Feature 特集

津田健次郎、主人公の奮闘に「尖っていた新人時代を思い出しました」──映画「北極百貨店のコンシェルジュさん」2023/10/12

TVガイドWebスペシャルインタビュー/津田健次郎(映画「北極百貨店のコンシェルジュさん」)

 従業員は人間、お客さまはすべて動物の“北極百貨店”。そこで新人コンシェルジュとして働き始めた秋乃(声・川井田夏海)が、お客さまの思いに寄り添うために奮闘する──。奇想天外な世界観ながら、王道の成長譚として人気を博した漫画「北極百貨店のコンシェルジュさん」が劇場版アニメに。作中に登場する、マンモスのアーティスト・ウーリーを演じるのが津田健次郎だ。長命であり、孤独を抱えた重要な役どころを、津田がどう演じたのかに迫る。また、津田が考える芝居の「根幹」とは?

── ウーリーを演じることが決まった時のお気持ちは?

「原作は、ほかでは見られないような個性的な作品。中でも、演じるウーリーは、今まであまり演じてこなかったタイプのキャラクターでした。演じさせていただけるのは光栄でしたし、どういうふうに演じようかと、とても楽しみになりましたね。『こういうタイプの役を演じさせていただける年齢になったのかな』とも感じました。ウーリーを演じるためには、ある種の積み重ねが必要な役なのではないかと思うんです」

── ウーリーはマンモスのキャラクターで、長く生きています。人気のガラス造形作家であり、作品展をするために北極百貨店を訪れる…という役どころ。

「ウーリーは登場人物というか、登場動物の中で一番大きいんです。なので、流れている時間が、ほかの人間や動物とも違うと思うんですよね。動きの緩慢さも当然生まれてくるし、鼓動の回数もたぶん違うはず。それに加えて、独自世界を表現するアーティストでありますから、感性もどこか違うのかなと。なので、“ずーん”とした重厚感のあるしゃべり方を理想として演じました。ただそこに、いろいろなものがにじまないと、ただ“ずーん”としてしまうので、『孤独な人である』ことは意識しました。諦めや悲しみがない交ぜになって、妻も亡くなり、この言い方が正しいかは分かりませんが、『生きてしまっている』。そこで一つ支えになっているのが、芸術です。ただ、彼が作っているものはガラスであり、必ず壊れるもの。そこも一つのポイントですよね」

TVガイドWebスペシャルインタビュー/津田健次郎(映画「北極百貨店のコンシェルジュさん」)

── では、アフレコ現場の雰囲気は?

「今回は、よく絡む役の方々とは一緒にアフレコをさせていただきました。秋乃役の川井田夏海さんやネコ役の諸星すみれさん、それとウーリーのマネジャー役の高木渉さんですね。川井田さんはずっと緊張していらっしゃった。諸星さんは『緊張しました!』とおっしゃっていたけど、全然そんなふうに見えなかった(笑)。渉さんは渉さんでした(笑)。積極的に声を掛けてくださって、現場をとても楽しくしてくださっていました」

── 和気あいあいとした雰囲気が伝わってくるようです。

「それでもやっぱり、緊張感はありました。この作品は、とても難しいことをしているんです。演出面でも演技面でも、分かりやすいけれど、とても複雑な構造がある。コメディーとシリアスが同居し、さまざまなエピソードが積み重ねられていきます。何よりも、分かりやすいお涙頂戴(ちょうだい)に持っていかずに、にじませ、染み込ませていくんですよ。そういう意味では大人な作品だと思います。それはとてもスキルが必要なことだし、丁寧にやっていかないと、ただ表面をさらっただけの何も起きない物語にもなりかねない。逆にやり過ぎると、ばかばかしくなってしまいそうだし…。とても繊細なことにチャレンジしている作品だと思います」

── その空気感を、皆さん一丸となって表現したんですね。

「そういう意味での緊張感みたいなものは、スタッフさんにも僕らにもあったと思います。ただ、緊張感を緊張感のまま出してはいけない作品でもある。例えばバトルのシーンだったら、分かりやすく緊張して演じるのがいいと思うのですが…。この作品での登場人物のやりとりは、どこか力の抜けたものですから。でも、だからこそ難しくて楽しい。この作品のように、すごく繊細なことをやらせていただけるのは、役者にとっては楽しくもあるんです。アフレコでは、川井田さん演じる秋乃や、諸星さん演じるネコとのやりとりで、ウーリーの心がフワッと開いていく。あの行間のようなものは、演じていてとても感動的でした。今でもとてもよく覚えています」

TVガイドWebスペシャルインタビュー/津田健次郎(映画「北極百貨店のコンシェルジュさん」)

── 秋乃は新人コンシェルジュとして、時にお客さまに振り回されながらも店内を駆け回ります。津田さんも新人時代を思い出しましたか?

「思い出しましたね。やっぱり、仕事のことをしっかりと描いている作品ですから。新人の頃の失敗や空回り、やる気が前面に出過ぎて余計なことをしたこと、ほとんどの仕事は1人ではできないと徐々に分かっていったこと…。この作品にはいろんな側面があって、1人の女性の成長譚でもある。そして、その成長の大きな部分を仕事が占めているんですね。仕事のしんどさや苦しさ、喜びを、きちんと丁寧に描いている作品だと思います」

── 今の津田さんのお姿からは、失敗や空回りを想像できませんが…。

「もう空回りだらけでしたね。やる気が前面に出過ぎてしまって、バランスが取れないんですよ。ただ、はみ出て凸凹してしまうのは、新人のよさでもある。それがあるからこそ、発見できたり、獲得できたりするものがあるんです。何より、凸凹はやる気から生まれる過剰なエネルギーがあればこそ。凸凹していた方が成長も早いんです。そこで何かを恐れて守りに入ってしまうと、開けない世界や見えない景色があると思うんです。『北極百貨店のコンシェルジュさん』でも描かれていますが、そこをベテランがフォローアップしていく」

── 周りの方に注意されたりも…?

「あります。めちゃくちゃ尖っていたので(笑)。とはいえ反抗はしないんですけど…。どうしても自分のやりたいお芝居を通そうとして、ちょっとやり過ぎることもありました。後で呼ばれて『頑固だね』なんて言われたこともあります。特に、海馬瀬人役を演じた『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』の録音監督だった三ツ矢雄二さんは、たしなめつつも温かく見守ってくださって…。今でもお会いすると、『ちゃんとしたね』とおっしゃってくださる。本当にありがたいですね」

── そうやって歩んで、今があるんですね。

「昔は『バランスが取れているものなんてつまらん』と思ってやっていたけれど、ある時期から『バランスはとても大事だ』と覚えました。ただ、ある程度キャリアを積んでくると、バランスを取ることはそんなには難しくなく、はみ出る方が難しい。自分の感性を信じ切ってやり抜き、その上でバランスを取るのが理想かもしれません。今も『失敗を恐れてはならない』と思いますよね」

── 作品で印象的だったシーンは?

「ある登場人物が飛び出すシーンですね。その人物が、それまでどうやって移動していたかを思い出すと、カタルシスはひとしお。感動的です。それと、秋乃たちがニホンオオカミのプロポーズをサポートするレストランのシーン。みんなの力が合わさるのは、印象的でした。しかも、作品を見終わってクレジットを眺めていたら…取材先にシャトーレストラン『ジョエル・ロブション』があったんですよ! 百貨店だと、伊勢丹と髙島屋にも取材している。日本の最高峰ですからね。本物を追求するスタッフさんの思い入れを見ましたね」

TVガイドWebスペシャルインタビュー/津田健次郎(映画「北極百貨店のコンシェルジュさん」)

── 津田さんご自身は最近、秋乃のように奮闘したことはありましたか?

「ここ何年か、ドラマや映画など、実写作品にも出演させていただけることが増えました。もともと舞台をやっていたとはいえ、映像制作の世界は日々新鮮です。とても濃密な日々を過ごさせていただいています。とにかく真摯(しんし)に、一つ一つのことに対峙(たいじ)する。新人の頃のような気持ちでいますね。ただ、お芝居の根底にあるものは何ら変わらないとも思っているんです」

── それは…?

「『矛盾』ですね。お芝居に限らず、もしかしたら表現すべてが抱えている命題なのかもしれません。僕の場合は分かりやすく言えば、やっていることは『うそ』なんです。そんな物語はないし、そんな登場人物は実在しない。たとえ実話をベースにしていても、やっぱり現実とは違うものです。それでも本物にしていきたいんですよね。もう、それは最初から矛盾なんです。その矛盾を超えて、本物にたどり着けたら──。たどり着けるはず、と思っています」

── その「矛盾」には、キャリアの初期から対峙してきたのでしょうか?

「そうですね。お芝居を始めた当初からありました。これはちょっと大げさな話になってしまいますが…人間が生きることそのものが『矛盾』だと、僕は思っているんです。生まれた瞬間に死が約束されている。だから、生きるということは死んでいくことで、その中で何をしていくか。演技はそれを凝縮しているような気がします」

── 作品の公開は間もなくですね。最後に見どころを教えてください。

「『北極百貨店のコンシェルジュさん』は、とても丁寧な作りの作品です。日常の中で見落としがちな大事なことがたくさん詰まっていますし、見ると温かい気持ちになれる作品でもあります。子どもから大人、おじいちゃんおばあちゃんまで、誰が見ても楽しめる作品になっていると思うので、たくさんの方に見ていただきたいですね」

【プロフィール】

TVガイドWebスペシャルインタビュー/津田健次郎(映画「北極百貨店のコンシェルジュさん」)

津田健次郎(つだ けんじろう) 
6月11日、大阪府生まれ。O型。「ONE PIECE FILM RED」ゴードン役、「チェンソーマン」岸辺役、「呪術廻戦」七海建人役などで知られる。声の演技のほか、近年は俳優として映画「イチケイのカラス」(2023年)、ドラマ「トリリオンゲーム」(TBS系)など実写作品にも出演している。

【作品情報】

「北極百貨店のコンシェルジュさん」 
10月20日全国ロードショー

イラストレーター・装画家としても知られる西村ツチカ氏の同名コミックを映画化。奇想天外な世界観を映像化するのは、Production I.G。

新人コンシェルジュとして秋乃(声・川井田夏海)が働き始めた「北極百貨店」は、来店するお客さまがすべて動物という不思議な店。絶滅種である「V.I.A (ベリー・インポータント・アニマル)」に時に翻弄(ほんろう)されながらも、お客さまの思いに寄り添うために秋乃は店内を駆け回る。そんなある日、店で展示をするため、マンモスのアーティスト・ウーリー(声・津田健次郎)が、マネジャー・クズリ(声・高木渉)と共にやって来る。しかし、展示の最中、ネコ(声・諸星すみれ)がある騒動を起こし…。

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【締切】2023年10月30日(月)正午

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撮影/蓮尾美智子 ヘアメーク/塩田勝樹 スタイリング/小野 知晃(YKP)



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