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文化の壁も虫も乗り越える!? 髙石あかり&トミー・バストウが語る「ばけばけ」撮影秘話2025/09/27 07:00

文化の壁も虫も乗り越える!? 髙石あかり&トミー・バストウが語る「ばけばけ」撮影秘話

 NHK総合ほかで9月29日スタートの連続テレビ小説「ばけばけ」(月~土曜午前8:00ほか)で、主人公・松野トキを演じる髙石あかりと、のちにその夫となるレフカダ・ヘブンを演じるトミー・バストウにインタビュー。

 「ばけばけ」は、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)とその妻・セツをモデルに、脚本家・ふじきみつ彦さんが描く物語。明治という西洋化で急速に時代が移り変わる中で、松江の没落士族の娘・トキ(髙石)と、縁あって松江で英語を教えることになった英語教師・ヘブン(トミー)が出会い、文化や言葉の壁を越えて愛を育む。「怪談」を愛し、何げない日常を歩んでいく夫婦の姿を通して、埋もれていった人々の声をすくい上げる愛の物語だ。

 髙石が演じるトキは、民話や昔話を聞くのが大好きな松野家の一人娘。家族思いで、つらいことがあると母に怪談をねだる純真な心を持つ。一方、トミーが演じるヘブンは、英語教師として日本に来日し、日本の文化に深い興味を抱く知的な男性として描かれる。

――まずはお二人の役柄についてお聞かせください。モデルとなった実在の人物のエッセンスを、どのように役作りに生かしていらっしゃいますか?

髙石 「セツさんを知るうえで、『思い出の記』という本を大切に読みました。セツさんの視点から八雲さんがつづられている本で、そこに描かれている八雲さんへの思いや感じ方を知ることで、セツさんという人物像を理解する手掛かりになりました」

文化の壁も虫も乗り越える!? 髙石あかり&トミー・バストウが語る「ばけばけ」撮影秘話

――その本を読まれて、髙石さんの中でセツさんはどのような女性像として映ったのでしょうか?

髙石 「私の中でのセツさんは、すごく自由で、自分の正義感をはっきり持っていて、『好き』と『嫌い』をしっかり分けられる人。その一方で、大変なことを抱えながらも、皆から愛される一面と、誰にも見せないもう一つの一面を持っている。そこから伝わってくる八雲さんへの深い愛情や、守ろうとする強さは、カッコいいと思います。セツさんは、私にとって憧れの存在のような、理想の女性像でもあります」

――トミーさんは八雲さんをどのようにとらえていらっしゃいますか?

トミー 「夫婦関係について考えた時に、撮影を重ねれば重ねるほど、2人の関係は青春を思わせる愛情だと感じるんです。子どもの頃に大変な経験をして、早く大人にならざるを得なかった2人が、出会ってからようやく子ども時代を味わい直しているように見える。そんな若々しい関係性が描かれていると思います」

文化の壁も虫も乗り越える!? 髙石あかり&トミー・バストウが語る「ばけばけ」撮影秘話

――八雲さんという人物への理解は深まりましたか?

トミー 「彼のことを調べ、準備すればするほど、尊敬が深まっていきます。出会った瞬間から背負わざるを得なかった責任感を、どう役で表現するか意識して臨んでいます」

――夫婦を描くという点で、お二人はどのような夫婦像を演じたいとお考えですか?

髙石 「『思い出の記』を読ませていただいた時に、八雲さんとセツさんのお二人の関係がかわいらしいなと。2人にしか分からない独特の言葉で会話をしていたり、お互いのことが大好きで、八雲さんが『(セツさんは)世界一のママさんだ』と言っていたり。そうした言葉が通じないことで生まれるかわいらしさや、お互いを思う気持ちを大事に描いていきたいと思っています」

トミー 「言葉よりフィーリングです。2人は別の言語を使っていますが、文化が違っても、お互いを尊重すれば愛は育まれると思います。まさに青春のような愛を演じたいです」

――そんな夫婦として、トキとヘブンは、お互いのどのような部分にひかれたとお考えですか?

髙石 「ヘブンのすてきなところは、いろんなものが見えていて、好きなことを『好き』と言える、強さを持っているところです。言語や文化の違いがあっても、自分の気持ちを真っすぐに表現できる。一見自由奔放に見えることもあるけれど、その奥には必ず“自分の正義”があるんです。誰かを守るために怒ることができたり、何かを見逃さない強さがあります」

トミー 「トキの魅力は、家族のためにしっかり働き、親切で飾らない優しさを持っていること。そしてヘブンを偏見や差別なく受け入れている。その姿はとても素晴らしいと感じています」

文化の壁も虫も乗り越える!? 髙石あかり&トミー・バストウが語る「ばけばけ」撮影秘話

――撮影を通してお互いに“すてきだな”と感じた部分を聞かせてください。

髙石 「トミーさんは日本のことが大好きで、10年間独学で日本語を勉強されていて、撮影中も勉強を続けていらっしゃる。より知りたいという思いや、日本への熱量を感じるとうれしいですし、そこは小泉八雲さんと似ている部分だと感じます。優しい方です」

トミー 「あかりさんは、会った瞬間から波長が合いました。日本語についても正しい言い方を教えてくれたり、分かりやすく伝えてくれたりする。撮影中には大きな虫が飛んできたことがあったのですが、僕はどうしていいか分からず固まってしまった時に、あかりさんが落ち着いて対処していて『すごくプロフェッショナルだな』と思いました」

髙石 「その時に虫が私の周りを飛び回るので、トミーさんが戦ってくださっていて楽しかったです(笑)」

――トミーさん、撮影を通して覚えた日本語で印象に残っているものは?

トミー 「たくさんありますが…」

髙石 「例えば最近は擬音語に触れる機会があって、『肩がカチカチ』と言っていたので、『ガチガチ』の方がいいかなとか、そういう擬音の話をしました」

トミー 「西洋と日本の違いを感じながら、文化交流をしているような感覚です」

文化の壁も虫も乗り越える!? 髙石あかり&トミー・バストウが語る「ばけばけ」撮影秘話

――ドラマ冒頭の印象的な場面について、どのような気持ちで撮影に臨まれましたか?

髙石 「そのシーンに近いシーンが、オーディションの最終審査で実際に近い形で演じたシーンでもあったので、『あの時に演じたシーンを今本当に演じられているんだな』という感慨がありました。撮影ではトミーさんと一緒に芝居を作っていく中で、感情があふれてくる瞬間が何度もありました。言葉が完全に通じない部分があるので、どうしても心で読み合うしかない。その『読み合う』という感覚で演じることができたのが印象的でした」

――トミーさんにとっても特別な撮影だったのでは?

トミー 「冒頭のシーンの撮影はクランクイン後すぐ行われました。クランクイン1週間後に、あかりさんと初めて一緒のシーンだったため、かなり緊張しました。でも、あかりさんのおかげで、現場では互いに助け合い、終わった後に励まし合うことができました」

――主題歌の歌詞の中で、特に印象に残ったフレーズを教えてください。

髙石 「私は『毎日難儀なことばかり』という最初に出てくる歌詞がすごく好きです。朝ドラのオープニングで『難儀なことばかり』と始まる曲は珍しい。でも、『ばけばけ』はまさに1週目から『どうなるの?』と思わせる物語。困難やうらめしい気持ちを抱えている人たちの物語なんだと、初回から表れている。一方で、最後に『今夜も散歩しましょうか』とあるのも好きです。誰かと一緒に散歩をしたり、小さなことで笑い合えたりすることが実は素晴らしいこと、というメッセージを感じて、この歌詞が心に残りました」

トミー 「僕は歌詞の細かい意味をすべて理解できるわけではありませんが、外国人でも日本人でも、ハーモニーの美しさを楽しめる曲だと思います。聴いていて心地よく、僕自身も『カラオケで歌ってみたい』と思うくらい気に入っています(笑)」

文化の壁も虫も乗り越える!? 髙石あかり&トミー・バストウが語る「ばけばけ」撮影秘話

――第1話の冒頭では「耳なし芳一」を語るシーンが登場します。お二人はホラーや怪談のような作品を見るのはお好きですか?

髙石 「私は大好きです。父がホラー映画好きだったこともあって、自然と一緒に見る機会が多く、今でもホラー映画をよく見ますし、お化け屋敷に行くのも好きです。ただ、小泉八雲さんの描く怪談は、ただ『怖い』だけではなく、人間の欲や愛情といった感情も織り込まれているところが魅力だと思います。そこに物語性を強く感じて、大好きなんです。好きな作品を挙げるなら『雪女』や『おしどり』が印象に残っています」

トミー 「僕もホラー映画は好きです。小さい頃から父が一緒に見せてくれて、8歳や9歳の頃には映画『シャイニング』を見ました(笑)。その影響でホラーに興味を持ちましたし、スタンリー・キューブリックや黒澤清さんの作品が好きです。小泉八雲さんの怪談では、あかりさんと同じく『雪女』にひかれます」

――トミーさんにお伺いします。イギリスにも怪談は多いと思いますが、日本の怪談との違いをどのように感じていらっしゃいますか?

トミー 「イギリスと日本の怪談は、やはり違うところがあります。イギリスの怪談はキリスト教的な背景が強くありますが、日本の怪談は『神様がどこにでもいる』という多神教的な世界観が反映されていると思います。でも、根本的に怪談は人間の心から生まれるものだと思うので、国によって違いがあっても共通する部分が多い。小泉八雲さんのすごさは、そうした文化の違いを越えて、日本の怪談を西洋にも伝えたところにあると思います」

――物語のモデルとなる小泉八雲さんとセツさん夫婦は異文化理解の架け橋のような役目を果たしていると思いますが、そのような先駆者としての役割を演じて、現代の視聴者にどのような思いを伝えていきたいとお考えですか?

髙石 「ヘブンとトキが出会ってから、違う国同士だからこその文化の違い、そして言葉の壁など、難しさはたくさんあったはずです。でも、その困難を超えた時に生まれる驚きや、通じ合えた時のうれしさ、知らなかった文化を知る楽しさは、かけがえのないものだと思います」

トミー 「文化を分かち合い、理解していくことは非常に大切です。この『ばけばけ』を通じて、見てくださる方々と『オープンマインド』や慈悲の心を持つ大切さを共有できれば、うれしいです。異文化を理解することをやめてしまうと危うい時代になってしまう。特に今の世界の状況を考えても、こうした心の持ち方はますます大切になってきていると思います

――物語の舞台となる明治時代について、どのような印象をお持ちですか?

髙石 「明治という時代は、西洋の文化が一気に入ってきて、町の景色も変わり、新しいものに触れられるようになった時代。そんな中で、松野家はどちらかというと取り残されている存在で、周囲からは変わっていると思われている部分がある。でも、その中で『自分は自分だ』と言える強さがあるんです。明治の流れにすぐ乗る人もいれば、立ち止まる人もいる。その“揺れ動く時代”の中で生きる人々が描かれていて、それが『ばけばけ』の魅力だと感じています」

トミー 「僕にとっても明治時代は特別です。今回、撮影のセットを初めて見た時は息が止まりそうなくらいで、『八雲さんが見た景色はこんな感じだったのか』と感じることができました。日本でもイギリスでも百年前は隣人同士のつながりが強く、人と人との関係が密接だったと思います」

文化の壁も虫も乗り越える!? 髙石あかり&トミー・バストウが語る「ばけばけ」撮影秘話

――ヘブンの左目が印象的です。コンタクトレンズを使用されているそうですが、役作りの上で苦労された点はありますか?

トミー 「最初は本当に大変でした。自分でコンタクトレンズを入れるのは初めてで、毎回30分以上かかりました。最初に使っていたものは透明ではなかったので、視界がかなり制限されて、非常に演じにくかったです。でもスタッフの皆さんが何度も調整を重ねてくださって、今はほとんど透明に近い見え方をする特注レンズを使っています」

――撮影現場ではどんなやりとりをされていますか?

髙石 「トミーさんはジャーキーが大好きで、私がお土産で買ってきたものをみんなで食べ比べたりしました。あと、トミーさんはリンゴを丸かじりするのも好きで、それを見ていると爽快で、印象に残っています」

トミー 「リンゴの丸かじりは『DEATH NOTE』(のリューク)みたいでしょ(笑)。日本のいろんなジャーキーを食べられるのは幸せです。特にジンギスカンのジャーキーがおいしかったですね。あかりさんのお母さんが来た時にもジャーキーを持ってきてくれて、とてもうれしかった。ジャーキーを食べる時は毎回あかりさんにもあげています。ノールックで(笑)。エネルギーを補うためにフルーツもよく食べます」

――劇中では夫婦が怪談好きという設定ですが、お二人ご自身の趣味についても教えていただけますか?

髙石 「撮影の合間に山登りに行くことがあります。自然の中に身を置いてリフレッシュするのが好きで、自然を浴びる時間を大切にしています。私にとって大事な趣味の一つです」

トミー 「ムエタイが大好きで、撮影のない日にはキックボクシングに行っています。最近のマイブームは銭湯に行くことです!」

文化の壁も虫も乗り越える!? 髙石あかり&トミー・バストウが語る「ばけばけ」撮影秘話

 「ばけばけ」は、言葉や文化の違いを越えて育まれる愛と、時代の波に翻弄(ほんろう)されながらも自分らしさを貫く人々の物語。怪談を愛する夫婦の温かな日常を通して描かれる、現代にも通じる異文化理解への思いが、きっと視聴者の心に響くはずだ。

【プロフィール】
髙石あかり(たかいし あかり)
2002年12月19日生まれ。宮崎県出身。主な出演作はドラマ、「わたしの一番最悪なともだち」(2023年/NHK総合)、「御上先生」(2025年、TBS)、「アポロの歌」(2025年、MBS)、「グラスハート」(2025年、Netflix)など。映画では「ベイビーわるきゅーれ」シリーズ(2021年~)、「遺書、公開」(2025年)「夏の砂の上」(2025年)など。

トミー・バストウ(とみー ばすとう)
1991年8月26日生まれ。イギリス・サリー州エプソム出身。俳優、ミュージシャンとして活動。バンド「FranKo」のリードボーカルも務める。主な出演作は2008年、映画「ジョージアの日記/ゆーうつでキラキラな毎日」、ドラマ「SHOGUN 将軍」(2024年)など。

【番組情報】
連続テレビ小説「ばけばけ」

9月29日スタート
NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15 ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月~金曜 午前7:30~7:45

取材・文/斉藤和美



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