高橋文哉が語る「あんぱん」健太郎の恋・友情・アンパンマン愛、北村匠海&大森元貴との刺激的な3人芝居2025/08/27 08:15

NHK総合ほかで放送中の連続テレビ小説「あんぱん」(月~土曜午前8:00ほか)で、主人公・のぶ(今田美桜)の夫・柳井嵩(北村匠海)の親友である辛島健太郎を演じる高橋文哉にインタビュー。
「あんぱん」は、脚本家の中園ミホさんがアンパンマンを生み出した漫画家・やなせたかしさんと妻・暢さんをモデルとした柳井嵩(北村)と、嵩の妻・のぶ(今田)の激動の人生を描く。何者でもなかった2人があらゆる荒波を乗り越え、”逆転しない正義”を体現した「アンパンマン」にたどり着くまでの愛と勇気の物語だ。
そんな嵩を支え続けるのが、高橋が演じる辛島健太郎。福岡出身の明るく人懐っこい青年は、学生時代から戦争を経て、NHKディレクターとして活躍し、嵩の真の友人として物語の重要な役割を担う。
本作で朝ドラ初出演を果たした高橋は、全編博多弁での演技や体重の増減、初めての父親役など、さまざまな挑戦に臨んでいる。“心臓を5cm上げる”という独特の演技アプローチ、のぶの妹・メイコ(原菜乃華)との結婚、北村匠海や大森元貴(Mrs. GREEN APPLE)との共演、そして「アンパンマン」への思いまで――。「あんぱん」の撮影を振り返るその表情からは、健太郎という役への深い愛着と充実感がにじみ出ていた。
――朝ドラ出演のオファーを受けた時の心境を教えてください。
「自分にとって節目であるデビュー5周年の年にお話をいただきました。NHKとしても放送100年の節目となる作品に出演できるのは、本当に光栄でした。このお仕事を始めた時からの大きな目標の一つだった“朝ドラ”の世界。出演が決まった時は本当にうれしかったですし、同時に緊張や不安も抱えていました」
――解禁までの期間は、どのように過ごしていましたか。
「守秘期間はほかの作品以上に徹底されていて、母にもしばらく言えませんでした。撮影に入ってからも、髪を切った理由さえ説明できない。でも、その状況を『かっこいいな』と感じている自分もいました。限られた人しか知らない特別感があって、解禁された時に『あんぱん、やるんだね』、『朝ドラ出るんだ』と声を掛けていただき、改めてすごいことだなと実感しました」
初めて挑んだ全編博多弁での芝居

――健太郎は福岡出身という設定ですが、博多弁での演技はどのように準備されましたか。
「長期間の撮影を方言で演じるのは初めてで、台本を読んだ段階で『博多・福岡出身の役』と知った時は『自分にできるのか』という不安が大きかったです。事前にいただいた音源を聞きながら現場に行き、違っていればその場で直していただく形でした。初登場のシーンは方言指導の先生と練習し、気になる部分を確認しました。さらに自分で博多に旅行も兼ねて行き、現地の人の話し方を聞いたりもしました」
――今では博多弁もかなり慣れてきたそうですね。
「同じ役を長く演じていることもあり、セリフを覚えるスピードがどんどん早くなって、博多弁も耳になじんできました。本を読むと自然とその音が聞こえてくるようになり、第20〜21週あたりから、ようやく博多弁でアドリブが言えるようになりました。北村匠海さんと大森元貴さんは瞬発力がすごくて、僕は博多弁という制約でアドリブがなかなかできなかったんです。でも健太郎は本来アドリブ力があってもおかしくない人物なので、そこは負けたくないと考えていました」
“心臓を5cm上げる”独特な演技アプローチ
――健太郎を演じる上で大切にしている役の軸と、特徴的な演技方法について教えてください。
「心情面での軸は“人が好きで、人たらし”であること。そして底抜けに明るく、『この人のために頑張ってあげよう』と思わせる人物であることです。自分の中では“心臓の位置を5cm上げる”感覚で演じています。感覚的な話ですが、心臓が5cm上がると、ふわっと軽くなり、少し調子に乗ったり、突拍子もないことを言い出しそうな空気が生まれる。それを常に保つことで、健太郎らしさを表現しています」
――学生時代から年齢を重ねていく役柄を演じる中で、体重管理はどのように行いましたか。
「学生時代はふっくらとどっしりした印象にし、戦争中に体重を落とし、戦地から戻った時に少し戻し、現在は再び少し減らしています。学生時代の健太郎には、福岡から上京した背景や実家の安定感を体格にも反映させ、両親の優しさに育まれた“人に優しくできる理由”を体つきで表しました。結婚後に減量を始めたのは、年齢を重ねた印象を出すため。40歳前後までは白髪やシミなどの特殊メイクがないため、姿勢や声のトーンで年齢感を出す必要がありました」
――減量方法は意外とシンプルだったとか。
「年齢を重ねた時期はトレーニングで肩幅を広げ、“人としての太さ”を出すことも意識しました。健太郎の話し方は大きく変えず、髪型や衣装で変化を付けています。衣装合わせの際も、スタッフの皆さんや共演者が持つ健太郎像に自分を合わせる作業を続けていました」
大人の男性を自然に演じるための観察と工夫
――年上の役づくりではどのような点を意識されていますか。
「これまでは演じても25歳くらいまでの等身大の役が多く、ここまで年上の役は初めてです。正直、どう捉えればいいのか分からない瞬間もありました。だからこそ現場で大人の男性たちをよく観察するようになりました。疲れてきた時間帯のしぐさ一つ取っても若い人とは違います。例えば肩が凝った時、若い人は肩を回したり腕を伸ばしたりしますが、大人の男性は回さずにそのまま押してほぐそうとする。メガネの直し方も、年配の方は中央を押して直す一方、若い人は外側を押すことが多い。健太郎も年齢を重ねてからメガネをかけるようになるので、そうした観察結果を芝居に反映させています」
――声のトーンや老けメイクについては、どのように取り組まれていますか。
「声の高さやテンションは年齢とともに落としていますが、健太郎の場合は“落ちきらない明るさ”を残すことが大切だと思っています。姿勢や腰の曲げ方で年齢を出しつつ、根っこの明るさは変えない。老けメイクは最初こそ『老けたな』とワクワクしましたが、今は現場に行けば全員が老け顔なので、もう何も感じなくなりました(笑)。こんなきれいに老けられたら最高ですね。これまでの引き出しだけでは通用しないので、新しい要素を取り入れながら演じることが面白いです」
メイコとの結婚、告白シーンに込めた思いとその後

――第19週でメイコと結婚する健太郎ですが、特に印象的だった告白シーンについて聞かせてください。
「“告白”と呼んでいいのかは微妙なのですが。『好き』や『付き合おう』といった言葉は一切ありませんが、みんなで『あれは告白シーンだ』ということにしていました。台本を読んだ時は『ついにきたな』という気持ちになりました。嵩とのぶに見守られながら階段の上で迎える場面は、とても緊張感のあるシーンでした。リハーサル後には自然と拍手が起き、『おお、若いね』と声を掛けてもらえて。『やっと言えた』という達成感と、この2人の未来が楽しみになる場面になったと思います」
――健太郎は、いつメイコに恋心を抱いたと感じますか。
「メイコは健太郎の心の片隅にずっといた人で、急に恋愛感情が芽生えたというより、友達や家族ではない特別な存在。ふと思い出し、寂しい時に会いたくなるような人だったのだと想像します。僕自身の中には答えがありますが、それを出してしまうと健太郎らしさが薄れる気がして、顔や表情には絶対に出さないようにしていました。見る人それぞれの中に『ここだ』という瞬間があっていいのではないかなと思っています」
――メイコは結婚後どんどん強くなっていくそうですが、健太郎に変化はありましたか。
「変わらない気がします。第22週では、メイコが健太郎に『女性として見てもらえない』と悩んでいる場面があります。『パパとママになっちゃった』という、世間のお母さま方もよく感じていることのようです。健太郎は“変わらない関係性でいることがいい”と思っていたけれど、気付けばそうなってしまう。それも彼らしい部分だと思います。そこは意識しつつも、接し方はあまり変えないようにしていました。義理の姉であるのぶさんや蘭子さんには、少し緊張するくらいでしょうか。変わったことといえばそのくらいで、良くも悪くも変わらないということだと思います」
――メイコの寂しさに気付かない健太郎を、どのような気持ちで演じていましたか。
「僕自身は正直、『この人はいつ、どうメイコと向き合うんだろう』と思いながら見ていました。ただ、それを意識しすぎると芝居があざとくなってしまうと思ったので、最初の段階で“健太郎はあざとくならないように演じたい”と伝えていました。僕の中でメイコは“本当に大切な人”という位置づけで、それ以上でも以下でもない。彼なりの思いやりの形は理解できました」
――父親役は今回が初めてだそうですね。
「はい。兄が2人いて、それぞれに子どもがいます。なので小さな子と接する芝居はとてもやりやすかったです。特別な準備をしたわけではなく、日常的に接してきた経験や、兄の空気感を思い出しながら演じていました。兄たちに感謝です」
嵩との関係の変化と、北村匠海への信頼

――健太郎は学生時代から嵩の良き友人として登場してきました。今は仕事面でも支える存在に見えますが、その立ち位置をどう捉えていますか。
「うらやましい関係だなと思います。学生時代からずっと一緒で、義理の兄弟にもなっている。たくちゃん(いせたくや)を交えた3人で、それぞれが違う角度から嵩に良い影響を与えている気がします。たくちゃんは嵩の才能を尊敬し、健太郎は純粋に嵩の絵や詩が好きで『一緒にやろう』と誘う。仕事として成長させたいというより、作品にひかれ、一緒に作りたい思いが強いんだと思います。昔は“助けたい”気持ちが大きかったですが、少しずつ関係も変わってきたと感じます」
――人見知りだった高橋さんは以前、北村さんに“文哉”と呼ばれてキュンとしたと話していました。今はどんな関係ですか。
「最初はこんなにお話させていただくようになるとは思っていませんでした。仕事のことも関係ないこともたくさん聞いていただいています。芝居やこの世界への熱量を垣間見ると『ついていきたいな』と思いますし、自分が見たい世界を見せてくださる存在で、北村さんと出会えたことは自分の中で大きな柱になっています」
――北村さんとのシーンで特に印象に残っている場面は?
「第5週の学校でのシーンです。教室に入ってきて『わーっ』とやって、ネクタイを整えて先生の前に座る。あの場面はずっと心に残っています。演じていても時折その映像がよぎるんです。健太郎も、そんなふうに昔を思い出しながら嵩の力になりたいと考えているのかもしれません。出会いと始まりを同時に見せられた場面であり、今では支え合い、義理の兄弟になっていることが本当にうれしいです」
北村匠海&大森元貴と挑む、刺激的な3人芝居
――いせたくや役の大森元貴さんとの共演について教えてください。
「自然体で現場にいてくださる方という印象です。北村さん、大森さん、そして僕の3人でお芝居をしていると、『今、すごくぜいたくな時間を過ごしているな』と思います」
――3人でのアドリブも多いそうですね。
「特に3人のシーンでは、カットの最後までお芝居を続けることが多いです。その場で言葉をつなげたり、嵩を慰める一言を入れたりする瞬間が頻繁にあります。事前に『こういう球がきたらこう返す』というパターンを考え、方言指導の先生に相談して言葉を覚えてから現場に入っています。そういうやりとりはほとんどオンエアには使われませんが、全力でやっています。その場の間や会話を自分たちの言葉で埋められるのは、やっぱり楽しいです」
世代を超えて届く、“アンパンマン”への特別な思い
――おいっ子、めいっ子さんと「アンパンマン」をご覧になる機会も多いですか。
「もう『アンパンマン』しか見ないです。やはりすごい作品ですし、少し物事を理解できるようになったら、この『あんぱん』も見てほしいです。子どもたちは無邪気に楽しんでいますが、その裏側でどう作られてきたのかを親世代が知れるのは、とてもいいことだと思います。自分が子どもの頃は何も考えずに見ていましたが、今はそうした背景を描く作品に参加できることに感謝していますし、良いタイミングで巡り会えたと感じています」
――子どもの頃に見ていた『アンパンマン』と、大人になって健太郎を演じながら改めて接する『アンパンマン』では、感じ方に違いはありますか。
「歌がすごく染みます。大人になったからこそ歌詞の意味が胸に響くようになりました。子どもの頃に覚えた歌ってなかなか忘れないもので、僕も4~5歳の頃に見ていた時の風景や、どんな部屋で見ていたかまで覚えています。世代を超えて残り続けてきた作品の“基盤”を描くことは、自分が出演しているかどうかに関係なく、とてもすてきなことだと思います」
――劇中、健太郎はカレーや戦時中におかゆを振る舞う場面がありますが、その行為にどんな意味を感じていますか。
「誰かのために作るとなると、かけられる時間もお金も労力も違ってくるのが不思議です。これは料理に限らず、お芝居や日常の小さな行動でも同じで、料理を振る舞う行為も、“他人を思う気持ち”の象徴だと思います」
朝ドラ初出演で得た濃密な時間

――物語も終盤を迎えます。初めての朝ドラ出演を振り返って、今の気持ちを聞かせてください。
「“朝ドラ”という枠組み以上に、『あんぱん』で辛島健太郎を演じられたことに大きな意義を感じています。初めて“一人の人間の人生を最後まで生き切る”経験をしました。役を“作る”というより、本当に“生きる”ことしか許されない領域に足を踏み入れた感覚で、常に緊張感を持って現場に立てたのは幸せでした。キャストやスタッフの皆さんとの出会いもかけがえのないもので、今後振り返っても忘れられない作品になる気がします」
――健太郎を演じていて楽しいですか。
「すごく楽しいです。苦に感じることはほとんどなく、セリフを覚える時も自然と気分を上げて臨めます」
――「あんぱん」という物語の中で健太郎はどういう存在でありたいですか。
「戦争など重いテーマが描かれる中で、見る人の心に良い空気を送り込む存在でありたいです。戦時中の厳しい経験を直接語らず、『元気出して頑張っていこうよ』と言い続ける。その姿勢は大人になっても変わりません。登場人物に向けて話しながら、同時に視聴者の皆さまの朝の一言目になればいいなと考えています。『見てくださった人が一日を少し明るく過ごせたら』という思いを込めて演じています」
【プロフィール】
高橋文哉(たかはし ふみや)
2001年3月12日生まれ。埼玉県出身。ドラマ「仮面ライダーゼロワン」(テレビ朝日系/2020年)、「最愛」(TBS系/21年)などの作品に出演。「フェルマーの料理」(TBS系/23年)、「伝説の頭 翔」(テレビ朝日系/24年)では主演を務めた。現在、「ぐるぐるナインティナイン」(日本テレビ系)の「ゴチになります!25」にレギュラー出演している。
【番組情報】
連続テレビ小説「あんぱん」
NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15 ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月~金曜 午前7:30~7:45
取材・文/斉藤和美
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