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パラ競泳界で活躍し続けている木村敬一選手、東京パラリンピックで悲願の金メダルを目指す2019/09/04

Cheer up!アスリート2020

 北京から3大会連続でパラリンピックに出場し、複数の銀&銅メダルを獲得した木村敬一。米国でのトレーニングで精神的にも肉体的にも進化したパラ競泳界の日本のエースは、東京パラリンピックで悲願の金メダルを目指す。

心も体も、前へ!

 2歳の時、先天性疾患による網膜剥離で全盲になった木村敬一。小学4年生だった10歳の時に、「水の中にいればケガをしにくいから」との理由で、母親から水泳を勧められたという。

「水に対する恐怖心は特になくて、すぐに慣れました。最初にクロールを覚えて、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライといろんな泳ぎ方ができるようになっていくのがうれしかったです」

 学生時代にどんどん水泳にのめり込み、2008年、高校3年生の時に北京パラリンピックに出場。それを皮切りに、12年のロンドン大会、16年のリオ大会と3度パラリンピックに出場する。

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「北京は初めてのパラリンピックだったので、緊張やプレッシャーというよりも、舞い上がっている間に終わってしまった感じでした。出場したことが自分の経験としてきちんと刻めていなかったので、ちょっと後悔しました。それで2回目のロンドンでは“メダルを取りたい”という強い思いを持って臨みました。北京の時の何倍も緊張しましたが、結果として銀メダル、銅メダルが取れて、今も良い思い出として残っています。ただ、リオの時は『どの種目でも金メダルを取る』ことを目標にしていて取れなかったので、僕にとっては“負け”の大会でした。どの種目で泳いでも勝てないという苦い思い出です。もちろん銀や銅も素晴らしいことは分かっているのですが、そこに満足できなくて…。表彰台に上がっても、うれしい思いで上がれない自分がいました」

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 世界選手権で金メダルを獲得して世界一にもなったが、やはり“パラリンピックで勝ちたい”との思いは強かった。そんな彼は18年、捲土(けんど)重来を期して、トレーニングのために単身アメリカに渡る。英語も話せない状態での大きな決断だった。

「アメリカで生活してみて、楽観的になりました。以前は“もっとこうだったらいいのに”と思ってしまうこともありましたが、“どうにもならないことは仕方ない。今自分が置かれている状況下でどれだけベストを尽くせるか”というふうに考えられるようになりました。そういう精神面での成長は大きかったと思います。その上で、競技の記録も伸びているので、すごく良い緊張感を持ってトレーニングができていると思います」

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 アメリカで練習する場を紹介してくれたのは、ロンドンとリオパラリンピックの金メダリストで、木村のライバルとも言われているブラッドリー・スナイダー選手。彼との交流は木村にとって大きかったという。

「泳力はもちろん、彼の人柄やアスリートとしての意識なども含めて尊敬しています。彼は元アメリカ海軍の兵士で、任務中の爆破で失明した人。兵隊さんが失明して戦場に行けなくなるのは不本意だったと思いますが、そこから新たにパラリンピックで戦うという姿が素晴らしいと思います。彼はパラリンピックをすごく大きな視点から見ている印象を受けますし、学ぶことは多いですね」

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 木村は、メディアやスポーツイベントなどにも積極的に出演しており、日本パラリンピアンズ協会の理事も務めるなど、パラリンピックの魅力を多くの人たちに伝えるための活動に力を尽くしている。

「僕にできることは、泳ぐことでパフォーマンス力の高さを見てもらい、“たとえ光を失ったとしても、人類はトレーニングによってこれだけのことができるんだ”と知ってもらうこと。そのためにパラリンピックの魅力を発信していきたいと思いますし、パラリンピックにとどまらず、スポーツ自体の素晴らしさまで伝えられたらいいなと思っています」

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 東京大会への出場が決まれば、自身4度目のパラリンピックとなる。悲願の金メダル獲得も含め、並々ならぬ思いで臨む。

「パラリンピックは、何回出ても慣れることがありません。まぁ、20回くらい出れば分からないですが(笑)。大会を追うごとに自分の中での重みは増しています。次は過去3大会分の重みを背負うわけで、しかも自国開催ですから、もう気合が入るどころの話じゃない。もしかしたら、次が東京じゃなかったら(出場を)目指していなかったかもしれない。それくらいの思いでいます。パラリンピックでは金メダルを取れていないので、ぜひ取りたいですし、自国開催というめったにない機会を日本中の皆さんと一緒に盛り上げていけるよう頑張りたいです」

 屈託のない表情の中に、一筋の熱い闘志を秘める木村。東京パラリンピックでどのような活躍を見せてくれるのか。日本のエースが輝く姿に注目したい。

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【TVガイドからQuestion】

Q1 水泳以外で関心の高いスポーツを教えて!
野球が好きです。同じ球技でもバスケットボールやサッカーは何が起きているのか分からないのですが、野球は局面やそれぞれの役割がはっきりしているから楽しめるんです。多分、球技の中で一番視覚障がい者向けだと思います。

Q2 試合の前にしていることを教えて!
まず、音楽は聴かないですね。耳をふさぐのが嫌で、周りの様子をずっと感じていたいんですよ。だから、レース前は周りの人としゃべっています。僕の近くにいる人は大変だと思いますよ。「うるさいなぁ、あいつ」って(笑)。

Q3 “2020”にちなんで、“20”歳の頃の自分に言いたいことを教えて!
20歳の頃だと、大学2年生ぐらいですよね。「しっかりしろよ!」と言いたいです(笑)。楽しかったんですけど、すごくしょうもないことしかしていなくて、生活も不規則でした。すごく人生を無駄にしていたんじゃないかと思います。

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【パラリンピック水泳とは?】
機能障がい、視覚障がい、知的障がいなどの選手が活躍。選手は障がいの種類やレベル、運動機能によって予めクラス分けされていて、そのクラスの中でタイムを競う。ルールは一般の競泳に準じているが、障がいによって一部規則が変更されている。例えば視覚障がい選手の場合、ゴールタッチやターンの際に壁にぶつかってけがをするのを避けるため、コーチがタッピングバー(合図棒)を使って選手の体に触れ、壁の接近を知らせるようになっている。

【プロフィール】

木村敬一(きむら けいいち)
1990年9月11日、滋賀県生まれ。おとめ座。O型。

▶︎10歳で水泳を始め、数多くの大会に出場。最も印象に残っている大会は、2006年、高校1年生の時にマレーシアで行われた「フェスピック競技大会」。「平泳ぎのレースの時、隣のタイの選手がすごく速くて、自分がターンをする随分前に、彼とすれ違って波をかぶったんですよ。“この人、こんなに前を泳いでいるんだ”と。ある意味、“世界”というものを数字以上に知った瞬間でした」

▶︎現在控えている大会は、9月9日~15日の「世界パラ水泳選手権大会」(イギリス・ロンドン)と、9月21日~23日の「ジャパンパラ水泳競技大会」(神奈川・横浜)。「世界パラ水泳選手権大会」で優勝できれば、東京パラリンピックの出場が決定する予定。

▶︎自身のプレーにおける長所、武器を尋ねると「前半のスピード、爆発力には自信を持って泳いでいます」と。

取材・文/水野幸則 撮影/為広麻里



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