Mrs. GREEN APPLE・大森元貴が語る“朝ドラ初挑戦”と北村匠海との再会2025/08/04 08:15

NHK総合ほかで放送中の連続テレビ小説「あんぱん」(月~土曜午前8:00ほか)。今田美桜が主人公・朝田のぶ役を演じる本作は、脚本家の中園ミホさんがアンパンマンを生み出した漫画家・やなせたかしさんと妻・暢さんをモデルとした柳井嵩(北村匠海)と、嵩の妻・のぶの激動の人生を描いている。何者でもなかった2人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した「アンパンマン」にたどり着くまでの愛と勇気の物語。
そんな本作の第91回(8月4日放送)から登場するのが、作曲家・いせたくや。嵩と出会い、ミュージカル「見上げてごらん夜の星を」や「手のひらを太陽に」などを通して、音楽で時代を照らしていく人物だ。演じるのは、Mrs. GREEN APPLEの大森元貴。モデルは、CMや舞台、テレビ音楽からミュージカルまで、生涯で15,000曲以上を生み出した昭和の名作曲家・いずみたく。大森にとっては、朝ドラ初挑戦にして18歳から50代までを演じ分けるという大役に臨むことになる。
これまで音楽で“感情の機微”を描いてきた大森が、今度は俳優として、一人の表現者の人生に寄り添う。「自分に声を掛けていただいた意味を大切にしたい」。そう語る彼が、どんな思いでこの役と向き合い、その“光”と“人間らしさ”をどう表現していくのか。朝ドラ初出演の舞台裏を、じっくりと聞いた。
制作統括からの熱いオファー いせたくやは“光”のような存在
――朝ドラ出演のオファーが届いた時、まずどんな思いが浮かびましたか。
「ライブを見に来てくださった制作統括・倉崎憲さんからお声掛けをいただいた時は、率直にすごく光栄でした。その時ちょうど、演劇的な要素を取り入れたライブツアーを行っていたので、もしかしたらその点に共感していただけたのかなと。本当にご丁寧に、熱意のこもったお話をいただいて、素直に『出たい』と感じました。でも“朝ドラ”という大きな枠組みの中で自分に務まるのか、買いかぶられているんじゃないかという不安もあって…。ただ、それ以上にワクワクが勝って、『ぜひやらせていただきたいです』とすぐにお返事しました」
――演じるいせたくやという人物には、どんな印象を持ちましたか。
「いせたくやは、とてもピュアで真っすぐな青年です。曇りがなくて、音楽や芝居に本当に誠実で、愚直なところもある。ただその分、周りが見えなくなる瞬間もある、いちずさを持っている。戦争の時代を経て、ようやく未来に目を向けられるようになったタイミングで登場する人物でもあって。嵩にとっても“次の世代を担う存在”ですし、彼自身も心から『音楽や芝居を通して日本を元気にしたい』と願っている。ある種の“光”のような存在なんじゃないかと感じています」
――この役に向き合う中で、「自分を消す」という意識はあったのでしょうか。
「実はあまり『自分を消す』というより、自分に声を掛けていただいた意味を大切にしたい気持ちの方が強いです。ただ音楽をやっているからというだけではなく、そこにはきっと何かしら、役としての期待や重みがあると感じていて。“ものすごく大きなものを背負わせていただいている”という感覚を持ちながら、毎日現場に立っています。それに、制作統括の倉崎さんが、すごく褒めてくださるんですけど…それがまた逆にプレッシャーで(笑)。でも、そのプレッシャーをエネルギーに変えながら、“いせたくや”というキャラクターがこの作品の中でどう機能すべきなのか、どう立ち上がるべきなのかを、ずっと考えながら演じています」
3~5kg増量から学ランまで 18歳から50代への挑戦

――今回の役作りにあたって、まず意識したことを教えてください。
「体重は3~5kgくらい増やしました。視覚的な部分も含めて、自分にできることは全部やろうと決意して。セリフも多くて、抑揚がはっきりしていて、ちょっと芝居がかった青年でもあるので、“小さい頃から芝居が好きだったんだろうな”という雰囲気が、立ち居振る舞いや言葉遣いに自然とにじみ出たらいいなと。これまでの『あんぱん』とはテンポ感も少し違うキャラクターなので、その違いが新しい風として伝わればいいなという気持ちで演じています」
――物語に初登場するのが18歳という設定ですが、その若さをどう捉えて演じたのでしょうか。
「僕自身、仕事として音楽を始めたのが18歳だったので、表現の場に立つ前の気持ち、“何にフラストレーションを感じていたのか”“何に希望を抱いていたのか”という部分を、自分の過去と照らし合わせながら探っていく作業でした。共通点を見つけていく感じですね。実際に演じてみて、匠海くんから『今までにないテンポ感ですごくやりやすかった』と言っていただけたことが、自分のやろうとしている方向性に自信を持てた瞬間でした。それが一つの指針にもなっていて。自己採点するなら…80点前後ですかね。ただ、まだまだ未知数ですし、そもそも明確な基準があるわけじゃないので、あくまで感覚的なものですけど」
――18歳から50代までの年齢を演じ分けるのは、まさに大仕事だと思います。
「ほんとに、“朝ドラの洗礼”を受けている感覚です(笑)。『今日何歳のシーン撮るんだっけ?』と考える瞬間が、一日に何回もあるんですよ。でも、いせたくやという人は、何歳になっても芯の部分は変わらない。とても純粋で真っすぐ、人を真剣に愛せる方。それは恋愛に限らず、人や表現に対しても同じで。年齢を重ねてもその真っすぐさを保っている人なので、そこをブレずに表現できたらいいなと。ちなみに学ランも着るんですけど、僕、人生で一度も学ランを着たことがなかったので、鏡で見た時は『新鮮!』って(笑)。それが刺激になって、若々しさやフレッシュな空気感が出せたらいいなと考えていました」
――いせたくやのモデルとなったいずみたくさんに、自分と通じ合う部分はあると感じましたか。
「正直、シンパシーを感じるなんて畏れ多いですが、音楽が人の心を彩る存在であること、という考え方にはすごく共感しています。たかが娯楽と片づけられるものかもしれないけれど、そこに魂を込めて、人の心を少しでも明るくできたらという願い。そうした純粋な気持ちに触れるたびに、『自分もそうありたい』と思わされるんです。僕自身、“日常に当たり前に存在する大衆エンタメ”をすごく大切にしていて。例えばコンビニに入った時にふとミセスが目に入ってきたり。そうやって、誰かの気持ちにそっと寄り添えたらいいなって。バラエティー番組に出演したり、お芝居に挑戦しているのも、“幅を広げたい”という気持ちがあるからです。でも根っこには、やっぱり『楽しんでもらえたら一番うれしい』という思いがあって。そういう“ピュアさ”の部分では、先生ともどこか通じるものがあるのかもしれませんね」
――いせたくやという人物を演じる上で、ご自身だからこそできることはありましたか。
「たくやの中には、寂しがり屋な一面があるんじゃないかな、と想像しています。劇中ではあまり描かれていない部分かもしれませんが、彼はずっと“どうしたら自分の表現が人に届くのか”を考え続けているような人だと感じました。演劇学校を中退していたり、いろんな葛藤を抱えていたり。でも、ある瞬間に『よし』と覚悟を決めて立ち上がる。その決断の力強さが、とても印象的で。台本を読んでいても、実際に演じてみても、そうした部分にすごく刺激を受けましたね」
――役作りで髪型も変えられましたね。
「髪型も含めて、ためらいは全然なかったです。少し前まで襟足が白っぽい金髪でしたが、それもたくやに合わせて変えました。どうしたらビジュアルも含めて、見てくれる方に楽しんでもらえるか。それを考えながら、朝ドラの撮影に向けて準備しました。黒髪になるなら、その前に少し遊んでおこうかなと髪を伸ばしたりもして。むしろ、そういう過程も含めて“楽しんでいた”という感覚です。襟足をカットしたらドライヤーが楽になりました(笑)」

北村匠海との再会と楽譜が読めないピアノ特訓
――北村匠海さんとは以前からのお知り合いだそうですね。
「2017年に放送されたドラマ『僕たちがやりました』(フジテレビ系)で、僕たちMrs. GREEN APPLEがオープニング曲を、DISH//が主題歌を担当していて。その頃から『もっくん』って呼んでくれていて交流はあったんですけど、この数年はなかなか会えなくて。今回久しぶりに再会して、俳優として第一線で活躍している姿を見て『すごいな』と感心することばかりです。彼と話していると、ネガティブな気持ちの出どころ…その“源”みたいなものが似ていると感じることがあって、控室でもそういう話をよくしています。『お互い頑張っているよね』って励まし合ったり、匠海くんが、『俺、泣いちゃうかも』なんて冗談を言い合ったりしながら、現場で楽しく過ごしています」
――“ネガティブな話”を共有できるというのは興味深いです。
「僕自身、ポジティブなものって、実はネガティブな感情から生まれるものだと思っていて。明るさがあるということは、必ずその裏に暗さがある。そういう感情は、すべて表裏一体なんですよね。そういう“陰”の部分は、僕にとっては歌詞を書く上でもすごく大切な要素なんです。細やかな心情をキャッチして、それをどうやってアウトプットして昇華させるか。それをいつも考えています。匠海くんとは、表現のかたちは違っても、向き合っている本質的なものはとても似ていると感じています。彼も、どうやって人の繊細さや、自分の中にある怒りやもどかしさを表現できるか、その感情をどう“成仏”させられるかを、すごく真剣に考えているように見えるんです」
――嵩というキャラクターのなかなか一歩を踏み出せない性格についてはどう思われますか?
「すごく分かるんですよね。匠海くん自身も『嵩の気持ちはよく分かる』と言っていて、僕も通じる部分がたくさんあると感じていました。“うじうじしている”というよりは、ただ単に自信が持てないんじゃないかと。世間から評価されることが少なかった人にとって、目の前の人たちが次々に大きくなっていく状況は、やっぱりしんどいものでしょうし、心のどこかで葛藤を抱えていたはずです。僕自身も、“認められたい”という気持ちと、それに伴う苦しさはずっと持ち続けています。何かを創るって、常に自問自答を繰り返すことでもあって。そうやって嵩がもがきながら前に進んでいく姿には、リアルさと共感があって、自分にも似ているなと思いながら見ていました」
――今田美桜さんとの共演には、どんな印象がありましたか?
「最初にお会いした時は、本当に『うわっ、のぶだ〜!』って(笑)。僕もいち視聴者だったので、『目の前に“のぶ”がいる!』『たまるか〜が聞けた…!』って感動していました。同い年ということもあって、個人的にもすごく親近感を持っていますし、現場でも匠海くんとのコンビネーションが本当に素晴らしくて。お互いに相手を立てながら、“今の自分だったらこう演じる”というのを、すごく真摯(しんし)にやりとりしている印象を受けました。同世代としても、共演者としても、本当に感動する場面が多かったです」
――劇中での音楽シーンに向けて、どんな準備をされたのでしょうか?
「最初に台本を読んだ時、“歌う”って書かれていて、『やられたな…!』と思いました(笑)。歌うことが“フック”になり過ぎると物語から浮いてしまうので、どう作品になじませるか、監督や匠海くんともたくさん話しました。ピアノ演奏に関しては、普段作曲で使うことはありますが、すぐに『楽屋にピアノを置いてほしい』とお願いして、空き時間が20秒でもあれば触って、1週間詰め込みで練習しました。僕は、楽譜が読めないので、ピアノ監修の方に弾いていただいた動画を見て覚えました。うちのバンドのキーボーディスト・藤澤(涼架)にも教えてもらって、『これ1週間じゃ無理でしょ?』と言われながらも『でも、やらなきゃいけないんだよ』って(笑)。いずみたく先生もピアノは独学だったそうなんです。それを知って『よし、いけるぞ』と。たぶん先生も、自分なりのフォームやペースで弾いていたんじゃないかと勝手に解釈して、『これは自己流でいいんだ』と納得して取り組みました」
――劇中での歌は、Mrs. GREEN APPLEのボーカルとしての歌い方とどう違いを出しましたか?
「たくやはプレーヤーではない、という前提をまず大切にしました。だから歌うにしても、レスポンスの早さがありすぎると、かえってリアルじゃない気がして。人って、歌う時にほんの少し“ためらい”があったりするじゃないですか。そういうニュアンスを大切にしたかったんです。ミセスの楽曲はキーも高めなんですが、たくやとして歌う際はキーを抑えて、“ミセスっぽさ”をなるべく削るように意識しました。言ってしまえば、“ミセスを削る作業”でしたね」

「手のひらを太陽に」と、いずみたくさんの家族から届いた言葉
――劇中に登場する「手のひらを太陽に」。この曲に対してどんな思いを持っていますか?
「物心ついた時には、もうすでに知っていた曲でした。おそらく皆さんもそうなんじゃないでしょうか。どこで最初に聴いたのかなんて覚えていないくらい、当たり前に日常にあった曲なんですよね。音楽って、やっぱりすごいなと改めて感じました。はやり廃りに関係なく、人の心にずっと残っていくものがある。幼稚園などで小さい頃にみんなで歌っていた曲が、今もこうして歌い継がれている。それって、本当に偉大なこと。やなせさんの詞の力も大きいです。誰にでも分かるようなシンプルな言葉で構成されているのに、その選び方や並びが本当に美しくて。子どもでもちゃんと理解できる歌詞って、実はすごく難しいんですよね」
――いずみたくさんのご親族が、ミュージカルシーンの撮影現場に来られていたと聞きました。
「“いせたくや”という人物と向き合っていた姿を見ていただけたのは良かったです。あとで『大森さんで良かった』とおっしゃってくださったと聞いて、本当に感無量でした。あれだけ大きな存在だった、いずみたくさんのすぐ近くにいたご親族に、役としての“いせたくや”を認めていただけたような気がして。救われましたし、心からほっとしました」
忙しい日々の原動力は?「“楽しい方がいい”と思える気持ちがすべて」
――“演技の日”と“音楽の日”では、朝起きた時の気持ちも違うものですか?
「違いますね(笑)。演技の日の方が、どこか“ちゃんとしなきゃ”って気持ちになります。音楽は、自分が言葉を扱う立場なので、“今、自分が何を感じているか”が最優先。でも演技の現場では、あらかじめ用意されたセリフや演出があって、そこにどう対応していくか、自分をどう使うかが求められる。音楽では、自分が“指示する側”になることが多いけれど、演技では“指示に応える側”になる。その違いはすごく大きいです。どちらが背筋が伸びるかと言われたら……演技の方が断然ピリッとしますね」
――創作を続けていく上で、嵩にとってののぶのような、支えになる存在は必要だと感じますか?
「絶対に必要です。別に恋人とかじゃなくてもいい。家族でも、友人でも、どんな関係性でも。自分をずっと見つめ続けるって、すごくしんどいし、独りでは無理だと思うんですよね。だからこそ、そばで“見ていてくれる誰か”の存在があるだけで、ものすごく救われる。何かしてくれなくてもいいんです。ただ、“そこにいてくれるだけでいい”。劇中の嵩とのぶの関係を見ていて、正直、ちょっとうらやましかったですね(笑)。『嵩、一番近くにあなたのことを認めてくれてる人がいるじゃん!』って、教えてあげたくなりました」
――最後に、現代の音楽シーンを象徴する存在ともいえるMrs. GREEN APPLEでの活動、映画「#真相をお話しします」での主演、そして今作での朝ドラ出演と、めまぐるしく駆け抜ける日々を送る中で、その原動力となっているものは何でしょうか?
「もともと、自分にすごく自信があるタイプではないんです。でも“せっかく生きているなら、楽しい方がいい”というシンプルな気持ちが、ずっと自分の中にあって。だからこそ、新しいことに挑戦する機会をいただけるなら、それは精いっぱいの愛情でお返ししたいんです。スケジュールだけを見ると、たしかにかなりハードなんですけど、心の状態としては全く苦じゃなくて。むしろ一つ一つの仕事が本当に楽しくて、毎日がすごく充実しています。その中でも、『あんぱん』はやっぱりちょっと特別な現場でした。音楽の仕事をしている時でも、“また『あんぱん』の現場に行きたいな”と思う瞬間があるくらいで。非日常を生きることが仕事になっている中で、『あんぱん』は“圧倒的な日常”を描いている。そういう場所に身を置くと、すごくリラックスできるし、癒やされるんです。それが、自然とモチベーションにもなっているんだと思います」

【プロフィール】
大森元貴(おおもり もとき)
1996年生まれの音楽家。作詞家・作曲家であり、バンドMrs. GREEN APPLE のフロントマン。Mrs. GREEN APPLEでは全楽曲の作詞/作曲/編曲、さらに作品のアートワークおよびミュージックビデオのアイデアまで、楽曲に関するすべての要素を担当している。また、デビュー10周年を迎える2025年を“MGA MAGICAL 10 YEARS”と称し、7月8日にアニバーサリーベストアルバム「10」をリリース。7月26日、27日に神奈川・山下ふ頭にて2日間で10万人動員のライブを行ったほか、全国の商業施設とのコラボレーションや全国での展覧会を開催。初のドキュメンタリー映画も製作する。個人の活動としては、21年にソロデビュー。今年、4月25日に公開された映画「#真相をお話しします」で初主演も務めた。
【番組情報】
連続テレビ小説「あんぱん」
NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15 ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月~金曜 午前7:30~7:45
取材・文/斉藤和美
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