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「キャラとおたまじゃくし島」寺田憲史×門秀彦インタビュー。ポップなファンタジーアニメが伝える大切なメッセージ

 NHK Eテレで4月から放送されているファンタジーアニメ「キャラとおたまじゃくし島」。ストーリーは、ある日突然魔女に音楽を奪われたおたまじゃくし島に、少女戦士「キャラ」が降り立ち、秩序を取り戻そうと奮闘する、というもの。色彩豊かであいきょうあふれるキャラクターたちのやりとりに、「共生」や「心のバリアフリー」というテーマが隠れているのだそう。「ファイナルファンタジー 1~3」の原案を手掛けた脚本家の寺田憲史さんの脚本に、手話をテーマにイラストレーターとして活躍する門秀彦さんが描いたキャラクターデザインを盛り込み誕生した今回の作品。お二人に制作秘話を伺いました。

──番組スタートから2カ月経ちました。反響や今の思いをお聞かせください。

寺田 「いつもはプロットで起承転結だけでなく、中のギャグまで書いちゃうのでシナリオの段階になれば一気にできちゃうんですけど、今回はそういう計算がプロットの段階でなかなかできなくて。他の仕事、一切ストップして書いたのなんか久しぶりです」

 「最初の5話が出来上がるまでは、期待を寄せる反面、果たしてどうなるんだろう…みたいな不安も入り混じっていました。みんなで試写して見た時には、自画自賛ですけどすごいいいものができたな、という気持ちになりました」

寺田 「門さんのご両親がろう者で、制作スタッフの中にも自閉症のお子さんがいらっしゃるご家庭もあって。お二人のお話を聞いていると初めて聞くことも多く、物語にどう取り入れていくのか戸惑いもありました。フランス語の手話があるだとか知らなかったですし…」

 「僕のそういう背景もあって、実際の経験と番組がリンクする部分がすごくあります。僕の場合、両親とのコミュニケーションは最初は簡単なホームサイン(身振り手振り)から始まって。だんだん高度な手話も覚えていくんですが、やはり限界があるので絵で描いて一日の出来事を両親に伝えたのが始まりでした。子どもが番組を見るっていうことは、お母さんも一緒に見てたりするんですよね。5分の番組ですがかなり凝縮した内容で、見終わっても5分という感じがしません。意外と大人のほうがはまっていくんじゃないかな、という予兆を感じます。この先泣かせる展開もあったりなんかしてね…」

寺田 「録音の時に僕は『このセリフ、声優に合うかな…』とかいろんなことを考えながら見ていたんですが、左隣にいた門さんを見たら『このキャラちゃんて子は本当にいい子ですよねえ…』とほろりとしていて(笑)。セリフを書いた本人にすれば嬉しい限りで。そういうものをシナリオにちりばめたので、視聴者にもそれが伝わればいいなと思っています」

──キャラクター作りにおいて気を付けた点などありますか?

寺田 「番組の狙いでもあってそれを前面に打ち出すことはありませんが、それぞれのキャラクターは実は強迫性障害や自閉症、ろう者といったように様々な個性を持っているんです。でも、大人目線でやると子どもが離れて行ってしまうんですよね。門さんの絵ですごく素敵な車いすアスリートの絵があったんです。でも、それをそのままこの番組で出してしまうと残念ではありますが『福祉コンテンツだから』と抵抗を感じる人もいるんです。そういえばこの子は車いすだな、いつの間にかいたな、という感じになるようにしました」

 「キャラクターたちには“ガッキアニマル”という名前がついていますが、内面的なものを描きたいな、という思いがあって。あからさまに体の一部が楽器になってますとかじゃなくて一部が楽器になってます、ぐらいにしました。あと、子どもたちが見て覚えて描きやすいもの、落書きできるようなものを目指しました。それぞれ全然別の特徴を持っていて、おしゃれに、というよりは動きや身振り手振り、そういうものに人柄が出るように意識しましたね」

寺田 「『劇中の”ヒュン”というキャラクターは自閉症という設定なのですが、この子の特徴としては人の目を見て喋ることができないんです。ほとんどの人は彼のことを『変わった奴、つまんない奴』と見ます。しかし主人公のキャラちゃんは好奇心が非常に旺盛で、何事も受け入れる、ということが上手な能天気で明るいキャラクター。ヒュンが投げかけた言葉を自分のことのように受け止める。そんな性格が番組をファンタジーアニメーションとして楽しんでもらうために非常に大事な役割を果たしています」

 「先ほどの話にもあったように、それぞれのキャラクターの説明をしていないので、割と謎めいてるんですよね、どんな番組なのか。オープニングや番組の最後に手話は出てきたりするんですけど、あんまり福祉、とかそういう切り口では言ってないです。次々登場するいろんなキャラクターたちが気が付くと魅力的に映っていた、そんなふうに見てくれたらうれしいです。それが僕たちの意図した感じの伝わり方なので」

──お互い、どんなクリエーターとして映っていますか? また、タッグを組んでみていかがでしたか?

 「すごいんですよ、寺田さんのキャリアが(笑)。僕はフリーでやってきて、絵を描くのって一人でやりますからチームでやることってないんですよね。ましてやこんな大ベテランと。何にもない、まっさらなところにインクをぽとって落として、それが絵になってだんだん物語が動き出す過程も見させて頂いたので、学ぶことが多かったです。今はこうやってお互い仲良くさせていただいてますが、最初はそのインク落とす位置も違っていたので意見が食い違って言い合いになることもありました。寺田さんは俯瞰で全体を見つめて立体的に世界を描かれるので、そういった視点はとても勉強になります」

寺田 「画力のある、壮麗な世界観をもっている絵描きさんですよね。彼の作品でおなかがピアノになっている動物がいて、それがすごく印象的で何か生かせないかなー、と思っていました。かつ、あくまでオリジナルの世界観にしたくて。クリエーターとクリエーターがぶつかり合えば刺激があるんで面白いですよね。僕が字面で設定を起こすと、門さんが絵を描いてきて『そうきたか!』となる。そこが組むことの面白さです。組む人によって、成功するかしないかが如実に出てくると思うんですよね」

──番組のコアターゲットである子どもたちにとって「共生」は難しい言葉のようにも思います。子どもたちの中でどんな言葉として育って行ってほしいと願いますか?

 「障害を持つ人本人には、自分の障害が個性だっていう意識はない。例えばろう者とのコミュニケーションで『手話で話すのめんどくさい』っていう人に『そんなこというなよ、もっと話したいんだよ』っていう魅力でつながっていけば仲良くなっていくんだろうし。一方で無理やり仲良くなる必要もないし。困ってるやつがいたから手を貸した、とかではなく楽しいとか、心と心でつながり合う、そういうふうな目で見ればあんまり障害なんて関係ないですよね。もし障害が個性っていうのを悲観的に思ってるんであれば、そう思う必要はないと思います」

寺田 「共生とか癒しとか、言葉が一人歩きしているだけで実はそうではないんじゃないか、と思います。障害者の中にも健常者の中にもいじめっ子がいるし、引っ張ってる子がいるし。『あれ、言われてみれば彼って自閉症かな? 変わってるよね』とその人のことを愛せればいいですよね。SNS上で『お互いフォローし合ってるよね、友達多いよね』みたいなえせ共生感みたいなものに躍起になっている若者たちに向けて、逆にアンチテーゼになればおもしろいですよね」

 「駅のホームで電車を待っていると『あ、あそこにろう者がいるな、あそこには車いすの人がいるな』と気付くのが普通で、きっとみんな同じように気付いているものだと思っていました。ところが『ろう者と出会ったことがありません』と言う人がすごく多いんですよね。僕にとってはろう者を見ない日なんてないほどなのに。でも”受け入れる、認識する”という気持ちがあれば外国人もいる、車いすもいる、と自然と目に入ってくると思います。”共生”とはすでにしているもので、新たな概念を身につけるものではないです」

寺田 「例えば悪い魔導士は黒魔導士、良い魔導士は白魔導士、とキャラクターを類型的に分けることに世の中のコンテンツが慣れていますよね。出どころは分かりませんが、僕の後輩たちも同じようなキャラクター展開をしています。ところが現実の社会はボーダレスになってきていて、そこにギャップができていると感じます。健常者とそうでない人っていう線引きは取っ払われてますよね。そこに乖離(かいり)がすごくある」

 「埼玉にある聾学校の文化祭で、ミュージシャンと僕の絵をコラボしたパフォーマンスをやったことがあって。しんとした静かな文化祭をイメージしたんですが、実際は歌うし太鼓はたたくし、ミュージカルはするし、とすんごくうるさかったんですよね。音の出るものばかりやっていて『これは教育方針ですか』と先生に尋ねたら『私たちにも何でなのか分からない。毎年こんな感じです』と返ってきて驚きました。その時は弾き語りする子とか何組か連れて行ったんですけど、いざ演奏が始まると身を乗り出して見たり、涙を流していたりして。また別の機会に、両親をパフォーマンスに呼んだ時には『女の子が歌ってる時の表情やギターをなぞる手を見ていて切なくなった、感動した』と言うんです。音楽は耳から感じるものだと思っていたけど、それだけじゃないんだな、と。聞こえない人に音楽を教わるみたいな、そういうことがよくあります。自分は知っていると思い込んでる健常者側が視野を狭くしているのかもしれません」

──寺田さん、門さん、ありがとうございました!

 寺田さんと同じように、筆者自身も「共生」という言葉にはどこか偽善的なものを感じていました。しかし、そことどう向き合うべきか答えは出ぬまま過ごしてきたのですが、この取材やこの番組を通じて答えに少しだけ近づくことができたように思えます。

 全40話の「キャラとおたまじゃくし島」は今まさに鋭意制作中とのこと。門さんも思わずほろりとしたこの先の泣ける展開とは一体、どんなストーリーが待ち受けているのでしょうか? ぜひチェックしてみてください。

【プロフィール】 
寺田憲史(てらだ けんじ)
脚本家、作家、アニメ監督。「鉄腕アトム」で文芸担当として手塚治虫に師事。代表作に「ファイナルファンタジー 1~3」のほか、「きまぐれオレンジロード」「キン肉マン」「おでんくん」など。原作、脚本を担当。
門秀彦(かど ひでひこ)
絵描き。両親がろう者という こともあり”Hand Talk”(手話)をテーマに創作活動を行う。武蔵野美大、全国のろう学校などでアートワークショップを行う。NHK Eテレ「みんなの手話」アニメ制作も務める。原作、キャラクターデザインを担当。
【番組情報】
キャラとおたまじゃくし島 
NHK Eテレ 
月曜 午前10:15~10:20 
木曜 午前5:55~6:05ほか(再放送)

取材・文/實重かおり

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