Feature 特集

“青春敗者”にも光を…榊原Pが語る「ちはやふる-めぐり-」で描く新たな青春のかたち2025/07/16 07:00

“青春敗者”にも光を…榊原Pが語る「ちはやふる-めぐり-」で描く新たな青春のかたち

 日本テレビ系で放送中の連続ドラマ「ちはやふる-めぐり-」(水曜午後10:00)は、映画「ちはやふる」シリーズから10年の時を経て、“あの青春”の続きを描く完全新作のオリジナルドラマだ。

 原作は、末次由紀さんによる累計発行部数2700万部超の大ヒット漫画「ちはやふる」。競技かるたに情熱を注ぐ高校生たちの成長を描いた物語は、2016~2018年に広瀬すず主演で映画化され、多くの共感と感動を呼んだ。今回の主人公は、かつて夢に破れ、青春を諦めかけていた高校生・藍沢めぐる(當真あみ)。梅園高校にやって来た大江奏(上白石萌音)との出会いをきっかけに競技かるた部へと足を踏み入れ、新たな仲間とともに、全国大会を目指して“最強の瑞沢高校”に挑んでいく。

 映画版「ちはやふる」のプロデューサー・北島直明氏からバトンを託された榊原真由子プロデューサーに、新たな“めぐり”の物語に込めた思いを聞いた。

映画から10年、新たな“ちはやふる”が生まれるまで

“青春敗者”にも光を…榊原Pが語る「ちはやふる-めぐり-」で描く新たな青春のかたち

――まずは、本作の企画立ち上げの経緯から教えてください。映画版から10年という時間を経て、なぜ今「ちはやふる」を再び描こうと思われたのでしょうか?

「もともと映画『ちはやふる-結び-』が完成した時、北島さんやスタッフ陣、出演者たちの間で『10年後くらいにまたやれたらいいね』という話が出ていたそうです。その後、コロナ禍などを経て、『今こそ、もう一度“ちはやふる”を描く意味があるのではないか』と感じたタイミングで、原作者の末次由紀先生、そして映画版の脚本・監督であり今回ショーランナー(企画・脚本・演出の総責任者)を務めてくださっている小泉徳宏さんとともに、企画を立ち上げていきました」

――榊原さんがプロデューサーを務めることになった背景には、どのような思いがあったのでしょうか?

「北島さんも小泉さんも、映画制作当時はまだ30代前半で、映画界では若手と呼ばれる立場だったそうです。そんな中で『ちはやふる』という作品が大きなチャンスとなり、その成功が自分たちの“名刺代わり”になって、以降のキャリアにつながっていった。だからこそ今回は、俳優陣だけでなく、プロデューサーや監督、各セクションのスタッフまで、なるべく若い世代にチャンスを回していこうという思いが、チーム全体で共有されていました」

――その“バトンを受け取る側”として、榊原さんご自身はどんな気持ちで参加されたのでしょうか?

「私自身、大学生の時に映画『ちはやふる』シリーズを劇場で見て、原作も読んでいた“ファン”なんです。『こんな作品を自分も作りたい』という思いから、会社に青春ものの企画書を出していたこともあって。そのときに上司から『榊原さん、“ちはやふる”好きだったよね』と言われて、北島Pを紹介していただいたんです。だから今、こうして“続編”をプロデュースしていること自体が、自分にとっても夢のような出来事です」

――末次先生との企画立ち上げでは、どのような議論が交わされたのでしょうか?

「今回の企画に関しては、最初の根幹の部分から先生が一緒に話してくださっていました。『千早とはまったく違う主人公を描く』という方向性や、『コロナ禍を経た今の高校生のリアルな心情を描くべきではないか』といったことは、末次先生、北島プロデューサー、小泉さん、そして私も含めて、企画当初からじっくり話し合ったテーマです」

――企画を練る中で、特に印象的だったやりとりや言葉があれば教えてください。

「末次先生がおっしゃった『今の時代、青春はエリートだけのものになってしまっている気がする』という言葉が、とても印象的でした。本来“青春”って、誰もが経験してもしなくてもいいものだったと思うんです。でも今は、例えば甲子園を目指す高校球児や、全国大会に挑むような部活動の一部の子たちのように、“一つの目標に向かって突き進む青春”は、限られた人だけに許されたものになっているように感じます。それ以外の子たちは、将来のために勉強に励んだり、常に『意味のある時間を過ごすこと』が求められている。“無駄”を許されない空気が、当たり前になってしまっているんですよね」

――たしかに、“寄り道できる時間”がどんどん少なくなっている気がします。

「だからこそ『本当にそれでいいのかな?』という問いを、この作品を通して投げかけたかったんです。例えば、かるたもそうですけど、どれだけ強くなっても、それで生計を立てられるわけではないし、優勝しても大きな報酬があるわけでもない。でも、仲間と一緒に全力で駆け抜けたあの時間には、確かな意味があると思うんです。たとえ“結果”が残らなかったとしても、その時間は必ず自分のなかに積み重なって、人生の土台になっていく。物語の中でも『今この瞬間が、10年後、100年後に自分の宝物になる』というセリフが出てくるんですが、そうした“本質的な青春の価値”をちゃんと描きたい、というのは企画当初からずっと大切にしてきた思いです」

千早とは「まったく違う主人公」への挑戦

“青春敗者”にも光を…榊原Pが語る「ちはやふる-めぐり-」で描く新たな青春のかたち

――そのような議論を踏まえて、主人公・めぐるはどのようなキャラクターとして生まれたのでしょうか?

「末次先生とも『全く同じことはやりたくない』という話をしていました。同じような主人公、同じような物語を描くのであれば、それはもうリメークでいいと思うんです。でも今回は、“10年後の世界”を描くからこそ、令和の『ちはやふる』として新しいものを作りたいと考えました。『ちはやふる』の世界観や伝えたいメッセージは変わらなくても、まったく違う作品として立ち上げていこう、という方向性でした」

――まさに“続編”ではなく、“新章”ですね。

「そうですね。千早のように元気ハツラツで、猪突猛進に突き進む女の子とは正反対の主人公を描こうと考えました。思いを自分の中に秘めていて、それを少しずつ表に出していくような、そんな子がかるたを通して成長していく物語にしたかったんです」

――そんな“めぐる”を演じる當真あみさんを、主演に選ばれた理由は?

「今の10代を代表する実力ある女優さんで、主人公としてしっかり物語を引っ張ってくれる存在感があること。そして何より、『目できちんと芝居ができる』というのが決め手でした。『ちはやふる』って、映画もドラマも目のアップのカットが多いんです。だから、言葉や表情以上に、“目”で想いを伝えてほしい作品なんです。でも実際、それができる10代の俳優さんってとても少ないんですよね。當真さんは、その点で群を抜いていました。セリフじゃなく、目だけで感情が伝わってくる、そんな女優さんです」

――撮影が始まってから、當真さんの“めぐる”にはどんな印象を持たれましたか?

「當真さん自身と“めぐる”という役が、ある瞬間からかなり重なっていくような感覚がありました。彼女が主演に決まってから脚本を本格的に作り始めたので、ある意味では当て書きに近い形で、彼女をイメージしながら作っていった部分もあります」

――それは、現場での様子にも表れていたのでしょうか。

「彼女は普段はおしゃべりもするし、明るいところもあるんですが、決して“超社交的”というタイプではないんです。でも現場で学生キャストの仲間たちと打ち解けていって、心をどんどん開いていく様子が見ていて伝わってきました。かるたの練習を通じて彼女が上達していく姿も、“めぐる”というキャラクターの成長とリンクしていて。まさに“役と一体化していく”瞬間を、何度も目の当たりにしました。今、このタイミングで當真さんが“めぐる”を演じてくれて本当に良かったと感じています」

“青春敗者”にも光を…榊原Pが語る「ちはやふる-めぐり-」で描く新たな青春のかたち

――主人公の名前“めぐる”には、百人一首の「めぐりあひて」の歌(※)が関係しているのでしょうか?
(※百人一首第57番 「源氏物語」の作者として知られる紫式部が詠んだ「めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に雲がくれにし夜半の月かな」)

「はい。最初に“めぐりあひて”という百人一首の歌をテーマにしようと決まって、そのあとで主人公の名前を“めぐる”にしようと決めたんです。ショーランナーの小泉さんが『今回の“ちはやふる”は“めぐりあひて”だね』とおっしゃって。めぐると凪という2人の友情や嫉妬、ライバル心といった感情を描くうえでも、友情の歌である“めぐりあひて”がぴったりだと思ったんです。全話を通して、“めぐりあひて”というテーマが物語の芯にあります」

――主要キャストの選出についてもこだわりがあったと聞いています。

「當真あみさん、齋藤潤くん、原菜乃華さんの3人はキャスティングで決まりました。それ以外の学生キャストの皆さんは、オーディションで選ばせていただいています。齋藤くんが演じる風希という役は、完全に当て書きでした。齋藤くん自身とは決して性格が近いというわけではないのですが、それでも“彼が演じる風希”が最初からイメージできていて、結果的に彼を思い浮かべながらキャラクターを作っていきました」

――そして、凪役にはめぐると対になる存在としてのバランスを意識されたのでしょうか。

「そうですね。めぐるが千早とはまったく違う、“思いを内に秘めるタイプ”の子だとしたら、そのライバルには“千早のような子”が必要だと思ったんです。つまり、めぐるが“千早を超えていく”物語にするためには、彼女の向こう側に“千早的な存在”がいなければならない。凪はその象徴的なキャラクターです」

――その“千早的存在”として、原さんを選ばれた理由は?

「“千早のような華やかさ”や、“その場にいるだけで空気が変わるような明るさ”を持った子ってなかなかいません。でも原菜乃華さんには、それがある。キャスティングの段階で“この子しかいない”と思ってお願いしました。実際、登場シーンを撮った時に“あ、凪が来たな”って思えたんです。まるで“ラスボスが出てきた”かのような圧倒的な空気を持っていて、『さすがだな、間違ってなかった』と感じました。凪は千早に憧れているという設定でもありますし、“千早の次の世代を担う存在”としても、原さん以上にふさわしい方はいないと思っています」

“ちはやふる”のバトンがつながる時

――千早役の広瀬すずさんをはじめ、映画版キャストの皆さんが再集結することも大きな話題となっていますが、撮影現場での様子はいかがでしたか?

「あの7人が、それぞれの役を背負って現場に集まった時は、もう、いちファンとして『なんて夢みたいな光景なんだろう』って思ってしまいました。映画『結び』で物語は完結したと思っていたので、まさかその続きを自分が手がけることになるなんて、私自身、本当に驚きでした。皆さんお忙しいので、スケジュールを1日合わせるだけでも非常に大変で。でも、それでもみんなが集まってくださって、それぞれが現場に入った瞬間、すっと自分の役に戻っていかれるんです。その姿を見て、グッときました」

――新キャストの皆さんとの関わりはどうでしたか?

「新キャストのみんなは、映画キャストの皆さんのことをキラキラした目で見ていて、最初はちょっとおそるおそる近づいてみたり、話しかけたりしていました。でも映画キャストの皆さんが、とても優しくて、温かく包み込んでくださって。学生キャストたちも“映画版ちはやふる”が大好きなんですよ」

――世代を超えた“ちはやふる愛”が現場にあったんですね。

「本当にそうです。映画キャストがいないときでも、新キャストたちが『このシーンってこうだったよね』って言いながら、まるで劇中のワンシーンを再現するように、休憩時間に遊んでいたりして。見ていて、こちらまで幸せな気持ちになりました」

“青春敗者”にも光を…榊原Pが語る「ちはやふる-めぐり-」で描く新たな青春のかたち

――映画版にも出演されていた上白石萌音さんが、今作では“奏先生”として登場します。今回の役にはどのような意味が込められているのでしょうか?

「奏という役には、大きく二つの意味を込めています。一つは、かつての『ちはやふる』の世界で千早たちと歩んできた存在として、生徒たちを導く“先生”という立場。もう一つは、20代半ばの女性として、夢と現実の間で揺れる等身大の葛藤を抱えていることです」

――かつての“親友”としての視点も含まれているんですね。

「そうなんです。奏は千早の親友ですが、千早のように一直線に夢を追ってきたわけではない。どこかで千早に対するコンプレックスもあると思います。卒業アルバムが劇中で出てくるのですが、千早は“かるたクイーンになる”、太一は“医者になる”と書き、それを実現している。でも奏だけは、“専任読手”という夢をまだかなえられていない。その現実が、ずっと彼女の中にあるんです」

――今はまだ、夢の途中にいるキャラクターなんですね。

「はい。奏は非常勤の立場で、自分でも『私、何やってるんだろう』と思っている部分がある。その気持ちって、多くの人にも通じると思うんです。10代の頃に思い描いた未来の自分になれている人は、そう多くない。だからこそ、そんな葛藤を“ちはやふる”の中で描くなら、奏というキャラクター以外には考えられませんでした。そして、それを演じられるのは、やっぱり上白石さんしかいないと思いました」

――実際の現場では、どんな存在でしたか?

「まさに“先生”でした。生徒たちを心から大切に思い、まるで本物の教師のように温かく見守ってくれていました。押しつけることなく、でも誰かが助けを必要とするときには、そっと寄り添って『こういうこともあるよ』と手を差し伸べてくれる。学生キャストたちもとても慕っていましたし、スタッフにとっても、上白石さんがいてくださることで“ちはやふるの世界観”をもう一度立ち上げることができたと思っています。本当にたくさん助けていただきました」

“青春敗者”にも光を…榊原Pが語る「ちはやふる-めぐり-」で描く新たな青春のかたち

――シリーズを知らない方でも楽しめるよう、どんなことを大切にされましたか?

「『ちはやふる』を知らなくても、100%楽しんでいただける内容になっています。10代のキャラクターたちは本当に真っすぐに青春を謳歌していて、若い世代には『自分もこうなりたい』『自分だったらこうするかも』と感じてもらえるような青春ドラマとして描いています。そして、今回は“青春敗者”たちも主人公です。思い描いた未来にまだ辿り着けていない大人たちの姿を描くことで、20代以降方にもきっと共感してもらえると思っています」

――親世代にも響くような、家族のドラマとしての見どころもあるのでしょうか?

内田有紀さんと要潤さんが演じるめぐるの両親のエピソードは、中盤の大きな軸になる部分で、”誰も悪くないのにズレていく家庭”というリアルな姿を丁寧に描いています。特に第5話の家族の回は、親世代の方にはグッとくるものがあるはずです。実際、要さんも『娘だったらと思うと見ていられない!』とおっしゃっていて、心を揺さぶるエピソードになっています」

――物語への深い愛情が随所に感じられて、作品を見届けたい気持ちが高まりました。現在はどんな思いでいらっしゃいますか?

「今はもう、ドキドキとワクワクの間で揺れてますね(笑)。多くの方に見ていただきたい気持ちがある一方で、『楽しんでもらえるかな…』という不安も正直あります。でも、自分で完成版を見て『面白い!』って純粋に思えたんです。手前みそですが(笑)、すごく楽しんで見ました。全世代が楽しめて、胸に響く作品になっていると思います。ぜひ多くの方にご覧いただけたらうれしいです」

“青春敗者”にも光を…榊原Pが語る「ちはやふる-めぐり-」で描く新たな青春のかたち

【番組情報】
「ちはやふる―めぐり―」

日本テレビ系 
水曜 午後10:00~午後11:00



この記事をシェアする


Copyright © TV Guide. All rights reserved.