日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」加藤プロデューサーが語る舞台裏2025/10/11 06:00

TBS系では10月12日より、日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」(午後9:00、初回15分拡大)がスタート。早見和真さんの同名小説を原作に、競馬の世界を舞台に“継承”を描く20年にわたる壮大な人間ドラマだ。

主演は妻夫木聡。父と同じ税理士の道を志すも挫折を経験する主人公・栗須栄治を演じる。豪快な馬主・山王耕造役の佐藤浩市をはじめ、松本若菜、沢村一樹、黒木瞳、小泉孝太郎らが出演。さらに物語の鍵を握る重要人物を目黒蓮(Snow Man)が務め、家族や仲間との絆を通じて“夢の継承”が描かれる。


演出は「グランメゾン東京」シリーズや映画「ラストマイル」を手がけた塚原あゆ子さん。JRAの全面協力により、競馬場や牧場での迫力あるレースシーンも大きな見どころだ。放送開始を前に、プロデューサーの加藤章一さんにインタビュー。制作の舞台裏やキャスト陣の魅力、そして作品に込めた思いを聞いた。
──まずは企画の出発点を教えてください。原作を読まれて映像化を決めた理由とは?

「2019年の秋に原作を紹介されて読んだのが最初です。競馬の世界を舞台に“継承”を描く物語で、題材として新鮮でしたし、ストーリーも非常に面白かった。僕自身は競馬をやったことがなく、仕組みも全く知りませんでしたが、馬主、生産牧場、育成牧場、トレーニング・センター(トレセン)といった広がりを初めて知り、『こんなに多くの人が関わっているのか』と驚きました」
──競馬の裏側には多くの人の努力があるのですね。
「サラブレッドが血をつなぎ、走るために何代も継承されていく姿は、人間の生き方にも重なります。僕自身、父を亡くしたタイミングでもあり『親から何を受け継いだのか』を考えることも多かった。人から人へ、仕事から仕事へと意識せずともバトンは渡されていく。その営みに強くひかれ、『ぜひ映像化したい』と思いました」

──作品の根底にはそんな思いがあるのですね。
「ただ、2020年にJRAさんの協力を得られた矢先にコロナ禍となり、撮影どころではなくなってしまった。そこから足かけ5年。ようやく放送にこぎつけられたことに大きな感慨があります」
──主演の妻夫木聡さんには、どんな思いでオファーされたのでしょうか。

「これまでご一緒する機会がありませんでしたが、いつか必ずお願いしたいと思っていた方でした。今回の企画が立ち上がった時に『ようやくお願いできる』と感じました。原作ではストーリーテラー的な役割ですが、ドラマでは“バランスを司りながら全体を引っ張る”という非常に難しい役柄です。そこに妻夫木さんのお芝居が合うと感じましたし、早見先生にも『妻夫木さんのような方がいい』と賛同いただきました」
──撮影が始まってからの印象はいかがでしたか?
「撮影が始まってからも想像以上で、第2話以降はより“栗須”という人物と自然に重なっていく。クランクイン時点で台本の半分以上が完成していましたが、展開を全て頭に入れていて、自分の芝居だけでなく作品全体を見渡してアドバイスもしてくださる。主演として座長の役割を果たしながら、想像を超える芝居を見せてくださる、本当にすごい俳優さんです」
──佐藤浩市さんが演じる山王耕造は、どのような人物像ですか?

「今ならハラスメントで問題になってしまうタイプですが、一方で情に厚い面もある。その両面を表現できる方でないと役に幅が出ません。浩市さんなら温かさも説得力を持って演じてくださると思いました。本来はとてもスマートな方ですが、だからこそ逆に魅力的な“山王”に仕上がりました。妻夫木さんと浩市さんは親子ほど年齢差があるのに、むしろ“兄弟”のような空気感がある。クランクインの日、美浦トレセンで二人が並んで調教を眺めるシーンを見て『思った通りだ』と胸が熱くなりました」
──物語の重要人物を演じる目黒蓮さんについては?
「映画『私の幸せな結婚』や『トリリオンゲーム』シリーズでもご一緒しましたが、今回は非常に繊細で、後半にかけて物語を大きく動かす役です。最初から『これは目黒さんしかいない』と思ってお願いしました」

──実際の撮影では、どんな場面が印象に残っていますか?
「北海道で目黒くんが牧場で馬に触れるシーンがあるのですが、セリフもないのに涙が出てきたほど。想像以上に素晴らしく、『この役をお願いして本当に良かった』と実感しました」
──その目黒さんに特に期待している部分は?
「妻夫木さん、佐藤さんには長年積み上げてきた空気感があります。いい意味で完成されたものが常にある。その中に目黒くんが入り、時に揺さぶってくれる。3人が絡むシーンは必ず化学反応が起きると確信しています。ぜひ注目していただきたいです」
──撮影にあたって、JRAや牧場の協力も大きかったそうですね。
「本当に全面的に協力いただいています。競馬場では実際のレースの合間に撮影をさせてもらう必要がありますし、現役のサラブレッドは使えない。馬をどう集めるかは今も続く大変な作業ですが、同時に面白い部分でもあります」

──取材もかなり重ねられたそうですね。
「印象的だったのは、撮影再開を決めた去年の頭から、牧場や馬主さん、ジョッキーさん、調教師さんに取材を重ねたこと。大規模牧場を訪れた後に、日高地方でご夫婦だけの小さな牧場を見て『この環境で戦っているのか』と衝撃を受けました。そのリアルをドラマに生かしたいと強く思いましたね」
──競馬のレースシーンは大きな見どころです。塚原あゆ子監督はどのように演出されたのでしょう?
「本物のレースをそのまま再現するのは不可能です。18頭を一度に走らせることもできません。だから“どう馬を撮るか”よりも、物語の中でレースをどう感動につなげるか、視聴者が一緒に応援できるかを重視しました」
──演出面でもかなり工夫されたんですね。
「レースはさまざまなカットを組み合わせて構築し、2話以降は視点を変えて毎回違う見せ方にしています。撮影は一発勝負になることも多く、カメラマンをはじめスタッフ陣はかなり苦労したと思います」

──天候にも悩まされたとか。
「北海道ロケでは雨が続きスケジュールが二転三転し、中山競馬場で撮り直したこともありました。塚原監督は『グランメゾン東京』で料理を魅力的に映したように、今回は競馬をどうドラマに生かすかを突き詰めていて、非常にチャレンジングな現場でした」
──俳優の皆さんが馬と向き合う場面も印象的でした。撮影現場でのエピソードや工夫があれば教えてください。

「浩市さんは時代劇などで馬に慣れていて、少し機嫌の悪い馬でも自ら近づいて落ち着かせてしまう。全く怖がらず見事でした。妻夫木さんもご自身の経験から『馬を洗ったら心を開いてくれた』と話していて、本当に理解されているなと感じました」
──そうして馬との信頼関係を築かれていったんですね。
「大変だったのはむしろ撮影環境です。バタバタすると馬が驚いてしまう。妻夫木さんから『もっと現場をシンプルにして馬が落ち着けるように』と提案をいただき、改善したことで自然な絵が撮れるようになりました。特に目黒くんの初撮影では、最初ビクビクしていた馬がだんだん心を開き、自ら近づいていく姿が映せました。あの瞬間は忘れられません」
──では、物語全体の魅力や第1話の注目ポイントは?
「大きなテーマは“競馬を題材にした20年間の継承の物語”。ただそれだけではなく、家族の再生や仲間とのつながりといった人間ドラマも大切にしています。夢や情熱を描きながら、家族愛や仲間との絆にも光を当てた人間ドラマです。誰もが挫折や失敗を経験しますが、それをどう乗り越えるかを役者やスタッフが丁寧に描いてくれました。競馬を知らない方でも楽しめますし、逆に普段から親しんでいる方でも生産牧場やトレセン、社台ファームなど普段は入れない場所の映像は新鮮に映るはずです」
──最後に、本作に込めた思いや、視聴者へ届けたいメッセージを伺えますか。
「馬は純粋で臆病な存在です。こちらが心を閉ざせば逃げるし、心を開いて待てば向こうから近づいてくる。その姿は人と人との関係にも重なりますし、癒やしでもあります。だからこそ作中でもそうした瞬間を大事に描きました」
──人間関係にも通じるテーマですね。
「今の時代は『生きづらい』と言われがちですが、山王のように『俺の夢はこれだ』と情熱を持って生きる姿には力があります。視聴者の方にこのドラマを見て『明日から少し頑張ってみようかな』と感じていただけたら幸いです」

【プロフィール】
加藤章一(かとう しょういち)
神奈川県出身。映画・テレビドラマのプロデューサー。「私の家政夫ナギサさん」(20年)、「トリリオンゲーム」(23年)などをプロデュース。ジャンルを問わず幅広い作品で活躍している。
【番組情報】
日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」
TBS系
10月12日スタート
日曜 午後9:00~9:54
(初回は15分拡大)
取材・文/斉藤和美
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