「この回を見るための『豊臣兄弟!』」松川CPが語る前編 第6回「兄弟の絆」は仲野太賀の真骨頂2026/02/14 12:00

仲野太賀が主演を務める、大河ドラマ「豊臣兄弟!」(NHK総合・日曜午後8:00ほか)。戦国の世を舞台に、豊臣秀長(小一郎/仲野)と、その兄・豊臣秀吉(藤吉郎/池松壮亮)が、強い絆を武器に天下統一という偉業へと突き進んでいく、王道の下克上サクセスストーリーだ。脚本は、連続テレビ小説「おちょやん」(20年)などを手がけた八津弘幸さんが担当している。
2月15日放送の第6回「兄弟の絆」は、制作陣が「ぜひ多くの方に見ていただきたい」と語る、物語序盤の大きな山場だ。制作統括を務める松川博敬チーフ・プロデューサー(以下、松川CP)に、第6回への思いや、主演・仲野太賀と織田信長を演じる小栗旬の“演技合戦”、そして「人を信じる力」というテーマに込めた思いなど、前後編でたっぷりと聞いた。
「豊臣兄弟!」が生まれた理由。第6回への揺るぎない確信

取材会の冒頭、松川CPは「第6回を、ぜひ多くの方に見ていただきたい」と力を込めた。
その思い入れは並々ならぬものがある。
「正直に言ってしまうと、われわれ自身も『これは面白い回になった』と感じています。極端な言い方をすれば、『豊臣兄弟!』というドラマは、この第6回を見てもらうために生まれたと言っても過言ではありません」
サブタイトル「兄弟の絆」も、その思いを端的に示している。松川CPは「ストレートにテーマをタイトルにしている。われわれ自身が『これは大事な回です』と宣言しているようなもの」と説明。物語序盤の山場として、作品の核を真正面から打ち出した回だという。
さらに第6回では、物語の構成そのものに踏み込んだ挑戦がなされている。「『真犯人は誰なのか』という謎解きの要素を取り入れた、ミステリー仕立ての構成になっています」と明かし、「これは、われわれにとっても大きな挑戦でした」と率直に語る。
これまでの放送でも“史実×大胆アレンジ”は話題を呼んできた。「その点については、歴史好きの方々からも『そう来たか』という反応をいただき、好意的に受け止めていただいていると感じます」と松川CP。そうした流れを受けて第6回は「さらに一歩踏み込んだアレンジ」になったといい、「正直なところ、どんなリアクションが返ってくるのか、かなりドキドキしています」と、制作側の“賭け”をにじませた。
「人を信じる力」。8か月を経て見えてきた物語の核心

放送前から「このドラマのテーマは何か」という質問を受けるたび、松川CPは答えに窮していたという。
「テーマというものは、長い物語を通して視聴者の皆さんがそれぞれに見つけていくものだと思っていて、最初から制作側が『これが正解です』と提示するべきではない、と考えていたからです」
だが、クランクインから8か月がたった今、松川CPの中で物語の輪郭が鮮明になりつつある。
「最近、特に感じているのは、この作品は『人を信じる力』の物語なのではないか、ということです」
第4回では、桶狭間の戦いを経て、小一郎が「兄は殿が勝つことを信じていた。でも自分にはそれが足りなかった」と語る場面があった。第6回では、兄弟がお互いを信じ合う姿がより明確に描かれている。
「戦国時代という過酷な時代において、人は『人を信じること』でしか前に進めなかったのではないか。しかし同時に、人を信じたからこそ裏切られ、命を落とすこともある。一方で、人を信じられずに没落していく人もいる。そうした『信じることの危うさ』と『それでも信じるしかない』という感覚が、この物語の根底に流れているのではないかと、最近は強く感じています」
脚本は現在「本能寺の変」に向けて進行中だ。松川CPは「信長に足りなかったものは何だったのか、そしてこの兄弟にあったものは何だったのか。そんなことを、プロデューサーとしても考え続けています」と、物語の行方を見据える。
仲野太賀の「真骨頂」と小栗旬との「演技合戦」

第6回で注目すべきは、主演・仲野の芝居だ。松川CPは「仲野太賀さんの真骨頂」と表現する。
「大河ドラマはロケや合戦など見どころが多い中で、第6回は『仲野太賀の芝居を見ろ』という回になったと思っています。彼自身が強い覚悟を持って臨んでいて、現場で見ていても鳥肌が立ちました」
その言葉には、主演俳優への信頼がにじむ。
「主演・仲野太賀のドラマだからこそ、ここまで踏み込んだ芝居ができたのだと実感しました」
本番に向けてのアジャストも見事だったと振り返る。
「現場ではまずドライリハーサルをして、その後テスト、本番という流れになるのですが、本番に向けてのアジャストが素晴らしい。ドライやテストとは全く違うテンションなのに、きちんと制御され、コントロールされているんです」

一方、信長を演じる小栗にとっても、第6回は物語の流れを大きく動かす回となった。小一郎役の仲野と正面から向き合うことで、人物同士の緊張感が画面に強く立ち上がる。
「小栗さんも、仲野さんに負けない迫力があって、もともとの存在感に加えて、2人が正面からぶつかり合うことで、芝居の熱量が一気に引き上げられていく。まさに“演技合戦”と呼ぶにふさわしいシーンになったと思います」
信長役に小栗を起用した理由について、松川CPは複数の要素を挙げる。
「信長の人間くささや弱さを表現できるかどうか、そして同時に圧倒的な迫力やカリスマ性、その両面を表現できる方という点が大きな理由でした」
作品づくりとキャスティングは常に並走しており、その相乗効果の中で小栗への依頼が決まったという。
「『豊臣兄弟』と『織田兄弟』の対比は意識していて、織田家には信長と信勝(中沢元紀)による過去の悲しい兄弟関係があり、一方で豊臣兄弟には全く対照的な関係性がある。その対比を描く上で、これまで多くの俳優が演じてきた“超然とした大御所的な信長ではなく、怖さと同時に弱さや人間くささがにじみ出る信長像が必要だと考え、小栗さんがとても適任だと感じました」
草履も一夜城も“ひっくり返す”。創作の上に創作を重ねる覚悟

「豊臣兄弟!」では、草履のエピソードをはじめ、広く知られてきた逸話を、あえて組み替えて描いている。その背景には、松川CPの明確な問題意識があった。
「そもそも秀吉ですら、前半生については本当に史実が残っていないんですよね。皆さんが史実だと思っていることの多くは、実は江戸時代後期、さらにその後の時代に『絵本太閤記』などで広まったものが多い。つまり、みんなで創作した秀吉像がどんどん膨らんで、今の『常識』になっているんです。草履を温めたエピソードも、その『絵本太閤記』が元ですし、史実であるかは分かりません」
だからこそ、そうした定説をひっくり返すことに対して、時代考証の専門家から異論が出ることはなかったという。
「史実ではなく、江戸時代の人たちが作った創作を、こちらでもう一度ひっくり返している、という感覚ですね。僕らとしては、例えば草履のエピソードについて、『本当は盗もうとしていたんだけど、後に秀吉が天下を取った時、自分の伝記を書かせる段階で美談として作られた話だったのかもしれない』と、そんなふうに想像してもらえたらいいな、という意図で描いています」

こうした発想は、脚本・八津氏との綿密な意見交換の中で生まれてきたものだ。
「脚本を書き始める前の段階で、八津さんとはいろいろな話をしています。史実とされてきたエピソードをどう扱うのか、どこまで踏み込めるのか。その中で、草履の話も含めて、『これまでとは違う角度で描いてみよう』という方向性が固まっていきました」
このアプローチは、第7回・第8回で描かれる墨俣一夜城のエピソードにも引き継がれている。
「墨俣一夜城も、あれは創作だと言われている部分ですよね。『一晩で城は建たない』と歴史的には言われていますが、そこを逆手に取ったアレンジをしています」
こうした大胆な構成を支えているのが、脚本・八津氏を支える制作体制だ。クレジットに「脚本協力」として名を連ねる片桐正博氏は、八津が物語に行き詰まった際にアイデアを出したり、史実や史料を整理して返したりと、いわば相談役のような存在。
プロットを任されることもあるが、最終的な舵取りはあくまで八津氏が担う。片桐氏自身も、その立ち位置について「秀長のような存在」だと語っていたという。前半は史料が少なく自由度が高い一方で、後半は史実が明確になる分、決められたルールの中でどう遊ぶかが問われる。その意味でも、脚本協力という存在は、作品を前に進める上で欠かせない役割を担っている。

後編では、松下洸平が演じる徳川家康の独特なキャラクター造形、帰蝶を登場させない決断の理由、ホームドラマとしての「豊臣兄弟!」、さらに白石聖演じる直への注目や、今後の見どころまで、松川CPに詳しく聞いていく。
【番組情報】
大河ドラマ「豊臣兄弟!」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45
取材・文/斉藤和美
関連リンク
この記事をシェアする














