染谷将太が語る、初演出・脚本オーディオドラマの裏側! 菊地凛子、津田健次郎らと描いた音の世界2025/12/19 05:00

大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(日曜午後8:00)で喜多川歌麿を演じ、その奥行きある存在感で多くの視聴者を魅了した染谷将太が新しい挑戦に乗り出した。
NHK特集オーディオドラマ「だまっていない」(NHKラジオ第1 12月29日午後10:00、NHK-FM 2026年1月10日午後10:00)で、初めて脚本と演出を手がけたのだ。人間に擬態し地球に溶け込む異星人“トーカー”、そして彼らを監視する2人の主人公。時代すら越境するSF×モンスターパニックを、“音だけ”で描ききる試みである。
企画が動き始めたのは、「べらぼう」の収録真っただ中。過密なスケジュールの合間を縫って脚本を書き進め、旧知の音楽家・渡邊琢磨をはじめ、渡辺大知、菊地凛子、川瀬陽太、津田健次郎ら、染谷自身が希望したキャストが次々と集結した。俳優として常に“音”の可能性を意識してきた染谷が、なぜ“音だけで作る物語”を選んだのか。その裏側には、数年越しの静かな願いがあった。

数年越しの“静かな野望”音だけで物語を作りたかった
オーディオドラマへの挑戦は、長年温めてきた思いの結実だった。きっかけは、今回音楽を担当した渡邊琢磨との何げない会話にさかのぼる。数年前から「音だけで物語を作ってみたい」という願望を共有し続けてきた2人。「べらぼう」の収録中、ふとその夢が現実味を帯び始めた。
「『べらぼう』をやらせてもらっている最中に、“オーディオドラマならそれが実現できるかもしれない”という話になって。そういえばNHKオーディオドラマに出たこともあったじゃないかと思い出し、企画を出させていただきました」
映像作品においても、染谷は常に“音”への感度が高かった。
「ショートフィルムを監督した時も、音の仕上げが本当に好きで。役者としても、自分がしゃべる声のトーンを耳で聞きながら調整するタイプなんです。だからこそ逆に、音だけで聴く人に想像してもらう表現に挑戦したいという欲求がありました」
今回「初脚本・初演出」と銘打たれているが、染谷には物語を紡いできた歴史がある。高校時代に自主映画サークルを立ち上げ、初めてシナリオを執筆。大人になってからも協賛を得てショートフィルムを制作してきた。映像の世界では一定の経験を積んできたが、オーディオドラマは「まったく別物だった」と振り返る。
「本当に“勝手が全然違う”んですよ。セリフとト書きの『音』だけで世界を作るので、映像で説明できるものを音で説明しなきゃいけない。台本を書くのは、ものすごく難しかったです」
本打ちも、決められた放送尺に収める作業も初体験だった。プロデューサーやスタッフと意見を交わしながら調整を重ねる日々は、役者として台本を受け取る立場とはまるで異なるものだった。
「皆さんに意見をいただいて調整して、尺に合わせるってこんなに大変なんだと。執筆作業が一番苦しかったですね。でも苦しいけど楽しかった。本が上がったあとの収録は、自分だけの世界が一気に広がっていく瞬間なんです。キャストやスタッフの皆さんのアイデアが入り、世界がカラフルになっていく。そして音響効果を含む仕上げでまた一段階、世界が広がる。細かい足音のレベルを調整する作業も、映像とはまた違う楽しさがありましたね」
全員、希望のキャスティングと、“音だけ”の演出術

今回のキャストは、全員が染谷が希望した人たちだ。それぞれに明確な理由があり、長年の信頼関係や役柄へのイメージが反映されている。
主演の渡辺大知とは、以前から「いつか一緒にやれたら」と話していた仲だった。互いに作品を作る側としての顔を持ち、クリエイター同士としての共感で結ばれている。
「大知くんは自身でも作品を作っていて、自分もそういうことをしているという話から意気投合していたんです。今回、役柄的にもぜひ力をお借りしたいと思いました」
菊地は私生活でもパートナーであり、「モノづくり仲間」だ。映像作品では一緒に脚本を作ることもあり、今回も出演だけでなく台本作りにも協力してもらった。川瀬は10代の頃から世話になってきた縁のある存在である。
「佐々木という役は説明セリフが多かったんですが、川瀬さんが持つ“いい抜け感”で言っていただけたら、誠実ですてきに聞こえるだろうと思いました」
津田については、思わぬ形でキャスティングが決まった。「べらぼう」での共演を経て、その声の魅力を間近で感じていた染谷。脚本を書き進めるうちに、あるキャラクターの声が自然と津田のものになっていった。
「台本を書いている途中から、勝手に頭の中で津田さんの声が流れ始めてしまって(笑)。完全に“津田さんの声”で書き上げてしまい、当て書きのような形になりました。書き出したら、“勝手にしゃべりだす”ようなイメージで書けましたね」

収録を終え、実際に“音で”演技を聴いてみて、それぞれのキャストの良さを改めて実感した。特に主演の2人には、ある共通したイメージを持っていたという。
「主演のお二人には、“不安と強さが同居する”イメージを持っていました。置かれた状況への不安を抱えながら、その不安を正しく受け止められる強さ。大知くんはこちらの意図をくんで『こうした方が良いんじゃないか』とたくさん提案してくれて。妻は自分がやりたいことを一番理解してくれているので、一つ言うだけで『こういうことだよね』と瞬時に返してくれました」
川瀬はキャラクターに「一貫した繊細さと強さ」を与え、説明的になりがちなセリフに血を通わせた。津田には、染谷が作品に込めたかったメッセージを託した。
「何をしゃべっていただいても説得力がある。自分が作品に閉じ込めたかったメッセージを津田さんのセリフでちりばめさせてもらい、見事に着地させてくださいました」
以前のショートフィルムでは自ら出演もしていた染谷だが、今回は完全に“作る側”に回った。
「音だけの世界なので、より客観的にずっと聞いていたかったんです。映像なら自分が出ても、撮ればすぐモニターでチェックできる。でもオーディオドラマは、スタジオで自分も芝居し始めると主観が強くなってしまう。なので今回は、ディレクター側のブースから“聴く側”に徹しました」
ただし、完全に出演ゼロというわけではない。ある場面で自身の声が流れるという。
「ちょっとだけ出ています(笑)。最後に一人で別録りしただけです。『ここは自分が言ったら早いな』と思ったので」
映像がない中で、どう状況を伝えるか。染谷が最も苦心したのは「位置関係や状況を音だけでつかんでもらうこと」だった。視覚情報に頼れない分、リスナーが置いていかれないよう細心の注意を払う必要がある。さらに今回は「ナレーションを使わない」という縛りも自らに課した。
「『今どういう状況なのか』『この人とこの人がどの位置関係にいるのか』を音だけで伝えるのは本当に難しかった。かといって説明的すぎるセリフは嫌だったので、バランスが難しかったです」

キャストやスタッフと“同じ絵”を共有することも、音だけの作品ならではの課題だった。作品の世界観やシーンのイメージを画像で作り、視覚的に共有することで、全員が同じ方向を向いて制作を進めることができた。
「画像を皆さんに見せて、『なんとなくこういう空間です』『これくらいの規模で攻撃を受けているイメージです』と共有しました。自分の頭の中には“映像のカット割り”のようなイメージがあって、『ここはこの人物にクローズアップしている感じで』と伝えながら、音の設計をしていただきました」
頭の中の映像を音に落とし込み、聴く人にまた映像を想像してもらう。その不思議な表現の連鎖こそが、オーディオドラマの醍醐味だと染谷は感じている。
では、異星人“トーカー”の音は、どのように生み出されたのか。姿の見えない宇宙人を、いかにリアルに、そして不気味に感じさせるか。そこには音響効果チームの創意工夫があった。
染谷が台本に書いたのは、単に「ピチャピチャという足音が聞こえる」という一文だけ。そこからどんな音が生まれるのか、染谷自身もワクワクしながら待っていた。実際の収録は、効果音専門のスタジオで行われた。効果チームはホウ砂と洗濯のりでスライムのようなものを作り、それをバケツの中で動かして“ドシャドシャ”とした足音などを生み出した。生々しくも異質なその音は、トーカーという存在に確かな実在感を与えた。
「あれは本当に、世界観がより豊かになった瞬間でした」
トーカーの叫び声は音楽担当の渡邊琢磨が制作した。最初の打ち合わせでは、染谷が電話越しに口まねをしてイメージを伝えた。そこから「生き物っぽすぎない」電子的な音へと加工され、この世のものとは思えない不思議な声が完成した。
「宇宙人が叫ぶと、叫ばれた人がどこかの時代に飛ばされてしまうんですが、その“突拍子もなさ”を表現する鳴き声がすごく好きです。あの独特な不思議な声に、想像力をかき立てられましたね」
SFを選んだ理由。「地球の平和を願って」書いた物語

なぜSFというジャンルを選んだのか。染谷は「テーマを先に作った」と明かす。伝えたいメッセージが先にあり、それを物語として成立させるためにSFという器を選んだのだ。
「“地球や人類が外から攻撃を受ける構図”なら、テーマを物語として紡げるんじゃないかと思いました。さらに音だけなので、想像がどんどん膨らむ内容にしたかった。宇宙人って人それぞれイメージが違うじゃないですか。足音や叫び声だけで、リスナーが“自分の中の宇宙人像”を想像できる。日常的なものより突拍子もないものの方が、音だけのドラマとしては楽しいんじゃないかと」
作品には「今の世の中の混沌とした部分」も込められている。ただし、染谷が目指したのは明確な答えを提示することではない。聴く人自身に考えてもらうことに意味があると考えた。
「明確な答えを提示するのではなく、『考えてみること』『想像してみること』に意味があるんじゃないかと。人が生きていく中で必ず起きる衝突や、平和が保てない状況。そうしたものを“音だけで想像する”という行為は、意外と意義のある時間になるんじゃないかと思い、作品に込めました。自分としては本当に、“地球の平和を願って”書いたんです」
今回の物語では、あえて曖昧さを残した部分もある。登場人物たちのセリフには抽象的な表現や、煙に巻くような言い回しがちりばめられている。
「音だけだからこそ明確に断言しない言葉を並べてモザイクをかけたんです。モザイクがあると、逆に『もうちょっと見たい』『その先を知りたい』という探究心につながる。ラストに向かうほど世界が混沌としていくんですが、その“混沌を音でガチャガチャ鳴らす”ことで、聴く人によって全然違う景色が浮かんだらいいなと思って作りました」
一度聴いただけでは全てを理解できないかもしれない。しかしそれこそが、染谷の狙いでもある。繰り返し聴くたびに新しい発見がある。そんな作品を目指した。
「べらぼう」と駆け抜けた日々、そして「だまっていない」に込めた思い

2025年は「べらぼう」の歌麿として過ごしながら、オーディオドラマを制作するという不思議な一年だった。二つの作品を同時に抱える日々は、染谷にとって初めての経験である。
「2024年の年末に『べらぼう』に合流して、そこからずっと“べらぼうの世界”にいながら過ごしていました。“べらぼうの台本を読む→歌麿として収録→収録の合間にオーディオドラマの打ち合わせ”みたいな日々でしたね」
オーディオドラマの準備が本格的に始まると、両作品の収録、制作はほぼ交互だった。歌麿として江戸の町を生きたかと思えば、翌日には現代の編集室でパソコンに向かう。その目まぐるしい日々を、染谷は楽しそうに振り返る。
「オーディオドラマを収録して、翌日『べらぼう』の収録をして、また翌日は編集室に入って……。NHKの編集室に一人でパソコンの前に座って編集して、そのまま『べらぼう』の支度に戻る(笑)。“NHKの職員のように編集室にいるのに、階下に降りたら急に収録現場に行く”みたいな、不思議な日々でした」
うれしい出来事もあった。オーディオドラマで逃げ惑う人々の声は、「べらぼう」の演出部スタッフが協力してくれたのだ。二つの現場が交わる瞬間だった。
「みんなで群衆の声を録ってもらって、あれはすごくうれしかったですね」
本業の役者と、今回のように“作る側”に回る自分は、どういう関係なのか。染谷の答えは明快だった。両者はまったく別の仕事であり、頭の使い方も現場での立ち位置も、すべてが異なる。
「完全に切り離されてますね。まったく違う“仕事”の感覚です。役者の時は台本をいただいて自分の役に主観的に入っていく。家での“個の作業”が多くて、現場で準備してきたものを皆さんに共有する流れなんですけど、今回はまったく違いました」
現場での感覚の違いも、身をもって体験した。役者なら感覚的に分かることが、演出側に回ると途端に難しくなる。
「今回は“お芝居を聞く側”なので、例えば返しの位置一つでも、役者なら感覚で『ここから返して』と分かるけど、演出側として指示すると『いや、もうちょっと前からの方が……』と指摘される。本当に感覚が全然違いましたね」
一方で、この経験が役者業に影響を与えた部分もある。演出する側の苦労や状況を知ったことで、演出を受ける時の姿勢が変わった。
「役者さんにお願いする時、“どう伝えたら一番的確か”をすごく考えるんです。その視点で役者として演出を受けると、真逆の立場から監督を見るようになった。『この監督、今こういう状況だから、こういう言い方になってるのかな』と、言葉だけじゃなく“監督側の状況”まで含めて受け取るようになりました。“演出を受ける時の耳”がちょっと変わった気がしますね」

完成した作品を聴いた感想を尋ねると、「まだ客観的には聞けていない」と笑う。作り手として、どうしても改善点に目が行ってしまう。そしてその改善の余地が、音だけの世界では文字通り無限大だと実感した。
「ついつい『ここ直せるかな』とか考えてしまって。音だけって本当に無限大すぎるんですよね。『このドアの音を変えたらどう聞こえるんだろう』『空間の設計を変えたらどんな空間に感じるんだろう』とか、もうキリがなくて。最終日は“役者としての仕事の都合”もあったので、『ここで終わり』と自分で区切りをつけました。そうでないと本当に永遠にやれちゃうので。まあ、それだけ楽しかったですね」
タイトル「だまっていない」には、いくつもの意味が折り重なっている。オーディオドラマという“音で作る作品”の形式そのもの、物語の鍵となる“音”というモチーフ、そして登場人物たちの生き方。それらすべてが一つの言葉に集約されている。
染谷は、その意図をこう語る。
「まず“だまっていない”というのは、今回のオーディオドラマという形式、つまり“音で作る作品”にかけています。劇中では、宇宙人が“音の概念”を集めているという設定があって、彼らを倒すヒントも“音”にある。そして生き残った2人が未来に向かう時、彼らは決して“黙っている”物語ではない。そういった意味を込めています」
物語を聴き終えた瞬間、その言葉がどんな余韻を放つのか。その“受け取り方の違い”こそ、オーディオドラマの醍醐味(だいごみ)だと染谷は考えている。
「最後まで聴いたあとに『だまっていない』という言葉がどう響くか……そこは本当に楽しみですね」
自身が作り上げた物語がリスナーに届くことをどう感じているのか。そう問うと、染谷は少し照れながら笑った。
「もう本当に、聴いていただけたらもちろんうれしいですし……ちょっとドキドキしますよね。たぶん 過去イチでエゴサすると思います(笑)。厳しい意見もお待ちしてます。“いかようにでも聴ける作品”にしたつもりなので、自由に想像して聴いていただきたいですし、『こういう作品なのかな?』と受け取っていただけたらうれしいです。逆に『よく分からなかった』という感想も全然ありだと思っていて。それも含めて作った部分があるので」
普段はあまり検索しないタイプだというが、“節目”だけは例外だ。
「たまに“大きな発表があった時”はしますね。特に一番気になったのは、信長をやると発表された時。自分でも『えっ!?』ってなったので(笑)。案の定、『なんで染谷が信長なんだろう?』ってコメントがバーッと出てきて。逆に『じゃあ裏切ってやろう』と思って頑張れました」
今回が特別なのは、俳優としての演技ではなく、“作り手・染谷将太”として世に出す創作物であるという点だ。
「今回は“演技”ではないので、どんな受け止められ方をするのか、純粋に楽しみですね。また機会があればぜひやりたいです」
穏やかな笑顔の奥には、すでに“次の物語”へ向かう意欲がともっていた。
【プロフィール】
染谷将太(そめたに しょうた)
1992年9月3日生まれ。東京都出身。映画「ヒミズ」(2011年)で第68回ヴェネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞。以降、映画「寄生獣」(14年)、大河ドラマ「麒麟がくる」(20年/NHK総合ほか)に出演。近作は、映画「陰陽師0」(24年)、「聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメン VS 悪魔軍団~」(24年)、映画「爆弾」(25年)など。本日・12月19日に映画「新解釈・幕末伝」が公開、2026年には1月1日に「教場 Reunion」(NETFLIX)、2月20日に映画「教場 Requiem」(2月)が控えている。
【番組情報】
特集オーディオドラマ「だまっていない」
作・演出:染谷将太
音楽:渡邊琢磨
制作統括:石村将太
技術:奥村玲子
音響効果:岸優美子
出演者:渡辺大知、菊地凛子、川瀬陽太、津田健次郎
スペシャルサンクス:べらぼう演出・制作部の皆さん、鈴木奈穂子アナウンサー
ラジオ第1
2025年12月29日 午後10:05~10:55
NHK-FM
2026年1月10日 午後10:00~10:50
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取材・文/斉藤和美 撮影/TVガイドWeb編集部
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