気まぐれドキュメンタリー散歩

コラム

“脱・予定調和”にテレビの未来が! 「全国制作者フォーラム2018」でテレビ制作の奥義に触れた!!

 公益財団法人 放送文化基金が主催する「全国制作者フォーラム2018」が先日、都内で開かれました。地域放送局の組織や系列の枠を超えて制作者同士が自由に意見交換、交流する場として各地で開催されているフォーラムの、いわば全国大会。今回の全国フォーラムも各地区同様、2部構成で行われました。第1部は、昨年秋に行われた「北日本制作者フォーラム」(福島市)、「愛知・岐阜・三重制作者フォーラム」(名古屋市)、「九州放送映像祭&制作者フォーラム」(福岡市)の各ミニ番組コンテンストを勝ち抜いた3番組ずつ、計9番組を視聴して意見交換。第2部は、テレビの表現を革新している、テレビ東京の伊藤隆行プロデューサー、NHKの植松秀樹チーフ・プロデューサー、山口放送の佐々木聰ディレクターという、3人のゲストを中心としたトークセッション。「テレビのイノベーション~予定調和をどう打ち破るのか」をテーマに、メディア研究を専門とする丹羽美之氏(東京大学准教授)がコーディネート役を務め、今後の番組作りへのヒントを示しました。

 第1部では、上記のフォーラムから、NHK青森放送局「青森の路地裏 懐かしの味」(伊藤正人)、青森朝日放送「teshigoto file.17~最後の職人~」(坂本佳子)、さくらんぼテレビ「やまがたColor~伝えたい昭和の記憶~」(中村慎一)、東海テレビ「スタイルプラス 東海仕事人列伝~すし職人~」(鵜澤龍臣)、中京テレビ「前略、大徳さん」(守屋泰斗)、NHK津放送局「ニュースシブ5時 日本一の美ボディー県・三重県!? その秘密を探る」(原英輔)、KBC「九州豪雨 あの時私は」(石田大我)、鹿児島放送「KKBスーパーJチャンネル アマミノクロウサギを救え!」(杉本寛久)、テレビ長崎「ドキュメント九州 白衣のメロディ」(吉井誠 ※欠席)の以上9作品が地区ごとに上映され、各番組の担当者にゲストやフロアの若手中心制作者から感想の声や質問が投げかけられるなど活発に意見が交わされました。途中、「~アマミノクロウサギを救え!」へのコメントを求められた伊藤氏が「生物多様性は私も取り組んでおりまして・・・」と笑いを誘う場面もあり、終始和やかな雰囲気なの中、進んでいきました。

 ゲストが主役の第2部では、それぞれが代表番組を見せてまず自己紹介。“伊藤P”こと伊藤隆行プロデューサーは、話題の人気番組「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」について、上層部の反対から番組実現までのエピソードを紹介し、「組織の中で企画をどう通していくかなどを話したい」と宣言。続いて、昨年6月から「ドキュメント72時間」の7代目プロデューサーを務める植松秀樹氏は、それまで経験してきた「クローズアップ現代」や「NHKスペシャル」とは全く違う作り方に驚きながらも、「テレビの可能性を考えるときのキーワードは“脱・予定調和”。NHKの話法をくつがえす時期が来た。予定調和をどう壊せるのかを、皆さんと建設的に考えたい」と呼びかけました。ドキュメンタリーが予定調和というのはおかしいと疑問に思いながら参加したという、本稿常連の山口放送の佐々木聰ディレクターは、夕方の情報番組で月に約4本の10分企画を担当し、「うちのドキュメンタリーは、最初からこんな番組を作りたいというのはまずない。10分にしてみようから始まって、気づいたらまた次もやってみたい、もっと突き詰めたい。それをくり返しているうちに、節目に番組が出来る。(初めから)企画書はなく、行き当たりばったり。だから予定調和ではないんです」と自身の制作スタイルを説明しました。

 次々と生まれるテレビ東京らしい企画はどう発想するのかを問われた伊藤氏は、前述「池の水――」の企画がどのように生まれたのかを紹介(懇親会では実際の企画書のお披露目)したほか、「『企画の保険は?』とよく言われるけど、本当にそうなのか、演出の保険はわかるけど、企画そのものに保険をかけすぎるのは違う・・・」「マーケティング力で大成功している日本テレビが絶対にやらないことをやる」「番組表のラテ欄に載っていないものをやる」などの金言が次々と飛び出しました。丹羽氏からテーマにぴったりのゲストと紹介された植松氏は、「ドキュメンタリー72時間」の最初の企画書に“脱・予定調和”が掲げられていたと証言。ナレーションを先行させて見せていく番組作りの傾向に「分かりやすさを追求するあまり、視聴者から想像力を奪っているのでは。取材者の発見や気づきを乗せるのが『72時間』。(視聴者に)一緒に現場に行って、いろいろ発見して、気づいて感じていきましょうというスタンスなんです。それが、初代プロデューサーが掲げた“脱・予定調和”」と語ったほか、そのようなスタイルが「押しつけがましくないところがいい」「ありまのままだから好き」と視聴者に受け入れられているとも。その「ドキュメント72時間」を「人間賛歌の番組だなと見ています」と表現した佐々木氏は、「『ふたりの桃源郷』も一緒だと思います。これは対象が、おじいさんとおばあさんと決まっていますが、ふたりに会いたい、何か学びたい、感じたいことをそのまま出そうとしたことが何度も番組になっている。何かあればいいなと思って(現場に)行きますが、それをはるかに超える現実があるのがドキュメンタリー。だから、そこにいられるように、カメラを向けさせてもらえるようにするのが一番大変で、ほとんど何も考えず一緒にそこにいるという感じです」と、制作者として姿勢も明かしました。また、それまでヒューマンドキュメンタリーを手がけてきた佐々木氏が、業界の先輩の言葉をきっかけに戦争関連の取材を始めたエピソードなども紹介されました。「自分の疑問を、知りたいものを追い続けていると終わりがないし、やり続けられる。『記憶の澱』はその時の自分の一番伝えたいことを形にしました」と、昨年の日本放送文化大賞グランプリを受賞した番組誕生の背景もまた、ある種の“脱・予定調和”だったのかもしれません。

 全国フォーラムは、上映番組のコンペではありませんが、最後にゲストの名前を冠した賞の発表が恒例。懇親会に先駆け、今回も以下の各賞が発表されました。伊藤隆行賞は、NHK津放送局「『ニュースシブ5時』 日本一の美ボディー県・三重県!?その秘密を探る」の原英輔ディレクターに。伊藤氏は「よくやった! NHKで“ボンキュッボン”~」と表彰状を読み上げ、ここでも会場は大爆笑。「4年目でこれを作ったら、来年はもっとすごいものが作れる」とエールを送りました。植松秀樹賞は、中京テレビ「前略、大徳さん」の守屋泰斗ディレクターに。植松氏は「うち(NHK)では、なかなかああいうテンポで作れない」と、情報バラエティーの作りを極めていたと絶賛。続く佐々木聰賞は、「最もドキュメンタリー化してほしいと思った番組で、いいものを見せていただきました」と絶賛の、さくらんぼテレビ「やまがた Color~伝えたい昭和の記憶~」の中村慎一ディレクターに。トリを飾った丹羽美之賞はKBC「九州豪雨 あの時私は」。「テレビだって間違いはあります。失敗したって恥ずかしがらずに見せた勇気に敬意を表します。“脱・予定調和”で素晴らしい番組作りを続けてください」と、この日出席できなかった先輩ディレクターの代わりに単身で参加した石田大我記者が称えられました。九州豪雨当日、濁流に巻き込まれそうな危険エリアで取材を続け、命の危険を感じたという石田記者は、「被災地から(会社に)帰って報道部にいられないと思っていました。今日もここに来るのが怖かった」と思わぬ受賞に、ようやく笑顔がこぼれていました。

 “脱・予定調和”がキーワードとなった今回のフォーラムの締めにあたり丹羽氏は、「“脱・予定調和”はあくまで方法論でしかないので、方法だけで終わったら駄目だろう。その方法を使って、いかに芯があってメッセージ性のある番組を、今の時代に届けてほしい」と集まった若い制作者に呼びかけ、新しい表現、新しいテレビの文化を創っていくことを期待しました。全体の司会を務めた、琉球放送入社1年目の田中美音さん(報道リポーター)は「貴重な話を聞けて、沖縄から来て良かったです」と感想を述べましたが、参加した制作者にとっては実のある時間になったことでしょう。こういう機会の積み重ねがテレビの役割の再発見と新たな魅力につながっていくのだと感じた1日でした。


全国制作者フォーラム2018
◇伊藤隆行賞
NHK津放送局
「『ニュースシブ5時』 日本一の美ボディー県・三重県!? その秘密を探る」(4月5日放送)
受賞者/原 英輔
*日本一スタイルが良いのが三重県と判明。これを確かめるため美ボディーの秘訣を徹底調査した。
◇植松秀樹賞
中京テレビ 「前略、大徳さん」(10月22日放送)
受賞者/守屋泰斗
*秋祭り開催中の名古屋市・東山動植物園で、ネクストブレークアニマルなどをテンポよく紹介。
◇佐々木聰賞
さくらんぼテレビ 「やまがた Color~伝えたい昭和の記憶~」(7月28日放送 「みんなのニュース」内)
受賞者/中村慎一
*東根市長瀞小学校に保存されていた、昭和初期の暮らしを子どもたちが描写した「想画」を紹介。
さくらんぼテレビ公式チャンネルでも公開。
https://www.youtube.com/watch?v=RxIcGNt286g
※3月16日 金曜 開局20周年特別番組「やまがたColor」を放送予定(午後7:00~7:57)。
◇丹羽美之賞
KBC 「九州豪雨 あの時私は」(8月5日放送)
受賞者/石田大我
*昨年7月5日の九州豪雨では福岡と大分で計36人が犠牲に。当日の取材映像や住民の証言から未曽有の豪雨を検証した。
放送文化基金/制作者フォーラムHP
http://www.hbf.or.jp/forum/
関連リンク
刺激満載! 若手制作者の登竜門。新たに開催された「愛知・岐阜・三重制作者フォーラムin なごや」をレポート
https://www.tvguide.or.jp/column/kimagure/20171201_01.html
第43回「放送文化基金賞」発表! ドキュメンタリー最優秀賞は「NHKスペシャル ある文民警察官の死」
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株式会社東京ニュース通信社 コンテンツ事業局担当
1988年入社。30代から放送局担当記者に転身、後にTVガイド編集部。同副編集長、デジタルTVガイド編集長ほか番組表・解説記事製作の部門長、西日本メディアセンター編集部長などを歴任。全国各地で放送されている質の高いドキュメンタリー番組と、精魂こめて地道に番組作りに勤しむ制作者の姿に注目してきた。人生の糧となるドキュメンタリーの名作・力作の存在を、より多くの視聴者に知らせるべく、日々ネタ探しの歩みを続ける。

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