気まぐれドキュメンタリー散歩

コラム

森達也氏も絶賛「ザ・ベストテレビ2018」は女性制作者が躍進&例年にも増しハイクオリティー!

 NHK BSプレミアムで毎年放送されている「ザ・ベストテレビ」。放送界を代表する六つのコンクール、計7部門の最優秀番組を一挙に編成するスペシャルプログラムです。ゲストの作家・映画監督の森達也氏、ノンフィクション作家の梯久美子氏、フォトジャーナリストの小原一真氏のほか、各番組の制作者を招いて制作エピソードなどを深く語り合います。NHKと民放の垣根を越えて続く貴重な番組で、今年は森さんが収録直後に「これまでの中でも一番の力作ぞろい」と感想をつぶやいたほど、充実のラインアップとなっています。

 第1部は10月14日(日)に放送。1作目は、文化庁芸術祭賞のテレビ・ドキュメンタリー部門 大賞に輝いたメ~テレ「メ~テレドキュメント『防衛フェリー~民間船と戦争~」です。前回、民放連賞報告でお伝えしたように、自衛隊海外派遣の変遷について継続的な報道活動を続ける同局。先の大戦で「いつの間にか戦争の中にいた」という言葉を教訓に、最前線の依田恵美子ディレクターが民間を組み込みながら進められる国防政策を、国内外を駆けめぐって取材しました。子どもたちのかわいらしい絵をあしらったフェリーが戦車を運ぶという事実を象徴的に映し出しています。

 2作目は、第55回ギャラクシー賞 テレビ部門 大賞のMBS「映像’17『教育と愛国~教科書でいま何が起きているのか』」。同局の伝統ある「映像」シリーズを2015年から担当し、「沖縄 さまよう木霊~基地反対運動の素顔」ほか、これまで何本もの優れたドキュメンタリー番組を手がけてきた斉加尚代ディレクターが、道徳や歴史の教科書の採用をめぐって教育の現場にかかる圧力を愚直に取材し番組化。メディアのあり方が問われる昨今、忖度(そんたく)のない報道姿勢が高く評価されました。

 3作目は、平成29年日本民間放送連盟賞 テレビ報道番組 最優秀の山口放送「記憶の澱(おり)」。本稿常連でもある佐々木聰ディレクターが、戦争の「被害」と「加害」を戦争体験者の証言から紡ぎました。戦争がもたらすものとは何か、心の奥底にこびりついた人びとの記憶に実直に向き合った渾身の作品で、第13回日本放送文化大賞 テレビ・グランプリも受賞。2年前には、この番組の原点になった「奥底の悲しみ 戦後70年引揚げ者の記憶」でも今回同様ダブル受賞を果たしており、「ザ・ベストテレビ」は一昨年に続いて再び登場です。

 翌15日(月)に放送される第二部。4作目は、第37回「地方の時代」映像祭 グランプリの信越放送「SBCスペシャル『かあちゃんのごはん』」。他の5作がすべて戦争に関連しているなか、今回唯一の非戦争番組です。長野県への移住を決意したシングルマザーの日常に密着し、母子家庭の困難さや非正規雇用の現実、都市部で暮らす息苦しさ、さらに行政のあり方など、実にさまざまな問題を提起しました。取材当時、自身も出産を控えていた中村育子ディレクターのまなざしがあってこそ生まれた番組だと言えます。

 5作目は、第44回放送文化基金賞 テレビドキュメンタリー番組 最優秀賞と第34回ATP賞テレビグランプリ ドキュメンタリー部門 最優秀賞をダブルで受賞したNHK「BS1スペシャル『父を捜して 日系オランダ人 終わらない戦争』」(椿プロ、NHKエンタープライズ共同制作)。制作会社椿プロの代表を務める金本麻理子ディレクターを中心に、戦争が生み出す罪深さと憎しみ、さらにそれを乗り越える人間の強さ、家族の絆を伝えています。また、戦地以外の海外にも、今なお不幸な生い立ちを持つ戦争の落とし子が存在し苦しんでいることをあらためて教えてくれました。

 最後を飾るのは、民間放送連盟賞 テレビ教養番組 最優秀賞の広島テレビ「NNNドキュメント’16『知られざる被爆米兵~ヒロシマの墓標は語る』」。一昨年の第12回日本放送文化大賞 テレビ・準グランプリを受賞した「WATCH『被爆米兵』」を基に、同年5月のオバマ前米大統領の広島訪問のシーンを加えて再編集したものです。たった一人で被爆米兵の調査を続けてきた森重昭さんとオバマ前大統領との抱擁シーンは世界中を釘付けにしましたが、森さんの活動のずっと追い続ける加藤紗千子ディレクターがその取り組みを中心に丁寧に描きました。彼女の取材はその後も続いており、今年初めて渡米した森さんが被爆した米兵士の墓標を訪ねた様子は、「NNNドキュメント’18『被爆米兵の故郷へ~ヒバクシャ森重昭 慰霊の旅~』」として10月7日に放送されたばかりです。

 ここまで紹介してきたように、今回スタジオに登場する制作者は佐々木聰氏以外、なんと全員が女性。これまでずっと関わってきた森達也氏も驚きを隠せなかったようです。森重昭さんの被爆調査活動が広島のみならず長崎でも続けているように、加藤ディレクターら彼女たちの取材は終わることはありません。テレビドキュメンタリーの現場で走る続けるトップランナーたちが伝える最高傑作をぜひ見逃さないでほしいと思います。


「ザ・ベストテレビ2018」




©NHK

NHK BSプレミアム
10月14日(日) 午後0:45~4:30
10月15日(月) 午後0:30~4:39

■ゲスト/森達也 梯久美子 小原一真 司会/三宅民夫 雨宮萌果アナウンサー
*放送界を代表する六つのテレビ番組コンクール(計7部門)の大賞や最優秀賞を受賞したドキュメンタリーを一挙放送。スタジオに番組制作者を招き、番組に込めた思いや見どころ、制作の舞台裏を聞く。


【第一部放送作品】
◇第72回文化庁芸術祭賞 テレビ・ドキュメンタリー部門 大賞
「メ~テレドキュメント『防衛フェリー~民間船と戦争~』」
メ~テレ
制作者ゲスト/依田恵美子(メ~テレ ディレクター)

◇第55回ギャラクシー賞 テレビ部門 大賞
「映像’17『教育と愛国~教科書でいま何が起きているのか』」
MBS
制作者ゲスト/斉加尚代(MBS ディレクター)

◇平成29年日本民間放送連盟賞 テレビ報道番組 最優秀
「記憶の澱」
山口放送
制作者ゲスト/佐々木聰(山口放送 ディレクター)


【第二部放送作品】
◇第37回「地方の時代」映像祭2017グランプリ
「SBCスペシャル『かあちゃんのごはん』」
SBC信越放送
制作者ゲスト/中村育子(SBC信越放送 ディレクター)

◇第44回放送文化基金賞 最優秀賞
◇第34回ATP賞テレビグランプリ ドキュメンタリー部門 最優秀賞
「BS1スペシャル『父を捜して 日系オランダ人 終わらない戦争』」
NHK
制作者ゲスト/金本麻理子(椿プロ ディレクター)

◇平成29年日本民間放送連盟賞 テレビ教養番組 最優秀
「NNNドキュメント’16『知られざる被爆米兵~ヒロシマの墓標は語る』」
広島テレビ
制作者ゲスト/加藤紗千子(広島テレビ ディレクター)
*続編にあたる「NNNドキュメント’18『被爆米兵の故郷へ~ヒバクシャ森重昭 慰霊の旅~』」が10/14(日)にBS日テレで放送(午前11:00~)
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株式会社東京ニュース通信社 コンテンツ事業局担当
1988年入社。30代から放送局担当記者に転身、後にTVガイド編集部。同副編集長、デジタルTVガイド編集長ほか番組表・解説記事制作の部門長、西日本メディアセンター編集部長などを歴任。全国各地で放送されている質の高いドキュメンタリー番組と、精魂こめて地道に番組作りに勤しむ制作者の姿に注目してきた。人生の糧となるドキュメンタリーの名作・力作の存在を、より多くの視聴者に知らせるべく、日々ネタ探しの歩みを続ける。

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