映画『恒星の向こう側』主演の福地桃子、母との確執を抱える未知を演じて2026/10/29 12:00

母に傷付けられてきた娘が、余命わずかな母との時間の中で、積み重なった親子の軋轢(あつれき)と自分自身に向き合っていく――。中川龍太郎監督の最新作『恒星の向こう側』が10月30日に全国公開。昨年の第38回東京国際映画祭コンペティション部門では、主演の福地桃子さんと母・可那子役の河瀨直美さんが、そろって最優秀女優賞に輝いた。
母との溝は埋まらず、夫・登志蔵(寛一郎)との関係にも不安を抱える主人公・未知を演じた福地さんは、本作におおまかなプロットのみが決まっている段階からシナハンに参加。「ここまで早い段階からの参加は初めてでした」と話す舞台裏や、河瀨さんとの共演で受けた刺激などを聞きました。
シナハンから始まった“未知”との対話
――昨年公開のご出演映画『そこにきみはいて』は、中川龍太郎監督が原案、監督は竹馬靖具さんが手がけた作品で、脚本が完成する前に竹馬監督と福地さんで対話をする時間があったとお聞きしました。本作では制作陣とどのようなディスカッションをされてきたのでしょうか?
「中川さんとは、配信ドラマ『わかっていても』で初めてご一緒したのですが、中川さんの映画作品に参加するのは今作が初めてでした。今回は、未知という名前と大まかなプロットが決まっていて、タイトルやお話の内容はまだちゃんと決まっていない段階でお話をいただき、私もシナリオハンティング(シナハン)で道東を巡る旅に参加させていただきました。ここまで早い段階からの参加は初めてで、チームの皆さんと主人公・未知という人物を見つめ、向き合う大事な時間でした。そこで体験したことや感じたことが出来上がった脚本の温度感にもつながっているように思います」
――未知は、娘を思うように愛せない母のもとで、子どもの頃からいろんな気持ちを積み重ねてきた女性だったのではないかと作品から感じました。福地さんご自身は、未知をどういう女性だと思って演じていきましたか。
「未知は、相手の思っていることを敏感に受け取る力がある人だと思います。そして、受け取ったものを跳ね返すのではなく、うまくかわしながら、気付かないうちに自分の中に溜め込んでしまう。そうやって自分を守っているところも含めて、とても繊細な人だと感じていました」
母との衝突で解き放たれた未知の感情

――奈良にある実家へ帰り、母の可那子が病気の治療をやめると言った時に、「怖いの?」と未知が聞き返すシーンがあります。福地さんはあのセリフをどのような気持ちで言葉にしましたか?
「曖昧さが含まれている言葉だなと思っていて。自分の本質を知っている母に核心を突かれてしまう怖さもあり、自己防衛の気持ちがあったうえで出た言葉に感じました。自分に矢印が向かないように跳ね返して、自分を保とうとする。後に母とけんかに発展するのですが、その時の可那子は終始冷静で。未知が心を解放しきるまで、『まだ足りない、まだ足りない』というように、こちらを見ている。その姿がすごく冷静に見えて、そこには心の距離と同時に、未知が自分自身と向き合うことを待っているような、静かなまなざしも感じました」
――母の冷静さは、演じながらも感じていたのですか?
「言葉が響いていないという感覚がありました。どんな親子関係でも、少なからず価値観の違いだったり、全部を受け止めきれなかったりすることがあると思うのですが、あのシーンは私が実際に母親との間で感じた過去の経験や感覚を共有し、自分の中から出てくる言葉を反映してもらっていて。これまでの未知であれば“かわす”ことを選んでいたけれど、今このときが、何かをぶつけないといけないタイミングであると意識して演じていました。私自身としては、あの場面は、自分のエネルギーがまだ足りてない、出し切れていないという感覚があって、完成したものを見るまではすごく不安でした。でも、完成したものを見て、あの時の未知の精いっぱいの叫びが映っていると感じました。まだまだ心を解放しきれてない未知が残っていていいのかなと」
河瀨直美との共演で深まった母娘の距離と絆
――可那子を演じた河瀨さんとのお芝居では、どんなことが刺激になりましたか?
「どんな場面でも、やり切る姿勢に刺激を受けました。例えば、初めて顔を合わせた時から撮影中に至るまで、常に『可那子』として未知に接し、2人の距離感を大切にしながら過ごすことを徹底してくださって。そのアプローチがあったからこそ、自然と未知と可那子の親子関係を深く想像し、2人の間にあるものを掘り下げていくことができました」

――未知と夫・登志蔵の関係は、どのように感じながら演じていらっしゃいましたか?
「東京で共に生活する登志蔵とは、どこかつながりを感じられていない感覚がありました。ただ、未知は登志蔵と一緒にいる自分のことも嫌いではなくて、居心地の良さを感じていた時間もあったと思います。その人の前でしか出てこない自分は確かにいて、登志蔵の前での穏やかな一面は未知の中に存在するし、未知の本質を知っている可那子の前では少し野生みが出てきてしまうこともある。それをずっと隠してきたことが、未知がどの人とも深く付き合えない壁になっていたんじゃないかなと思います。可那子から『人に気を遣ってるふりして、ほんとは自分が傷つきたくないだけ』と言われてしまうように、お互いの見たいものだけを見ていたら、どこかで必ず限界がきて、水があふれてしまうのかなと」
――本作は撮影監督の上野千蔵さんによる映像も素晴らしいと思います。本作のカメラワークを含めた出来上がりをご覧になって特にどこがすてきだなと感じましたか。
「千蔵さんには撮影前のシナハンの旅でもご一緒していて、アイデアや見ているものがすごくすてきで、美しいタイミングを逃さない方だと思っています。シナハンの帰り、日が暮れる時に車で走っていたら、鹿が何匹か湖を渡っているところに出くわして。千蔵さんがその時に撮影した映像が本編にも使われています。人間が足を取られてしまう湖でも、鹿たちはすごく滑らかに進んでいて。この映像がシナハンの旅で撮れた時に、どんな物語になっていくのか、皆でワクワクしたことを覚えています」

【プロフィール】
福地桃子(ふくち ももこ)
1997年10月26日生まれ。東京都出身。主な出演作にドラマ「なつぞら」(19年/NHK総合ほか)、「鎌倉殿の13人」(22年/NHK総合ほか)、「舞妓さんちのまかないさん」(23年/Netflix)、「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(23年/NHK総合ほか)、「わかっていても」(24年/ABEMA・Netflix)、「照子と瑠衣」(25年/NHK BS・NHK BSP4K)、主演を務めた「ラジオスター」(26年/NHK総合)、映画「サバカン SABAKAN」(22年)、「あの娘は知らない」(22年)、「湖の女たち」(24年)、「ラストシーン」(25年)、「そこにきみはいて」(25年)、舞台「千と千尋の神隠し」(24・25年/千尋役)、「夫婦パラダイス」(24年)などがある。本作で、第38回東京国際映画祭最優秀女優賞受賞。
【作品情報】
映画『恒星の向こう側』
2026年10月30日公開
出演:福地桃子 河瀨直美
寛一郎 朝倉あき 南沙良 三浦貴大 久保史緒里 中尾幸世
監督:中川龍太郎
配給:NAKACHIKA
©2025映画「恒星の向こう側」製作委員会
取材・文/岡田麻美
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