気まぐれドキュメンタリー散歩

コラム

過ちはなぜ起きたのか? 「民教協スペシャル 決壊~祖父が見た満州の夢~」は祖父の日記と向き合う孫の苦悩から現在(いま)を問う!

 公益財団法人民間放送教育協会=民教協。全国各地の民間放送局が社会教育・教養番組を企画放送し、生涯学習の普及活動に取り組んでいます。既存のネット系列とは違う独自に構成された全国33局で放送されるのが特徴。毎年、この時期に放送される「民教協スペシャル」は、加盟局の制作者が番組企画を提出し、厳正な審査を経て最優秀企画を番組化します。今回は31企画の応募の中から、映画監督の崔洋一氏、映像作家の森達也氏、写真家の星野博美氏による厳しい一次審査で7作品に絞られ、さらに二次選考(最終面接審査)で最優秀賞企画に信越放送「決壊~祖父が見た満州の夢~」が選ばれました。今年も2月10日(土)から12日(月)にかけて全国で放送されます。

 1944年、信越放送のある長野県の南、天竜川と南アルプスに囲まれた河野村(現在は豊丘村)から、95人の開拓団が満州に渡りました。いわゆる満蒙開拓団です。国策によって村人を送り出したのは若き村長・胡桃沢盛(もり)。しかし、敗戦の翌日、73人が現地で集団自決。後にその報を受けた盛は、自責の念にかられ自宅で自ら命を絶ちました。42歳の若さでした。この番組の主人公は、その孫、胡桃沢伸(しん)さん。祖父が死の間際まで30年近くにわたって書き綴った日記を読み返し、祖父の罪と死に向き合ってきました。

 この番組を制作した信越放送は、「民教協スペシャル」がこれで3度目。担当した手塚孝典ディレクターも、2010年の第24回「少年たちは戦場へ送られた満蒙開拓青年義勇軍“悲劇の中隊”の記録」に続き2作目となります。松本市出身の手塚ディレクターはこれまでに数々の満蒙開拓団を題材にした戦争関連番組を手がけてきました。中でも、2009年に制作した「SBCスペシャル『残された刻 満州移民・ 最後の証言』」は今回の前身というべき番組で、今回同様、河野村や胡桃沢盛の日記がベースになっています。戦時中、全国で最も多くの開拓者や青少年義勇団を送り出した長野県。前作は、その開拓団のわずかな生存者を取材し、渦中にいた戦争体験者の生の証言によって満州移民とは何だったのを伝え、「地方の時代」映像祭2009ではグランプリに次ぐ佐藤真賞を受賞したほか、各方面で高い評価を受けました。その後、手塚ディレクターは盛の孫・伸さんと出会い再び番組を作ることを思い描いてきましたが、伸さんが祖父の罪と死に向き合うにはしばらく時間がかかりました。戦争体験者がそれを語るのに長い時間が必要だったように、伸さんもまた祖父と正面から向き合うまでには長い道のりを要しました。また、そんなふうに苦しむ伸さんを目の前にして手塚ディレクターもまた、自分は彼に向き合えるのかと自問を重ねたようです。番組タイトルになった『決壊』は、「この企画を考えた時から早い段階でなんとなく決めていた」という手塚ディレクター。「(胡桃沢)盛が自殺に至る時のあふれ出た心情は何なのだろう、それを(決壊と)思っていたのですが、作っているうちにいろいろな意味に考えてもらえるのでは…、見る人に委ねたいというところもあります」と、なぜ過ちが起きたのかを視聴者にじっくり考えてもらいたいとあえて“決壊”の意味を限定しませんでした。

 昨年に続き「民教協スペシャル」は奇しくも祖父の日記が題材ですが、前回とは全く違う番組に仕上がっています。ただ、どちらにも共通しているのは、日記の中身と向き合うまでに本当に長い年月と並々ならぬ強い覚悟が必要だったということです。そのような辛く重苦しい思いを私たちの子や孫にさせないためにどうすれば良いのか、河野村開拓団を地道に取材し続けてきた手塚ディレクターが描く過去と現在が物語っています。


「第32回 民教協スペシャル『決壊 ~祖父が見た満州の夢~』」
■制作/信越放送  ナレーター/吉岡秀隆
ディレクター/手塚孝典  プロデューサー/池上英樹 雪竹弘一
*戦時中、長野県の河野村(現 豊岡村)で村長を務めた胡桃沢盛(くりみざわ もり)。国策で送り出した満蒙開拓団のうち73人が敗戦後の満州で集団自決し、後に自らも命を絶った。孫の伸(しん)さんは、祖父がどのように戦争に加担し、どう責任を受け止めようとしたのか、残された日記を手掛かりにその人生をたどる。2017年夏、祖父が犯した過ちと向き合い、亡くなった村人の慰霊に中国を訪ねた。

[放送スケジュール]
2月10日(土) 
RAB 青森放送 前10:30~11:25
ABS 秋田放送 前10:30~11:25
YBC 山形放送 前10:30~11:25
KNB 北日本放送 前10:30~11:25
テレビ朝日 前10:30~11:25
KRY 山口放送 前10:30~11:25
JRT 四国放送 前10:30~11:25
RNB 南海放送 前10:30~11:25
RKC 高知放送 前10:30~11:25

2月11日(日)
IBC 岩手放送 後4:00~4:55
FTV 福島テレビ 後2:00~2:55
MRO 北陸放送 後1:00~1:55
SBC 信越放送 後3:30~4:25
BSS 山陰放送 後3:30~4:25
RKB 毎日放送 後1:00~1:55
NBC 長崎放送 後1:00~1:55
OBS 大分放送 後1:00~1:55
MRT 宮崎放送 前10:30~11:25
MBC 南日本放送 前10:30~11:24
OTV 沖縄テレビ 後2:00~2:55

2月12日(月)
HBC 北海道放送 前10:25~11:20
TBC 東北放送 前10:25~11:20
BSN 新潟放送 後2:55~3:49
FBC 福井放送 前9:55~10:50
YBS 山梨放送 前9:55~10:50
SBS 静岡放送 後2:50~3:45
メ~テレ 前10:51~11:45
ABC テレビ 前9:58~10:53
NKT 日本海テレビ 前10:30~11:25
RCC 中国放送 前10:00~10:55
RNC 西日本放送 前10:25~11:20
RKK 熊本放送 後2:50~3:45
RBC 琉球放送 後2:50~3:45
関連リンク
崔洋一監督が意義を語る! 最優秀企画受賞作品「決壊~祖父が見た満州の夢~」を放送
https://www.tvguide.or.jp/news/20180125/08.html
今年の民教協スペシャル「祖父の日記・・・」はディレクター渾身のファミリーヒストリー
https://www.tvguide.or.jp/column/kimagure/20170128_01.html
第37回「地方の時代」映像祭グランプリ受賞作「SBCスペシャル かあちゃんのごはん」の東京上映会を11月25日に開催!
https://www.tvguide.or.jp/column/kimagure/20171124_01.html
第37回「地方の時代」映像祭2017、11月11日から関西大学・千里山キャンパスで開催
https://www.tvguide.or.jp/column/kimagure/20171103_01.html
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株式会社東京ニュース通信社 コンテンツ事業局担当
1988年入社。30代から放送局担当記者に転身、後にTVガイド編集部。同副編集長、デジタルTVガイド編集長ほか番組表・解説記事製作の部門長、西日本メディアセンター編集部長などを歴任。全国各地で放送されている質の高いドキュメンタリー番組と、精魂こめて地道に番組作りに勤しむ制作者の姿に注目してきた。人生の糧となるドキュメンタリーの名作・力作の存在を、より多くの視聴者に知らせるべく、日々ネタ探しの歩みを続ける。
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