朝ドラ「あんぱん」千尋役・中沢元紀が語る、兄・嵩(北村匠海)は「最後に頼る存在」2025/06/12

今田美桜さんが主人公を務める「朝ドラ」第112作の「あんぱん」(月~土曜午前8:00ほか)は、中園ミホさんがアンパンマンを生み出した漫画家・やなせたかしさんをモデルとした柳井嵩(北村匠海)と、嵩の妻・のぶ(今田)の激動の人生を描く。何者でもなかった2人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した「アンパンマン」にたどり着くまでを描き、生きる喜びが全身から湧いてくるような愛と勇気の物語をおくる。
本日6月12日に放送された第54回では、嵩が弟の千尋と3年ぶりに再会。法律家ではなく、海軍の士官になっていた千尋に怒りをぶつける嵩に対し、千尋も抱え続けてきた本心を打ち明け、戦地へと旅立って行った。そんな文部両道で優しい弟・千尋を演じるのは、本作で念願の朝ドラ初出演をかなえた中沢元紀さん。千尋の人物像や役作りの裏話、兄・嵩を演じる北村さんとのエピソードや撮影秘話などを聞いた。
――まず、本作への出演が決まった時はどのような心境でしたか?
「決まった時は、マネジャーさんから電話で連絡をもらいました。朝ドラは役者をやっている人誰もが一度は出演してみたい夢の舞台の一つだと思いますし、僕自身もとてもうれしかったです。最初の頃は実感が湧かなかったのですが、衣装合わせをしたり、徐々に作品に触れていくことで、少しずつ現実なんだなと思うようになりました」
――今回が朝ドラ初出演ということで、周囲からの反響も大きかったのでは?
「そうですね。家族や役者仲間がすごく喜んでくれました。特に、おじいちゃんとおばあちゃんは僕の出演が発表された時から楽しみにしてくれていて、今も『毎日2回は見ている』と言ってくれています。本当にありがたいです」
――これまで経験してきたドラマの現場との違いを感じる部分はありましたか?
「はい。特に月曜日にリハーサルがあり、火曜日から金曜日が撮影、土日が休みというのは、他のドラマとは全く違って新鮮でした。リハーサルをここまで頻繁にやるのも初めてで驚いたのですが、初めての朝ドラで緊張している部分もあったので、お芝居を合わせる機会が多いのはすごくありがたかったです」

――そんな本作で中沢さんが演じる千尋は、家族思いで優しく文武両道の素晴らしい青年ですよね。
「おっしゃる通りで、僕も最初に人物像を聞いた時は“完璧人間だな”と。オーディションを経て選んでいただいたのですが、僕でいいのだろうかという思いも強かったです。実際にいらっしゃった方がモデルというのもありますが、千尋は嵩にとってすごく重要な存在で、千尋がいたからアンパンマンが生まれた…そういうプレッシャーも感じて。真摯(しんし)に役と向き合って演じていこうと思いました。僕自身も目標にしたい人物像です」
――そんな千尋らしさが表れていたと思うシーンは?
「第3週のパン食い競走のシーンでしょうか。のぶさんを助けたけれど自分から助けたとは決して言わない、そういうカッコ良さがいいですよね。意識せずとも自然に優しくできる、千尋らしさがあふれていたかなと思います」
――千尋と中沢さんご自身にも通じる部分はあるのでしょうか。
「多少近いところはあるのかなという感覚はあります。というのも、オーディションを受けた時に、制作統括の倉崎(憲)さんが『目の奥の、あまり表に出ないところに見える熱さが千尋に合っていた』と言ってくださって。僕も感情が100%表に出るタイプではないので、そういう部分は通じているのかもしれません」
――演じるにあたって、役作りとしてはどのようなことを?
「千尋は柔道家でもあるので、まず体形から変えていかないとと思い、体作りから始めました。見た目が変わると、意識も変わるタイプというのもあって。2か月くらいジムに通って鍛えて、クランクイン前からは8kgくらい増えたかなと思います。『あんぱん』に入る前にやっていたドラマでは体の線が細い役を演じていたので、まず体重を増やして、それを筋肉に変えていくという作業をやっていました」

――兄・嵩役を演じる北村さんとの共演はいかがですか?
「普段から距離感が近い方がリアルな兄弟の空気感が出るかなと思い、匠海さんとは積極的にコミュニケーションを取らせていただいて、いろいろなお話をしています。僕はアクション作品が好きなのですが、匠海さんはいくつもアクション作品に出演されているので、出演時のお話をお聞きしたり。嵩とけんかをしたシーンの時には、『前蹴りをする時は足を出さずに腰から出すといいよ』など、体の構造のことも含めて事細かに教えていただきました。今回の共演を経て、アクション作品の見方が変わりましたし、勉強になるお話をたくさんお聞きできて、本当に毎日が充実しています」
――ほかにも個性豊かなキャストの方々がいらっしゃいますが、北村さん以外で影響を受けた方は?
「(屋村草吉役の)阿部サダヲさんです。ヤムさん役は阿部さんにしかできないのだろうなと感じますし、そういうお芝居を間近で見られるというのは、すごくぜいたくだなと。千尋にとってもヤムさんは大事なことを教えてくれる存在で、堅い千尋が柔らかいヤムさんにほぐされるようなシーンもあり、そういった意味でも影響を受けています」
――第54回では千尋がのぶに対する思いを嵩にぶつけるシーンも。千尋はいつ頃からのぶに恋愛感情を抱いていたと考えていますか?
「僕は、千尋は最初からのぶさんに恋心を抱いていたのではなく、あの時代背景にも負けず自分の道を突き進んでいく姿にひかれて、だんだん恋心に変わっていったと解釈しています。出会った頃は、幼なじみであり、人として憧れの存在というところから入ったんじゃないかな。第14回の海辺のシーンでは確実に意識していたと思っているので、あの頃が変換期だったのかもしれません」
――3年ぶりに再会した嵩との兄弟の絆が見える、素晴らしくも切ない名シーンでした。
「僕もこのシーンは心にグッとくるものがありました。これまであまり自分を出してこなかった千尋が、のぶさんに対する恋心をはじめ、戦争がなかったら…と初めて嵩に本音をぶつけるシーンで、もうすべてを出し切ろうと思っていました。匠海さんが嵩として全部受け止めてくれる安心感があったのと、その場で生まれるものを大事に作りたいと思っていたので、匠海さんとはほとんど打ち合わせをせずに撮影に臨みました」
――このシーンにおける撮影裏話はありますか?
「このシーン、泣いている嵩に対して千尋は涙を流していませんが、実はテストの時は僕もボロボロ泣いているんです。なので、本番の撮影が終わった後はこれで良かったのかなと考えましたし、匠海さんも『監督にもう1回(撮影)お願いしてみようか?』と声をかけてくださったのですが、監督がOKしてくださったことが全てなのかなと思って。匠海さんとも『これが兄弟としての別れであれば涙を流すけれど、千尋は軍人として旅立つのだから涙を流さないのでは』というお話をしました。本番で涙が出なかったのは、千尋として根底にそういう意識があったのかもしれません。今もあれが正解だったのかという思いはありますし、視聴者の皆さんがどう感じるだろうと不安もあるのですが、全身全霊で挑んだシーンで、千尋の思いが届けばいいなと思います」

――周りの友人たちの影響もあり、ずっと目指していた法律家ではなく、海軍を志願した千尋をどう感じますか?
「理解はできます。軍に自ら志願することがカッコ良いとされていた時代、千尋として信念はありつつも、志願する方にいくのだろうなと。千尋はこれまでずっと周囲の空気を読みながら生きてきた人なので、そこに違和感はなかったです」
――そんな千尋にとって、嵩はどういう存在だったのでしょうか。
「ひと言で言い表すのは難しいですが、千尋にとってはたった1人の兄貴で、たった1人の家族でもあって。千尋とは正反対で、自分のやりたいことを貫き通す、そういう部分に憧れて、応援しつつ見守っていたのだと思います。きっと、嵩の描く絵や漫画が一番好きなのは千尋なんでしょうね。兄弟といっても上下関係はなくて、かといって友達ともちょっと違う。お互い鼓舞し合う存在で、千尋が最後に頼るのは嵩なのだと思います」
――これまで、劇中で一番心に残っているセリフを挙げていただくと…?
「本当たくさんあるのですが、伯父さん(竹野内豊)から言われた『何のために生まれて、何をしながら生きるがか。見つかるまで、もがけ。必死でもがけ』という言葉は、千尋としても僕自身としても心に響くものがありました。そして、僕自身もそれを問い続けながら生きていきたいです。その答えは日々変わっていくものでもあるのかなと。都度思い出し、自分の中で答えを確認しながら歩んでいきたいです」
――「あんぱん」は中沢さんにとってどんな作品になっていますか?
「今後の役者人生において、とても大きな影響を与えると思います。初めての朝ドラで新たな挑戦も多かったのですが、そうそうたる大先輩方の中で自分の思うようにやらせていただけて…。何をしても受け止めてくださる安心感があり、皆さんの器の大きさを身に染みて感じましたし、僕自身いつか受け止める側に立てる役者になりたいという目標もできました。『あんぱん』の現場を超えるような作品に出逢える役者になりたいです」
――中沢さんにとって、とても大きな存在になりそうですね。
「以前、『下剋上球児』(TBS系/2023年)という作品に出演していた時に、先生役の鈴木亮平さんから『この現場を超える作品にたくさん出合ってください』という言葉をいただいて、それがすごく心に残っていたんです。決して順位をつけるわけではなく、出演させていただいたどの作品も素晴らしかったのですが、吸収できたものの大きさという意味では今回その言葉をかなえられたのかなと。今まで経験させていただいた現場の中で一番期間も長かったですし、たくさんのことを学ばせていただきました」

――戦争についても、意識が変わった部分はありましたか?
「先日、祖父母の家に行った時におじいちゃんが戦争に行っていた時の手帳をはじめ、写真も何枚か見せてもらったのですが、兵士の方々が笑っているものもあって。僕は戦争を経験していないですし、してはいけないものだと教えられてきたので、なぜこの状況で笑えるのだろうという思いになったのですが、戦争に行くことが良しとされていた時代も確かにあったのだなと実感しました。こうやって戦争について考える、してはいけないと再認識する時間も大事なのだろうなと。この作品を見て、若い世代の方々にも戦争について考えていただいたり、今も世界で戦争が起きている、そういうところに意識を向けるきっかけになればいいなと思います」
――最後に、「アンパンマン」の中で中沢さんのお好きなキャラクターを教えてください。
「ロールパンナちゃんがずっと好きで、子どもの頃はロールパンナちゃんの格好をして遊んでいました! 風呂敷をマントに見立て、布団たたきにリボンを付けて、母親を相手に戦ったりして(笑)。今もロールパンナちゃんは好きですし、アンパンマンももちろん好きですが、ヤムさんを見ていて、ジャムおじさんの見方がすごく変わりました。のぶさんがドキンちゃん…などもそうですが、それぞれキャラクターのモデルになっている人物がいると知って、また一つ新たな楽しみ方が増えたなと思います」
【プロフィール】
中沢元紀(なかざわ もとき)
2000年2月20日生まれ。茨城県出身。O型。近作はドラマ「下剋上球児」(TBS系/23年)、「ひだまりが聴こえる」(テレ東系/24年)など。
【番組情報】
連続テレビ小説「あんぱん」
NHK総合
月~土曜 午前8:00~8:15 ※土曜は1週間の振り返り
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
月~金曜 午前7:30~7:45
取材・文/TVガイドWeb編集部
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