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「英語の壁に絶望しています(笑)」吉沢亮「ばけばけ」で英語の芝居で挑む異文化の時代2025/10/24 08:15

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「英語の壁に絶望しています(笑)」吉沢亮「ばけばけ」で英語の芝居で挑む異文化の時代

 NHK総合ほかで放送中の連続テレビ小説「ばけばけ」(月~土曜午前8:00ほか)で、英語教師・錦織友一を演じる吉沢亮。明治の松江を舞台に、外国人教師のレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)と出会い、言葉や文化の壁を越えて歩み寄っていく青年を演じている。

 「ばけばけ」は、松江の没落の娘・小泉セツとその夫の小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)をモデルに、明治という急速な西洋化が進む時代を背景に描かれる物語。ヒロイン・松野トキ(髙石あかり)と、英語を教えるために松江へ赴任したヘブン(トミー)の出会いを軸に、異なる文化の中で芽生える絆を丁寧に紡ぐ。言葉や立場の違いを越えながら、日常の小さな幸せや“生きる強さ”を見つめ直していく、温かな人間ドラマだ。

 第4週では、トキが上京先の下宿で錦織(吉沢)と出会い、10月27日から放送の第5週で再び松江の地で出会う。英語教師としてヘブンを支えながら、時代の変化と人の思いに向き合う錦織。松江随一の秀才と呼ばれる彼が抱える葛藤や、異文化の中で揺れ動く心を、吉沢が繊細に体現する。英語での芝居に挑みながら、“明治の秀才”とどう向き合っているのか、その手応えを聞いた。

英語での芝居に絶望しながらも前進

――今回の出演が決まった経緯を教えてください。

「今回の制作統括の橋爪國臣さんや、演出の村橋直樹さんは、大河ドラマ『青天を衝け』(2021年)でもご一緒した方々なんです。そのチームの皆さんから再び声を掛けていただけたことが本当にうれしくて、『ありがたいな』という気持ちになりましたし、ぜひやらせていただきたいと思いました。それに今回は、英語をかなり話す役だと聞いて、以前から『英語を学んでみたい』と思っていた自分にとっては、いい機会だと感じたんです。ただ、思っていた以上に英語が難しくて、今は絶望しております(笑)」

――台本を読んでの印象は?

「まず、言葉の掛け合いがとても面白いと感じました。そして、錦織友一という人物は、西田千太郎さんという実在の方がモデルになっていて、資料をいくつか読ませていただいたなかで『なんて魅力的な人なんだろう』と思ったんです。そういう人物を演じられることが光栄で、『ぜひ挑戦してみたい』という気持ちになりました」

――“秀才”という役どころを任された時の心境はいかがでしたか。

「正直、“秀才”という部分に特別ピンと来たわけではなかったんです。でも台本を読んでみたら、想像以上に英語のセリフが多くて。『こんなにしゃべるんだ!』と驚きました(笑)。最初に『月に2~3日くらいの撮影の時もあります』と聞いていたので、『意外とゆったりしているのかな』と思っていたら、気付けば月の半分は大阪にいて。少しおかしいなと思いながらも(笑)、必死に英語を覚えて頑張っています」

――演じるうえで、“秀才感”のような部分は意識されましたか。

「第4週では意識していました。東京に出てきたばかりの錦織は、『これから自分たちの力で日本を動かしていくんだ』という志に満ちているんです。決して恵まれた環境ではないけれど、自分の力で道を切り開いていくという自負がある。その、理想に燃える青年としての姿勢を大切にしました。ただ第5週以降は、ヘブン先生に振り回される毎日で(笑)。松江随一の秀才というよりは、どこか抜けていて人間味のある男として描かれていきます。その落差も、この役の面白いところだと思います」

――英語の練習は、どれくらい前から始められたんですか。

「去年の12月くらいから少しずつ英語の勉強をスタートして、撮影前にはだいたい5か月間ぐらいレッスンを受けていました」

――現在も継続されているんですか。

「そうですね。撮影が始まってからは頻繁にはできていないんですけど、時間がある時には先生についてもらって、今も続けています」

――英語のセリフに関して、特に苦労されている点は?

「英語のセリフを覚えるだけなら、難しくてもやればできるんですけど、そこに感情を乗せるのが本当に難しいです。英語で感情を表現する。つまり“英語を話す”ではなく、“英語で芝居をする”って全然違うんだなと実感しています。それに、錦織が話す英語には2種類あって、一つは“錦織友一として話す英語”、もう一つは“通訳として話す英語”。そのテンションの違いも意識しなくてはいけないので、その切り替えがなかなか難しいです。でも試行錯誤しながら、どうにか形にしている感じです」

――ご自身の上達は実感できていますか。

「これがびっくりするくらい、感じないんです(笑)。もっとしゃべれるようになるのかなと思っていたんですけど、全然です」

――そんな中でも心がけていることがあれば教えてください。

「錦織は秀才な人物として描かれているので、なるべく違和感のないように英語を話せるよう意識しています。もちろん、ネイティブのような完璧な発音を目指しているわけではないのですが、“練習している感”が出ないようにすることはすごく大事だと考えていて。週に2~3回くらいは英語の先生のレッスンを受けながら準備しました。そうやって少しずつ慣れていくうちに、自然に口から出るようになってきた感じです。第5週の完成版を見たトミーさんから『完璧だった』と言ってもらえたので(笑)、なんとか形にはなっているのではないでしょうか」

錦織友一という人物と共演者たちとの化学反応

「英語の壁に絶望しています(笑)」吉沢亮「ばけばけ」で英語の芝居で挑む異文化の時代

――では、錦織友一という人物が抱えている事情や葛藤について、どのように捉えていますか。

「彼は“松江随一の秀才”“大磐石”と呼ばれるほどの存在で、周囲から完璧な人と思われている分、そのプレッシャーもすごく大きいんです。物語の中盤以降には、彼自身が壁にぶつかるような出来事も描かれていきます。その中で彼がどう向き合うのか。そこが錦織の大きなテーマだと感じています」

――ご自身の役の展開が分からないまま演じることに関してはどう感じられていますか。

「ある程度の骨組みは分かっているんですけど、やっぱり台本になってみないと細かい部分までは分からないことが多いです。でも、そういう意味では台本をもらう時にちょっとワクワクするというか。ある意味、視聴者に近い感覚で展開を楽しめるんです。それがすごく面白いです。裏設定として聞いたことが結局描かれなかったりすることもあるので(笑)、あまり決め込みすぎず、自然に受け取るようにしています」

――錦織にとって、トキやヘブンという存在はどのように映っていると考えますか?

「まずおトキさんに関しては、東京の下宿先で出会って、短い時間の中でもいろいろな出来事を一緒に経験していますし、松野銀二郎(寛一郎)との一件も間近で見ていますから、やっぱり“たくましさ”のようなものを感じているんじゃないかなと。ただ第5週の段階では、まだそこまで深い関係性には至っていないので、強く特別な意識を向けているというよりは、“同じ時代を生きる人間として気になる存在”くらいの距離感なのかなと捉えています。ヘブン先生に関しては、やっぱり県知事が日本の教育を変えるために招いた外国人教師で、まさに時代の主役になる人物です。だから錦織にとっては、『彼と一緒にいれば自分の人生も変わるかもしれない』という期待を持って接しているように思います」

――今後、錦織とヘブンの関係はどのように変化していくのでしょうか。

「少なくとも、錦織にとってヘブン先生はかけがえのない存在になっていきます。2人の距離はどんどん近づいていきますし、すでに今の時点でも、錦織はかなりヘブン先生に入れ込んでいると思います。これからますます“いい関係”になっていくんじゃないでしょうか」

――髙石さんとトミーさんとのお芝居の感想を聞かせてください。

「第5週以降は3人の掛け合いが中心になる場面が増えました。目の前で起きている出来事はわりと重めの話なんですけど、それをあえて重く扱わずに、少しコメディータッチのテンションで演じることが多いんです。なので、現場は笑いの絶えない、面白いシーンが多かったです。お二人ともお芝居のテンポ感や間の取り方が素晴らしくて。ナチュラルでありながら、コメディーでもオーバーになりすぎない。そのバランス感覚がすごく心地よくて、『すてきなお二人だな』と感じながらご一緒していました。特に髙石さんは、最初の頃はセリフなのか素で笑っているのか分からないくらい自然で(笑)。戸惑うくらいでした。でも、その自然さがすごく魅力的で、お芝居していてやりやすいです。髙石さん自身すごく面白いし、コメディーが好きなんでしょうね」

――トミーさんとのお芝居で、日本人キャストとの違いや、特別な配慮などはありましたか。

「トミーさんが日本語をすごく話せる方なんですよ。なので、特別に気を遣うというよりは、むしろ英語のセリフの時に『今の発音どうだった?』って僕のほうからトミーさんに聞いたりして(笑)、気を遣わせてしまっているのは僕のほうかもしれません。国の違いによるギャップはあまり感じなかったです」

――トミーさんが「現場で毎日、異文化交流をしている」と話していました。実際の現場では、どんな交流が生まれていましたか。

「この間、『何時起き?』って言葉を教えました(笑)。すごく朝が早いロケの日があって、トミーさんが先に現場に入っていたんですよ。それで僕が『トミー、今日何時起き?』って聞いたら、『何時起きって何?』って(笑)。『“何時に起きた?”を略して“何時起き”って日本人はよく言うんだよ』と説明しました。次の日から『何時起き?』と毎日聞かれます(笑)。彼、日本語の吸収力がすごいんです。逆に、『“臨機応変”って英語で何て言うの?』っていう話になった時に、トミーさんが『それは“play it by ear”だよ』と教えてくれました。現場で段取りについて相談している時に、『じゃあ臨機応変に行こう!』って言った流れで聞いたんです。ほんとに、そういう意味でも“異文化交流”です(笑)」

――アドリブが多い現場のようですが、外国人キャストのトミーさんにとっては少し大変なのでは?

「全然そんな感じはないです。むしろトミーさんはすごく楽しそうにやっています。なんなら日本語でアドリブを入れてきて、こっちが笑っちゃう瞬間もあります(笑)。すごいですよ、ほんと」

――吉沢さんも、英語でアドリブに挑戦することも?

「たまにあります(笑)。ちょっと挑戦してみようかなと思ってやってみるんですけど、だいたい1回ドライでやって、『やめよう』ってなります(笑)」

――この作品の魅力の一つは、ほのぼのとしたユーモアだと思います。そのユーモアをお芝居で表現するうえで、心がけていることはありますか。

「やはり“面白いシーンだ”と思ってやりすぎると冷めちゃうので、やりすぎないように、ですね。あくまで自然体で、台本の流れに沿ってテンポや間を大事にしています」

――セリフがなくても“心が動いている”と感じさせる表情がとても印象的です。意識的にされているのでしょうか。

「いえ、あまり意識的にはやっていないです。言われてみればそうなのかもしれないけど、喉を動かすとか息をのむとか、そういうことを意識したことはないです。現場の空気とか、相手のお芝居とか、そういうものがあって自然とそうなっているんだと思います」 

朝ドラの現場、そして明治という時代を生きる

「英語の壁に絶望しています(笑)」吉沢亮「ばけばけ」で英語の芝居で挑む異文化の時代

――連続テレビ小説「なつぞら」(19年)以来の朝ドラ出演ですね。再び現場に立ってみていかがですか?

「『なつぞら』の時は、ほぼ1年近くの撮影で、スタッフ・キャストの皆さんの空気感がまるで家族のようで、温かかったです。今回、5~6年ぶりに朝ドラに出演してみて、やっぱり大阪制作というのもあって、より絆が強いというか、チームワークの良さをすごく感じています。みんなで支え合いながら作品を作っている現場です」

――大河ドラマと朝ドラの違いなどは感じますか。

「あまり大きな差は感じません。『なつぞら』の時は、カメラが6台くらいあって、どんどん抜けるところを抜いて撮るようなテンポの速い撮影だったので、『朝ドラってこんなに速いんだ!』とびっくりしたんですが、今回はライティングや絵作りにもすごくこだわっていて。体感時間としては、大河の時とそこまで変わらない気がします」

――本作の舞台となる明治初期は、大河ドラマ「青天を衝け」でも演じられた時代と重なります。当時の経験が生かされている部分はありますか。

「意図的に何かを意識しているわけではないですけど、その時代を生きた人たちの空気感みたいなものは、やっぱり身体に残っている気がします。渋沢栄一は時代の変化を心から楽しめる人だったと思うんですけど、そういう人ばかりじゃなかった。変化に取り残される人もいれば、嫌が応でも波に乗るしかない人もいる。そのなかで『錦織はどうなんだろう』と考えるうえで、『青天を衝け』で学んだことは確実に生きていると感じています」

【プロフィール】

「英語の壁に絶望しています(笑)」吉沢亮「ばけばけ」で英語の芝居で挑む異文化の時代


吉沢亮(よしざわ りょう)
1994年2月1日生まれ。東京都出身。B型。主な作品は、連続テレビ小説「なつぞら」(19年)、大河ドラマ「青天を衝け」(21年/ともにNHK総合ほか)、映画「キングダム」シリーズ(19年~)、映画「東京リベンジャーズ」シリーズ(21年~)、映画「ぼくが生きてる、ふたつの世界」(24年)、映画「国宝」(25年)など。

【番組情報】
連続テレビ小説「ばけばけ」

NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15 ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月~金曜 午前7:30~7:45

取材・文/斉藤和美

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