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海外リゾート開発最前線~バリ編2025/06/19 12:00

海外リゾート開発最前線~バリ編

メディア人に企画のネタを提供する「メディアのネタ帳」。最新スポットやトレンド、注目の人物などさまざまな話題を紹介する。今回は90年代以降はホテル業界に一石を投じ続けてきた「星野リゾート」のバリでの商品開発の軌跡を紹介する。

 1914年、軽井沢で温泉旅館としてスタートした星野リゾート。90年代以降はホテル業界に一石を投じ続けてきた。そんな同社が海外で初めて一から立ち上げた高級リゾートが、2017年1月にオープンしたインドネシアの「星のやバリ」だ。

 星野リゾートのさまざまなブランドのうち、「現代を休む日」をコンセプトに、日常から離れた上質な時間を提供する高級リゾート「星のや」。ブランドの価値観は共有しながらも、それぞれの土地の特性や文化を最大限に生かし、独特の世界観をつくり上げている。バリ文化の中心地として知られるウブドにある「星のやバリ」のコンセプトは「聖なる川に向かう運河の集落」。

 緑豊かな渓谷に接する約3ヘクタールの敷地は、プール沿いに建てられたバリ伝統建築のヴィラ、渓谷を臨むダイニング、ジャングルの上にせり出して宙に浮かんでいるようなガゼボなどから構成されている。空間はプライベートゾーンからパブリックゾーン、そして周囲の自然へと緩やかにつながり、ウブドの一つの集落の中で暮らしているような感覚で過ごすことができる。

 「バリらしさを引き出しつつ、ところどころにほんのり日本らしさを感じられる要素もあります。たとえば、空間をすべてゆったりとるのがリゾートの基本ですが、ここではあえて動線の一部を狭めて路地のような雰囲気を出しています」と語る、総支配人の廣瀬真人さん。ただし、どこまで日本らしさ、星のやらしさを演出するかについては模索中だと言う。

 「お客さまのうち、日本人の割合は約45%ですが、それ以外の国の方でも、星のやについて詳しく知らないまでも、日本のブランドということで期待されて来られる方もいらっしゃいます。日本人を含め、そうした層を意識すべきかどうか。もちろん、だからといって茶室をつくろう、といったことではありません」星のやバリはまったく新規で立ち上げたリゾートとあって、現地での情報やノウハウが少なく、運営面でもさまざまな苦労があった。

 「インドネシアの労働法など法律について学ばなければなりませんでしたし、現地スタッフの雇用条件や福利厚生を決めるのも基準が分からなくて大変でした。現地の一般的な待遇は日本ほど手厚くないので戸惑いましたが、かといって日本と同じにしてしまっては周囲とのひずみも生じます」

 また新しい商品開発に当たってオリジナルの什器が必要となっても、当然付き合いのあるサプライヤーはいない。製作できる工場や職人をあちこち聞き回って探したと言う。

海外リゾート開発最前線~バリ編

 「でも、一番苦労したのは人材の育成ですね」。フラットな組織づくりが特徴の星野リゾートでは、スタッフは自分で考えて行動し、さまざまな業務をマルチタスクで担う。しかし現地スタッフは、担当の役割をマネージャーの指示で行うことに慣れていたため、大いに戸惑った。その意識を変えるために、根気よく対話を重ねていったという。「事前にインドネシア人の傾向を聞いて覚悟はしていました。しかし日本とまったく違うわけではないし、日本でも変化に抵抗のある人はいます。言葉の壁もあって時間はかかりましたが、少しずつ前進して、確実に育ってきています」と、廣瀬さんは語る。

 運営体制が整っていなかったために着手できていなかった滞在プログラムも2018年11月から徐々に提供できるようになった。土地の文化や歴史を取り入れた体験型の滞在プログラムは、星野リゾートが手がけるリゾートの魅力の一つ。各施設では、どんな魅力を発信するかについて話し合う「魅力会議」を定期的に行い、新しい商品を開発する。「トップダウンではなく、各施設の魅力を一番よく理解している現場スタッフからの提案なので、充実したものがつくれます」

 これまでに販売した商品は、バリ伝統舞踊と食事・スパトリートメントを合わせたウェルネスプログラム「バリ舞踊美人滞在」、ムルカット(沐浴)やヨガなどが体験できるウェルネスプログラム「賢者の養生」、スタッフに教わりながら草花を使ったお供えを作るアクティビティ「バリニーズの手仕事体験」、インドネシア語で軽食やおやつを意味するチャミランをガゼボで楽しめる「チャミランガゼボ」、インドネシア伝統のろうけつ染め布「バティック」を作るアクティビティ「バティック サヤ」など。初めのうちは日本人社員主導で企画し、細部まで詰めていたが、次第に現地スタッフからアイデアが出てくるようになった。「バリの魅力を発信するには、文化についてよく理解している現地スタッフの発想が不可欠です。また逆に、外から訪れた人にとっては新鮮で興味深く感じるけれど、地元民にとっては当たり前で面白さに気付いていないものもあります。そこを対話によってうまくアイデアを引き出すのが日本人スタッフの役割だと考えています」

 今後は現地スタッフの育成とともに地域とのつながりを深め、もっとディープなもの、これまで観光資源とされていなかったものを新しい商品として発信していきたいと言う廣瀬さん。星のやバリは、これからも成長を続けていく。

※ 情報は取材時点のものです。



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