何度でも見返したくなる「如懿伝(にょいでん)~紫禁城に散る宿命の王妃~」の世界2025/09/25 07:00

現在BS11で放送中の「如懿伝(にょいでん)~紫禁城に散る宿命の王妃~」(月~金曜 午後1:00~2:00)は、清の最盛期を築いた6代乾隆帝(けんりゅうてい)(ウォレス・フォ)が愛したヒロインと、2人の仲を引き裂こうと蠢(うごめ)く後宮内の陰謀を描いた宮廷ロマンス。歴代中国時代劇の中でも傑作に数えられ、全87話の大長編にも関わらず何度も見たくなる魅力が満載。初めての視聴者にもリピーターにも知っていてもらいたい、華やかな宮廷で繰り広げられるドロドロな女同士の戦いの背景をひもといていく。
見慣れるとカッコ良くなる辮髪(べんぱつ)姿

中国時代劇に慣れていない人が、清を舞台にした「如懿伝」の男性陣を見てまず思うのが「何、あの髪型?」というものだろう。乾隆帝が、後頭部だけを残して三つ編みにまとめているあのヘアスタイルは「辮髪(べんぱつ)」という。もともとは、北方の騎馬民族が、戦場で兜(かぶと)をかぶったときに蒸れないよう工夫したもので、日本の「丁髷(ちょんまげ)」と目的は同じ武人の髪型だった。
清は満州族(女真族)が建てた国で、大多数を占める漢民族に辮髪を強制した。「頭を留める者は髪を留めず、髪を留める者は頭を留めず」と、髪を切らない者は首を斬るという徹底ぶりで、漢民族に劣等感を植え付けたのだ。ただ、最初は強制されたものだったが、乾隆帝の頃には庶民にも浸透していた。江戸時代、武士でもない町民が、強制されなくとも、ちょんまげにしていたように、貴族階級(セレブ)のファッションをまねしたくなる意識は万国共通だ。最初は驚くが、見慣れてくると気にならなくなる。乾隆帝を演じるウォレス・フォや侍衛の凌雲徹(りょううんてつ)役のジン・チャオなど、あの髪型で魅力的に見えるというのは、確実にイケメンである証明ともいえるだろう。
緻密に再現された皇妃たちの豪華な宮廷ファッション

「如懿伝」は、総製作費96億円という破格の予算が投じられている。宮中のセットや調度品の数々の中でも、注目なのが皇妃たちの宮廷ファッションだ。彼女たちの衣裳や髪型は細部までこだわり抜かれ、まるで絵巻物のように豪華絢爛な後宮の世界を演出している。その美しさがまぶしいほど、その裏に潜む嫉妬や権力争いといったドロドロした人間模様が、より一層際立って見える。

皇妃たちが髪を結い上げているあの髪型は「両把頭(りょうはとう)」と言って、頭に載せた扇形の土台に長い髪を結い上げて左右に広げている。当時は頭が大きいことが高貴な女性のステイタスで、位が高くなるほど大きくなる。服装も漢民族のひらひらした衣裳と違い、動きやすく防寒性に優れた満州族の「旗袍(チーパオ)」に、豪華な装飾が施された宮廷ファッションとなっている。
一族の命運を背負う女たちの権力争い

清の後宮では皇后を筆頭に皇貴妃、貴妃、妃、嬪、貴人、常在…と細かく妃嬪(妻)たちの階級が定められていた。また、満州族はそれぞれの氏族に分かれており、皇帝一族の愛新覚羅(アイシンギョロ)氏は、清朝の支配層を構成する名門中の名門。妃嬪たちにとって、皇帝の寵愛を受けるのは一族(氏族)の繁栄につながり、男子を産もうものなら次期皇帝の母となる。皇帝の母(皇太后)は後宮でも絶対的な権力を握り、皇帝であってもその意向に逆らえないのは、乾隆帝を見ていても分かる。

それだけに、皇帝の寵愛と妊娠は一大事で、後宮内の秩序を無視して皇帝の寵愛を受けた者はいじめの対象となる。さらに、妊娠しようものなら毒を盛ったり突き飛ばしたりと、過激な手段で流産させることも厭わない。後宮バトルには、恋愛感情による嫉妬よりも切実な、氏族の将来を担うという政治的嫉妬があるのだ。一方で乾隆帝も、これまで後宮において皇后や皇太后を多数輩出してきた如懿の出身氏族の烏拉那拉(ウラナラ)氏、自身の養母や重臣を出した鈕祜禄(ニオフル)氏、さらに現在の正室・富察琅嬅(フチャロウカ)を輩出した富察(フチャ)氏など、後宮・政治の両面で強い影響力を持つ有力氏族と姻戚関係を結ぶことで、皇室の正統性と支配権を盤石なものにしていった。

【STORY】

前半のみどころ(第1話~第47話)
・如懿とその幼なじみで、清朝雍正帝(ようせいてい)の第四皇子・弘暦(こうれき)(後の乾隆帝)との純粋な愛が、政略と嫉妬に翻弄(ほんろう)されていく。
・側福晋(そくふくしん)から嫻妃(かんひ)へと側室としての地位を確立する如懿だが、皇子を殺めたという濡れ衣により、冷宮※送りとなる。(※過酷で孤独な幽閉生活の場所)
・乾隆帝の正妻・富察皇后や、如懿と同時期に側室となった高晞月(こうきげつ)(トン・ヤオ)らとの複雑な人間関係も描かれる。
・毒殺未遂、亡霊騒動、侍女の裏切りなど、サスペンス要素も濃厚に。
・如懿が潔白を証明、皇后の座へと返り咲くまでの過程が見応えあり。
後半のみどころ(第48話~第87話)
・乾隆帝の寵愛は衛嬿婉(えいえんえん)(リー・チュン)へと移り、如懿から離れていく。さらに、偏愛、誤解、誹謗中傷が積み重なり、2人の信頼が完全に崩壊する中で、如懿がとった覚悟の行動とは…。
【番組情報】
中国時代劇「如懿伝~紫禁城に散る宿命の王妃~」
BS11
月~金曜 午後1:00~2:00
※BS11公式動画サイトBS11+とTVerでも配信中
文/菊池昌彦
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