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「のぶとして生き抜いた」今田美桜が語る「あんぱん」。北村匠海との共演で見えた理想の夫婦像2025/09/19 08:15

「のぶとして生き抜いた」今田美桜が語る「あんぱん」。北村匠海との共演で見えた理想の夫婦像

 NHK総合ほかで放送中の連続テレビ小説「あんぱん」(月~土曜午前8:00ほか)で、主人公・柳井のぶを演じる今田美桜にインタビュー。

 「あんぱん」は、脚本家の中園ミホさんがアンパンマンを生み出した漫画家・やなせたかしさんと妻・暢さんをモデルに描く物語。高知出身の快活な女性・のぶ(今田)と、夫・柳井嵩(北村匠海)の激動の人生を映し出す。何者でもなかった2人が荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでを描く、愛と勇気の物語だ。

 今田が演じるのぶは、子ども時代は県大会で優勝するほど足が速く「ハチキンおのぶ」「韋駄天おのぶ」と呼ばれた快活な少女。教師として軍国主義を信じたが、戦後にその誤りに気付き葛藤を抱える。その後、新聞記者となり、幼なじみである嵩(北村)と結婚。支え合いながら信念を模索し、晩年まで激動の時代を生き抜いた。

 朝ドラ初主演となった今田は、全編土佐弁での演技や老けメーク、教師役への挑戦、戦中・戦後を生きる女性としての葛藤など、多彩な挑戦を重ねてきた。北村との夫婦役、三姉妹の絆、嵩の母・登美子役の松嶋菜々子とのやりとり、そして「アンパンマン」への思いまで――。1年間を振り返る言葉からは、のぶを生き抜いた充足感と、役を超えて残る深い余韻がにじんでいた。

朝ドラ初主演で挑んだ1年間

「のぶとして生き抜いた」今田美桜が語る「あんぱん」。北村匠海との共演で見えた理想の夫婦像

――クランクアップの日、最後のカットが終わった瞬間の気持ちを聞かせてください。

「最後のシーンは、一連で撮影し、一回で終わりました。カメラが止まった瞬間、『あ、終わったんだ』と実感しましたし、そのシーンが嵩とのぶにとっても大事な場面だったので、感情が高まり涙があふれました。OKがかかった瞬間はホッとしましたし、嵩と2人で迎えたラストだったので、『無事に終われたな』という安堵(あんど)もありました」

――クランクアップから1週間たった今はいかがですか。

「始まって終わりが見えてきた時に、どんな感情になるんだろう? 実感ってあるのかな? と共演者の皆さんと話していたのですが、正直まだ完全に終わった実感はないです。1年間ずっと皆さんと顔を合わせてきたので、今も撮影が続いているような感覚があります。終わったのか、まだ続くのか…そんな気持ちを行き来しています。でも、撮り終えた達成感はありますし、クランクアップのニュースを見て『お疲れさま』と連絡をくださった方も多く、その言葉を受け取って少し晴れやかな気持ちにもなりました。この後、お休みをいただけるので、どこか旅行に行けたらと考えています」

――のぶは、戦時中は軍国少女の設定で、戦後は戦争責任も感じる設定でした。どのように演技に落とし込みましたか。

「当時は世の中の空気感として、戦争反対を大きく掲げることが難しかった時代だと思います。そんな中、のぶは教師として、軍国主義を信じ、使命として子どもたちに伝えなくてはいけない。後にのぶもその考えは間違いだったと気付くのですが、撮影の時は私自身も複雑な思いを抱えながら演じました」

――今の今田さんの心境とは大きく違うと思いますか。

「そこは大きく違います。のぶとしても自身の中に葛藤を抱えていたと思うので、教師として子どもたちに軍国主義を説かなければならない時の顔と、一人の姉として苦しむ妹を思いやる時の顔は、まったく異なる表情や心の揺らぎが見えるよう意識しました」

嵩や家族との関係から得たもの

「のぶとして生き抜いた」今田美桜が語る「あんぱん」。北村匠海との共演で見えた理想の夫婦像

――快活なのぶと繊細な嵩。お互いを補い合う2人の関係から、ご自身が学んだことはありましたか。

「のぶと嵩は、お互いにない部分を補い合い、尊敬し合える姿が本当にすてきです。理想的な夫婦ですよね。擦れ違うこともありますが、根底には常に『相手を思い合っている』気持ちがある。その姿に触れて、私自身も将来機会があれば、そういう関係を築けたらと思いましたし、相手からもそう思ってもらえるように頑張りたいと感じました」

――その上で、2人の魅力はどこにあると感じましたか。

「愛情深いところがとても魅力的でした。2人とも“自分のため”より“人のため”という気持ちが大きく、これは結婚生活に限らず、人として誰かに思いやりを持って、愛を持って接していきたい。のぶを通して、その思いをあらためて強く抱くようになりました」

――嵩とのぶのシーンで、特にキュンとした場面を教えてください。

「のぶの誕生日に自主出版の詩集をもらったシーンはキュンとしました。サプライズでもありましたし、嵩さんなりにプレゼントを一生懸命考えて、あの形で渡してくれたというのが印象的でした」

――嵩さんはプロですが、もし実際に自作の詩をプレゼントされたらどう感じますか。

「そうですね…。私自身はいただいた経験がないので想像になりますが、1冊の詩集となると驚くかもしれません。でも詩を書く方でなくても、自分のことを思って書いてくれたものは手紙と同じように特別だと思いますし、やっぱりうれしいし、特別感を感じると思います」

――晩年の嵩とのぶをどのように捉えていましたか。

「晩年の嵩とのぶには、一つ大きなターニングポイントがあったと思います。のぶに子どもができなかったことや、自分は何者でもなかったという葛藤を嵩さんに吐き出すシーンです。それを嵩さんが『最高だよ』と受け止めてくれて、のぶにとっては心から救われる言葉になったのではないかと感じました。そこからのぶは、自分らしく生きやすくなり、『ここが自分の居場所なんだ』と確信できたのではないでしょうか。嵩さんを支える立場に誇りを持ち、受け入れられるようになったのだと思います」

――老けメークは初めての経験だったそうですね。

「はい、今回が初めての経験でした。後半では70代までの段階を演じるので、年齢の変化を少しずつ表現する必要がありました。しわを入れる方法や、しみを飛ばす技術など、純粋にそのメーク技術に驚きましたし、楽しかったです。私は自分のおばあちゃんを思い浮かべながら、写真を見たりしてイメージを膨らませました」

――あらためて北村さんと共演して感じた印象を教えてください。

「今回は幼なじみから夫婦になっていくという関係性で、これまで演じた中でも一番距離感が近い役でした。以前に元恋人役を演じたこともありましたが、今回は関係性も期間も特別だったと思います。北村さんについては、これまで抱いていた印象と違う一面をたくさん知ることができました。大人びていて、何事も俯瞰(ふかん)でクールに見ているイメージが強かったのですが、意外とひょうきんな一面もあって。それは幼なじみや夫婦という距離感だったからこそ見られたのかなと思いますし、1年間ご一緒したからこそ気付けた部分も多かったです」

――嵩役が北村さんでよかったと感じた瞬間はありましたか。

「この1年間の撮影には楽しい瞬間もたくさんありましたが、迷ったり難しいと感じることもありました。そんな時、北村さんは、言葉にしなくても周りをよく見ていて、さっと支えてくださるんです。シーンで迷って『これってどう思う?』と相談すると、一緒に考えてくれたり、さりげなく助けてくれたり。その姿勢をとても尊敬していますし、最初から最後まで本当に支えていただきました」

――嵩の母である登美子(松嶋)は、のぶにとってどんな存在だったのでしょうか。

「登美子さんは、嵩のお母さんという存在で、幼なじみの頃の登美子さんとは違い、のぶにとっても“母”という関係になりました。のぶは『裕福な暮らしよりも、自分の好きな漫画を描いている姿を見てほしい』という思いがありましたが、登美子さんは『女性は家庭に入り、男性は家庭を守るために働く』という考え方を持っていたと思います。のぶ自身は、お父ちゃん(朝田結太郎/加瀬亮)の『女子も大志を抱け』という言葉に背中を押されて夢を追いながら嵩を支えてきました。そのため登美子さんとは考え方が違いましたが、芯の強さやバイタリティーは尊敬していたと思いますし、気持ちを理解していたはずです。嵩が徐々に成功していくにつれて、表向きには厳しい言葉をかけながらも、本心では応援していたのだと思います。アプローチは違っても、実は似た者同士だったのではないでしょうか」

――松嶋さんとの印象的なエピソードがあれば教えてください。

「松嶋さんは、とてもかわいらしい一面をお持ちです。嵩と千尋くんが殴り合いになり、のぶがビンタするシーンで、登美子さんもその場にいらっしゃったのですが、すごくいい音が鳴ってしまい、『いい音が鳴ったね』と声を掛けてくださって、ちょっとうれしくなりました」

――蘭子(河合優実)、メイコ(原菜乃華)との三姉妹の関係も魅力的でした。長女として印象に残っているシーンは?

「三姉妹で過ごす時間は非常に楽しく、長女として癒やされる瞬間がたくさんありました。2人ともかわいくて…。東京に出てくる前の海辺のシーンや、次郎(中島歩)との結婚の時に3人で部屋で過ごし、ラジオ体操をする場面では、少し寂しくなって、『本当に姉妹としている』と実感が湧きました。最近では、蘭子とメイコの部屋で、三姉妹で語り合うシーンも印象に残っています」

――河合さん、原さんから俳優として刺激を受けた部分はありますか。

「お二人からは多くの刺激を受けました。原菜乃華ちゃん演じるメイコは、カメラが回っていないところでもメイコそのもので、それが原さん本人なのか、役作りなのか…。2人とも年下ですが落ち着いていて、しっかりしていて、現場での立ち居振る舞いも素晴らしいです。芝居だけでなく、現場での姿勢や在り方にも刺激を受ける瞬間がたくさんありました」

のぶと重ねた1年間の思い

「のぶとして生き抜いた」今田美桜が語る「あんぱん」。北村匠海との共演で見えた理想の夫婦像

――のぶが子どもたちに「アンパンマン」を何度も読み聞かせるシーンが印象的でした。

「のぶは、『アンパンマン』の一番のファンだと思っています。誰に何を言われようと、嵩さんが描いたものは素晴らしい、みんなに知ってほしいという一心でした。最初の頃は絵がなかなか受け入れられず、子どもたちからも反応が薄い瞬間もありましたが、内容は大人が読んでも深く響くものでした。撮影を通して、『アンパンマン』は大人向けでもあると感じましたし、それを子どもたちは純粋に”優しさ”として受け取っている。読み聞かせを重ねるうちに、私自身も『アンパンマン』のすごさを学んでいったように思います」

――読み聞かせという行為は、お芝居とは違う感覚でしたか。

「子ども向けに読み聞かせをするので、普段話す時とは声の使い方や間の取り方が違います。1人で読み続ける中で、盛り上がりや抑揚をどう付けるか考えなければならず、これまであまり経験がなかったことなので、勉強になりました」

――土佐弁に関して、周囲のご反響はいかがでしたでしょうか。

「『たまるか』『ほいたらね』というセリフを、高知県の方だけでなく、他の地域の方からも言っていただくことがありました。『あんぱん』以外の現場に行っても、そのセリフを話題にしてもらえて、『これだけ愛してもらえているんだな』と感じましたし、共通の話題として出てくるのがうれしかったです」

――のぶにとって高知県はどのような存在だったとお考えですか。

「のぶにとって高知県は、薪鉄子先生(戸田恵子)のもとで働くまで暮らしていた場所であり、幼少期の思い出、子ども好きな気持ち、次郎との関係、そして戦争という苦しい時代など、人生のさまざまな出来事が詰まった場所です。一言では表せませんが、のぶの人生を形作る大事な場所であり、常に心の中で向いている存在だと思います」

――朝ドラヒロインとして、座長として心がけていたことはありますか。

「豪華なキャストの皆さんの中で、自分に何ができたのか正直分かりません。でも心がけていたのは、『あんぱん』という作品がとても優しくて温かい作品なので、現場も同じような雰囲気でありたい、ということです。久しぶりにお会いする共演者の方が多かったので、『帰ってきた』と思えるような空気にしたかったんです」

――北村匠海さんは撮影がない時も現場にいるよう心がけていたとおっしゃっていました。

「後半は私自身もなるべく現場にいるようにして、お昼ご飯や夜ご飯も現場で一緒に食べたり、みんなの顔を常に見られるようにしていました。お昼の再放送をみんなで一緒に見る時間もあって、その空気がすごく好きでした」

――のぶを1年間演じられて、ご自身と一体化していると感じた瞬間はありましたか。

「たくさんありました。これはのぶとしてなのか、自分としてなのか分からなくなる瞬間もありましたし、カットがかかっても涙が止まらないこともありました。本当に『のぶとして今生きられているんだな』と感じられて、それはキャストやスタッフの皆さんがそういう空気や環境を作ってくださっているからこそだと思います」

――特に涙が止まらなかったシーンを挙げるなら?

「先ほどもお話した三姉妹でラジオ体操をするシーンや、嵩とシーソーでけんかするシーンなど、役として相手を見ているからこそ、顔を見ただけで涙がこみ上げることが多々ありました」

――幼少期は活発だったのぶも、大人になるにつれ、落ち着いていきました。その過程を表現する上で意識したことは?

「かなり悩んだ部分です。幼少期は“はちきん”“韋駄天”で奔放だったのぶも、大人になると経験を重ね、悩み考える時間が増えていきます。その違いをどう表現するかを意識しました。昔は正義感から真っすぐ突き進む姿が多かったですが、大人になると一歩立ち止まって考えられるようになる。とはいえ後半には再び活発さが顔を出す場面もあって、悩んだり心が晴れたりと気持ちの変化で動きが変わる人物だと思います。最終的には、かつての活発さと大人の落ち着きが融合した姿を見せられたらいいなと考えていました」

――朝ドラ初主演として駆け抜けた1年間を振り返って、今どんな手応えや思いが残っていますか。

「撮影中は『長いな』と感じる瞬間もありましたが、振り返るとあっという間で、全部が楽しい時間でした。1年間同じ役と向き合うという経験はなかなかできないことなので、自分に少し自信がついた気がします。“あんぱん”を通して得られた成長は、この先のお仕事の中で少しずつ実感していくのだと思います」

「のぶとして生き抜いた」今田美桜が語る「あんぱん」。北村匠海との共演で見えた理想の夫婦像

【プロフィール】
今田美桜(いまだ みお)

1997年3月5日生まれ。福岡県福岡市出身。女優、ファッションモデル、タレントとして幅広く活躍中。主な出演作はドラマは、「ラストマン-全盲の捜査官」、「トリリオンゲーム」(ともにTBS系/2023年)など。映画では「東京リベンジャーズ」シリーズ(22年~)、「わたしの幸せな結婚」(23年)。現在、9月13日に開幕した「東京2025世界陸上」でTBSの世界陸上アンバサダーを務めている。

【番組情報】
連続テレビ小説「あんぱん」
NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15 ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月~金曜 午前7:30~7:45

取材・文/斉藤和美



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