気まぐれドキュメンタリー散歩

コラム

「座・高円寺 ドキュメンタリーフェスティバル」で未知との遭遇? 「TVF2018フォーラム」では大林宣彦の願いを拝受

 建国記念日をはさんだ2月の3連休、ドキュメンタリーファンには2つの大きなイベントが重なりました。「第9回 座・高円寺 ドキュメンタリー フェスティバル」と「東京ビデオフェスティバル(TVF)2018フォーラム」。前者は既にお伝えしたように、テレビ、映画の枠を超えた作品の上映とゲストトークによるドキュメンタリー映像の祭典。プロ中のプロがセレクトした名作に出あえる場です。一方、今年40回目を迎えた「TVFフォーラム」は、“市民がつくる”というキャッチが示すように、映像のプロからアマチュアまで、年齢制限もなく誰もが応募できるビデオフェスティバル(コンクールではありません!)。いわば市民の市民による市民のためのドキュメンタリー映像祭です。今回はこの2つのイベントを(断片的ですが)レポートします。

 2月8日から5日間にわたり開催された「座・高円寺 ドキュメンタリー フェスティバル」の4日目。「追悼・吉永春子」と「是枝裕和セレクション」の2つのパートに参加しました。元TBSのドキュメンタリスト吉永春子さんの追悼上映では、「ある傷痕~魔の731部隊」と「街に出よう~福祉への反逆・青い芝の会」のやや重たい2作品を見た後、ジャーナリスト・金平茂紀氏と映像プロデューサー・橋本佳子氏のトークセッション。そこでは予期せぬ秘蔵映像との遭遇がありました。1つは、吉永さんの単独インタビュー。一昨年暮れ、BS‐TBSの追悼特集の際に探しても見つからなかった、吉永さんが自身の番組について語るおそらく唯一の映像のようです。このインタビューを収めた、金平氏の後輩にあたるTBSテレビの秋山浩之氏はその時、吉永さんから「後ろを振り向くな、前を向け、現場だ!」と言われたそうで、「インタビューを受けたことをきっと不覚に思っているはず。今日のイベントもかなり罰当たりで、相当に怒っていると思います」と、その人柄を紹介しました。また、スタッフクレジットに名前の無いはずの吉永さんが、石垣島で取材している番組をたまたま発見。その貴重な映像は、1972年、沖縄返還の翌月の放送された番組で、本土復帰直後の医療制度が立ち遅れた沖縄を、座敷牢の取材からとらえていました。その着眼点に「普通のディレクターには思いもよらない」と金平氏も脱帽。さらに、社会派番組のイメージが強い吉永さんには意外に思える、フォークシンガーに密着したドキュメンタリー「青春反歌 歌手・友川かずき」の一部も紹介。こうしたジャンルを問わず、テレビの可能性を信じてなんでもやってみようという姿勢を貫いた吉永さんを、金平氏は「自分の持っている武器をすべて使って、歴史を刻んでいく作業をしてきた」と評しました。一方で、吉永春子コレクションのような文化遺産にも匹敵する番組は、公共財としてアーカイブス化が必要だと訴え、海外に比べて立ち遅れている状況に苦言を呈していました。

 続く是枝裕和セレクションは「永六輔とテレビジョン」と題して、「遠くへ行きたい」の第1回と第16回を上映。自身のキャリアを「遠くへ行きたい」のADでスタートさせた是枝監督が、テレビマンユニオンの大先輩・今野勉氏の聞き手役を務めました。是枝監督が担当した頃には、番組は既にフォーマット化され、あまり魅力を感じていなかったと明かし、番組立ち上げ当時の演出を楽しんでいた先輩をうらやむかのように次々と質問を繰り出していました。終盤にフロアからの質問に乗じた今野氏から、「永さんを通じてテレビを考えようとしたのは何で?」と逆質問も。是枝監督は一瞬たじろぎましたが、「永さんはある種のアマチュアリズムを持った方。同じ構成作家出身の大橋巨泉さんのようなテレビのプロフェッショルナルとも違う」と語り、「1つ下の世代ですが、萩本欽一さんがテレビをどうとらえていたかは分かりやすいのと比較して、永さんはそこがつかめないから聞いてみたい」と、2人の高度なテレビ論のぶつかり合いはかなりディープでしたが、非常に面白いものでした。最後に今野氏は、永さんが加藤登紀子さんに贈ったという、それまでとは全く作風の違う歌詞を朗読。「むなしさ」をつづった晩年の永さんの心情を察し、盟友であった今野氏がその詩に複雑な思いを抱いていることが伝わってきました。

 最終日のフィナーレを飾るコンペティション部門の表彰式では、入選した5作品の中から、胡旭彤(コ・キョクトウ)監督の「山河の子」(2018年)が大賞に選ばれました。日本映画大学の卒業制作作品である同映画は、中国のある農村を舞台に、村の小学校に通う3人の子どもたちとその家族を追うことで山里の留守児童問題と向き合っています。講評では、「完成する一歩手前の魅力がある」(佐藤信審査委員長)、「もう少し時間をかけて撮り続けるとさらにいい作品に仕上がると思うので、そういう将来への期待もこめての大賞」(野中章弘審査員)と、新しい才能の発掘を特に意識したように見受けました。「アジアという視点、日本という枠を超えて、アジア、世界へ開かれた意識を持ったドキュメンタリーの担い手を期待したい」(野中審査員)と国内に留まらず、視野を広げることへの示唆もありました。

 もう1つのイベント、「TVF2018」は40回目の節目を数え、初日は「TVF40年記念上映会」で数々の過去作品を再上映。今回参加した3日目は、「東京ビデオフェスティバル40年を振り返る」と題するセッションで、第1回フォーラムの貴重な映像が披露され、歴代関係者に思い出を聞きながら、TVF文化功労賞の顕彰が行われました。同日午前に行われたTVF2018ビデオ大賞公開審査会では、国内外の応募130作品中、41作品の「TVF2018アワード」に絞られた中から、グランプリの「ビデオ大賞」および「TVF40年特別賞」を選考する過程を会場の人たちと見守りました。各審査員の意見が割れ、なかなかまとまらない中、選考をリードしたのは映画作家の大林宣彦氏。「ビデオ大賞」に選ばれた「女学生と風船爆弾」(広瀬愛奈恵さん)の批評にからめ、あふれ出る平和への強い思いを静かに淡々と語りかけたことで、審査が最終的にまとまりました。その間、映画界の巨匠・黒沢明監督から授かった遺言のエピソードも交えて、「みんな作品をつなぐことで歴史をつないできた・・・」「未完の作品があれば、それを広め、深める。作り続けることこそがジャーナリズム」など穏やかながらも熱い語りは、昨年6月の「ショートショートフィルム&アジア2017」セレモニーの“命がけのメッセージ”を語った姿とだぶりました。「特に、若い人たち、続きをやってね! 未来を作るのはあなたたちだ!」と大きな声で呼びかけたのが印象的。個人やアマチュアが発信する力の強みを説き、若者たちに思いを託した大林氏はその後行われた「 第91回キネマ旬報ベスト・テン」(監督賞受賞)の表彰式出席のため退席しましたが、その平和への願いは会場にいた全員の心に深く刻まれました。審査をも超越したそのメッセージは、映像の作り手への代え難いアドバイスとなり、次の作品を作る糧に・・・。それこそがこのイベントの真骨頂だと感じました。特に若い作り手に、大林さんの後継者として「風化しないジャーナリズム」のバトンをつないでほしいと思いました。

「座・高円寺 ドキュメンタリー フェスティバル」の清水哲也実行委員長(ドキュメンタリー ジャパン 代表取締役)は、閉会の挨拶で次のように語りました。「ドキュメンタリーを見るだけでなく、ここが出あいの場としてさまざまなきっかけになれば・・・、現になっていると思います。ここから新たな力、新たな作品が生まれていくことを期待しています」。2つのイベントに足を運び、作品はもちろんのこと、そこに集まる人との出あいも確かにありました。「座・高円寺――」は次回(来年2月予定)が10回目を迎えるにあたり、開催期間を1日増やすことも発表されました。新たな遭遇、新たな出あいがますます増える。1年後が今から楽しみです。


第9回 座・高円寺 ドキュメンタリーフェスティバル
コンペティション部門大賞
映画「山河の子」
■2018年 企画・監督/胡旭彤(コ・キョクトウ) プロデューサー/上清水温子
*中国北西部ある農村を舞台に、村の唯一の小学校に通う3人の子どもたちとその家族を追う。経済成長著しい都市部とは異なる、中国農村部の現実に実直に向き合った。日本映画大学 第4期卒業作品。
観客賞
映画「ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣」
■2016年 出演/セルゲイ・ポルーニン  監督/スティーブン・カンター
*史上最年少19歳で英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルとなったセルゲイ・ポルーニン。だが、その2年後、人気絶頂にありながら電撃退団。天才と称されたバレエ界の異端児の知られざる素顔に迫る。
「特集上映◇表現者たち」ダンス枠で上映。
東京ビデオフェスティバル2018フォーラム
グランプリ「ビデオ大賞」
「女学生と風船爆弾」
広瀬愛奈恵さん(中央大学FLP松野良一ゼミ)東京都(22歳)
*戦況が悪化した太平洋戦争末期、日本軍は最終兵器として「風船爆弾」の製造を開始。その任務を担ったのは、当時10代の女学生たち。荒唐無稽とも思える兵器は、太平洋を渡って米国本土で民間人の命を奪っていた。第37回「地方の時代」映像祭[市民・学生・自治体部門]二次審査通過作品。
TVF40年特別賞
「君の生涯 よく頑張ってきたね」
合原一夫さん 大阪府(84歳)
*亡き妻に捧げるビデオレターで、夫婦二人の自分史。高校生から付き合い始めた後に結婚。就職した炭鉱が閉鎖し、東京の企業へ転職。その後、一家は大阪へ。妻は若い頃から心臓が悪く入退院を繰り返した。
TVFジャーナリズム賞(旧称:筑紫哲也賞)
市民賞
「私は日本人です。~鷹一さんと二人のお婆ちゃんの場合~」
広島経済大学 德永博允ゼミ基町班 広島県(21歳)
*中国残留邦人とその家族、およそ1000人が暮らす広島市の市営基町アパート。日本人でありながら中国語を話し、生活様式も中国流。彼らは日本の生活になじめずにいる。孤児2世の松山鷹一さんらの暮らしを見つめた。第37回「地方の時代」映像祭[市民・学生・自治体部門]奨励賞。

公式HPでは、上記ほか入賞作品の映像と作品解説を公開。
http://tvf2010.org/
関連リンク
貴重な名作とゲストによるトーク! ドキュメンタリー映像の祭典「座・高円寺」ドキュメンタリー フェスティバルを開催
https://www.tvguide.or.jp/column/kimagure/20180202_01.html
2月2週はドキュメンタリー最強週間? 幻の“大島渚×牛山純一”作品に遭遇!
https://www.tvguide.or.jp/column/kimagure/20170304_01.html
テレビ報道のパイオニア・吉永春子さんの伝説の番組を追悼放送
https://www.tvguide.or.jp/column/kimagure/20161217_01.html
第37回「地方の時代」映像祭2017、11月11日から関西大学・千里山キャンパスで開催
https://www.tvguide.or.jp/column/kimagure/20171103_01.html
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株式会社東京ニュース通信社 コンテンツ事業局担当
1988年入社。30代から放送局担当記者に転身、後にTVガイド編集部。同副編集長、デジタルTVガイド編集長ほか番組表・解説記事製作の部門長、西日本メディアセンター編集部長などを歴任。全国各地で放送されている質の高いドキュメンタリー番組と、精魂こめて地道に番組作りに勤しむ制作者の姿に注目してきた。人生の糧となるドキュメンタリーの名作・力作の存在を、より多くの視聴者に知らせるべく、日々ネタ探しの歩みを続ける。

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