笠松将が国内外での活動を通して感じたこととは? 「奥のほそ道」の撮影を振り返る2025/10/10 17:00

リチャード・フラナガンのブッカー賞受賞小説をドラマ化した「奥のほそ道 -ある日本軍捕虜の記憶-」では、太平洋戦争下、日本軍の捕虜となったオーストラリア人軍医のドリゴ・エヴァンス(ジェイコブ・エローディ)の人生が描かれる。戦前、戦中、戦後の三つの時代を見つめながら、人間の本質に迫るこの重厚なヒューマンドラマに、日本から笠松将が出演。捕虜収容所の監督官でありながら、葛藤を抱えるようになる日本軍将校・ナカムラ少佐を演じた笠松に、撮影地・オーストラリアでの思い出などを聞いた。
何を信じていて、何に裏切られたのかを大切に演じようと思いました

――笠松さんが演じるナカムラ少佐はどんな人物ですか?
「時代によって、“当たり前”や“普通”って全然違いますよね。そんな中、この物語ではいろんな人たちが自分の考えや信じていたものを疑うようになります。ナカムラ少佐もその1人で、信じていたものに裏切られる。だからこそ、まずは彼が何を信じていて、何に裏切られたのかを大切に演じようと思いました。捕虜を演じる俳優たちと対峙(たいじ)する役ですが、監督もプロデューサーも『立場が違うだけ』と言っていましたね」
――捕虜収容所のシーンにはハードな描写も多いです。
「撮影自体もハードでした。カットがかかってなお、涙や震えが止まらない捕虜役の俳優たちもいて。プロの役者ですけど、彼らはまだ20代の若者。その姿を見て、泣くシーンじゃないのに僕も涙が出てきました」
――リアリティーを追求する現場だったということでしょうか?
「そうですね。なので、捕虜役の俳優たちと楽しく話したり、一緒にご飯を食べたりする機会は残念ながら一度もありませんでした。監督に内緒で、トレーラーの裏でちょっとしたおしゃべりをしたりはしましたけど。『俺、君としゃべりたかったんだよ』って」

――ただ、軍医のドリゴとナカムラ少佐は対等な会話をする間柄ですから、ジェイコブ・エローディとは交流があったのでは?
「彼とはすごくいい関係を築けたし、いい距離感でお芝居ができました。『アメリカに来たら、僕の家に遊びに来て』と言われて連絡先も交換して。その後、アメリカに行く機会はあったんですけど、結局連絡していないです……」
――連絡しなかったのは、なぜですか?(笑)。
「いや、本当に行くべきものなのかなって。僕も海外で仕事をして、『日本に行ったら会いに行くよ!』と言われて実際にランチをしたことはありますけど、家まで行くとなると……。撮影現場での絆みたいなものってあるじゃないですか。『あの時の俺たち、最高だったよな!』みたいな。だから、いい思い出にしておくべきかと」
――本当に来てほしいかもしれないですよ。
「いい俳優ですからね! ハリウッドの20代の中でもトップ3に入る俳優だと思いますし、めちゃくちゃリスペクトしています。2人芝居みたいなシーンも多かったので、いい経験になりました」

――ドリゴとのシーンでは英語を話していますが、日本語を話すシーンもありますね。英語と日本語では、お芝居の表現において勝手が違ってきますか?
「結局、同じなのかなとも思っています。言ってしまえば、英語のお芝居は方言のお芝居に似ているかもしれない。日本語は僕の第一言語だからこねくり回したくなるけど、英語の方がシンプルに向き合えます。その分、セリフを早く覚えられますし。もっと英語を巧みに操って恋愛する役とかだったら、話は違うかもしれないけど」
――英語を巧みに操って恋愛する役、やってみませんか?
「機会があればぜひ挑戦したいです」

――それにしても、いろいろな国でのお仕事が続きますね。
「最初の頃は“すごいことをしているのかも!”と勘違いすることもできましたが、最近はもう少し冷静に捉えていて。当然、その中で挫折も味わいますし。結局、どこの国でやっていても同じなんだなって。ただ、あえて国外と国内を分けて考えるとしたら、国外の作品は国内の皆さんに、国内の作品は国外の皆さんに届きづらい印象はあります。例えば、オーストラリアでは『「奥のほそ道」に出ていた人だ!』と言われるだろうけど、日本では日本の作品名があがるだろうし。経験値はたまってきたけど分散され過ぎてもいて、もっと圧倒的な何かを残したい気持ちもあります」
――すでに配信されている国々での評判も高いですし、この「奥のほそ道」は国内外問わず注目を集めるべき作品かと。
「僕もそう思います。実は、『TOKYO VICE』で僕を海外作品の入口に立たせてくれたマイケル・マン監督がこの作品を見てくださって。一緒にランチに行った時、『アメリカでも話題になっているよ。すごくよかった! いい作品に出ているね!』と言っていただけました。そう言ってもらえてうれしかったですし、いい作品だという自負は僕にもある。なので、皆さんにもぜひご覧いただきたいです」

【プロフィール】
笠松将(かさまつしょう)
1992年11月4日生まれ。愛知県出身。2020年に「花と雨」で長編映画初主演。以降、「君と世界が終わる日に」(21〜22年)、「ガンニバル」(22〜25年)などに出演。10月10日スタートのTBS系連続ドラマ「フェイクマミー」では、物語のキーとなる謎のキャラクターを演じる。「TOKYO VICE」(22〜24年)をはじめとする海外作品での活躍も目覚ましく、ソル・ギョングらと共演したNetflix映画「グッドニュース」の配信も10月17日に控えている。

【コンテンツ情報】
「奥のほそ道 -ある日本軍捕虜の記憶-」(全5話)
U-NEXT
10月10日から独占配信
取材・文/渡邉ひかる
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