「みんないっぱいいっぱい」松山ケンイチ×遠藤憲一×鳴海唯が語る「テミスの不確かな法廷」の舞台裏2025/12/12 19:12

松山ケンイチが主演を務めるNHK総合で1月6日スタートの連続ドラマ「テミスの不確かな法廷」(火曜午後10:00)の取材会が行われ、松山のほか、共演の鳴海唯、遠藤憲一、制作統括・神林伸太郎氏が出席した。
本作は、新聞記者・直島翔氏による異色のリーガルミステリーを実写ドラマ化したもの。ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)を抱えながらも周囲に明かさず、裁判官として職務に向き合う特例判事補・安藤清春を主人公に、裁判所職員、検事、弁護士らが真実を求めてぶつかり合う法廷の攻防を描く。緊迫感のある展開の中に、時にかみ合わない会話から生まれるユーモアや人間関係の温度も織り込み、“普通”や“正義”とは何かを問いかけていく。脚本は「イチケイのカラス」シリーズや「ブルーモーメント」「絶対零度」シリーズなどで知られる浜田秀哉氏が担当する。
松山は自己紹介で、撮影が現在も続いていることに触れつつ、日々現場を楽しみながら取り組んでいると話した。放送時期については「来年1月6日スタート。まだ2025年のうちに会見をやることになったけれど、紅白を見てスッキリした後も忘れないでほしい」と笑顔を見せ、会場を和ませる。

安藤役の役作りについて、松山はASDなどの特性を持つ人々が参加するグループケアの現場を見学した経験に言及。「『ここが苦手』『その苦手をどう克服していくか』というテーマをもとに、みんなで議論していく。その中で具体的な対策が出てくるが、それを話している時の皆さんの表情が本当に生き生きしていた」と思い返していた。
続けて、その場に流れていた空気についても触れ、「自分のことを分かってくれている同志の中で、包み隠さず悩みを話せる。否定や批判、傷つける言葉がなく、優しい目線で言葉が返ってくる場所だった」と実感を込めて語った。「仕事場のスピード感やテンポ感に合わせながら必死に生きている部分は、特性の有無に関わらず多くの人が持っていると思う。安心できる場所と、戦っている場所。その二つをどう表現できるかを考えている」と役への思いを口にした。
グループケアの見学を通じて得た気付きとして、「安心できる場所があることで救われたり、次の日に前向きに歩いていけたりする。その存在を知れたことは大きかった」と振り返り、「コミュニティの大切さや人とのつながりの重要性を改めて感じた」と言葉を添える。
また松山は、役作りの過程でスタッフと共に「安藤ノート」を作成していたことも披露した。「特性をきちんと表現するためには、安藤なりのルールや道筋を最初から共有しておいた方がいいと考えた。監督やカメラマンも含めて全員で共有することで、安藤像を明確にできると思った」と説明。ノートには、服装とその理由、しぐさ、苦手なこと、好きなものなどが細かく書き込まれているという。これを聞いた遠藤と鳴海は「初めて知った」と驚いた表情を見せた。

一方で松山は、「このシーンではこの特性を出そう」と細かく当てはめていくと、人物がロボットのようになってしまうとも指摘。「段取りを重ねる中で、『ここは入る隙間がある』と感じた時に、自然と生まれてくるものがある。ト書きにはなかったしぐさが現場で立ち上がってくることもある」と、準備と即興のバランスについて考えを示した。
台本の難しさについては、「法律の名前や専門用語は言ったことがないので、イントネーションが分からなかった」と打ち明け、「自分が思っているより、実際の法廷で使われている単語のイントネーションが違うという発見もあった」と語った。作品の空気をつかむために東京地裁を見学したことにも触れ、「しぐさや行動の一つ一つで立ち止まる場面が多かった。これは特性なのか、それとも生理的なものなのかと考えることが、今までの作品とは大きく違った」と振り返る。
現場ではスタッフと共に「安藤だったらこういう動きをするのでは」と意見を交わしながら、階段を降りるといった日常的な動作にも神経を配っているという。「流してしまうと特性を表現しきれない部分につながる。だから細かいところほど意識している」と強調した。

検事・門倉滋役の遠藤憲一は、法廷ものへの苦手意識を率直に吐露。「覚えるのが得意ではないので、これまでは“なり”の芝居でやってきた」と苦笑いしつつ、「覚えなければいけないことが多くて、自分の中ではいっぱいいっぱい。42年の俳優人生で一番難しい作品になった」と現状を明かした。
難しさの理由については法律用語だけでなく、セリフに差し込まれるカタカナ表現も挙げ、「『安藤くんらしいね』で終わればいいのに、『安藤くんらしいロジックだね』と入ってくる。『ロジック』が分からなくてネットで調べた」と笑いを交えて話した。
さらに遠藤は、劇中でギターを弾きながらロックを歌うシーンがあることにも触れ、「一番ぶったまげた」と率直な感想を述べた。若い頃にギターに挑戦して挫折した経験があるといい、今回は妻と一緒にギターを購入して約1か月練習したという。「俺はその曲が終わったら練習も終わったけど、女房は今ビートルズに入ってます」と冗談めかし、松山も「奥さま万能すぎません?」と驚いた様子だった。

弁護士・尾野崎ノア役の鳴海唯は、弁護士役が初挑戦だとした上で、「緊張もあるけれど、尊敬する先輩方に囲まれておんぶに抱っこ」と謙虚な姿勢を見せた。松山から「一番セリフが多いのでは」と声を掛けられると、「安藤さんも門倉さんも大変。3人ともすごく大変だと思う」と応じ、互いを気遣うやりとりを見せた。
台本については、監修者が常に現場にいる点に触れながら、「難しい言葉の連続を話し続けている印象」と表現。「ネット辞書が欠かせず、意味を理解した上で話さないといけない。新しく出合う言葉を勉強しながら法廷に立っている」と舞台裏を明かす。
台本の覚え方については、音読と録音を併用しているとし、「外ではイヤホンで録音した声を聞きながら、耳と口の二つで覚えている」と説明。台本は1回では内容が入ってこないタイプだといい、「2〜3回読んで理解してから、自分の部分を繰り返す」と方法を紹介した。
鳴海の起用理由について神林氏は、「『時をかけるな、恋人たち』(23年/フジテレビ)で演技を見て“気になる”と思った。そこから見るたびに“気になる”が増えていった。一緒に仕事がしたいと思っていた」と経緯を説明。尾野崎役は鳴海の真っすぐさや実直さが生きると感じ、オファーしたと述べた。

松山も鳴海について、「目の前の人に対する誠実さを演技の中で感じる」と評価。「『どうする家康』でワンシーンだけ共演した時のことも覚えている。その時も誠実さを感じた」と回想しつつ、「話してみるとズボラさなどいろんな面も見えて面白い。そうした部分も生かしながら尾野崎を作っている」とコメントした。遠藤も「難しい長いセリフを日常の言葉のように成立させる力がすごい」と称賛。「陰で相当な努力をしていると思う。話が進むほど、鳴海ちゃんの演技は本当にすごいと感じている」と言葉を重ねた。
神林氏は本作の企画意図について、「ASDやADHDをカミングアウトしていない主人公を描いている点がユニーク」と指摘。「カミングアウトしていない状態で社会と向き合う姿は、発達障害に限らず、誰もが何かを抱えながら生きている状況につながる。そこに普遍性があると思った」と説明した。表現のバランスについては最後まで調整を重ねたといい、「この役を演じられるのは松山さんしかいないと確信していた」と語る。
難解な台本が現場の結束につながっている点について、鳴海は「毎日誰かが長セリフと向き合っている現場なので、『今日はこの人が大変だな』と分かる。先輩方が『今日大変だね』と声を掛けてくれる」と現場の様子を紹介。遠藤も着替えの場で弱音を漏らした際、鳴海から「みんなですから。みんないっぱいいっぱいですから」と返されたエピソードを披露し、「その言葉で心が軽くなった」としみじみ語った。
「宙わたる教室」(24年)のスタッフ陣による撮影現場の熱量について松山は、カメラワークの丁寧さを挙げ、「どこを切り取るべきかをギリギリまで探り続けている。俳優の表現を撮り切ろうという思いが強くて、ありがたい」と述べた。鳴海も「悩んでいると、監督ときちんと話せる時間を作ってもらえる」と感謝を示した。

「自分はNGを出すんですが」と申し訳なさそうに語った遠藤は、「『もう一回』と言われるのが正直苦手」と苦笑い。「でも松山くんは文句を言わない。その姿勢が本当にすごい」と感服した様子。松山は「技術側と俳優側のNGは同時に出せない難しさもあるが、現場の熱量を大事にしたい」と考えを示し、「どうやってピークを持っていくかを常に考えている」と話した。
連続テレビ小説「虎に翼」(24年)でも裁判官を演じた松山は、本作との違いについて「今回は裁判官の裏側が描かれている」と指摘。「裁判官部屋やデスクでのやりとり、三者協議などもある。以前は最高裁長官役だったので、立場もまったく違う」と補足した。最後には「当時のような顔芸が少しはできたら」と笑顔を見せ、サービス精神をのぞかせた。

作品の魅力について鳴海は、「サスペンスのヒリヒリ感と、登場人物同士の掛け合いが生む温かさ、そのバランス」と表現。遠藤も「松山くんの特性の演技が、緊張感の中にいい意味で笑いを生んでいる」と評した。松山自身も「ズレのようなものを楽しみながら演じている」と話し、「1話ごとにテーマが違い、考えさせられる内容。読み物としても面白い」と手応えを口にした。
会見の終盤、松山は放送スケジュールにも触れ、ミラノ五輪の影響で五輪放送が挟まる可能性を説明。「ミラノ五輪も含めて『テミス』の一部だと思って応援してもらえたら」と呼びかけた。さらにフィギュアスケートの“りくりゅうペア”(三浦璃来選手、木原龍一選手)を「推し」として挙げ、メダル獲得への期待を寄せた。

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