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「べらぼう」古川雄大が語る“パーティーピープル戯作者”北尾政演【前編】役作りと“陽キャ”演技の舞台裏2025/08/03

「べらぼう」古川雄大が語る“パーティーピープル戯作者”北尾政演【前編】役作りと“陽キャ”演技の舞台裏

 NHK総合ほかで放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(日曜午後8:00ほか)で、絵師で戯作者の北尾政演〈山東京伝〉を演じる古川雄大に、前後編でインタビュー。

  横浜流星が主演を務める「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」は、親なし、金なし、画才なし…ないない尽くしの生まれから、喜多川歌麿や葛飾北斎などを見いだし、“江戸の出版王”として時代の寵児(ちょうじ)になった“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜)の生涯を笑いと涙と謎に満ちた物語。脚本は、大河ドラマ「おんな城主 直虎」(17年)、ドラマ10「大奥」(23年)など数多くのヒット作を手がけてきた森下佳子さんが担当している。

 そんな蔦重を取り巻く文化人の中でも、ひときわ異彩を放つのが、古川が演じる北尾政演(山東京伝)だ。絵師として、戯作者として、そして吉原通いを欠かさない“江戸のパーティーピープル”。演出からも「べらぼう一の陽キャ」と称されるこのキャラクターは、普段の古川とは真逆ともいえる存在だという。

 そして本日・8月3日放送の第29回「江戸生蔦屋仇討」では、政演が“戯作者・山東京伝”として大きくフィーチャーされる。蔦重が、政演の描いた“手拭いの男”の絵をもとに黄表紙を作ろうと持ちかけ、戯作者や絵師たちを巻き込みながら企画が動き出す。そこに現れた鶴屋(風間俊介)からは、まさかの“交換条件”も。創作の行方、そして政演の人間味が浮き彫りになる回となっている。

 インタビュー前編では、政演というキャラクターへのアプローチや役作りの工夫、そして“陽キャ”をどう演じたのか。収録を通じて得た手応えとともに語ってもらった。

自分とは正反対の、“陽キャ”への挑戦

「べらぼう」古川雄大が語る“パーティーピープル戯作者”北尾政演【前編】役作りと“陽キャ”演技の舞台裏

――北尾政演を演じるうえで、演出から「べらぼう一の陽キャで」と言われたそうですが、実際にコミカルな役どころを演じる際に意識したことや工夫された点は?

「最初は『色男だ』と伺っていたので、元気で明るいというより、少しセクシーな人物をイメージしていたんですが、演出と話した時に『一番陽キャでいてください』と言われて。調べていくうちに、今でいう“パーティーピープル”みたいな存在だったのかなと(笑)。今の“陽キャ”像は多様ですが、当時のチャラさや陽気さをどう表現すればいいのか悩んで、何か参考になる作品はないかと探ったのですがしっくりくるものがなかったんです。ただ、今の“女性へのアプローチ方法”っていろんな形があると思うのですが、当時はもっとストレートだったと思うんです。そこから『底抜けに明るく、思ったことを真っすぐに表現する』という方向性にたどり着きました」

――試行錯誤を重ねながら、キャラクターの方向性が見えてきたんですね。

「クランクインの時、まず一度お芝居を見ていただいたのですが、『もっとチャラく』と言われたんです(笑)。自分の中ではかなりチャラく演じたつもりだったのですが、根が暗いもので、全然足りてなくて。そこで演出から『今は何も考えなくていいので、ただ女性のことだけを考えてください』と言われたんですよ。それが大きかったですね」

――陽気さやチャラさを、どのようにリアルな芝居として落とし込んでいったんでしょうか?

「ただ明るいだけの人ではなくて、内面に高揚感があって、それが言動ににじみ出てくるようなキャラクターを目指しました。女性のことを想像しながら芝居をしたり、『一等賞を取った!』『みんなにちやほやされている!』という状況を自分の中で作って、その高揚感を演技に乗せるようにしました。ただ、明確なセリフがない場面もあるんですよね。例えば、大勢の中にぽつんといるシーンで、いきなり『吉原、行きません?』って唐突にセリフが出てくるとか(笑)。そういう瞬間に助けられたのは脚本の力でした」

――政演が蔦重を呼ぶ時の「つったじゅうさ~ん」という独特な呼び方も印象的でした。あの表現は、かなり試行錯誤されたんでしょうか?

「『つったじゅうさ~ん』の呼び方は、実は僕自身が最初から“こうしようかな”と考えていたんです。案として二つあって、一つは元気よく普通に『つたじゅうさん!』と呼ぶパターン。もう一つが、ちょっと色をつけて、歌うように言うパターンで。現場でも直前まで迷っていました。そんな時、助監督の方がリハーサルで、その歌うような感じを口ずさみながら入ってきたんですよ。それを聞いた瞬間、『あ、やっぱりこれだ』と確信できたんです。まさに背中を押していただいた感覚で、そこからは迷いなくそちらの表現に決まりました。あとは、歌いながら入っていったり、ちょっと踊ってみたり、道化っぽさを出したりと、“プラスアルファ”をたくさん詰め込むことも意識していました」

「べらぼう」古川雄大が語る“パーティーピープル戯作者”北尾政演【前編】役作りと“陽キャ”演技の舞台裏

――第22回で、クールポコ。さんが登場した際、「な~に~!?」というセリフがありました。あれはアドリブだったんですか?

「いえ、あれは演出の深川(貴志)さんから『ここ、言ってもらえませんか?』とお願いされたものです。僕は『本当に大丈夫ですか?』と確認したんですが、『行きましょう!』と言われて、思い切って全力で演じさせてもらいました。結果的に“まねした”ということでもめる流れになるんですが、それが伏線になっていたんですよね。皆さんが伏線として受け取ってくださって、深川さんはそこまで計算していたとしたら、すごいなと思いました。あの一言があることで印象に残りますし、『本家がやらずに僕がやる』という構図にも意味があったんじゃないかと思います」

――クールポコ。さんご本人にも“サプライズ演出”だったんですね。現場の反応はいかがでしたか?

「台本にはなかったので、リハーサルの2回目あたりで『本人に内緒でやってみましょう』ということになって(笑)。ちょっと驚かれていたんですが、そこも含めて楽しい空気になったと思います」

筆を握る手が震えた本番の緊張

――絵を描くシーンは吹き替えなしで収録されたそうですね。どのような準備をされたのですか?

ドラマ10『大奥』でもご一緒したチームだったので、今回も丁寧にサポートしていただきました。プロの方が2~3人ついてくださって、僕が描く工程を練習用に一式セットで用意してくださって。それをいただいて、家でコツコツ練習していました。本番では先生方が“褒めて伸ばす”スタンスで見守ってくださって(笑)、ありがたい環境でした。なんとか“セーフなライン”までは持っていけたかなと思います。ただ、細かい線を描くのが非常に難しくて、そこは苦戦しました」

――収録本番はいかがでしたか?

「『みんな描いてるから』と言われて、逃げられなくて(笑)。カメラが描き始めの手元に寄ってくるんですが、それまでは必死。アップになった瞬間は、ちょっと余裕あるように見せているんですけどね(笑)。本当に、皆さんが普段やっている作業は大変で、あらためてリスペクトの気持ちが強くなりました。写真でも、筆を持ちながら笑っている姿があって、きっと本人も楽しみながら描いていたんだろうなと。でも実際の現場では、カメラが回る直前まで真剣そのもので、『本番』と言われた瞬間、手が震えるくらい緊張してました。テストでは平気なのに、本番になるとガチガチになるんです(笑)」

「べらぼう」古川雄大が語る“パーティーピープル戯作者”北尾政演【前編】役作りと“陽キャ”演技の舞台裏

――江戸時代の絵や、北尾政演の作品をご覧になって、どんな印象を持たれましたか?

「実際に自分で描いてみて、あれだけ繊細で細かい絵を描けるのは並大抵のことじゃないと実感しました。選ばれし人の感性やセンスがないと無理だなって。僕はまったくの初心者なので、練習しても到底あの域には届かないなと。女性の描写や妓楼の風景など、題材の扱い方も巧みで、やはりとても美しい絵を描く人だったんだなと、あらためて思いました」

――第29回にかけては、戯作者としての葛藤や苦悩がにじみ出てきます。そのあたりは、どのように表現しようと考えましたか?

「僕自身、最初はそういう側面があるとは知らなかったんです。台本を読んで、『えっ、こんな側面あったの!?』と驚きました。前半はその背景を意識せずに演じていたので、逆にそれがよかったのかもしれません。」

――これまでとは違う顔が見えてきたことで、政演という人物の印象も変わっていきましたか?

「たぶん鶴屋や蔦重が『こいつならできる』と信じてくれていた。その中で、蔦重がさりげなくヒントを与えてくれる。自分一人で作るんじゃなくて、誰かの手を借りながら、みんなで作り上げていく。そうした流れの中で、政演が成長していく姿が描かれているんです。」

――クリエーターとしての苦悩は、ものづくりをするご自身にも重なる部分があるのでは?

「そうですね。絵に関しては、政演は深川育ちだから、妓楼の風景などは得意だったと思うんです。でも、戯作となると、まだ発展途上の存在だったのかなと。ゼロから何かを生み出す作業って、相当苦しいんです。僕も作詞作曲をしているので、“無限にある選択肢の中から一つを選ぶ”という難しさは痛いほど分かります。正直、いいなと思うものを見ると『この感じ、取り入れてみたいな』とか『あの人みたいな表現、自分にもできたら』と感じることはあります。そういう“影響を受ける感覚”が、創作にとって大事なんですよね」

――その分、政演の気持ちにも自然と寄り添えたんですね。

「はい、すごく共感できました。政演は、ある程度“評価されるもの”は作れるタイプなんです。器用な人だから。でも、春町さんのように“通をうならせる作品”を生み出すには、自分はまだ力不足だと、どこかで感じている。そういう弱さや葛藤がリアルで、僕自身も強く共感できたからこそ、気持ちを込めて演じることができました」

第29回で描かれる“戯作者”としての素顔

「べらぼう」古川雄大が語る“パーティーピープル戯作者”北尾政演【前編】役作りと“陽キャ”演技の舞台裏

――第29回では劇中劇のパートも見どころとなりますが、台本を読まれた際はどんな印象を受けましたか?

「まず、うれしかったですね。読みながら『えっ、こんなキャラだったの!?』と驚いたんですが、読み進めていくうちに京伝の人物像がより深く描かれていて、そこに喜びを感じました。劇中劇という構造も魅力的で、本人が自分で演じるというのも面白いですし、他のキャストの皆さんが別の役を演じている点でも見どころがあります。特に今回の京伝には、彼の代表作『江戸生艶気樺焼』の主人公と重なるような部分もあって、それがまた面白い描かれ方をしているなと感じました」

――ビジュアル面での挑戦もあったそうですね。

「今回の面白いポイントの一つが“付け鼻”なんです。それをきっかけに、“もっと不細工にしていこう”と(笑)。目をタレ目に見せたり、メークさんと相談しながらいろいろ工夫しました。目元の表現は本当に難しくて、たるんで見えたり、貼っている感が出ちゃったりするんですが、最終日にはだいぶスムーズにいくようになっていて。お互いに成長しながら取り組めた実感があります」

――現場でもその“変身”は話題になっていたとか。

「収録の合間に、その鼻をつけたままNHKの食堂に行ったりもしてたんですが、最初はかなり不思議な目で見られて(笑)。でもその反応が楽しくて、『こんなリアクションしてくれるんだ!』とうれしくなりました」

――実際に長期間、付け続けてみて、印象や気持ちに変化はありましたか?

「さすがに1週間くらい毎日付けていると、だんだん恥ずかしくなってきて(笑)。それで途中からは、あまり人目につかないようにしてました。共演者の皆さんとも、その鼻の話題から会話が始まることが多くて。『息はできるの?』『(付けるのに)何時間かかっているの?』とか、初めて見るタイプの鼻だったから、みんな気になっていたみたいです。ちなみに(大田南畝役の)桐谷(健太)さんには、最初のあいさつで僕だと気付かれなくて、ちょっと引き気味にお辞儀されました(笑)。あとで聞いたら『鼻の大きなエキストラの方かと思った』と言われて。でもその誤解もすぐに解けて、収録中はとても和やかにご一緒できました」

――現場の雰囲気も楽しかったようですね。

「はい。劇中劇の内容自体もポップな雰囲気なので、現場もすごく明るくて。演出からは『それぞれの役のエッセンスを少し残しながら演じてください』という指示があって、それが難しくもあり、面白くもありました。全体として良い空気感で仕上がったと思うので、面白い回になっているんじゃないでしょうか」

「べらぼう」古川雄大が語る“パーティーピープル戯作者”北尾政演【前編】役作りと“陽キャ”演技の舞台裏

 前編では“京伝”の役作りや劇中劇への挑戦を語った古川。後編では、横浜流星との共演、森下佳子脚本の魅力、大河ドラマ出演の反響まで、さらに深く語ってもらった。

【プロフィール】
古川雄大(ふるかわ ゆうた)

1987年生まれ、長野県出身。ミュージカルやドラマ、映画でも活躍。ミュージカル作品では「エリザベート」「ロミオ&ジュリエット」「モーツァルト!」「昭和元禄落語心中」などに出演。「LUPIN〜カリオストロ伯爵夫人の秘密〜」で帝国劇場単独初主演。ドラマでは「極主夫道」(日本テレビ系/2020年)「ハヤブサ消防団」(テレビ朝日系/23年)、連続テレビ小説「エール」(NHK総合ほか/20年)などに出演。25年10月スタートのカンテレ・フジテレビ系・月10ドラマ「終幕のロンド ーもう二度と、会えないあなたにー」にフリーライター・波多野祐輔役で出演。ドラマ10「大奥 Season2」や8月放送のNHK「コトコト〜おいしい心と出会う旅〜」群馬編・茨城編にて主演を務めている。トート役で出演するミュージカル「エリザベート」が2025年10月〜2026年1月に東京・北海道・大阪・福岡での開幕を控えている。大河ドラマは初出演。

【番組情報】
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45

取材・文/斉藤和美



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