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「べらぼう」風間俊介が語る鶴屋への思い―“国宝”横浜流星への敬意と鶴屋の変化【後編】2025/07/05 12:00

「べらぼう」風間俊介が語る鶴屋への思い―“国宝”横浜流星への敬意と鶴屋の変化【後編】

 NHK総合ほかで放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(日曜午後8:00ほか)で、主人公・蔦屋重三郎(横浜流星)のライバルとして立ちはだかる地本問屋・鶴屋喜右衛門を演じる風間俊介に前後編でインタビュー。

 江戸の地本問屋を束ねる立場にありながら、蔦重の才能を認めつつも、あえて距離を置くという複雑な感情を抱える鶴屋喜右衛門。その揺れる心情を、絶妙なバランス感覚で演じている風間。6月29日放送の第25回では、浅間山の噴火によって江戸の町に降り積もった灰を巡り、本屋たちが競い合う“灰捨て競争”が展開。蔦重と鶴屋がその騒動をきっかけに歩み寄り、ついに和解に至る印象的な場面が描かれ、これまでとは異なる鶴屋の“笑顔”が話題となった。

 前編では、“原点回帰”とも語った一癖ある役柄への思いや、灰捨て競争での熱演について語ってくれた風間。後編では、共演者・横浜への思い、史実とドラマの関係性、そして吉原という舞台への複雑な視線を通して、鶴屋という人物像にさらに深く迫っていく。

笑顔を守りたい――風間俊介が語る“国宝”横浜流星

「べらぼう」風間俊介が語る鶴屋への思い―“国宝”横浜流星への敬意と鶴屋の変化【後編】

――横浜さんとの共演について、改めて印象を教えてください。

「まさに“国宝”ですよ、彼は(笑)。ストイックで物静かで、現場でも黙々と立っているタイプですが、その姿勢がまたミステリアスでもあって。しかも、あれだけ真摯(しんし)に作品と向き合っているから、見ていて気持ちがいいんです。そんな彼が、あのからっとした江戸っ子・蔦屋重三郎を演じているのを見て、正直しびれました。もし普段から“飲みに行こうよ!”みたいな陽気なタイプだったら、また違った印象だったかもしれません。でも彼は、自分の中でしっかりと蔦重像を築いて、それに一貫して取り組んでいたと思います」

――共演して感じた、横浜流星さんの俳優としての魅力とは?

「本当に“きれいな人”だと思います。もちろん見た目も整っていますが、それ以上に、たたずまいや立ち姿、芝居の出し方に品がある。自分にはない“豪快さ”をシームレスに表現していて、その姿に俳優としての美しさを感じます。顔だけじゃない、美しさがある人ですね」

――第25回の撮影現場では、どんなやりとりが印象的でしたか?

「長く一緒に撮影していると、少しずつ談笑の機会も増えてきて、それがうれしかったんです。『あ、流星くんが笑った!』って(笑)。しかも、自分の言葉で笑ってくれた時はやっぱりうれしいですよね。灰捨て競争の場面では、演技だけじゃなくて、身体のタイミングやリズムも重要だったので、『ここ、少し遅らせるね』『じゃあ俺がそこで抜き返す』といった細かいやりとりを一緒にしていました。『同時にゴールしたほうが絵的にいいんじゃないか』って相談したり、下駄を履いていたので『ちょっとここ、抑えてもらっていい?』と助け合ったり。そういう細かいコミュニケーションができる、信頼できる相手でした」

――そんな横浜さんが大河ドラマの主役という重責を担う姿を、どう見ていましたか?

「普通だったら、『ここまでは頑張るけど、この先はちょっと楽をしようかな』って思う瞬間もあると思うんです。でも流星くんはそうじゃない。最初から“全部背負ってスタートを切る”という姿勢で、そのエネルギーはすごいと思いました。物語の“原動力”になるには、最初の一歩に一番大きな力が必要ですよね。車輪が動き出す時って、一番エネルギーがいる。彼がその最初を支えてくれたからこそ、現場全体も少しずつ走り出せた。だからこそ、今、彼が見せている笑顔には大きな意味があると思うんです。どれだけの覚悟とエネルギーでこの作品に臨んでいたかを知っているからこそ、その笑顔がいとおしく思えるし、『今の笑顔を守りたい』って、心から思います」

吉原、才能、そして江戸――鶴屋を通して見えたもの

「べらぼう」風間俊介が語る鶴屋への思い―“国宝”横浜流星への敬意と鶴屋の変化【後編】

――作中では吉原に対する複雑な感情も描かれていますが、鶴屋はどのような思いを抱いていたと思いますか?

「これはあくまで僕自身の意見なんですが、鶴屋さんが吉原で働く人たちを『直接的に』差別していたかというと、そうではなかったと思うんです。ただ、彼らと関わることで、自分の店の品格とか、本屋業界全体の信用に関わってくる、という意識はあったんじゃないかと。忘八のメンバーが言う『誰が彼女たちの面倒を見るんだ』っていう言葉についても、鶴屋の中には、その“面倒を見る”という言葉に対する違和感や疑いもあったのではないでしょうか。つまり、女郎そのものを差別していたわけじゃなくて、彼女たちを管理している仕組みに対して、軽蔑のような感情を持っていたのかもしれません。」

――蔦重を受け入れたのは“吉原”を認めたからでしょうか、それとも純粋に“才能”を評価したからでしょうか?

「蔦重に関しては、“才能”だったと思います。第25回って、鶴屋と蔦重の和解の話でもあるけれど、“吉原との和解”の物語でもあるような気がするんです。でも、あのドラマの中では、『忘八と話し合って和解した』という描写は一切ないんですよね。あっさりとした江戸の粋みたいなもので、ふっと“和解”している。そこがまた面白いなと思っています」

――風間さんご自身の経験の中で、“認めてはいたけど認めるわけにはいかなかった”という、鶴屋と蔦重のような関係に近いエピソードはありますか?

「うーん、どうでしょうか…。僕も『自分以外の人はみんなうらやましい』って思う瞬間があります。でもそれも含めて、“人間ってそういうものだよね”と受け入れてしまっているところがあるんです。自分にないものを持っている人をうらやましく思うのは当然のこと。でもその一方で、誰かが僕のことをうらやましく思ってくれているかもしれない。そう考えると「お互いさまだよね」って、自然と気持ちが落ち着くんです。特定の誰かじゃなくて、“全員”に対してそう思っているのかもしれません」

――誰かを“ライバル視”するような感覚は?

「あまりないですね。誰か一人に執着してしまうと、どうしてもそこに引っ張られてしまう。だったらいっそ『全員がうらやましい』と思っておいた方がいい。それが自分のやり方に集中するための指針にもなるんです。誰かのようにはなれないし、自分は自分でいこうって。ちょっと肩の力を抜いたくらいが、自分にはちょうどいいのかなと思っています。その上で、自分の積み重ねてきたものに対して『風間さんのやり方、すてきですね』って言ってもらえると、本当にうれしいし、ありがたいです(笑)。そういう言葉をかみしめながら、また次の現場に向かっています」

――これまでも歴史ドラマに出演されてきましたが、今作の特別さはどこにありますか?

「これまでも『麒麟がくる』で家康公を演じたり、戦国や明治維新の時代を描いた作品に参加してきましたが、“江戸中期”というのは、戦のない比較的平和な時代ということもあって、あまりドラマでは描かれてこなかったんです。だからこそ、今回のように“戦ではない戦”を描いた大河ドラマは、とても特別だと感じています。町人役を演じたこともありますが、これまでは“江戸”という大きな枠の中での表現が多く、ここまで日本橋といった具体的な町名や地域性を伴って、そこに暮らす人々の姿を丁寧に描いた作品には、なかなか出会えませんでした。そういった意味でも、今回は“戦のなかった江戸”の時代を、生活者の視点から細やかに描く作品であり、自分にとってもかけがえのない一本になっています」

――東京出身として、江戸時代を演じることへの思いはありましたか?

「僕、両国中学校の出身なんですが、学校のすぐそばに江戸東京博物館があるんです。街を歩けば、日本橋の線路沿いの壁に浮世絵がアートとして描かれていたりして。そういうものに囲まれて育ったことを、今になって“幸せな環境だったな”と感じています。当時は浮世絵に特別な関心があったわけではなく、日常に溶け込んでいた感覚でした。でも今回の作品に関わってみて、その背景がどれほど貴重だったのかを改めて実感するようになりました。ドラマの後の「べらぼう紀行」を見ていると、ナレーションとともに自分が知っている景色が映ることがあるんです。『この神社は今もあるんですよ』という紹介があって、『あ、あそこの角を曲がったところだ』と。まさに“地元を学び直している”気持ちですね。」

変わる距離感、変わらない信頼――鶴屋と蔦重のこれから

「べらぼう」風間俊介が語る鶴屋への思い―“国宝”横浜流星への敬意と鶴屋の変化【後編】

――物語が進むにつれて、鶴屋と蔦重の距離感にも変化が見えてきました。今後、鶴屋は蔦重にどう向き合っていくと考えていますか?

「蔦重が『こういうことがやりたい』と情熱を語った時に、鶴屋は『気持ちは分かりました。でも、それを実現するには何が必要か、考えていますか?』と冷静に問い返すタイプ。歌麿なら『応援しているよ』と背中を押すかもしれませんが、鶴屋は感情だけでは動かない。『必要なのはこれとこれ。その覚悟はありますか?』と、あくまで事務的に突き付けてくる。でも、そこにちゃんと愛があるんです。台本を読んでいても、『これ、笑いながら言っているだろうな』と感じるような、耳の痛いことを柔らかく伝える距離感。いかにも“鶴屋らしい”接し方だと思います」

――そうした中で、鶴屋という人物自身はどのように変わっていくのでしょうか?

「全部が変わるわけではないんです。これまで通り皮肉も言うし、時にはくぎを刺しにも来る。でもそれが“応援しているからこそ”という立ち位置に変わってくる。そこが森下さんの脚本のすてきなところで、鶴屋という人間の“変わらなさ”と“変化”が同時に描かれているんです。変わってはいないと思います。『もう何だかんだ、最初から好きだったんじゃん』みたいな、ツンデレ的な感覚じゃないですが(笑)。蔦重のことが好きなんだなと、物語を読みながら、演じながら感じています」

――2人は、史実でも一緒に本を出していた記録があるそうですね。

「そうなんです。調べた限りでも、蔦屋と鶴屋が共同で本を出すことはあったようです。なので、物語の中ではライバル関係に見えるかもしれませんが、実際は“ライバルですらない”、もっと“仲間”だったのではと思っています。もちろん、『あちらが良いものを出したなら、こちらも負けないものを出したい』という競争心はあったと思いますが、どちらが勝っても“地本問屋全体の利益になる”という考えだったのかもしれませんね」

――2人の関係はこの先どう発展していくと感じていますか?

「SNSで『鶴屋と蔦重が日光旅行するほど仲良くなるなんて!』という声を見かけて、僕自身もクスッとしたんですが(笑)、実際には、蔦重が耕書堂を立ち上げて日本橋に進出していく過程で、鶴屋とともに時代を盛り上げていったようです。これから出版業界にとって厳しい時代が訪れる中で、2人は力を合わせて乗り越えていく。視聴者の方には『まさかこの2人が!?』と驚かれるかもしれませんが、戦友のような関係になっていくのだと思います」


【プロフィール】
風間俊介(かざま しゅんすけ)
1983年6月17日生まれ。東京都出身。A型。7月3日スタートのドラマ「40までにしたい10のこと」(テレ東系)、7月7日スタートのドラマ「明日はもっと、いい日になる」(フジテレビ系)にも出演。


【番組情報】
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45

文/TVガイドWeb編集部



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