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河合優実、蘭子と豪(細田佳央太)の切ない恋を演じて…「あんぱん」で刻む戦後80年への思い【後編】2025/05/21 08:15

河合優実、蘭子と豪(細田佳央太)の切ない恋を演じて…「あんぱん」で刻む戦後80年への思い【後編】

 現在放送中のNHK連続テレビ小説「あんぱん」(月~土曜午前8:00ほか)は、「アンパンマン」の生みの親・やなせたかしさんをモデルに、主人公・朝田のぶ(今田美桜)が夫・柳井嵩(北村匠海)と共に数々の荒波を乗り越えていく物語だ。そんな作品の中で、朝田家の次女・蘭子を演じるのは河合優実。控えめながらも強い芯を持ち、周囲を見渡しながら的確に行動する真面目でしっかり者の蘭子というキャラクターを、繊細かつ力強く演じている。

 第38回(5月21日放送)では、蘭子が思いを寄せていた、祖父・釜次(吉田鋼太郎)の弟子・豪(細田佳央太)の戦死が伝えられ、「戦死して立派」と評価されることへの反発を示す重要な場面が描かれた。倉崎憲制作統括からも「この時代を生きている人にしか見えない」「唯一無二の人と出会えた」と絶賛された河合が、前編では朝ドラ初出演への思いや役作り、戦後80年の今年にこの物語を演じる意義について語った。後編では共演者との撮影エピソードや中園さんの脚本の魅力、モデルとなったやなせさんの作品の印象などを明かす。

――魅力的な役者さんたちがそろった朝田家の現場ですが、共演者の皆さんから刺激を受けることも多いのではないでしょうか。

「心から楽しい現場で、朝田家のメンバーは最初からセットの中がにぎやかです。でも誰も肩肘を張らず、マイペースに楽しんでいます。いろんな俳優さんの作品への取り組み方や、シーンへの臨み方が全然違うのを間近で見られるのがとても面白いですし、毎週月曜日のリハーサルでも先輩方の姿から学ぶことが多いです。皆さんおちゃめな方ばかりです」

――阿部サダヲさんがヤムおんちゃん(屋村草吉)役で出演されていますが、お二人は「不適切にもほどがある!」(2024年/TBS系)で親子役を演じられましたよね。その印象は残っていますか?

「まだ阿部さんと一対一でのシーンはないですが、すぐにご一緒できたことはすごくうれしいです。阿部さんは『不適切~』とその前の舞台でもご一緒していて、ずっとお世話になってきた大先輩なので、みんなを安心させてくれる力を感じています。阿部さんがいると本当に楽しいです」

――撮影期間中での阿部さんとのエピソードや、普段の雰囲気について教えてください。

「『あんぱん』の撮影期間中に日本アカデミー賞で賞をいただいた時、阿部さんがシャンパンをくださいました。すごく粋でした。普段はふざけていても、そういう時はとても優しいんです。ずっとにぎやかというわけではなく、とても静かで落ち着いた、すてきな大人の方ですが、それでもずっとおしゃべりしてくれて、本当に面白い方なんですよ」

河合優実、蘭子と豪(細田佳央太)の切ない恋を演じて…「あんぱん」で刻む戦後80年への思い【後編】

――お母さん役の江口のりこさんとの現場でのやりとりも気になります。

「江口さんとはずっとおしゃべりしていたいと思うくらい、前室でもいつも楽しく過ごさせてもらっています。本当にお忙しい方だと思うのですが、ふと思ったのが、台本を開いている姿をあまり見たことがないんです。その分、準備を大切にされているんだろうな、作品への深い向き合い方がしっかり根っこにあるんだろうなと感じています」

――今田美桜さんや三女・メイコ役の原菜乃華さんとの関係性はいかがですか。

「今田さんは本当に『あんぱん』に参加してよかったなと思わせてくださるヒロインで、美桜さんがいることで現場が柔らかく楽しくなるパワーがあります。そして、菜乃華ちゃんはとても面白いですし、自然体でかわいいんです。いつも楽しく一緒にお菓子を食べています」

――三姉妹が背中を押し合う様子は、現代の家族にも通じるものがありますよね。河合さんご自身も三姉妹とのことですが、ご自身の場合はどう感じますか?

「同じく三姉妹の方から、『うちの真ん中の子が一番しっかり者で、よく周りを見ていました』という感想をいただいたことがあります。兄弟や姉妹によって全然違うとは思いますが、それでも、みんな少しずつ違うことをやりたがる面はあるのかなと感じます。お姉ちゃんがこれをやっているから、私はこういうことで人の役に立てるかな、とか、お姉ちゃんがこれをしてくれたから、私はこっちの道に行ってもいいのかな、とか。補い合う部分もあれば、反発し合う部分もありますが、そういう関係はよく分かりますね」

――そんな中、蘭子が悲しみを乗り越える上で、姉妹の存在はどんな存在になりましたか?

「とても大切な存在でした。親とも違う関係ですし。本当に、しっかり背中を押してもらったと思います」

――脚本を手がける中園ミホさんならではの魅力は、どんなところに感じていますか?

「今回の『あんぱん』を読んでいて感じるのは、ハッとさせられる一行や、胸に染みる素晴らしい部分に、やなせさんの実際の言葉からとられたものが多いことです。嵩にその人生をなぞってもらうだけでなく、全体にやなせさんの考え方や『アンパンマン』の要素がふんわりちりばめられていて、そこがとても楽しいですし、ドラマの大きな味わいになっています。また、命や生死に関わることを真摯(しんし)に描いていて、それが戦争のシーンだけでなく、物語の根底にずっと流れている気がするので、その切実さがとても強く伝わってきます」

――中園さんは「戦後80年という柱を大事にしたい」と語っていました。蘭子や豪のような若者を、今の世代で作り上げる意義をどう感じていますか?

「中園さんがそこを軸にされていたということを初めて明確に聞いたのですが、やはりそうなのだなと思いました。私も今回蘭子を演じる上で、多くの人が見るドラマで何を伝えるべきか考えましたし、反戦を担えたことに大きな意味を感じています」

河合優実、蘭子と豪(細田佳央太)の切ない恋を演じて…「あんぱん」で刻む戦後80年への思い【後編】

――そうしたテーマの中で、蘭子を演じる時、特に心がけてきたことは何でしょうか?

「何より戦後70年の時にはなかったこととして、今起きている戦争があります。それでも実感がなく、よく分からないという人のほうが多いと思います。でもそれは当時の人々も同じだったのかもしれませんよね。よく分からない大きなものに気付かないうちに絡め取られていくような感覚だったのではないかと想像しています。気付いたら、赤紙が来たら戦争に行かなければいけないというシステムになっていたし、のぶも、ただ一生懸命学校に通っていたら愛国の鑑になっていた。先生になっても、子どもたちの教え方は、のぶの意思とは関係なく決まっていたのだと思います。すべてを俯瞰(ふかん)して理解して立場をとるというより、日々の出来事を積み重ねる中で誰もがどこかに加担していくようになる。蘭子の場合は、豪ちゃんを思い、失う日々があったから、戦争反対という方向に進んでいったわけです。そうやって、自分の毎日生きている感覚で、戦争というものに向き合えたらいいなと思いました。とにかく、ドラマを見る間は豪と蘭子のことを考えてくれれば十分で、そのあとに少しでも、未来のために、一緒に戦争のことを考えられればうれしいです」

――では、今回「あんぱん」に参加して、改めて気付いた、やなせさんの作品の魅力はどんなところにありますか?

「やなせさんの作品には、しっかりとした哲学があって、それは戦争体験や幼少期の体験があったからこそ生まれているのだなと強く感じました。言葉で聞くと簡単に思えるかもしれませんが、台本や、やなせさんが書かれた言葉を読んでいて、現代の私にはない確信めいたものを感じます。例えば『逆転しない正義とは、飢えた人にパンをあげることだ』という言葉を、私が自分の実感とともに言うことは到底できないと思うんです。それを身を持って体感されたからこそ『アンパンマン』が生まれたのだと感じますし、そこには一切のうそがない。その正義の強さが、作品を通して伝わってきます」

――「アンパンマン」にまつわる、ご自身の思い出はありますか?

「日本で育っていたら、みんな小さい頃に一緒に育っていくような存在ですよね。アニメを見ていなかった人でも、おもちゃや絵本などで、どこかしらで絶対に触れているのではないでしょうか。私もまさにそういう感覚です。気付かないうちに慣れ親しんでいて、おもちゃや絵本の記憶が特に強いですね」

――そんな中で、特に好きなキャラクターはいますか?

「今回演じてみて、ロールパンナがとても好きになりました。人間味がとてもありますよね。子ども向けのアニメのキャラクターでありながら、正義と悪の心を合わせ持っているというのは、とても面白い設定ですし、孤高の存在で、カッコよく映ります」

――衣装についてもぜひ伺いたいです。青を基調とした蘭子の着物が目を引きますね。

「本当にかわいい着物がたくさんあって、ロールパンナ、ドキンちゃん、メロンパンナという、それぞれのカラーで選んでくださっています。どのくらい反映させるか、どのくらい自分たちで縛りを決めていくかという話し合いもあったと思いますが、一貫して今ずっと青を着ているので、1年を通して見るドラマとして、キャラクターのはっきりしたイメージがみんなの頭に残るのはすてきだなと感じています。当時のものも使ってくれたりして、素晴らしい衣装がたくさんあります。この後、時代が進んでいくと着物ではなくなっていくので、その変化も体感できることが、年齢を重ねるお芝居の助けにもなります。この年代の時に着物ではなくモンペを履いたんだな、モンペからスカートやズボンへと変わっていけたんだな、という感覚は、当時を演じる上で大きな助けになります」

河合優実、蘭子と豪(細田佳央太)の切ない恋を演じて…「あんぱん」で刻む戦後80年への思い【後編】

――着物で走るシーンもありましたが、所作の面ではやはり苦労されましたか?

「所作指導の先生ももちろんいらっしゃって、どうしても現代人の体の使い方だなと、自分の姿を映像で見て思うこともあります。でも、着物の力がとにかく大きいんです。着物を着ていると自然と出るしぐさや姿勢があるのだということを初めて知りました。所作だけを練習するのではなく、その服を実際に着ていれば自然と体が変わる。裾直しや袖の扱いなど、本当に勉強になりました」

――俳優として大活躍されている河合さんですが、「この作品をやりたい」と心が動くのは、どんな時なのでしょう。

「今回に限らず『あんぱん』も含めてですが、今、みんなに見てもらうもの、見てもらうべきものは何だろうということを考えますね」

――そうして選んだ作品で、どのような思いを届けたいと考えていますか?

「届け方にはいろいろな形があると思っています。今日一日そのドラマを見た後に『楽しかった』と感じられるだけでも意味がありますし、子どもの頃に見て、大人になってもずっと胸の奥に残っていくようなこともあるでしょう。見る人を通して社会に影響を与えるものもあります。いろいろな種類がありますが、その時の自分が、『自分の心と体を使って、今の人に届けたい』と感じた作品に出演していきたいと思っています」

――普段の河合さんはとても落ち着いている印象がありますが、それは昔からの性格なのでしょうか。

「どうなのでしょう。小さい頃から一人で遊ぶような一面もありましたが、猪突猛進に進んでいくタイプでもありました。みんなの前でリーダーをやることも多かったですし、家の中ではずっとしゃべっているし、いろんな面があります。でも、高校を卒業してから『すごく落ち着いているね』って一日に何回も言われるようになり、何が変わったんだろうと思いました。お仕事を始めたタイミングで、そう言われるようになったんです」

――自分では特に変わった感覚がない中で、周りからはそう見られるようになったんですね。

「そうなんです。自分が変わった感覚はないのですが、一人の人として立たなければいけない環境になった時に、自分の中の落ち着いた部分や冷静な部分が強くなったのかもしれません」

――今田美桜さんが座長として現場を支えているというお話もありましたが、改めてどんな座長だと感じていますか?

「朝ドラの座長として本当に素晴らしい方です。蘭子役の私から見ても、きっと身体的には相当きついスケジュールのはずなのに、全く疲れを見せません。私たちには見せないようにしているのかもしれませんが、自然に、無理なく、楽しく毎日現場に来てくれています。そのポジティブなオーラがスタッフやキャストに伝わってきて、大きな影響を与えてくれています」

――そんな今田さんの姿を間近で見て、将来的にヒロインをやりたいという気持ちは高まりましたか?

「逆に怖くなりました(笑)。美桜さんの取り組み方は本当に尊敬に値するので、私にこんなふうに1年間走り抜けられるだろうかと思いましたもちろんとても大変なことだと想像しますが、今回ご一緒させていただいて、大きな作品で主演として座長を務める姿から、私自身も大きな希望をもらっています」

河合優実、蘭子と豪(細田佳央太)の切ない恋を演じて…「あんぱん」で刻む戦後80年への思い【後編】

――ここまでのお話から、役柄や物語への深い思いが伝わってきました。最後に、これから蘭子が年齢を重ねていく中で、視聴者の皆さんにはどんな部分に注目してほしいですか?

「蘭子は表に感情を出すタイプではないですが、心の中には決して曲げない強い気持ちを持っている人です。それが伝わることを願っています。言葉にしない分、意外なほど人とぶつかり合ったり、強い信念を見せる場面もあるので、そういう内に秘めた強さを、ぜひ感じ取っていただけたらと思います」

【番組情報】
連続テレビ小説「あんぱん」

NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15 ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月~金曜 午前7:30~7:45

文/斉藤和美



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