「安全な水」を世界に―水道インフラの最前線― 2025/06/01

メディア人に企画のネタを提供する「メディアのネタ帳」。最新スポットやトレンド、注目の人物などさまざまな話題を紹介する。今回は日本の上下水道インフラを支える世界トップクラスの水関連総合メーカーであるクボタの安全な水への取り組みを紹介する。
トラクターをはじめとする農業機械のイメージが強いクボタ。実際に、1.9兆円の売上高のうち8割以上はエンジンを含めた機械系製品が占める。しかしその一方で、日本の上下水道インフラを支える世界トップクラスの水関連総合メーカーという一面も持っているのだ。
クボタの礎は、水道用鉄管製造によって築かれた。
1890年、大阪で鋳物メーカーとして創業したクボタ。当初は日用品や分銅などの鋳物を製作していたが、やがて取り組んだのが国産の水道用鉄管の開発だ。日本では、江戸末期からたびたびコレラが流行し、多くの死者を出していた。伝染病のまん延を防ぐためには水道の整備が急務だったが、当時水道管はすべて輸入に頼っていたのだ。

「創業者の久保田権四郎は、社会に役立つものをつくりたいという強い意欲を持っていました。以来、公共性の高い分野で日本の発展に貢献することが弊社のDNAになっているのです」と語る、水環境事業本部長の黒澤利彦さん。薄く長く、かつ水圧に耐えうる鉄管を開発し、量産化に移すための期間は10年以上に及び、経営が傾きかけたこともあったという。しかし鋳造法を工夫し、試作と改良を重ねることでついに1904年に量産化を実現。「鉄管のクボタ」として、当時数少ない国産鉄管メーカーの地位を確立したのだ。
クボタは戦後になると、1948年にアメリカで発明された新素材「ダクタイル鋳鉄」にいち早く注目し、研究を開始。組織中の黒鉛を球状にすることで、鋼に近い強度を持たせつつ鋳鉄本来の耐食性も確保したダクタイル鋳鉄は、水道管の大口径化を可能にする。それは、水道普及率が上がり、より多くの水が求められていた当時の日本に必要なものだった。
そして54年に世界で初めて1200mmと1350mmの大口径ダクタイル鉄管の実用化に成功。さらに56年には大口径の遠心力鋳造でのダクタイル鉄管の生産を実現した。またこれと並行して塩化ビニル管など鋳鉄以外の製品の生産にも着手し、パイプの総合メーカーになるとともに、高度経済成長期の日本の水道普及に大きく貢献した。
現在、日本で敷設されている水道管の実に半数近くがクボタ製のものだ。また水道管製造を手がける過程で、その関連製品であるバルブやポンプの製造など、水に関するさまざまな製品も開発していった。その後もクボタは水道管製造技術をアップデートし、74年に世界初の耐震型ダクタイル鉄管の開発に成功。そして2010年には、高い耐震性を有しながら100年という長寿命が期待でき、施工性も大幅に向上させた「GENEX」(GX形)を開発し、地震大国である日本において、災害から水道という重要なインフラを守るうえで大きな役割を果たしている。
クボタの水に関する商品は、水道管やポンプなどのパーツにとどまらない。産業が急速に発展し、都市に人口が集中するにつれ、大きな社会問題となったのが水不足と水質汚染。そこでクボタは1958年から準備を進め、61年に水道研究所を開設。そして翌年から水処理事業部を新設して環境整備事業へ本格参入した。以来、下水処理や浄水処理においても常に最先端の技術を追求してきた同社だが、なかでも特筆すべきは「膜分離活性汚泥法(MBR: Membrane Bio-reactor)」を採用し、91年に発売した「液中膜®」だろう。
微生物に汚水中の有機性汚濁物質を処理させる活性汚泥法のうち、従来の方式は最後に活性汚泥(微生物)と処理水を分離する際に沈殿池を用いるが、MBRは高分子ろ過膜で強制的に分離するためこれが不要。高品質な処理水が得られると共に、施設をコンパクトにできるという大きなメリットがある。方式自体は60年代にアメリカで開発されたものだが、実用化のためには膨大なノウハウの積み重ねが必要だ。
「ろ過膜をどう設置し、汚水の濃度や温度に応じてどう運転するか。ろ過膜は目詰まりを防ぐために洗浄する必要があるので、それをどう検知するか。またMBRは従来法に比べて電力コストがかかるのですが、それをいかに従来法に近づけるかといった課題がありました。社員が施設に張り付き、さまざまなチャレンジを行った結果、実用化にこぎ着けることができました。これは終わりのない実験で、今も続けています」と、黒澤さんは語る。
またクボタの強みは、水処理のあらゆる分野について、製品だけでなく設計や施工まで行える点だ。
「これまでの下水道は、建築、機械、電気といった分野ごとでの発注が慣例になっていましたが、近年は性能とコスト軽減を求め、一括で発注する気運が高まっています。メンテナンスの面でもそのほうがメリットがある。そこで弊社のノウハウを生かしたい」
その一例が、2017年に大阪・中浜下水処理場で採用された「SCRUM(スクラム)」だ。クボタと東芝が共同開発したこの最新鋭の省エネ型MBR下水処理システムによって浄化された水は、東横掘川・道頓堀川に送水される。「道頓堀川の水がきれいになったら、その証明に私も飛び込んでみようかな」と黒澤さんは笑う。国内はもとより、海外でも数多く導入されているクボタのMBRシステム。水道用鉄管の製造に始まり、120年以上にわたって培ってきた同社の水関連技術は、これからも世界の人々を潤していくことだろう。
※ 情報は取材時点のものです。
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