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札幌ロケ&大泉洋主演映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」の前田哲監督を直撃!「鹿野は“寅さん”です」2018/12/25

札幌ロケ&大泉洋主演映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」の前田哲監督を直撃!「鹿野は“寅さん”です」

 12月28日、北海道札幌市などでロケした映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」が公開される。本作は、札幌に実在した重度の筋ジストロフィー患者・鹿野靖明さんとボランティアたちとの交流を綴る渡辺一史氏の傑作ノンフィクション「こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち」(文春文庫刊)が原作だ。

札幌ロケ&大泉洋主演映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」の前田哲監督を直撃!「鹿野は“寅さん”です」

 介助なしでは生きられないのに病院を抜け出し、大勢のボランティアを自ら集めて自立生活を送る鹿野さんを、同じ北海道出身の大泉洋が熱演。夜中に突然「バナナ食べたい」と言い出す彼のワガママに翻弄される若きボランティアを、高畑充希と三浦春馬が好演している。体は不自由、心は自由! 車いす人生を全力で駆け抜けた男の生きざまを、笑いと涙たっぷりに描いた前田哲監督に、本作への思いを聞いた。

── 映画化のきっかけを教えてください。

「原作が発売された2003年、タイトルにひかれて単行本を買ったのですが、感動を売りにした闘病ものだと勘違いして読まずにいました。それで、13年の文庫化の際にもう一度買って、それでもまだページを開かずにいたんですが、松竹の石塚(慶生)プロデューサーから“『ブタがいた教室』のように、強い気持ちで作りたい映画の企画はないですか”と声を掛けていただいて、しばらく企画のやりとりをしたのですが見つからなくて…、この本を手にしてみたら、『これだ』と思いました。描かれていたのは、障がい者の概念を打ち破る男の人生。鹿野さんはヒーローでも、障がい者運動の活動家でもありません。ただ普通に自分の生活をしたい、でもできないから人に頼っていて、それがワガママに見えるんです。今という時代だからこそ、こういう物語が強く求められているのではと提案し、映画化に向けて動きだしたのが14年のことです」

──「障がい」を扱うエンターテインメント映画として、配慮された点はありますか?

「主人公の鹿野さんはできるだけ事実に沿って描いていますが、周囲の登場人物はほとんどオリジナルです。鹿野さんのご家族はご存命で、ボランティアの方々にとっても鹿野さんは“家族”のような存在ですから、表現の仕方は非常に気を使いました。かといって、忖度せず、正々堂々と描いたことは自信があります。これまで『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ』『ブタがいた教室』など実話ものを手掛けたノウハウを生かし、全責任を負う覚悟で作りました。クランクイン前に大泉さんと確認したのは、ボランティアと鹿野さんの関係は“対等”だということ。シナリオを読むと命令口調に感じる部分は、あくまで親しいゆえであり、従属関係に見えないようにしましょうと話しました」

──「ずうずうしくて、おしゃべり」というキャラクターがご本人とリンクする大泉さんが、鹿野さんの存在感を魅力的に体現していますね。

「編集で何十回と見るのですが、大泉さんの芝居は何度見ても飽きないので何度も見たくなる。それくらい味わい深いというか、面白い。コンタクトレンズで視力を落とし、度付き眼鏡をかけて撮影に臨んでくれたのも正解でした。視界が歪んで、慣れるまではしんどかったみたいですが。でも大泉さんはそういう苦労を、楽しみながらこなしてくれました。難病役って世界の名優が挑み、賞を獲得したりしていますが、ほとんどが“熱演”なんですよね。それはそれで素晴らしいんだけれど、頑張ってますというのが、僕にはちょっと熱苦しい。今回の大泉さんの演技はひょうひょうとされていて、それがかえって切なさ、愛しさを感じさせます。世界の映画祭でも主演男優賞レベルです。それは、彼の持っている“人間力”を出し切った結果でもあると思います」

札幌ロケ&大泉洋主演映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」の前田哲監督を直撃!「鹿野は“寅さん”です」

── 実は見終わった後、鹿野さんがあの「寅さん」に思えてきたのですが…。

「それは、意識しました。実際の鹿野さんもほれっぽくて、かつ振られてもすぐ立ち直る方だったようです。寅さんの家族が『ホントどこ行ってんだー、あの寅はよー』とうわさ話するように、“鹿野ファミリー”のボランティアが『ホント自由だよなー、鹿野はよー』と言いながら、一番愛しんで心配しちゃう存在なのも同じですね。これ、寅さんですよね。たまたま正月映画になったことも縁でしょうか」

── 高畑さん演じる美咲が、鹿野さんと出会い、反発し、その後距離を縮めていく過程もすてきでした。女性ならではの包容力を感じさせる後半は、ラブ・ストーリーを見た気分になりました。

「この映画は、大泉さん、高畑さん、三浦さん3人の青春ドラマなんです。そのうち1人がたまたま障がいを持っているだけ。美咲は人に対して“壁”を作らない人物で、だから『あんた何様? そんなエライの?』というセリフが飛び出すんですが、あれは僕が一番やりたかったこと。鹿野さんと同じく、誰に対しても対等で、“障がい者だから”“女だから”という『だから~』がないんですね。一方、三浦さん演じる医大生ボラの田中は、『将来は医者になるんだから頑張らないと。障がい者は大変だから気を付けて助けないと』と自分で自分の中に無意識に“壁”を立てている人物。そんな対照的な3人が出会い、ぶつかることで変化していく物語なんです」

札幌ロケ&大泉洋主演映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」の前田哲監督を直撃!「鹿野は“寅さん”です」
札幌ロケ&大泉洋主演映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」の前田哲監督を直撃!「鹿野は“寅さん”です」

── 高畑さんは14歳の時に出演した前田監督の「ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ」が劇場デビュー作でしたが、10年余り経て本作での演技、成長ぶりはいかがでしたか。

「充希は『ドルフィンブルー』当時から度胸があって、物おじしない子でした。すなわち、美咲と同じで他者に対して“壁”がない。大泉さんも2002年の『パコダテ人』以来なんですが、2人とも“天才”ですよ。感情を、肉体を通して絶妙に表現できる人という意味です。その表現が2人とも半端なく、観客の心に届く。心から納得して出たものが一番強いんです。芝居はリアクションですから、“生”の反応が出せる“場”を用意するのが僕の役目だと思っています。2人の演技を、僕はカメラのそばの“特等席”から見ていましたが、ずーっと見ていたかったですね。芝居で吹き出しちゃうのは僕が一番多かったです」

札幌ロケ&大泉洋主演映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」の前田哲監督を直撃!「鹿野は“寅さん”です」

── ありがとうございます! 最後にこれから映画を見る観客へメッセージをお願いします。

「札幌の色々な場所で撮影でき、多くの方がエキストラ出演くださいました。ロケ地と、協力くださった地元の方々の協力があったから、そのシーン、そのワンカットに“力”が生まれ、映画が豊かになりました。そんな北海道の“大地力”、北海道の人たちのエネルギーも感じてほしい。映画は、多くの人を巻き込む影響力のあるメディアです。家族で見た後に感想を話したり、そこから多様な“気付き”を感じてもらえたらうれしいです。それが、世の中を変える小さな一歩になると信じています」

【プロフィール】

前田哲(まえだ てつ)

フリーの助監督を経て、1998年に相米慎二監督のもと、CMから生まれたオムニバス映画「ポッキー坂恋物語・かわいいひと」で劇場映画デビュー。CM、ミュージックビデオ、テレビドラマを多数演出。主な映画作品は「パコダテ人」(2002年)、「ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ」(07年)、「ブタがいた教室」(08年)、「極道めし」(11年)。19年3月には、破天荒な画家を1年間追い掛けたドキュメンタリー「ぼくの好きな先生」が公開。

【作品情報】

「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」
12月28日より全国ロードショー

出演/大泉洋 高畑充希 三浦春馬 
監督/前田哲 脚本/橋本裕志 音楽/富貴晴美 原作/渡辺一史「こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち」(文春文庫刊) 配給/松竹 

公式サイト:http://bananakayo.jp/

文・撮影/新目七恵(亜璃西社)



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