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「べらぼう」古川雄大が語る“パーティーピープル戯作者”北尾政演【後編】横浜流星への信頼と“憎まれない男”の本音2025/08/03 05:00

「べらぼう」古川雄大が語る“パーティーピープル戯作者”北尾政演【後編】横浜流星への信頼と“憎まれない男”の本音

 NHK総合ほかで放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(日曜午後8:00ほか)で、絵師で戯作者の北尾政演〈山東京伝〉を演じる古川雄大に、前後編でインタビュー。

 前編では、「べらぼう一の陽キャ」と称される政演のキャラクターへのアプローチや、役作りの工夫、収録中の手応えを語ってくれた。後編では、本日8月3日放送の第29回「江戸生蔦屋仇討」でクローズアップされる“戯作者・京伝”としての葛藤や、蔦重(横浜流星)との関係の変化、そして演じる中で広がっていった人物像の奥行きを掘り下げていく。

 さらに、森下佳子さん脚本の魅力や、アドリブの舞台裏、周囲の反響についても言及。古川の言葉からは、政演という人物への深い理解と、蔦重への強い信頼が感じられた。

横浜流星との“逆転”関係

――これまで主演の横浜流星さんと共演されてきて、あらためてどんな印象をお持ちですか?

「蔦重も、最初の段階ではもっと明るく演じてほしいと言われていたそうなんです。僕が初めて現場に入った時には、しっかり“蔦重”としてそこにいてくださっていて、心置きなく演じることができました。それに、実際には10歳程度、僕の方が上ですが、作中では逆転していて。けれど、その年齢差をまったく感じさせずに、遠慮なく向き合ってくれるので、僕も自然にお芝居できたと感じています」

――現場では、横浜さんとはどんなお話をされていますか?

「10年以上前に共演した時の話をしたり、『最近どこのサウナ行っているの?』とか、ほんとに普通の会話をしています(笑)。そんなたあいもない話をしつつも、お芝居の話もちゃんとしますし、何より横浜さんはストイックなんです。そうやって座長として現場にどんと構えていてくれるので、“一緒に戦いたい”っていう気持ちになりますね」

――横浜さんに引き出してもらったと感じる場面もあったそうですが、特に印象に残っていることはありますか?

「やっぱり“距離感”ってすごく大事だと思うんですよね。台本だけ読んでいても分からない、実際の芝居の中で初めて生まれる距離感を、横浜さんはうまく表現してくれていて。例えば、ふと肩に手を置いてくれるとか。そういう一つ一つの動作が、年齢差を埋めてくれているように感じて、自然と関係性が作られていったように思います。僕ももちろん“若く見えるように”とは意識しているのですが、そこを強く気にしなくても自然にそうなっていけるように、横浜さんがうまく導いてくれていた。そう感じています」

「べらぼう」古川雄大が語る“パーティーピープル戯作者”北尾政演【後編】横浜流星への信頼と“憎まれない男”の本音

――山東京伝にとって、蔦重という人物はどんな存在だと思いますか?

「入口はやっぱり“女性”ですよね(笑)。でも、蔦重は吉原で育った人間で、人間力やセンス、ひらめき、そして人付き合いの妙で道を切り開いてきた人。政演も、ある意味で商売人気質というか、人付き合いやセンスで生きているタイプなので、そういう部分ではお互いにインスピレーションを感じていたのかもしれません。ただ…やっぱり最初は女性だったと思います(笑)」

――最初は“女性”をきっかけにつながった2人ですが、演じていく中で蔦重に対する思いに変化はありましたか?

「はい。第29回では特にそれが描かれていて、2人が“対等なライバル”というよりも、蔦重が政演を見いだして引き上げた。そんな構図が色濃く出ているんです。だから、もしかしたら蔦重がいなければ、山東京伝は戯作者としても絵師としても、ここまでやってこれなかったんじゃないかと感じています」

「怒られる側」が憧れる“憎まれない才能”

――“パーティーピープル的”な政演は、ご自身とは真逆のタイプとも話されていました。朝ドラ「エール」のミュージックティーチャー・御手洗清太郎役の時も「実像と違うけれど反響が大きかった」とおっしゃっていましたが、今回はいかがでしたか?

「今回も、たぶん皆さんの想像よりもずっと“明るかった”んじゃないかなと思います。そのぶん、反響もかなり大きかったです。毎回NHKさんから素晴らしい役をいただいているなと感謝しています。政演もとても魅力的な役ですし、演じがいのある人物として丁寧に描いていただけました」

――あらためてご自身とのギャップについてはどう感じていますか?

「パーティーピープルの人って、楽しそうでいいなとは思うんですよ。でも、そういう人って裏では意外と暗かったりもするじゃないですか(笑)。僕はたぶん、そっちにもなれないタイプで。お酒を飲んでもテンションはこのままだし、地元の友達といる時だけちょっと上がるかな、ってくらい。政演にはまったく追いつけないですね。僕にはない要素です」

――政演のような天才肌で、ちょっと能天気にも見える人物像には、どんな印象を持たれましたか?

「うらやましいですよね。ああいう人って、結果的に憎まれないじゃないですか。多少の失言も『まあ、アイツだから』で済まされてしまうような、得な性格だなと思います。僕は逆に、怒られる側なんですよ(笑)。稽古場でも、何も言われない人と、すごく怒られる人がいるんですけど、僕はたぶん後者。立ち回りがうまくないので、同じことを言っても僕だと怒られる。でも、ああいうキャラの人だと許されちゃう。その“憎まれない才能”みたいなものは、少し憧れました(笑)」

――そんな政演を実際に演じてみて、どんな手応えがありましたか?

「政演もまさに“かわいがられる人”で、人の懐にスッと入っていけるタイプ。僕はあまりそういうタイプではないので、演じていて新鮮でしたし、うらやましさもありました。『この人に好かれているな』って感じられるのって、やっぱりうれしいことですからね」

――唯一、政演が“怒られた”のが、第21回の宴会で恋川春町(岡山天音)に叱られるシーンでした。あの場面についてはどうご覧になっていましたか?

「あれは……、春町先生が酔っぱらっていたっていうのもあって(笑)、いろんな枠が外れてたんだと思うんですけど、まあ、すごく怒られていましたよね(笑)。でも、本人はあんまり気にしてない。むしろその後で『屁!』って踊って、『なんのこと?』みたいな顔をしてましたから(笑)。とはいえ、第29回では政演の繊細な一面も描かれているので、100%気にしてなかったわけではないかもしれません」

「べらぼう」古川雄大が語る“パーティーピープル戯作者”北尾政演【後編】横浜流星への信頼と“憎まれない男”の本音

大河ドラマ効果で疎遠だった友人からの久々の連絡も

――森下さんの脚本については、これまでも「大奥」などでご一緒されていますが、今回は初の大河作品。演じてみてあらためて、その魅力やすごさをどのように感じましたか?

「ほかのキャストの皆さんとも重なる部分はあるかもしれませんが、本当に人物の描き方が深くて、心を動かす“受け手”だけでなく、その感情を与える“送り手”の背景までも丁寧に描いてくださる。だからこそ、視聴者の方にも感情が届きやすいんだと思います。今回の『べらぼう』でも、史実をベースにしながらフィクションをうまく織り交ぜるバランス感が見事で。フィクションを入れることで、人物がさらに膨らんでいると感じました。政演の背景はもちろん、意知が蔦重と出会っていたり、誰袖の恋も含めて、史実とは違っても、より“面白いドラマ”として魅力的に見せてくれています」

――そうした脚本の力を、ご自身の芝居の中でどんなふうに受け取っていましたか?

「演じていて思うのは、表面的な“怪しい人”や“明るい人”では終わらせないこと。理由のない怪しさや説明のつかない感情がないので、役者として『なんでそうなるの?』と迷うことがありません。すべてが脚本の中に丁寧に描かれているから、疑問を抱かず、安心して役に入っていける。そこが森下さんの脚本のすごさだと感じています」

――ご自身がアドリブで入れたセリフや動きもあるのでしょうか?

「それこそ最初にお話した『つったじゅうさ~ん』はアドリブですね。あとは、ちょっと踊ってみせるような動きも、最初にやってみたら演出の方が『そういうの、どんどんちょうだい』と言ってくださって。たとえば狂名を名乗るシーンでは、ただセリフを言うだけでなく、そこに何かプラスアルファを加えることを意識していました。そうやってもらったヒントを手がかりに、自分なりにいろいろ試しています」

――今回の出演を通して、周囲からの反響にはどんなものがありましたか?

「特に今回は大河ドラマということもあって、いろんな世代の方から声を掛けていただきました。地元・長野県の高山村は人口が少なくて長寿の村なんですが、おじいちゃんおばあちゃんからの反応もすごくて。母が銭湯に行ったら『大河ドラマに出ているんでしょ!』って、何人もの方に声を掛けられたそうです。友達からもたくさん連絡が来ましたし、実はちょっと疎遠だった友人からも『大河ドラマに出るんだね』って連絡が来て、大河ドラマのおかげで連絡をとることができました(笑)。本当にありがたいなと思っています」

【プロフィール】
古川雄大(ふるかわ ゆうた)

1987年生まれ、長野県出身。ミュージカルやドラマ、映画でも活躍。ミュージカル作品では「エリザベート」「ロミオ&ジュリエット」「モーツァルト!」「昭和元禄落語心中」などに出演。「LUPIN〜カリオストロ伯爵夫人の秘密〜」で帝国劇場単独初主演。ドラマでは「極主夫道」(日本テレビ系/2020年)「ハヤブサ消防団」(テレビ朝日系/23年)、連続テレビ小説「エール」(NHK総合ほか/20年)などに出演。25年10月スタートのカンテレ・フジテレビ系・月10ドラマ「終幕のロンド ーもう二度と、会えないあなたにー」にフリーライター・波多野祐輔役で出演。ドラマ10「大奥 Season2」や8月放送のNHK「コトコト〜おいしい心と出会う旅〜」群馬編・茨城編にて主演を務めている。トート役で出演するミュージカル「エリザベート」が2025年10月〜2026年1月に東京・北海道・大阪・福岡での開幕を控えている。大河ドラマは初出演。

【番組情報】
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45

取材・文/斉藤和美



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