「虎に翼」直言とは違う父親像を――岡部たかしが挑む「ばけばけ」司之介役2025/10/02 08:15

　NHK総合ほかで放送中の連続テレビ小説「ばけばけ」（月～土曜午前8：00ほか）で、松野司之介を演じている岡部たかし。トキ（髙石あかり）の父で、松江藩の上級武士だったが明治になると収入がなくなり、苦しい貧乏生活に陥る。愛する家族のために不器用ながら奮闘し、トキに「かっこいい」と言われたいと願う人物だ。

　髙石が主演を務める「朝ドラ」第113作の同作は、ふじきみつ彦さんが小泉八雲（ラフカディオ・ハーン）とその妻・セツをモデルに描く物語。明治という西洋化で急速に時代が移り変わる中で、松江の没落士族の娘・トキと、縁あって松江で英語を教えることになった英語教師・ヘブン（トミー・バストウ）が出会い、文化や言葉の壁を越えて愛を育む。「怪談」を愛し、何げない日常を歩んでいく夫婦の姿を通して、埋もれていった人々の声をすくい上げる愛の物語だ。

　物語の中でトキの人生を支える父親という存在を、岡部がどう捉え、演じているのかを語ってくれた。

――今回、連続テレビ小説「ばけばけ」への出演が決まった時のお気持ちを教えてください。

「『虎に翼』でもお父さん役をやらせてもらったので、最初に聞いた時は、本当にいいのかなと思いました。でも、今回『ばけばけ』の脚本を担当しているふじきみつ彦くんは、ずっと一緒に演劇をしてきた仲で、それが何よりもうれしかったですね。ふじきくんが朝ドラの脚本を担当することが決まった時は、本当にちまたは歓喜に沸いたんですよ。まさか自分も出られるとは思っていなかったんですけど、……いやちょっとは出るかもと思っていたかな（笑）。ずっと一緒にやってきたふじきくんの朝ドラに出られることが、すごくうれしかったですね」

――演じる松野司之介は、どんな役ですか？

「娘への思いとのはざま、時代のはざまなど、常に『変化のはざま』の中にいる人だと思います。奥さんのフミさんのセリフにも、『父上はね、立ち尽くしちょるの』とあるのですが、時代に翻弄（ほんろう）され、どちらにも行けないでいる司之介のことをよく表しているセリフだと思います。父である勘右衛門さんからは武士道をたたき込まれてきましたが、一方で、そうだと思えば行動できる人でもあります。特に、娘のためならまっしぐらなところがあり、この子を大事にするぞ、苦しくてもこの子のためならという親心があるのだと思います」

――トキ役の髙石さんをはじめ、松野家の人たちの印象・エピソードを教えてください。

「髙石さんは、良い意味でベタベタもしてこない。でも、しゃべりかけに行っても普通にしゃべってくれるし、愛想もいいし、ずっと自然体でいる子やなぁという印象です。フミ役の池脇さんは今回が初共演ですが、ものすごく仲良くなりましたね。勘右衛門役の小日向さんは、本当に面白くて明るい人。この先、小日向さんが演じる勘右衛門が、赤ちゃんだったトキを初めて抱くシーンがあるのですが、そこで涙が出そうなくらい感動したんです。松野家のみんながトキのことを本当に思っていて、それを象徴しているようなシーンだと思います」

――ここまで撮影していて、一番印象に残っているシーンはどこですか？

「最初の『丑（うし）の刻参り』をしているシーンは面白いですよね。最初に撮影したシーンだったんですが、皆さんと演技するのもほとんど初めてだったし、頭から最後まで止めずに撮影するという緊張感もあったので、すごく覚えています。冷静に考えると、丑の刻参りをしているのも変なんですけど、それを真面目にやらないと面白くないので、本気でそう思っているところを演じようと思いました。また、司之介が新しい事業を始めるためにウサギをいっぱい買ってくるシーンがあるのですが、ウサギがかわいいから、ちょっと笑えるんですよね。でも、実はそれが借金の元凶になるので、笑えないんです。真面目に言えば言うほど面白いところは、ふじきくんの本の書き方だと思いながらやらせてもらっています」

――ドラマの見どころ・視聴者の方へのメッセージをお願いします。

「僕は、今回もお父さん役をやっていますけれど、『虎に翼』（2024年）の直言さんとは人も違うし、時代も違います。『虎に翼』も大好きな作品ですが、良い意味でそのイメージを覆せるように、僕もまた新たな気持ちで頑張りたいと思っています。ふじきくんの脚本の魅力は、『会話』だと思っています。ふじきくんが書く会話劇が何ページにもわたって続くところがあって、一見ただしゃべっているだけのシーンに思うかもしれないけど、そのセリフの一つ一つにキャラクターの色が出ていると思います。視聴者の皆さんには、朝ちょっと手を止めていただいて、その会話を楽しんでほしいですね」