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テレビ岩手開局50周年記念映画「山懐に抱かれて」公開直前! 24年にわたって取材した遠藤隆監督に聞く【前編】

 日本テレビ系NNNドキュメントで放送された「ガンコ親父と7人の子どもたち」シリーズが映画に。テレビ岩手制作のドキュメンタリー映画「山懐に抱かれて」が、同局の開局50周年記念事業としてゴールデンウイークが始まる4月27日から東京・ポレポレ東中野から順次全国公開されます。岩手県田野畑村で1年中、牛を山に放つ山地酪農(やまちらくのう)を営む吉塚公雄さん一家の24年間に密着。父と母、そして5男2女の7人の子どもたちの成長を描いています。これまで地元・岩手で、70回ほどニュースで取り上げられ、NNNドキュメント枠でも4度放送されてきた人気シリーズ企画です。映画公開に先駆けて昨年11月に放送された90分のテレビ版は、平成30年度文化庁芸術祭賞のテレビドキュメンタリー部門優秀賞を受賞。それを上回る103分で上映される今回の劇場版はさらに期待が高まります。1994年から吉塚家を取材してきたテレビ岩手の遠藤隆監督に、24年間におよぶドキュメンタリー制作の歩みを伺いました。

──芸術祭賞のテレビドキュメンタリー部門優秀賞、おめでとうございます。

「ありがとうございます。20何年も親戚のようにお付き合いさせてもらった吉塚さん一家に本当に感謝しています。吉塚さんが喜んでくれたのが本当にうれしかったですね」

──私はかつて日本テレビ担当の記者をしていたのですが、当時放送されたNNNドキュメント’96「イーハトーブに抱かれて」というタイトルは今でも覚えています。「イーハトーブ」という言葉はその時に知りました。

「あの番組はあまり評判が良くなかったんですよ。あの時ボロクソに言われたので意地になって取材したんです(笑)。悔しいから5年後にリベンジでNNNドキュメント’01『貧乏に幸あり~ガンコ親父と7人の子どもたち~』をやったら、これは民間放送連盟賞(教養部門優秀賞)がとれました」

──吉塚さんとは’94年に出会われたそうですが、こんなに長く続くとは…?

「そりゃ思わないですよ。当時出会った時に、もう破産寸前でした。いつ山を売るかみたいな話もあって、95年頃、これもう無理だろうと思いました。でも、子どもたちがかわいいわけですよ。親戚のおじさんじゃないけれど、この子たちがつらい顔するのは見たくない。吉塚さんと話していてどちらからともなくプライベートブランド牛乳で勝負をかけたい、駄目だったら諦めようって。すぐに社内や日本テレビとも相談して、田野畑山地酪農牛乳の生産が始まる96年(12月)に初めて放送することができました。その時は、吉塚さんのほかにシンガーソングライターや養鶏家の方など、宮沢賢治的な精神を持っている方をオムニバスにした番組でしたが、2001年以降は全部、吉塚さんで作りました」

──それで、01年からは「ガンコ親父と7人の子どもたち」なんですね。吉塚家を最初に取り上げたという地元のニュースはどんな内容でしたか?

「最初は、吉塚さんが『バカだな、公太郎(長男)。なんで成牛連れてくるんだ!』っていうところから入って、とにかくガンコおやじが息子たちを厳しくしつけている、酪農をただ一生懸命やっている変わったおやじがいる、というものでした。3分ぐらいだったと思います。当時、僕は農業記者で、農業県の岩手県は牛肉やコメの自由化の問題があって、食料自給率の向上を番組のテーマにしていました。その中で吉塚さんは餌の自給率が100%ですから、そういう言う意味で理想の酪農をやっている稀有(けう)な方でした。初めは山地酪農から入っていったんですが、2年間ぐらい取材して番組化する頃には親子関係の方が魅力的に感じ、農業問題から家族の問題へとテーマが変わってしまったわけです」

──3分のニュースが24年かかって映画になったんですね!

「初めて会った時に、吉塚さんが自信を持っている牛乳を絞ったままただ沸かしただけで飲んだんですが、本当においしかったですね。全然違うもんだと思いました。吉塚さんはインタビューになると長くて、特に山地酪農の話になると1時間ぐらいしゃべっている。参っちゃうんですけど(笑)、そのインタビューを聞いた後に(牛乳を)飲んだら、この人が言っていることはうそじゃないと思いましたね」

──1回の取材はどれくらいですか?

「ほとんど1泊2日で行っていました。『よくハプニングが撮れるな』と言われるんですが、随分通いましたから、そういうこともあるよって(笑)。2人のカメラマンが本当に上手で、96年まで撮った上屋敷(益元)くんは元々映画志望で、撮り方が映画っぽい。大ロングが好きで、そういう芸術的なセンスがありました。98年以降を撮っている田中(進)くんは動物的な反射神経というか、『カメラを止めるな!』でワンカットワンシーンって評判になっていますが、彼が撮ったハチのシーン(長兄2人がスズメバチに刺される)も映画ではカットを切っていますけど実際の撮影ではワンカットワンシーンです。それから牛が道で滑って転ぶシーン。公太郎くんがツルツル滑りながら牛追いしている後を付いていって、牛が後ろでガシャっていうんで彼はビュっとカメラを振るわけです。振った先に牛が画角に奇麗に入っている。それからワンカットでずうっと押さえて、立ち上がるところまで撮るわけです。『このカメラマンはどこに目がついているんだ』と日本テレビで編集している時に話題になりました。あそこは本当にうまいですね」

──目の離せないシーンの一つです。試写を観て、映画らしいカットも多いなという印象も受けました。

「僕も再来年でテレビ岩手を卒業するので最後に構成・編集をずっと手がけてくれた佐藤(幸一)さんと1本、ドキュメントを作りたいと言ったら、『あれだけ貯まったんだから映画にしようよ』って言われ、『無理、無理!』とそれからできるだけ顔を合わせないようにしていました。間が悪いというかその後(テレビ岩手の榧野信治)社長に『あれやっぱり映画にしようよ』って言われて、今度は社長から逃げました(笑)」

──映画化することを決めたのはいつ頃ですか?

「おととしの春頃に初めて話が出てから半年近く逃げ回っていました。その間、佐藤さんが私と一緒にテレビ新潟(NNNドキュメント『夢は牛のお医者さん』を14年に映画化)に行って話を聞いてくれたり、猿田ゆうさん(宣伝・配給)とお会いしたりして、秋頃から本格的に向き合い始めました。ところが、元々のテープが2000本もあるんですよ。30分テープだから1000時間。それを報道から編成に移るときに170時間ぐらいに粗編していましたが、その後もなんとなく僕が撮り貯めて100時間ぐらいあって…。方式が違うのでそれを取り込まないといけないんです。朝3時くらいからやって、暮れも正月もずうっと1日やっているわけですよ。そうしているうちに、ここまでやったらいよいよ映画にしないともったいないなと…(笑)」

──本作では、前作のNNNドキュメント’10「ガンコ親父と7人の子どもたち~酪農大家族16年の記録~」(10年5月放送)からそれ以降の取材が足されています。翌11年には東日本大震災がありました。

「当時、僕は報道部長でしたから(吉塚家に)全く行ってないんです。ただ、田中カメラマン自身が吉塚家の親戚のおじさんみたいなものですから1人で取材に行って(笑)、本当にありがたいですね。ディレクターですよね。使ってはいないんですが、彼は面白いインタビューもいっぱい撮っています」

──子どもたちが成長し新しい家族が増えてきました。取材対象も多くなって大変だったのではないですか?

「ドキュメンタリー育ちなのでそこはあまり計算してないんです。映画では使っていませんが、長女と次女、三男に次々に赤ちゃんが生まれていて、それも全部撮っています。撮ってとりあえず考える。ふつう劇場映画なら最初から全部カット割りを考えるんでしょうが、田中カメラマンと一緒に行って、『今日何撮りましょう?』『行ってから考えるか…』って。行ってから考えるとハチが飛んできたりする(笑)。家族が増えて結果的に孫11人か…、みたいな。その場に応じてやっていく感じです」

──それだけ撮り貯めると、何を削るかの方がご苦労ですね。

「構成・編集という点では僕の手に負えるものでなくて、そこはやっぱり佐藤さんですね。佐藤さんもそうだし、猿田さん、田中カメラマンもそうだし。それと吉塚さんは何しろそうだし、どこが欠けてもここに絶対たどり着かなかったと思います。つくづくそう思います。もちろん社長もそうだし。いろんな要素が集まって映画になったと思うんです」

 このほかにもたくさんの方の名前を挙げて劇場公開が実現した感謝の気持ちを表した遠藤監督。その人柄ゆえに、吉塚家のみならず遠藤監督の周りに大きなファミリーが集まって映画「山懐に抱かれて」が完成したのだなと理解できました。同時に、ユーモアを交えながら時折熱が入る語りは、どこか吉塚さんと共通するところも感じられ…。笑いが絶えない遠藤監督の白熱のインタビューは、さらに【後編】へと続きます。

【プロフィール】 
遠藤隆(えんどう たかし)
1956年生まれ。東京都出身。大学進学に伴い岩手県へ。81年、テレビ岩手入社し、報道部配属。NNNドキュメント’87「両手に力を下さい」でドキュメントデビュー後、多数のドキュメンタリー番組を手がけ、数々の賞を受賞。2007年報道部長、11年3月には東日本大震災の取材・放送の指揮を執る。現在、編成局エグゼクティブプロデューサー兼コンテンツ戦略室長。2人の娘の父。
【作品情報】 
映画「山懐に抱かれて」(やまふところにだかれて)
4月27日から東京・ポレポレ東中野にてロードショー。ほか全国順次公開 
2019年製作/テレビ岩手 ナレーション/室井滋 監督・プロデュース/遠藤隆
<公式サイト>http://www.tvi.jp/yamafutokoro/

取材・文/飯野芳一



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