ最終回を迎える「べらぼう」。蔦重が「書をもって世を耕す」姿、そして多くの人に愛されながらこの世の最期を迎える姿が、どのように描かれるのか。最後の瞬間まで、目を離さずに見届けたい。

横浜流星が生きた“太陽の蔦重”の1年半! キャスト秘話と「大奥」継承「べらぼう」藤並CP後編

【番組情報】
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45

取材・文/斉藤和美

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