灯りの進化論〜ガソリンランタンの歴史2025/06/12

メディア人に企画のネタを提供する「メディアのネタ帳」。最新スポットやトレンド、注目の人物などさまざまな話題を紹介する。今回はキャンプ用品のトップブランドとして創業120年を迎えた「コールマン」の軌跡を紹介する。
2021年で創業120年を迎えるキャンプ用品のトップブランド「コールマン」。アウトドアライフを楽しくしてくれるユニークな製品を生み出し続けてきたコールマンのオリジンであり、今なお中心的な存在の製品がマントル式のガソリンランタンだ。
「個人的な見解ですが、創業当時のコールマンのライバルは、エジソンだったと思うんです」と語る、コールマン ジャパン株式会社代表取締役社長の中里豊さん。世界最大手のキャンプ用品メーカーであるコールマンだが、その歴史はランプのレンタル会社として始まった。まだ芯を用いる旧式のランプが照明の主流だった19世紀末、弱視に悩んでいた大学生のウィリアム・コフィン・コールマンは、ガソリンを燃料とするマントル式のランプ、いわゆるエフィシェントランプに出合い、その明るさに感動。1901年にこのランプの専売特許を取得し、コールマンブランドの創業を開始した。
当時の他社製品は質が悪かったため苦労したが、やがて自社開発を行ってコールマンブランドで販売を始めると、徐々にその名は全米に知られるようになっていった。エジソンが商用化に成功した白熱電球による照明は都市部では普及しつつあったが、地方ではまだ無縁のもの。1914年に発売した初の屋外用全天候型ランタン「アークランタン」は“The sunshine of the night(真夜中の太陽)”と讃えられ、地方の人々の生活を一変させたのだ。
そして第一次世界大戦後、アメリカでオートキャンプが流行し始めるとランタン以外にガソリンストーブの製造販売を開始し、1923年に現在の「ツーバーナー」の元祖である「キャンプストーブ」、42年には米軍の要請で開発した「GIポケットストーブ」など、エポックメーキングな傑作を生み出した。
その後もクーラーボックスやテント、寝袋といったさまざまなキャンプ用品をラインナップに加え、キャンプ用品業界のトップ企業へと成長していったコールマンだが、コーポレートマークにランタンがあしらわれていることからも分かるように、ランタンは同ブランドの象徴的な存在だ。

現在、コールマンのガソリンランタンにはワンマントルランタン、ノーススターチューブマントルランタン、パワーハウスツーマントルランタンの3種があるが、いずれも基本的な仕組みは1914年のアークランタンから変わっていない。それぞれ愛用者の多いキャンプの定番アイテムだが、とりわけ人気が高いのがベーシックなワンマントルランタン。32年に登場した“ジュニア”の愛称で親しまれたモデル242に始まり、赤の塗装から“ザ・レッド”と呼ばれたモデル200Aなどを経て、現行モデルの286Aに至っている。
ホワイトガソリンをタンクの8分目まで入れ、引き出したポンプノブを50回ほど押し引きして圧をかける。取り付けたマントルを空焼きした後、燃料コックをオンにして点火すると、「コォー」という独特の燃焼音とともに暖かな光が闇を照らす。
「着火の音を聞くと、キャンプの夜が始まるなぁという気持ちになりますね。人の声が混じっても雑音に聞こえないこの音はガソリンランタンのよさの一つです」と語る、中里さん。
「そして明るさ。全体が灯されて、そこに一つの空間が作られる。またクラシカルな形や、使うほどに自分に合ってくるところも多くの人から愛されている理由でしょう」
所有するとつい語りたくなる魅力があるというガソリンランタンは、モノが好きな日本人の気質によく合っている。コールマンでは、現在ガソリン式のほか、ガスカートリッジ式やLED式のランタンを販売しているが、日本ではガソリン式のシェアが約半分を占めるのに対し、本国アメリカではごくわずか。LED式が圧倒的なのだそう。「アメリカ人からは『なぜ日本人はガソリンランタンを買うの?』と不思議がられます(笑)。向こうではより日常的にアウトドアを楽しんでいるので、合理的に手軽さを求めますが、日本では限られた休日を特別なものにしたいという思いが強い。だから手間がかかっても非日常感を味わえるガソリンランタンを好むのでしょうね」
コールマン ジャパンが日本で販売している製品のうち、約7割は日本市場向けに独自に開発したもの。残りは日本仕様にアレンジしたものかアメリカ仕様そのままのものだが、ガソリンランタンやクーラーボックスは後者に当たる。「斬新で、面白いものを最初に出すのがコールマン。スタッフは10年、20年といったキャリアのある者も多く、みんなキャンプ好きで、一番厳しい消費者はスタッフかもしれない。こんなキャンプしたいというアイデアが先にあって、それを実現できるモノが生まれる。リサーチに頼らず、とにかく作って出してみてから考えるような気風があります。それはアメリカも日本も変わりませんね」と語る中里さんだが、そんななかでワンマントルランタンの現行モデル286Aは1987年の登場以来、ほぼ仕様を変えないまま30年以上も販売されている。
「大きく変わったのは、注意書きが日本語になったことぐらい。モデルチェンジしようと考えたこともあるのですが、結局『変えなくてよい』となる。それだけ完成された製品です。広告の必要もなく、優秀なわが子(笑)。売れているとうれしいし、売れ行きが下がると寂しくなる。単なる商品を超えたバロメーター的な存在ですね」
※ 情報は取材時点のものです。
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