コラム

take206「たそがれ清兵衛」
山田洋次が1年以上費やした、時代考証の細やかさ

「男はつらいよ」や「家族はつらいよ」シリーズなど、現代の家族のありさまを描くことに定評のある山田洋次監督が、初めて手がけたヒューマン時代劇。

 時代背景を克明に再現することは困難と言われた藤沢周平原作の短編小説3編を、山田監督自らが脚色。精密な時代考証の下、幕末に生きた下級武士とその家族の姿を、誇張のない徹底したリアリズムと叙情味溢れるタッチで静かになぞっていく。

 幕末の庄内(現在の山形県)、海坂藩の下級藩士、井口清兵衛(真田広之)は、妻に先立たれ、幼い2人の娘と年老いた母の世話をしながら、借金返済のため内職に勤しんでいる。藩では御蔵役(保管庫に勤める下級役人)として働く清兵衛だが、内職のために帰宅を急ぐ彼は仲間たちから“たそがれ清兵衛”とからかわれていた。ある日、以前思いを寄せていた幼なじみ、朋江(宮沢りえ)を酒乱の夫から守ったことから、剣の腕が立つことを知られた清兵衛は、藩命により上意討ち(主君の命で罪人を討つこと)を命じられてしまう。

 山田監督は時代考証に1年以上費やし、幕末時代の下級藩士が住んでいた粗末な家や城内の様子、そして、無精髭や手入れが行き届かずに崩れた髷までも克明に再現。また、当時は街灯がなかったために薄暗かった夜間の風景、灯りが乏しい室内の閉塞感など従来の時代劇にはない、事実に基づく美術と照明は、観客の目にとても新鮮に映る。

 命がけの上意討ちに出かけようとする清兵衛の髷を、朋江がその細い手で結い直す決別の場面と、リアルな決闘シーンの迫力は最大の見せ場。結果、映画は高評価とヒットを勝ち取り、山田洋次監督は同じ藤沢周平の原作を基に、「隠し剣 鬼の爪」(04)、「武士の一分」(06)と2本の時代劇を作ることになる。(興行収入:12億円)

<映画 うわさの真の相>
「本気で来てください」。真田が田中に打診したリアリズム精神

 藩主の死に端を発したお家騒動の煽りで、清兵衛が反逆者となった一刀流の使い手、余吾善右衛門との死闘を展開するクライマックスで、真田は余吾役の田中泯に対して「本気で来てください。本気であれば私はあなたの剣を避けることができます。本気でないとどちらかがけがをします」とアドバイス。殺陣においてもリアリズムが徹底追求されている。

【映画情報】
たそがれ清兵衛 (02年松竹、日本テレビ、住友商事、博報堂、日本出版販売、衛星劇場)

6/18(月)
NHK BSプレミアム 午後9:00~午後11:10
秘めたる愛を胸に、果たし合いに臨んだ幕末の平侍の苦悩。山田洋次監督初の時代劇で、時代小説の巨匠・藤沢周平の初映画化作品。幕末の庄内。妻を亡くした海坂藩の平侍・井口清兵衛(真田)は、幼い娘たちのため下城時刻になるとすぐに帰宅し家事と内職に励んでいた。そのため同僚からは“たそがれ清兵衛”と呼ばれていた。ある日、酒乱の夫と離縁した幼なじみの朋江(宮沢)と再会する。

監督:山田洋次
出演:真田広之 宮沢りえ 田中泯 小林稔侍 岸恵子 丹波哲郎 大杉漣 吹越満 中村梅雀 深浦加奈子 神戸浩 伊藤未希
Text=清藤秀人


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