タイムリープして人生をやり直す。中国時代劇「度華年(どかねん) The Princess Royal」の魅力2025/10/22 07:00

韓国ドラマなどでも最近ブームな人生やり直しドラマが、中国時代劇でも浸透中。BS11で10月29日からスタートする「度華年(どかねん) The Princess Royal」(月~木曜 午後3:59~5:00)は、無念の死を遂げたカップルが、本人たちも予期せぬ展開で20年前に戻ってしまったことから、自分たちの死を阻止しようと奮闘するロマンス時代劇。歴代中国王朝でも繰り返されてきた皇族と皇后の一族たちによるドロドロの権力闘争の中で、最悪の結末を回避するために共闘し、憎しみ合っていた関係から本当の夫婦へと愛を育む。未来を改変することによって生じた新たな問題に先が読めなくなる、タイムリープ時代劇の魅力に迫る。
多様化する中国ファンタジードラマの世界

中国では時代劇のことを、昔の衣装を着たドラマということで古装劇という。近年は歴史上の時代を描いた本格時代劇より、架空の時代や古代中国風の異世界を描いたファンタジー時代劇が制作される傾向となっている。しかも、RPGのような剣と魔法が入り乱れる異世界ファンタジーや、中国古来の仙人などが活躍する仙侠ファンタジーなどジャンルも多彩。中でも近年人気なのが、タイムリープ時代劇だ。現代人が過去に飛ばされ、現代技術と浅い歴史知識を武器にサクセスしたり皇子と恋に落ちたりするのが定番だが、本作は、若い頃に逆戻りして人生をやり直すというタイムリープ型ヒューマンストーリー。
日本でも、映画「東京卍リベンジャーズ」や韓国ドラマをリメークした「私の夫と結婚して」(Amazon Prime)など、現代を舞台にしたタイムリープドラマは多いが、時代劇では愛憎関係のほか国の行方を左右する陰謀なども絡んでスケールが大きくなる。衣装やセットも豪華で、映像的にも華やか。しかも、通常はタイムリープするのは主人公1人だが、本作では主人公カップルが2人ともタイムリープしている。自分だけが人生をやり直していると思うところから、お互いにタイムリープしたことを知って共闘する中で、タイムリープ前には言えなかった自分の気持ちをぶつけ、未来(過去)を変えるために手を取り合う。従来のタイムリープドラマが「過去の記憶を活かして復讐や回避に向かう」構造を主軸としてきた中、本作では、記憶を保持した主人公が憎しみの感情に囚われることなく、むしろ関係性の修復と人生の再構築を目指す点が新鮮だ。
過去の痛みを知っているからこそ、同じ過ちを繰り返さず、より良い未来を築こうとする姿勢は、単なる“やり直し”を超えた人間ドラマとしての深みをもたらしている。タイムリープという設定を、復讐ではなく再生の物語へと昇華させた点において、本作はジャンルの枠を一歩踏み出した意欲作なのだ。
見た目は20代でも心はアラフォーの2人の駆け引き

李蓉(リー・ロン)(演:チャオ・ジンマイ)と裴文宣(ペイ・ウェンシュエン)(演:ジャン・リンホー)の2人がタイムリープしたのは結婚前の、それぞれ18歳、20歳のとき。これから自分たちにふりかかる未来を知っているため、先を読んで危険を回避していく展開が楽しい。しかし、歴史を変えたことによって別の問題が発生し新たなピンチを迎え、だんだんとアドバンテージが失われ本人も視聴者も先の読めない展開に。

そこで役に立つのが20年分の知識と経験。見た目は20代でも心はアラフォーの2人は、宮中にはびこる皇后の一族や、他の側室たちの陰謀を読み取り、逆転の策を練るという政治的駆け引きを身に付けている。若い2人が抜け目ない重臣たちの陰謀を阻止していくのが痛快。とりわけヒロインの李蓉は、一度目の人生では潔癖すぎて周囲から浮いた存在だったが、タイムリープ後は自分だけでなく周囲の人々、そして国の危機を回避するために奔走する。一方で恋愛下手なのは変わらず、頭が良い分先回りして考えてしまい、結果裏目に出るという不器用さがかわいらしい。策謀と情愛が絶妙な緊張感を生み出す構成が、視聴者を惹きつける。中国の動画配信プラットフォーム「YOUKU」で配信初日に人気No.1にランクインしたのも納得だ。
注目俳優ジャン・リンホーの活躍に喝采

李蓉の夫となる裴文宣は、宮中の主流派から外れた寒門(家柄が低いこと。対義語は「名門」)の出身だが期待の俊英。前の人生では政略結婚で出世のために李蓉と結婚し、宰相にまでなった野心家とされたが、実はその時から李蓉に思いを寄せながらも対立してしまったというせつない役どころ。
大逆転で李蓉とピンチを切り抜ける姿はさすがの頭脳派。一方で、李蓉が前の人生で好きだった蘇容卿(スー・ロンチン)(演:チェン・ホーイー)と接近していくのにヤキモチを焼いたり、年下の李蓉に甘えてみたりする表情の変化にメロメロ。
演じるジャン・リンホーは、元々大学で電気工学を専攻しており俳優になる気はなかったが、イケメンぶりがSNSで話題になり、スカウトされて芸能界入りした理系男子。ドラマ「探偵麗女~恋に落ちたシャーロック姫〜」でデビュー作にして初主演を飾り、大ヒット作「蒼蘭訣~エターナル・ラブ~」ではヒロインが憧れる戦神役。本作と同じ人生やり直し時代劇「寧安如夢(ねいあんにょむ)〜宮廷にふたたび舞い降りる愛〜」では、悪女として名を残した皇后が心ひかれてしまう仇(かたき)役として大活躍。本作では、陰謀にまみれた40歳から若く才気みなぎる20歳と、2つの異なる世代を好演している。
次代の中国ドラマ界を担う俊英「00后(リンリンホウ)」がドラマの中心

ジャン・リンホーは1997年生まれで、出演当時27歳と若く“美男ライジングスター”と呼ばれる存在。中国では世代によるグループ分けを「后(ホウ)」と呼ぶ。現在の中国時代劇で活躍している90年以降生まれの30代のスターは「90后」で、ジャン・リンホーは95年以降生まれの「95后」に分けられるが、本作では2000年代以降に生まれた「00后」が多数出演。2人の間で暗躍する蘇容卿を演じるチェン・ホンイー、李蓉の弟で皇太子の李川(リー・チュワン)を演じるリウ・シューウェイは、共に00年生まれ。李川と恋に落ちる秦真真(チン・ジェンジェン)役のホー・チウは04年生まれ。そもそも、ヒロイン李蓉を演じるチャオ・ジンマイも、子役から活躍しているベテランだが、02年生まれのフレッシュな世代。ジャン・リンホーとチャオ・ジンマイは、既に中国で配信された現代ロマンス「桜桃琥珀:私たちの季節」で再共演。その他のキャストも最新ドラマで活躍しており、これからの中国ドラマ界を担う若い力を早めにチェックしておきたい。
【番組情報】
中国時代劇 「度華年(どかねん)The Princess Royal」※BS初放送
BS11
10月29日(水)スタート
毎週月~木曜 午後3:59~5:00
※BS11公式動画サイトBS11+とTVerで配信予定
文/菊池昌彦
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