土井裕泰監督が語る「Tシャツが乾くまで」蒼井優の芝居に「すごい」と漏らした瞬間2026/09/04 08:00

蒼井優主演ドラマ「Tシャツが乾くまで」(金曜午後10:00)の第9話が、TBS系で本日・9月4日に放送。本作の演出を務める土井裕泰監督に、作品づくりの舞台裏を聞いた。
本作は脚本家・生方美久さんによる完全オリジナルストーリー。瀬尾咲子(蒼井)と夫・充(松山ケンイチ)、園田樹生(中島歩)と妻・あずさ(夏帆)、2組の夫婦の喪失から始まる“愛”と“秘密”を描く。
土井監督は、ドラマ「カルテット」(2017年)や映画「花束みたいな恋をした」(21年)、Netflixシリーズ「九条の大罪」(26年)など、数々のドラマや映画を演出。物語の中に生きる人々の心の揺らぎや日々の営みを、リアルに映し出してきた。
今回、土井監督が生方さんとタッグを組むのは初めて。“言葉の力が強い脚本”を映像にする上で意識したことや、俳優たちと話し合いながら作品を作り上げる醍醐味、劇伴音楽を担当するharuka nakamuraさんを起用した理由、第9話以降の見どころについて語ってもらった。

視聴者の反響を現場へ。それでも作品の軸はぶらさない
――さまざまな感想がSNSを中心に飛び交っていますが、反響をどのように感じていますか。
「『普段あまりドラマは見ないけど、今回は見ています』という声をすごく聞くので、『あ、これがバズってるということか(笑)』と日々実感しています。ただ、ちょっとした場面で少し映り込んだものさえも、何か意味があるように捉えられてしまう状態なので、現場では緊張しながら撮影しています(笑)。いろいろな見方があっていいですし、どんな入り口からでも、楽しんで見ていただければいいなと思っています」
――視聴者の反応は、気になりますか?
「そうですね。テレビドラマは作品を作っているときと放送されるときの時間差がほぼないので、ダイレクトに返ってきた反応はシャットアウトしないで、きちんと受け止め、現場に還元できるものはしていこうと思っています。ただ、反応に惑わされるのではなく、逆にちゃんと腰を据えて、このドラマで伝えるべきことは何なのか、最初に作品に対して思ったことはブレないでやり切ろうという気持ちでいます」

“言葉の力が強い脚本”を、どう映像にするか
――生方美久さんの脚本の印象を教えてください。
「まず会話が生き生きとしていること。そして人間たちが多面的で、予定調和ではない、知らないうちに意外なところへ連れて行かれてゆくような面白さを感じました。“今の人の話す言葉”がしっかりあって、なおかつ、独特の文体といいますか、レトリック(言葉を効果的に使い、自分の考えを分かりやすく印象づける表現方法)がちゃんとある。言葉の力が強い分、映像になったとき、どうリアリティを持たせられるのか、その難しさも感じました」
――脚本の世界観を映像に落とし込むにあたって、意識したことはありますか?
「基本的に会話劇なので、登場人物たちがどんな場所で、どういう距離感で会話するのか、まずはその環境を考えて俳優やスタッフに提示することが演出の仕事だと考えました。会話が始まったときと終わった後で、関係性にどんな変化が起きているのか、それを積み重ねてゆくことがこのドラマの面白さですから。そういう意味では、コインランドリーはこのドラマにとってはとても重要な場所なので、かなりたくさんの物件を見て決めさせてもらいました。あとは、逆にセリフのない場面、余白をどのように見せていくのか。そこは、演出の立場としては、非常に意識した部分です。例えば第1話で、蒼井優さん演じる咲子が被害者の説明会から抜け出して、1人で事故現場に行くシーンがありますが、台本上はほとんどト書きだけのセリフのないシーンなんです。そういったシーンをどのように表現するかは、毎回自分の課題にしていました」

俳優の芝居でシーンが立ち上がる瞬間
――撮影現場では、キャストの皆さんとよく作品についてディスカッションされているそうですね。
「生方さんの脚本で描かれる人間たちは、受け取る側の生活環境や育ち方などによって、捉え方が変わってくるんですよね。なので自然と俳優さんたちと現場でディスカッションすることは多くなりましたね。演出家はもちろんですが、俳優にとっても挑戦というか、単なる技術ではなく人としての技量を試されていると感じるような、そんな空気はあったと思います。ただ、今回の俳優さんたちは皆さん、初めてセッションしたときにはそれぞれ“その人(演じる役)の言葉”としてセリフを発していました。自分の身体にしっかり言葉を落とし込むという準備をした上で現場に臨んでいて、それは本当に毎回感心していました。現場で話をしながら作り上げていくことはとても面白いですし、とてもクリエーティブな時間なんです。撮りながら『なるほど、こういうシーンだったのか』と見えてくる瞬間、台本だけでは分からなかったものが、俳優の身体を通してガッと立ち上がってくる瞬間は感動しますし、これがドラマを演出する醍醐味(だいごみ)だなあと思います。今回はそんな瞬間が何度もありました」
――印象的だった撮影エピソードを教えてください。
「やはり蒼井優さんの芝居に出会えたことですね。うれしいとか悲しいとか、そういう単純ではない、“名前のつけようのない感情”が本当にリアルに表現されていて、悲しいのに笑ってしまう、冷静なはずなのにどうしようもなく涙がこぼれてしまう……そんな生身の人間の複雑さや面白さを蒼井さんの芝居を通して見るたびに、ただ見入ってしまうというか、『すごい』と思わず言葉を漏らしてしまうときが何度かありました。中島(歩)さん演じる園田樹生は、冒頭から実は複雑な悩みを抱えた役だったので、特に第1話は演じる中島さんは大変だったと思います。彼は、わりと論理的に役を捉えて作っていくタイプの俳優さんだと思うのですが、演じる樹生という人物がすでに混乱の中にいて破綻しかかっているんだから(笑)。なので、蒼井さんも交えてたくさんディスカッションしましたね。撮影は咲子と樹生のコインランドリーの出会いのシーンから始まりました。樹生が内面に抱えている混乱をどのように見せるのか、あるいは見せないようにするのか。初めの段階からそこでしっかり試行錯誤できたことはよかったです。このドラマのパンチラインでもある1話のラストの樹生のセリフをどう表現するかは、彼が自分でたどりついた答えですが、素晴らしかったと思っています」

音楽が生む独自の空気、第9話では咲子の新たな一面も
――劇伴音楽を担当するharuka nakamuraさんは監督からのオファーだったそうですね。
「劇場アニメ『ルックバック』(24年)と映画『この夏の星を見る』(25年)を見て、その音楽が強く印象に残っていたんです。エモーショナルになっても決して暑苦しくない、風通しの良さみたいなものがあって、それがこのドラマの世界観や目指す温度に合っているのではないか。そんな直感が働いて、オファーさせていただきました。新しい人と組むということは、この歳になったからこそ恐れずにやっていきたいと思っているんです。生方さんの脚本の世界とharuka nakamuraさんの音楽との化学反応に興味があったし、何より、僕自身に新しい気づきや変われるものがあるかもしれない、そんな期待もありました。実際、絶妙にクールで、でも人間の心にちゃんと寄り添った、このドラマならではの音楽を作っていただいたと思います」
――最後に今後の見どころをお願いします。
「今まで少しずつヒントが出てきてはいるのですが、第9話では、充と出会う前の咲子はどのような女性だったのか、いまだ語られていない咲子のいろいろな面が見えてきます。もしかしたら放送後、喧々諤々(けんけんがくがく)の議論になるかもしれません(笑)。これまで同様、最後まで自分なりの視点で観て、楽しんで、考えて、語り合っていただけたらと思います」

俳優たちと対話を重ねながら、台本に書かれた言葉が“その人の言葉”として立ち上がる瞬間を捉えてきた土井監督。強いセリフだけでなく、その合間に生まれる余白にも、本作が描く人間の複雑さがにじむ。第9話では、これまで語られてこなかった咲子の新たな一面が明らかに。見る人によって受け取り方が異なる物語が、この先どのような景色を見せるのか。最後まで見届けたい。
第9話あらすじ(9月4日放送)
瀬尾充(松山)の前から姿を消した瀬尾咲子(蒼井)。彼女が訪ねたのは、とある海辺の街で暮らす男・篤彦(井ノ原快彦)とその子どもたちと思われる男の子と女の子だった。充の心配をよそに、咲子は彼らのもとで楽しく過ごす。その頃、喫茶「ひこうき」に集まっていた充と矢野直人(高橋文哉)、大井田千鶴(臼田あさ美)、宮内幸次(リリー・フランキー)は、咲子の人物像や行き先について議論していた。千鶴が語った「飽き性で新しい物好き、切り替えが早い」という、充と出会う前の咲子像が、自分の知る咲子とあまりにも違うことが気にかかる充。そんな中、ついに咲子が抱えていた大きな“秘密”が明かされる。
【番組情報】
金曜ドラマ「Tシャツが乾くまで」
TBS系
金曜 午後10:00~10:54
文/TVガイドWeb編集部
関連リンク
この記事をシェアする
















