気まぐれドキュメンタリー散歩

コラム

問われるテレビジャーナリズムへのアンサー! 第55回ギャラクシー賞大賞&「地方の時代」映像祭フォーラム

 久米宏さんと小宮悦子さんの20年ぶりのツーショット司会で行われた「第55回 ギャラクシー賞贈賞式」(主催/放送批評懇談会)で、MBSテレビのドキュメンタリー「映像’17『教育と愛国 ~教科書でいま何が起きているのか』」が「テレビ部門」の大賞に選ばれました。大賞の発表に先立ち同部門の出田幸彦委員長は「テレビメディアの役割が問われているなか、どの作品を観てもテレビというのは社会とつながっていて、人々の心を動かす大きな力を持っていることをあらためて教えてくれた」と述べました。そのうえで「テレビジャーナリズムに今求められているのは、民主主義を支えるインフラの役割を果たしているか、社会の真実をきちんと伝えるメディアとして機能しているか、さらに制作者が真実を追究しようという使命感を持ち続けているか、そうした視点に立って真正面から取材をして真実がどこにあるのか、これを明らかにしようと制作者の気概を強く感じさせた作品」と、大賞選考の理由を丁寧に語りました。

 2018年度から小学校で、2019年度から中学校で、正式教科となる道徳教育。学問体系のない道徳で使われる教科書はどのように制作され検定されるのか、知られざる教科書の実情を伝えた同番組。道徳や歴史の教科書の採用をめぐっての、教育現場にかかる圧力を、政治家、出版社、学校への愚直な取材によって決定的な言葉を引き出す。その忖度(そんたく)のない報道が高く評価されました。子どもたちのために奮闘しているなか、息苦しさを訴える多くの先生を知っていたという斉加尚代ディレクターが、そんな教育現場で何が起こっているのだろうという疑問からこの番組は生まれました。昨年1月に放送され各方面からの評価の高かった「映像’17『沖縄 さまよう木霊~基地反対運動の素顔~』」も手がけた斉加ディレクターは、実直でタブーのない取材が真骨頂。その姿勢こそがいま求められています。この大賞選考結果はまさに「萎縮することなく取材に取り組め」というメッセージでした。久米さんは教科書の問題は「未来への責任」だと思うと話していましたが、それはまたテレビジャーナリズム全体にも通じることだと感じます。なお、同番組は6月16日(土)にMBSで再放送されます。

 番組の枠組みで捉えきれないさまざまな報道活動を包括的に評価する「報道活動部門」では、メ~テレ(名古屋テレビ放送)「変わる自衛隊 地方から伝えた一連の報道」が大賞に選ばれました。丹羽美之委員長は「草の根的な取材で1つのテーマを掘り下げ問題の本質に迫っていくことは、放送ジャーナリズムの質を高めていくことになる」と選考を振り返るとともに、「日常の積み重ねの中から生まれた活動。知らない間に進んでいる自衛隊の大きな変換、その現場を日々のローカルニュースの取材から伝えたすぐれた調査報道です」と称えました。

 2014年7月の集団的自衛権容認の閣議決定を機に、同局は自衛隊への積極的な取材を開始。ニュース情報番組での企画枠、特集枠で報じるとともに特別番組も制作してきました。中でも2017年に放送した「防衛フェリー ~民間船と戦争~」はそのタイトルどおり、民間フェリーが自衛隊の運搬船として隊員や戦車を運び、運航のために民間の船員を予備自衛官として活用するなどの現実を伝えました。今年3月に放送された「木魚とライフル ~広がる自衛隊の民間人活用~」でも、僧侶と予備自衛官の2つの仕事を持つ男性に密着し、船員以外でも続々と進められている有事における民間人の活用の実態を描きました。「防衛大綱」では既に、必要な自衛官数に対し予備自衛官3万7千人が計算に組み入れられていたことに驚きを隠せませんでした。このような一連の取り組みをとりまとめた大塚敏郎編集長は、ハードルの高い取材相手に対して信頼関係が大事と、若手記者を固定して臨んだことが功を奏したと振り返っています。その中心的な役割を果たしたのが依田恵美子記者で、ディレクターとしても前述2つの優れたドキュメンタリー番組を手がけました。特に「防衛フェリー~」は文化庁芸術祭でテレビ・ドキュメンタリー部門大賞に輝くなどドキュメンタリー史に名を残す番組になりました。

 そして、この2つのメ~テレドキュメンタリーが見られる「『地方の時代』映像祭フォーラム in メイシアター」が、6月20日から22日にかけて大阪・吹田市で行われます。秋の映像祭に先駆けて、話題作品の上映とトークを行うこの時期恒例のフォーラムです。その初日、「変わる自衛隊 ~民間人と戦争の距離~」と題して「防衛フェリー ~民間人と戦争~」と「木魚とライフル ~広がる自衛隊の民間人活用~」を上映。また、両番組の制作にあたった村瀬史憲プロデューサー、依田ディレクターらを招き、集団的自衛権容認で自衛隊はどう変わるのか、民間船の活用や予備自衛官制度など、民間人と戦争の距離について考えていきます。このほか2日目はNHK「蘇る太陽の塔~〝閉塞する日本人″へのメッセージ」(2018年3月放送)を、3日目はABCテレビ「〝イスラム国″に引き裂かれた絆~日本人記者が追った6年~」(2018年5月放送)などを上映し、それぞれ制作者ほかゲストを招いてお話を伺います。テレビジャーナリズムの役割が求められるなか、使命感と気概を持ったプロフェッショナルの声にぜひ耳を傾けていただけたらと思います。


第55回 ギャラクシー賞
◇「テレビ部門」大賞
「映像’17『教育と愛国~教科書でいま何が起きているのか』」





■MBS  2017年7月30日放送
ナレーター/竹房敦司 ディレクター/斉加尚代 プロデューサー/澤田隆三
*教科書採用をめぐり教育現場にかかる圧力を、愚直に真正面から取材。戦後、教育と政治の関係が変化するなか、過去の検定問題ほか知られざる「教科書の攻防」を伝えるとともに、教育のあり方を問う。
※6月16日(土)に同局で再放送(午後3:00~4:00)
写真提供:毎日放送「映像’17」

◇同優秀賞
「NHKスペシャル『スクープドキュメント 沖縄と核』」
■NHK  2017年9月10日放送
語り/中條誠子 ディレクター/今理織 松岡哲平 制作統括/松木秀文
*沖縄におけるアメリカ軍の核兵器について、機密資料と新証言で詳細に追った。沖縄には最大で1300発の核爆弾があったことや重大な事故が起こっていたことなど驚きと衝撃の事実をあぶり出している。

※ほかに、「金曜ドラマ『アンナチュラル』」(TBS、ドリマックス・テレビジョン)と「100分deメディア論」(NHK、NHKエデュケーショナル、テレコムスタッフ)が受賞。


◇「報道活動部門」大賞
「変わる自衛隊 地方から伝えた一連の報道」 メ~テレ
*民間のフェリーが自衛隊の運搬船として使われ、民間人が予備自衛官として運航を担う。地元の自衛隊基地から始まった継続取材が民間人と戦争の距離がいつの間にか近づいている実態を暴く調査報道に結実。

◇同優秀賞
「かえる先生のいきもの交遊録」 長崎ケーブルメディア
*研究者が長崎の野山でさまざまな生き物を観察し、生態を紹介するシリーズで、「動く生きもの図鑑」となっている。小さな生物が生存を脅かされているという環境問題を問いかける息の長い報道活動。

◇同優秀賞
「相模原障害者施設殺傷事件後の一連の報道活動」 NHK
*2016年7月の相模原障害者施設殺傷事件。一般社会と重度の知的障害者、身体障害者の乖離(かいり)を指摘し、彼らと共生していく人道的社会の形成を訴えたキャンペーン番組を展開した。


※その他の各賞ほか詳細は、NPO放送批評懇談会HP
http://www.houkon.jp/index.html
「地方の時代」映像祭フォーラム in メイシアター
日時:6月20日(水)~22日(金) 午後2時~5時30分
会場:吹田市文化会館 メイシアター・小ホール
   吹田市泉町2-29-1(阪急千里線「吹田」駅前)
◆6月20日(水)
変わる自衛隊 ~民間人と戦争の距離~
【上映作品】
「メ~テレドキュメント『防衛フェリー ~民間船と戦争~』」
■メ~テレ 2017年8月12日放送
※第37回「地方の時代」映像祭 放送局部門優秀賞。



「テレメンタリー2018『木魚とライフル ~広がる自衛隊の民間人活用~』」
■メ~テレ 2018年3月29日放送(テレビ朝日 3月25日放送)


ゲスト/柿山朗(戦没船を記録する会理事)
村瀬史憲 依田恵美子(ともにメ~テレ)
司会/高作正博さん(関西大学法学部教授)
◆6月21日(木)
蘇る太陽の塔 ~岡本太郎と縄文、そして民博へ~
【上映作品】
「蘇る太陽の塔 ~“閉塞する日本人”へのメッセージ~」(NHK)
■NHK BSプレミアム 2018年3月19日放送



ゲスト/石毛直道(国立民族学博物館名誉教授) 中牧弘允(吹田市立博物館館長)
井上恭介(NHK) 司会/五月女賢司(吹田市立博物館学芸員)
◆6月22日(金)
私たちが見た戦争の現場 ~女性ジャーナリストの視線~
【上映作品】
「戦火を逃れ生きる子どもたち」(フォト・レポート)




「“イスラム国”に引き裂かれた絆 ~日本人記者が追った6年~」(ABCテレビ)
■ABCテレビ 2018年5月27日放送



ゲスト/安田菜津紀(フォトジャーナリスト) 玉本英子(アジアプレス)
司会/村田麻里子(関西大学社会学部教授)

※詳細は「地方の時代」映像祭HP
http://www.chihounojidai.jp/
関連リンク
2017年ドキュメンタリー歳時記【後編】
https://www.tvguide.or.jp/column/kimagure/20171229_01.html
2017年ドキュメンタリー歳時記【前編】
https://www.tvguide.or.jp/column/kimagure/20171222_01.html
クジラの町、沖縄とフェイクニュース、外国人ヒーロー、3つのテーマで「地方の時代」映像祭フォーラム開催!
https://www.tvguide.or.jp/column/kimagure/20170602_01.html
MBS「沖縄 さまよう木霊~基地反対運動の素顔~」の上映会とトークショーを立教大で開催!
https://www.tvguide.or.jp/column/kimagure/20170721_01.html
第37回「地方の時代」映像祭2017、11月11日から関西大学・千里山キャンパスで開催
https://www.tvguide.or.jp/column/kimagure/20171103_01.html
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株式会社東京ニュース通信社 コンテンツ事業局担当
1988年入社。30代から放送局担当記者に転身、後にTVガイド編集部。同副編集長、デジタルTVガイド編集長ほか番組表・解説記事制作の部門長、西日本メディアセンター編集部長などを歴任。全国各地で放送されている質の高いドキュメンタリー番組と、精魂こめて地道に番組作りに勤しむ制作者の姿に注目してきた。人生の糧となるドキュメンタリーの名作・力作の存在を、より多くの視聴者に知らせるべく、日々ネタ探しの歩みを続ける。

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